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4-2.自分はどこまでも着いてくる

『動画で考える』4.自分を撮る

あなた自身が動画にどのように反映されるのかを観察してみよう。

動画を撮影することは、「自意識」を撮影することであると言って良いほどに、動画には撮影者自身が濃厚に現れてしまう。

あなたは、みずからカメラの前に立とうとまでは思わなくても、動画を撮影をしながらそこに映っているものについて語ったり、レンズの向こう側の人物に語りかけるということはあるだろう。その場合、あなたは動画に映り込んでいないが、画面の外側からあなたの声は聞こえてくるので、後からその動画を見た人にも、それを撮影しているのがあなたであることがわかるだろう。

みずから動画を撮影しながら、あなたが気に入っている場所を案内してみよう。その場所に到着するまでの道案内でも良いし、その場所にどんなものがあって、あなたが何を気に入っているのかを紹介してみるのも良いかもしれない。ビデオカメラは手に持って、歩きながら撮影をする。手ぶれ防止機能が備わっているカメラも多いが、あまり画面の見やすさといった事は気にせずに、あちこち興味のある方向にカメラを振り向けて、あなたの視線をたどるように撮影しよう。

ビデオカメラはあなたと一体になって、あなたの歩き方のリズムや視点の移動のパターンを動画に記録して残すだろう。

あるいは、あなたの友人と向かい合わせに座って、話をしながらビデオカメラを構えて撮影するような場合。あなたが話しかけると、友人はそれに反応してうなずいたり、答えたりする。相手はカメラのレンズに向かってというよりは、あなたに向かってコミュニケーションをとろうとするので、あとから動画を見たときには、相手の視線は画面の少し外側に向けてそれていることになる。

あなたは、ついつい友人の呼びかけに反応してしまうので、あなたがうなずいたり笑って体を揺するのにあわせて、動画の画面も揺れてしまう。

あなたの存在を完全に消すことを意識しながら、動画を撮影してみよう。

そのように、あなたは動画に写っていなくてもカメラの後ろ側には確かにいて、動画の視聴者はあなたの存在を強く意識することになる。あるときには、意図せずその動画に写し込まれて漂うあなたの「自意識」がじゃまに感じられ、実際に動画に映っているものの方が、印象が薄くなってしまうことさえあり得る。

一度そのことに気付いてしまうと、動画に映っていないあなたの「気配」が気になって、どんなに消し去ろうとしてもその痕跡が残ってしまう。

撮影するときには余計なことを言わないようにしてみたらどうだろう。独り言を言ったり、思わず咳き込んだり、画面の外の誰かに声をかけられて返事をしてしまったり、そんなことがないように気を付けてみる。

あなたが誰かを撮影する時に、あなたが何も語らず存在感を消し去っても、相手の方がこちらに視線を送ったり、話しかけてしまったりするかも知れない。相手があなたと親しい友人やあなたの家族だったら、目の前にいるあなたを完全に無視して長時間そこにいることは、かなり難しいだろう。

それでは、誰もいない場所で一人で撮影していたとしたらどうだろう。当分は誰もそこにやってこないので、誰からも話しかけられることもなく、あなた一人で撮影する。ところがビデオカメラを手に持って撮影していると、あなたの行動や動作、立ち居振る舞いの癖や体調の変化といったものが、カメラを持つ手を通じて動画に映り込んでしまう。かすかな画面の揺れや衣擦れの音、そこに何かが「居る」ことで影響されてしまう光と影の変化といった様なもの。

ではビデオカメラを手から離して、例えば三脚に据えて撮影したらどうだろう。そのカメラの傍らにはあなたが立っているかもしれないが、録画ボタンを押したその後はまったくカメラに触れることもなく、ただ動画は撮影される。確かに動画にはあなたらしさを感じさせる何かはまったく映り込まないかも知れない。本当に?誰もいない、何もない空間で動画を撮影し、傍らにはあなたがただ立っているだけ。あなたは自分自身の存在感を完全に消し去ることは出来るだろうか?

その動画は、撮影を始めたあなたのものでしかない。

あなたは完全に自分の存在を消し去ることは出来ない。フィクションの透明人間のように体が透けたとしても、周囲にあるさまざまなものに触れたり歩き回ったりすることで、そこに痕跡を残してしまう。動画は、あなた自身を写しているのではなく、あなたと「人」、あなたと「もの」、あなたと「場所」・・・その「関係」を写しているに過ぎない。だから、そこであなたが「見えているかどうか」はあまり重要ではない。あなたに光が当たっていれば「見える」、光が当たっていない暗闇では「見えない」。しかしその暗闇の中にだって、あなたはいるのかも知れない。「関係」が生じる場所からはあなたを消し去ることは出来ないのだ。

動画の撮影を始めたのがあなたであれば、その動画はあなたのものでしかない。1分・2分、10分・20分、1時間・2時間と時間が経ち、いつかは、あなたは動画の停止ボタンを押すか、そのまま立ち去るかしなければならない。そのタイミングを決めて実行するのは、やはり「あなた自身」なのだ。

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