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釣りのルール(SDGs14.4その10)

令和改正漁業法や水産エコラベル、IUUブラックリストと魚は日本ばかりではなく、世界からも手厚く守られています。そしてこれからも密漁に対する取り締りはもっと厳しくなっていくようです。だれもかれも簡単に魚を獲ってはいけない未来が待っているかもしれません。このように書いていくと1つ疑問が湧いてきます。

「じゃ、趣味の釣りって本当はやっちゃだめなの?」

ということです。趣味の釣りのことを、漁業の釣りと区別するために「遊漁」と言います。限りある資源である魚を好き勝手に獲ってしまっては絶滅に追い込んでしまう。そう考えると、遊漁の釣りはどんな扱いになってしまうのでしょうか。密漁になってしまったり、IUUブラックリストに載ってしまうのかと心配になってくると思います。でも心配しなくても大丈夫です。答えは

「遊漁は密漁ではない。」

ということです。思い出してみてください。海は誰のものだったでしょうか?海は「みんなのもの」でしたね。魚は国民の共有の財産です。魚は日本では無主物として扱われます。無主物とは、海の中にいるときには誰のものでもなくて、その魚を獲った(釣った)ときにその釣った人に所有権が生まれるといった性質をもちます。なので、魚は漁業者のモノだけでもなく、だれか一人のモノでもありません。みんなのモノというルールは変わりません。では漁業の釣りと遊漁の釣りの違いは何でしょうか。簡単に言ってしまえば「お金にするかしないか」です。漁業は釣った魚を売ることを目的に魚を釣る(獲る)行為で、遊漁は個人的に行う釣りの行為です。だけど、やっていることは「魚を釣る」という同じ行為なので、漁業として釣っているのか、趣味として釣っているのか、はたまた密漁として釣っているのか見分けがつかないというのが問題なわけです。そこで遊漁の釣りにもちゃんとルールがあるのです。

「またルールかよ」という声も聞こえてきそうですが、どんなゲームにもルールがあります。サッカーでボールを手で持って抱えこんでしまったり、空手の試合で木刀を使って相手を倒したり。こんなことが起きれば、スポーツも何もないですよね。ルールがなければゲームもスポーツもないのですし、楽しめません。遊漁ももちろん同じです。遊漁を楽しむならきちんとルールを守って釣りを行うことが必要です。

遊漁のルールはどこが決めているかというと実は各都道府県がそれぞれルールを作っています。このルールのことを「漁業調整規格」と呼びます。この漁業調整規格が遊漁の基本ルールのおおもとになっていて、使っていい漁具(釣り竿やタモなど)や獲っていい魚の種類と大きさ、釣りをしていい場所といったルールが決められているのです。

遊漁一覧表

表 日本釣振興会 「海のルールとマナー教本」(※1)P.25

それぞれの都道府県のルールには細かく色々書かれています。それを1つ1つ挙げるときりがないので、中でも特に重要なルールについて取り上げてみます。

竿釣りは全国どこでも大丈夫

上の表から見てみると基本的に釣り竿で魚を釣るのはどこの都道府県でも認められています。釣り竿で魚を釣ると言っても岸側から釣る磯釣りは数時間使っても数匹です。正直な話、その数は知れています。問題は密漁です。漁業権も持たずに、勝手にごっそり魚を獲って売りさばいてしまうことが問題なのです。この密漁者を取り締まりたいわけで、自分で消化できる分しか魚を釣らない人は、正直そこまで責められません。漁師さんも1匹2匹ならという感じです。取りすぎた魚や獲ってはいけない魚が釣れてしまったら海へ返すことになっています。それでも竿釣りしていけない場所もあります。その原因は釣り人のマナーというか常識の問題です。漁師が寛大な心で釣りをしていいよと言っているにもかかわらず、ゴミを散らかしたり、釣り糸を漁船のプロペラに絡ませたり、ひどい人は勝手に船に入り込んで用を足したりということが実際に起きています。そんなことをされたら、海を守ってきた漁師にとっては堪忍袋の緒も切れるというものです。立ち入りが禁止されているところの多くは、このように海を好き勝手に汚してしまったマナーの悪い遊漁者が過去にいたという場合がほとんどです。マナーを守る以前に、人としてしてはいけないことはしちゃだめです。

