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「マーベル・コミックスでしか味わえない旨味」みたいなものの話

自分は大体9年間くらいマーベル・コミックスを読んでいる。周りからはオタクと言われるし、自分の中でもマーベル・コミックスは趣味という枠を超えて半分アイデンティティみたいになってるし、周りに「アメコミの人」みたいな呼ばれ方をするとちょっと嬉しかったりもする。

けど、よく考えたら今まで「なんでマーベル・コミックスが好きなのか」みたいなことをちゃんと考えたことがなかった。自分は日本生まれ日本育ちの日本人、漫画とアニメに囲まれて豊富な国産カルチャーの中で育ってきた人間だ。わざわざ必死こいてヒーヒー言いながら英語の羅列を解読しようとしなくても、そこらじゅうに面白いコンテンツは転がっている。それでもあえてアメコミを読んでるということについてあまり考えたことがなかった。

言ってしまえば「実写映画を見てカッコ良かったからキャラクターを追いかけてたらこうなってた」という身もふたもない理由で結論なんだけど、それでもあえてこれまでずっとマーベル作品を追いかけている理由について「マーベルでしか味わえない味、ここでしか感じられない楽しさ」という観点で考えたい。

マーベル・コミックスでしか味わえない魅力、それは「数十年続く世界観の歴史」と「何人もの作家が繋いできた物語」の二つだと思う。マーベル・コミックスの創業は1939年で、多くの作家が交代しながら物語を紡いでいき、そして複数のキャラクターが一つの世界観を共有しながら活躍してきた。時に世界全体を揺るがすような事件が起きれば、複数のキャラが集まって闘うような物語も展開された。そうして作られてきた歴史と世界こそ、自分の中でのマーベル・コミックスの醍醐味だと思う。

例えば、自分がマーベルで一番好きなヒーロー「デアデビル」は、1964年にスタン・リーとビル・エベレットの手によって初めて誌面に登場した。しかしその後ずっと彼らによってコミックが作られ続けたわけではなく、複数の作家たちが交代しながらデアデビルの物語を紡いでいくことになる。

物語の始まりとなるデアデビル第1号。めちゃカラフル。なんか楽しそう。

初期は割と明るいヒーロー活劇だったが、1979年にフランク・ミラーという作家が担当するようになってからは空気がガラッと変わり、自身の葛藤と闘いながら卑劣な犯罪者と血みどろの暴力を繰り広げる暗い作風へと変化する。直近でデアデビルのコミックを担当していた作家チップ・ズダースキーは、先ほどのミラーが書いていた時期の物語を取り上げて「実はあの時の事件には裏があった!」と裏を描くように、別の作家の書いた物語を拾ってさらに広げるような展開も行なっていた。

比較的最近の2019年のデアデビルは雰囲気がガラッと変わる。めちゃくちゃ情けなくて個人的にすごく好きなカバー。

最近だと、シンビオートという宇宙生命体と人間が合体する「ヴェノム」というコミックの展開も面白い例だ。2018年から2021年までヴェノムを担当していたドニー・ケイツは作品に次々と新しい設定を持ち込み、最終的にヴェノムは宇宙の全てのシンビオートと交信し、意のままに操ることができるまでに進化した。ぶっ飛んだ設定を使った爽快なアクション満載となったこのシリーズは、まさにキャラクターの歴史に名を残す作品となった。

設定もりもりど迫力バトルなドニー・ケイツ期ヴェノム。羽根と剣が生えて、最後にはなんか宇宙の神になってた。

その後の物語を担当することになった作家アル・ユーイングはどうするのかというと「すべての場所のシンビオートを操れるなら、すべての"時"のシンビオートも操れるはず!」と、まさかの綿密なタイムトラベルSFに物語の舵を切る。前期の作家が作り上げた設定を活かしながらも全く新しい展開に進み、それぞれの作家の味を出しながら全く違う雰囲気の作品を作っている、その最たる例こそが2人の作家がバトンを繋ぎ、キャラクターの世界観を深めた「ヴェノム」なんじゃないかと思う。

ヴェノムの伝統と前作のぶっ飛び具合は受け継ぎつつ、やってることは時間ミステリー。個人的に今一番"キテる"コミックです。

同じキャラクターで地続きの物語なのに、さまざまな作家の多種多様な物語を楽しめる、いわば「作家のバトン渡し」みたいなものこそがマーベル・コミックス最大の魅力なんじゃないかな。

「いやそれはDCコミックスでも同じだろ!」みたいなツッコミが入りそうですし、それに関しては本当にその通りなんですけども、ひとまず自分の中で改めて整理してみた「マーベル・コミックスでしか味わえない旨味」の話でした。長い年月を経た奥深い歴史と、さまざまな作家のライティングが時代を超えて絡み合う物語の奥行きに皆さんも陶酔してしまうはず。何が言いたいかというと、マーベル・コミックス面白いよ!

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