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IUUからの守り方(SDGs14.4その11~海の豊かさの守り方4-4)

一口に「魚を釣る」といっても、たくさんのルールがあります。これだけのルールに縛られると手枷足枷のように見えるかもしれませんが、逆を言えば、それだけ漁業は守られているということでもあるのです。ごくごく少数の不届き者があの手この手で悪事を重ねるから、そのたびごとにルールが1つ生まれ、2つ生まれとどんどん取り締まりがきつくなってしまったのです。まるで世界の海を舞台にしたモグラタタキのようなものです。その結果、真面目な漁師こそ苦しみ、天然でレアな魚こそ絶滅に向かっています。魚が取れなくなってきたので、絶滅に瀕しているなかなか手に入らず、そのかわり闇取引で高値で売られて、さらに絶滅の道に近づいかせているのです。このような際限のないモグラタタキに終わりが来るのでしょうか?悪い不届き者が見つかればいいのですが、「悪いことしている人は手をあげてください。」と言っても手を挙げるような人はいません。ではどうすればいいか?答えは簡単です。「いいことやってる人は手を上げて」といえばいいわけです。

陸上では監視カメラやセンサーといった探知する装置が活躍しています。よくテレビでも「犯人らしき人がカメラに写っていた」などと言って事件解決に一役も二役も買っています。当初は「監視社会の弊害」だの「プライバシーの問題」だと危険視することもあったのですが、それで救われる命や犯罪者をつかまえることに大きく貢献しているのも事実です。そこまでこの監視社会がマイナスなイメージを持たれずに受け入れているのには、社会的に活躍しているとしっかりアピールしがされているところもありますが、監視する仕組みが意外とうまく機能しているというところも大きく影響しているのです。例えば監視カメラの多くは自分の店の前だったり、自分の車の周りであったり、自己防衛の視点で使われていることが多いです。そしていざ犯罪となると、社会全体が協力して情報を提供して、さらに個人を特定できないように配慮されていたりするからです。使い方をしっかり配慮すれば安全な街を維持できるのです。

一方、海の監視体制はまだまだな状況です。現在、どの船がどこにいるのかわかる船は全体の1.7%しかいません。残りの98.3%の船はどこで何をしているのか把握できていません。つまりその中に密漁を行っている船もいるということになります。そこで政府は2022年にはすべての船や海で起こっている情報を把握しようということで動きはじめました。それほど、減らない密漁や船の衝突事故が見逃すことができないレベルになってきて、日本は今や世界ワースト12位のIUU国とみなされているのです。(※2)悪いことをしていないなら別に「私は真面目にやっているいい船です」と胸を張って言っても問題ない。そしていい船と登録していない船を取り締まれば悪い不届き者を見つけられるという算段です。いよいよ海でも監視社会の時代に突入しようとしています。とはいえ、ことはそう簡単にはいきません。

すでに船の業界には、AIS(船舶自動識別装置)という装置が世に出回っています。これは自分の場所を周囲に伝える装置で、どの船がどこでどうしているのかがわかってしまうシステムです。でもこれでは漁師には受け入れられません。漁師は自分だけが知っていて、魚がよく獲れる漁礁や海域といった特別な場所があったりします。まさに陸上企業でいう、ノウハウだったり企業秘密の部分になります。この特別な場所をほかの人に知られて、荒されたり、根こそぎ魚を獲られてしまうことを恐れています。そのため、自分の位置をダダ漏れさせてしまうようなAISは使いたくないわけです。またプレジャーボートも年に数回乗るか乗らないかわからないような船に、操作方法も難しく、数十万も数百万円もする機器なんてつける気にはなれません。そんなこんなで船舶の位置情報システムはなかなか浸透していかないのです。そこで必要なのが陸上の監視カメラのような使う人への配慮です。何でもかんでも船のことをわかってしまうやり方ではなく、自分の船にとってメリットとなり、いざとなったら犯罪抑止力になるようなシステムにすればいいだけです。現在そのようなシステムは作られていません。でも2022年からスマートフォンを活用した船舶の位置情報サービスを本格的に官民連携して開発していくことになっています。目的をはっきり設定して、個人を特定しないなどの配慮のある開発が必要です。何はともあれ2022年から密漁を含めた対策が本格化していくようです。これに成功すれば世界初のシステムになります。海洋国家日本の本領発揮の時です。オールジャパンでこの課題を乗り切っていきたいところです。

ここまでいろいろ書きましたが、漁業は日本人ばかりではなく、人類にとっても大切な産業です。悪の手口は巧妙になっていくでしょうが、悪はいつかは成敗されます。しかし世界のIUUランキングでは日本は152カ国中134位(※1)なのです。その道はまだまだ険しく、やらなくてはいけない課題も多いのです。その中でも悪が途絶えない最大の理由は、漁業という産業全体が儲けが少なく、低収入産業になっていること自体が問題だと思います。日本の漁業平均年収は234.8万円しかなく、100万円を切る漁師さんもたくさんいるのです。真面目に漁をして獲られた魚が高値で売れて、密漁をしてもなんのうまみもないという世界になれば、密漁自体がなくなるかもしれません。この漁業とお金の関係については、14.6の「正しい支援とは」や14.7の「海のビジネスを世界へ」や14.bの「儲かる漁業へ」ところで詳しく話していきます。乞うご期待を。

to be continued…

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図:SEAFOOD LEGACY TIMES 何が問題?IUU(違法・無報告・無規制)漁業
https://times.seafoodlegacy.com/archives/6856

※1、IUU漁業指数(IUU Fishing Index)はGlobal Initiativeなどが出しているIUU(違法、無報告、無規制漁業)の度合いの数値で、世界平均2.29のところ、日本は2.63スコアとなっている。
https://iuufishingindex.net/
(参考:シーフードレガシー 「日本は152カ国中133位 各国のIUU漁業への対策状況が数値で比較可能な「IUU漁業指数」」
https://seafoodlegacy.com/4270/
日本はワースト19位 IUU漁業リスクを下げるには?
https://times.seafoodlegacy.com/archives/6717
※2、IUU Fishing index IUUスコア:2.67(世界平均2.24/最悪5.00)世界順位140位/152カ国(2021年ワースト12位)
https://www.iuufishingindex.net/profile/japan


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