獲ってはいけない魚介類

どこでも釣っていいとは言え、どれでも獲っていいわけではありません。例えば、イセエビ・ナマコ・アワビ・ウニ・鮭・シラスウナギ・稚あゆといった魚は簡単に取れるし、しかもそこそこ高値で取引できます。つまり密漁にもってこいの魚介類です。そしてこのような魚介類は絶滅の危機に瀕している場合が多く、取ること自体が禁止されています。これも都道府県によって獲っていいモノ悪いモノが決められています。また、魚によっては何㎝以上じゃないとだめとか、何㎏以下は取ってはいけないとなっています。詳しくは各都道府県のホームページなどで確認できます。

取っていい魚介類一覧表

図 日本釣振興会 「海のルールとマナー教本」(※1)P.27,28

禁漁区の設定

自分の庭で育てたトマトやハーブなどを通りすがりの知らない人が勝手に自分の庭に入ってきて獲っていってしまったら怒りますよね。海も同じです。海辺に行くと「禁漁区」とか「警告」といった看板があるところがあります。そこには漁業者がお金をかけて育てている養殖場があったり、漁業のプロとして漁師が大切に守って、獲りすぎないように自粛して育ててきた魚介類がいたりします。そのように守られてきた海には豊かな海がひろがっています。豊かな海だからと言って誰でも取っていいわけではありません。家庭菜園のトマトやハーブと同様に、豊かな海を育ててきたのは地元の漁師なのです。自分が大切に育てた海を勝手に荒されてはたまりません。日本には古くから「磯は地付き、沖は入会(いりあい)」というルールがあって、漁場の管理は地元の漁師が行っていいという権利があります。それこそが漁業権です。「海はみんなのもの」と変に知ったかぶりの間違った権利を振りかざして、部外者が入ってきて好き勝手に魚介類を獲ることはできないのです。海のプロがダメと言いっているのであれば、ダメなのです。

ウェットスーツや酸素ボンベ

その他いろいろなルールがありますが、よく漁業者とマリンレジャー側とでもめるのがこのウェットスーツや酸素ボンベでの潜水です。ルールでは「ウェットスーツや酸素ボンベを利用した潜水による第一種共同漁業権の対象の魚介類の捕獲は禁止」としているところが多いのです。まさに密漁者がやる手口がウェットスーツを着込んで低体温防止策をしたり、酸素ボンベを背負って根こそぎ魚介類を獲っていくのです。その密漁者が見つかった場合に使う言葉が「私たちはただスキューバダイビングをしていただけなので、密漁なんてしていませんよ」というわけです。証拠の魚介類はもちろん海のどこかで捨てているので見つかりません。だれがダイバーで、だれが密漁者なのか全くわからないなのです。結局漁師がとる密漁対策は、ウェットスーツを着ている人は海に入っちゃダメとせざる終えないわけです。勝手に潜るのではなく、ちゃんと漁協や管理者にしっかり話をして密漁者じゃないことを伝えてから潜るのであれば、もめごともなく潜ることができるのです。

第一種共同漁業権対象魚

図 日本釣振興会 「海のルールとマナー教本」(※1)P.4

ここに書いたルールはごく一部です。細かくは各都道府県の漁業調整規格に書いてあります。でもこれも単に海の趣味を持つなと言っているわけではありません。そこには海で生活をしている人がいて、密漁者や自分の船や漁場を荒していく悪い人から守るための当然の権利が書いているだけなのです。ルールというよりもマナーとか良心とかいう問題なだけです。密漁者やマナーの悪い人がいなくなればこのようなルールも作らなくて済むのです。

現在日本の遊漁の釣り人口は970万人にも及びます。実際趣味として釣りを始めてみようと思う人も最近は多くなってきました。10人いればそのうち1人は釣りの経験のある人がいるはずです。これから釣りを始めようと思っている人はまずそのような経験者を見つけることから始めるといいと思います。経験者と一緒に釣りに行って、釣りのルールを教えてもらいながら、釣りを楽しんでみることが一番いいと思います。

※1、日本釣振興会 「海のルールとマナー教本
https://www.jsafishing.or.jp/wp-content/uploads/2016/02/rule.pdf


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