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4-4.黙っていることにも意味はある

『動画で考える』4.自分を撮る

テレビ番組を、まったく発言しない人物にだけ意識を集中して視聴してみよう。

語って語って喋りまくって、主張することだけに意味があるわけではない。黙っていることにだって意味はある。その場の話題について、自分の語るべき事をすべて語り尽くそうという人もいれば、態度で表明しようとうわけではないが、話題に入り込もうとせずに、何も語らない人もいるかも知れない。

テレビのバラエティ番組のを見るときに、普通だったら司会者やゲストや、とにかく一番うるさくて動きの大きい人物に目がいってしまう。特にその人物のファンでもなければ興味があったわけでもなく、たまたまスイッチを入れたら目に入ってしまっただけなのに、とにかくその場は一番うるさい人物に支配されてしまう。

そんなときに、一番目立つ人物の後ろの方に立っていて、必ず一緒に写ってしまう人物に注目してみよう。おそらくバラエティショーのアシスタントの一人で、名前も紹介されず、番組の中で声をかけられたり、役割を与えられたりすることもないような、そんな人物。でもたまたま司会者と同じ方向に立っているので、番組中何回も写ってしまう。

そのような人物を見つけたら、その人物が自分にとっては番組の中心人物であるかのように、じっくり観察してみよう。当然、発言する機会もないし、もし何か話し始めたとしてもマイクがその声を拾わないので、何を言っているかわからない。それでも番組の始まりから終わりまで、その人物だけを見続けよう。

もしかしたらスタジオの片付けとかちょっとした準備のような仕事を与えられているかも知れないし、誰かの話に反応して笑ったり手をたたいたりするかもしれない。あるいは、画面に映っていないと思って、洋服の裾を引っ張ったり、頭をかいたりするかも知れない。いずれにしてもそのようなことは、番組の進行とは一切関係ない。ただの背景の出来事だ。

もう少し丁寧に観察を続けていれば、その人物のささやかな反応も見えてくるかも知れない。番組の進行に対して、無関心というよりはかすかな反感や不満のような感情の表れ、笑うべきところで顔をしかめたり、目をつむったり、あらぬ方向に目をそらしたりするような。しかしそれさえも多くの人びとには気付かれることもないだろう。

動画はそのようなかすかな出来事も映し出してしまう。画面の中心も周辺も、大きな声も小さな声も、そして無言さえも写し出してしまう。どこに注目するかはあなた次第だ。そしてそこで起こっているほんのかすかな出来事にも、おそらくは、何かしらの意味がある。

友人が何人か集まって、それぞれがバラバラに雑談している様子を撮影してみよう。

何人かが集まって、会話を交わす場面を撮影してみよう。何かテーマを決めて、それぞれが立場を持って発言するようなきちっとした場というより、ただたまたま集まった知り合い同士が雑談するような場を撮影する。特に撮影のために用意した場ではないので、撮影されるほうも最初は気にするかも知れないが、やがて誰も気にしなくなるだろう。

討論会やトークセッションのような場であれば、司会役がいることも多いし、あらかじめ発言の順番もある程度決められているので、動画を撮影するほうも順番に、話している人物を中心に撮影することになるだろう。あるいは、複数のカメラで人物ごとにショットを固定して、発言のタイミングを逃さないようにすることもある。

しかしあなたが撮影しようといているのは、単なる日常的な雑談だ。例えば6人の人物がいて、段取りも何もなくただ脈絡なく話し始めて、いつ終わるとも知れない。いつだれにカメラを向けたら良いのか戸惑うかも知れない。しばらく観察していると、特定の相手とだけ話をしている人物がいて、その2人だけ会話にも際だって熱がこもっている。別の2人はその2人の会話に真剣に耳を傾けて、うなずいたり首を振ったりしている。

あとの2人は最初は会話に加わっていたが、1人はやがてスマホを取り出してその画面に集中しはじめる。もう1人は、話を聞いているのか聞いていないのか、時々そちらの方をチラリと見るが、大概は目の前の空間を見つめてぼーっとしている。

あなたが気になるなら、誰もいない席を撮影し続けよう。

あなたは何を撮影すべきだろうか?カメラがどこを向いていても、大きな声は動画の収録とともにきちんと収録されているだろう。だから、発言している人物だけでなく、その話を聞いている人物だけでもなく、話を聞いていない人物も、少し距離を置いている人物も撮影することは出来る。

そしてそれらの状況のすべてが、何かを語っている。何かの理由があってその場にいる人びと。あるいは何の理由もなくその場に居合わせた人びと。全体の会話に参加しなくても良いし、無視して別のことを考えていても良い。あなたは必ずしも声がする方向にカメラを向けなくても良い。あなたが気になる、些細な出来事に注目して観察したって良いのだ。あなたが選んだ、あなただけの発見。そこにこそ集中して、それを動画で記録しよう。

やがて、誰かがその部屋を出て行く。そこには誰かがいた痕跡が残っている。少し後ろに引かれた椅子。机の上の飲みかけのコーヒー。何かのくちゃくちゃに丸められた紙くず。そんなものが残っている。

誰かがまだ大声で持論を語っているかも知れないが、あなたが気になるならその誰もいない席を撮影し続けよう。

あなたはテレビ番組のディレクターでもカメラマンでもないのだから、ただあなたが興味をもった「もの」「こと」に注目して動画を撮り続ければ良いだけだ。

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