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[ミステリ感想]『QED~ventus~〈鎌倉の闇〉』(著:高田 崇史)

QED~ventus~〈鎌倉の闇〉』は2004年に発表された作品で、高田 崇史氏の歴史ミステリ『QEDシリーズ』の第八作目になります。

出版社から、”少し軽めの「QED」を書いてみましょうよ”と言われて、ガイドブックのつもりで書いたそうです。
(ちなみに、ventus「風」を意味するラテン語だそうです)。
もっとも、この本の通りに鎌倉を回ると、かなりきつい行程になるそうですが。

軽めな内容を意識したためか、歴史の謎解きは初期の作品に比べるとやや驚きが少なく、作中で起きる殺人事件も探偵役の桑原 崇が事件関係者と直接関わることもなく、安楽椅子探偵よろしく推理する内容で(鎌倉を動き回っていますが)、無理に付けなくてもよかったかなという感じです。

とはいえ、歴史の謎である鎌倉の闇についての桑原 崇の解釈は、鎌倉の土地や歴史を知らないボクにとっては、面白く感じられました。
(あくまでも、これこそが歴史の真相であるということでは決してなく、強引だけど、こういう解釈もできるよね、という知的遊戯小説です)

出版社に勤務する妹の棚旗 沙織から、雑誌の特集で鎌倉を取り上げることからと、協力を請われた棚旗 奈々は、桑原 崇とともに、奈々の実家の近くである鎌倉を散策することになり、そして物語の幕が開きます。

「でも」奈々が笑いながらフォローを入れる。「鎌倉ですからね。今さらという気もしなくもないんですけれど」
 するとその言葉に崇は立ち止まる。そしてゆっくりと二人を振り返った。
「ちょっと訊くけど、きみたちは・・・本当の鎌倉を知っているのか?」

QED~ventus~〈鎌倉の闇〉

はい、始まりました😅。ここからは、ずっと桑原 崇のターンです。
「本当の鎌倉」
について、鎌倉の名所を回りながら桑原 崇の鎌倉ウンチク話の展開となります。

「じゃあ、まず地名ー。きみたちはどうしてこの地が『鎌倉』と呼ばれるようになったか、知ってるかな?」(略)
「もちろん知っています。それは、この地には、大昔からたくさんの神々が住んでいた。だから『神坐(かみくら)』と呼ばれていたんです。その「神坐す(かみいます)」ー『かみくら』がやがて『かまくら』になり、現在の『鎌倉』の文字が当てられた」
(略)
「今、奈々くんが言ったことは、半分正しい。ただ補完が必要だね」
(略)
「古代の人々は、野原で死体を焼く場所を『かまば』と呼んだ。(略)そのために、火葬場には『かま』『かまど』などという地名が付けられた。(略)しかし、それが火葬場にまつわる名称であることを嫌った人々によって、その名称を『釜』あるいは『鎌』と変えられていった」

QED~ventus~〈鎌倉の闇〉

相変わらず、話題選びに忖度ないですね😓。
さらに、桑原 崇は謎を提示します。

「ここ、鎌倉に幕府が置かれた理由ーなぜ鎌倉の地が選ばれたのか?ということの答えは知っているかな」
「はい」奈々は、自信満々に頷く。有名なことだ。「なぜならば、鎌倉は一方を海、三方を山に囲まれた峻嶮(しゅんけん)な土地の中にあったからです。敵に対して、とても有利な地形だったからです」
「どうして有利?(略)では訊くけど、なぜ他の天下人たちはそういった地形を選択しなかったんだろうね?」

QED~ventus~〈鎌倉の闇〉

そして、銭洗弁財天 宇賀福神社で、鎌倉の地の謎の核心が、ここにあると断言します。

この神社はもちろん「銭洗い」で有名なのだ。持参したお金をザルに入れて境内奥の薄暗い洞窟内に湧いている霊水で洗うとそれが何倍にもなって返ってくるという言い伝えがある。
(略)
「しかし」沙織に向かって崇が言った。「きみは、この『銭洗弁天』の本質を、全く理解していないね」
「え?」
「『お金を洗う』ということが一体どういうことなのか?そして『洗うとお金が増える』ということは、何を表しているのかーということだ。そしてこれは鎌倉を理解する上で、とても重要なことになる」

QED~ventus~〈鎌倉の闇〉

なぜ鎌倉には水に関する名所が多いのか?、頼朝をはじめとする源氏三代および、頼朝の兄弟の死も絡めて、鎌倉を回りながら、桑原 崇は鎌倉の闇の正体を暴いていきます。

謎の真相の着地点に新鮮味があるかといわれれば、ありがちな黒幕の存在にいきつくので、意外性としてはやや微妙かなという感じです。 
ガイドブックを目指したためか、いつもより軽めなQEDシリーズの一冊となっています。
 
もっとも鎌倉の闇(謎)のすべてが、白日の下に暴かれたわけではなく、桑原 崇をしてもわからない「鎌倉の闇」は存在し続けるのですが。

なお、大河ドラマの影響?でしょうか。現時点(8月3日)では、本作品の電子書籍版は99円で販売されています^^;。
8月8日時点で電子書籍版は726円の価格になって販売されていましたので訂正します。

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