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【読書感想】晴れた日は図書館へいこう(緑川聖司:著)

ジャンルは児童書です。主人公は小学五年生の茅野かやのしおりという少女。一人称で書かれている、2003年に出版された日常の謎系ミステリです。

おそらく主人公と同年齢前後が想定される読者層でしょう。
なので、陰惨な事件や後味の悪い結末はありません。

両親の離婚で、母親と二人で雲峰市のマンションに住む茅野かやのしおりは、本好きの少女。
憧れている、いとこの美弥子が司書をしている雲峰市立図書館に通うことが日課の彼女が出会う、図書館の本にまつわる、ささやかだけどいとおしい日常の謎が描かれる連作短編集です。


■第一話 わたしの本
 雲峰市立図書館で、しおりが出会った3歳の迷子の女の子は『母を探しにきた』という。しかし、女の子の母親は図書館にいない。そして女の子は、しおりが借りるつもりだった小学生上級生向けの、『魔女たちの静かな夜』という本を見つけると、それを『わたしの本』と言って手に取ってしまう。
女の子は、なぜその本を自分の本と言ったのか。そして女の子の母親の行方は。

■第二話 長い旅
 しおりはクラスメイトの安川君から、図書館の返却期限切れの本を返す時には罰金を払うのかと相談を受ける。祖父が60年間も本を借りっぱなしなのだという。なぜ60年も借りっぱなしになっていたのか。

■第三話 ぬれた本の謎
 
図書館の返却ポストの中に、中身の入った缶コーヒーが捨てられるという事件が起きる。土曜の夜に向かいのコンビニに、バイクでやって来てたむろする高校生の仕業と思われるが、今度はなぜか「水」が返却ポストの中にかけられて、本が濡れてしまう。そしてなぜか濡れた本にはツユクサの花びらがついていた。なぜ缶コーヒーでなく「水」だったのか。そしてツユクサの花びらの意味は。

■第四話 消えた本の謎
 読書感想文を書くために本を探しにやってきた安川君に、おすすめの本を紹介しようとしたしおりはその本が本棚にないことに気づく。しかし検索機でしらべてもその本は貸出になっていなかった。児童書の何冊かが所在のわかならない不明本になっていることを司書の美弥子から聞く。
 誰が何の目的で本を持ち出したのか。不明本の共通点はなにか。

■第五話 エピローグはプロローグ
 2003年に出版された際はこの第5話が最終話となっていました。
 そのため、第5話はそれまでの4つの話のその後と、主人公のしおりに関係するエピソードが語られ物語としてひとつの終わりを迎えます。
(その後、現在まで都合3作のシリーズになるとは予想されていなかったのでしょう)

■第六話 雨の日も図書館へいこう
 2013年に文庫化される際に追加されたボーナストラック的作品。
 雨の日、図書館ではなく公園で、傘をさしてまで本を読もうとする女性。
 その理由はなにか?。読後感爽やかな物語。


あとがきによると、当作品は作者の緑川聖司氏にとって単行本デビュー作なのだそうです。
ミステリー作家を目指していた著者は、最終候補作まで残るものの受賞にはいたらない状態が続いていた時期に、日本児童文学協会が新人賞を募集すると聞いて、はじめての児童ミステリーにチャレンジして書き上げた作品です。

図書館を舞台に本とそれにまつわる子供たちの日常の謎。
それらは、「すれっからしのミステリーファン」からみれば、驚天動地の大トリックのないささやかなものかも知れません。
しかし、子供たちにとっては、それはとても重要なことで、だからこそ日常の謎をつくってしまう理由に十分に足るものなのです。

この本を通じて、いつの間にか失ってしまった子供の頃の目線を思い出してしまいます。

作中で、ある登場人物が語る言葉があります。

言葉は、便利で、不便なものです。なんでも伝えることができるし、何も伝えられないこともあります。理解も誤解も言葉から生まれるのです。
(略)

言葉はわたしたちの、剣であり、盾であり、食事であり、恋人である。
言葉は時に、剣を防ぎ、盾を壊し、食事を隠し、恋人を奪う。
あなたが言葉の海に漕ぎ出す時には、言葉は船にもなるだろう。
あなたが言葉の空に飛び出す時には、言葉は羽にもなるだろう。
そして、いつかあなたが新しい世界に旅出つなら、
言葉の川を言葉の橋で渡り、
言葉でつくられた扉を、言葉の鍵で開けるだろう。

晴れた日は図書館へいこう(緑川聖司:著)

辻真先氏から始まる、新庄節美氏、はやみねかおる氏らの諸作同様、児童向け本格ミステリーの系譜に連なる作品でした。

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