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Buck-Tick全アルバム聴いて待機してたら「異空(Izora)」がすごすぎて驚いた!

どうも。

今日はですね、久々に邦楽ネタをやります。随分、久しぶりな気がしますけど。

そのお題は

はい。Buck-Tickですけどね。これ、前からすごくやりたかったんですよね。

というのも、実はこれ、以前に伏線がありまして。

僕、彼らの前作の「Abracadabra」、これを2020年7〜9月の10枚、という3ヶ月に1度の恒例企画の際に、「惜しかった、もう10枚のアルバム」に選んでたんですよね。

このときに、すごくBuck-Tickのファンの方が反応していただきまして、すごく嬉しかったんですよね。僕、Buck-Tickの原稿って振られたことはないから全くの新参者に見えたでしょうに、そんなこと関係なしにすごく喜んでいただいて。

それに関して感謝の意味も込めて何かしたかったのと、加えて僕のツイッターのTL、かねてから彼らすごく人気あったんですよ。僕は以前から「僕のTLは邦楽に関しては日本一信じられる。なんてったって、グレイプバインとBuck-Tickのファンが多いんだから」と常々思ってたし、その発言したこと、あったんじゃなかったかな。だって、邦楽のベスト・アーティスト選ぶときに、一般にすぐ出てくる名前じゃない、それプラス、たくさんの枚数アルバム出してて、ほとんど聴き切ってないと、ファンになれないアーティストじゃないですか。それをやれる忍耐と審美眼があるんですよ。良いに決まってるじゃないですか。ぶっちゃけ、一昨年にやったグレイプバインの企画、昨年の宇多田ヒカルの「BAD モード」、そして今回のBuck-Tickは、僕のTLでの彼らに対しての熱さが実現させたのだと思って欲しいです。

ということで今回、Buck-Tickのアルバムをオリジナル・アルバム全て聴いて、この記事に臨んでます。前作のときは、彼らのアルバム・リスニング・マラソン、やりたかったんですけど、たしかあのときはまだ、ブラジルだとアリオラ期がなくビクター在籍時の音源だけだったんですよね。その後、アリオラ期は全て入ったんですけど、実はまだ自主レーベル期、つまり「夢見る宇宙」と「或いはアナーキー」だけはブラジルのサブスクにはありません。ただ、彼らの場合、ライブで収録曲、最低でも数回は披露してくれるのでYouTubeでまとめては聴けたんですよね。それで一応、全曲聴いたことにさせていただければ、と思います。

 本当はですね、軽く歴史を概略的にあまり知らない読者さんに説明して、僕が選ぶトップ10を紹介し、その中で新作もさらっと・・みたいな考えだったんですよ、実は。

が!

その予定が見事に狂ってしまいました!

それは


このニュー・アルバムの「異空(Izora)」、これがまあ〜、想定外に素晴らしすぎた!!

いやあ〜、これ、ちょっとびっくりしたんですよ。「こんなことって、あるのか」ってくらい。少なくとも、日本のアーティストで、50代半ばになって最盛期のうちのひとつが強烈な形でやってくる。そんなのちょっと、聞いたことないなと思ってですね。

 予感はあったんですよ。それは

先行シングルのこの曲を聴いた時、「えっ、このサウンドでサンバ?!」ってびっくりしましたから。前からレゲエ、スカの曲はあったし、ラテンも1回か2回やってたとは思うんですけど、リズム面ではなくてコード進行的なところでこうやって洗練されたサンバができるのってかなり理解してないとできないことだよな、と思って驚いたんですよね。

「ああ、今、これが繰り出せるのなら、そりゃいいだろうな」と思って、期待して聞いたら・・・、いやあ、そんなものではなかったですね。

 サンバの曲、あったりはするものの、全体的にはかなりメンタル的にダークな一作ですよね。初っ端の「Scarecrow」から、行き場のない閉塞感があって。滑り出しはエレクトロから、彼らの従来得意な感じのゴシックなロック、特に「ワルキューレの騎行」はすごくここ数年の彼ららしいですけど、そういうところからオーソドックスにはじめたなと思ったんですけど

ベスト盤にも入ってたこの曲あたりから、「ああ、ディストピアの中での愛かな」と、かなりの終末感を感じたり。

ちょっと順番飛ばしますけど、

先行シングルで聴いた時は「明るめの曲だな」と思っていたはずの、この「太陽とイカロス」も、ぞっとするほど強い曲だなと思ったりもして。だって、「これで自由だ」と言って「涙ボロボロ」でしょ。しかも、太陽に近づいてる少年の寓話の引用。「終活」までは行かないかもしれないけど、ある程度「死」を意識し向かい合った時の心境を思わせますよね。このあたりは、曲がなまじ爽やかさがあるだけに、かえって背中が寒くなる思いがしましたね。

こうした、「終末感あふれる背景のもとでの愛や生命力」のドラマを生み出しているのは櫻井敦司ですけど、今回、彼のリリシストとヴォーカリストとしての確変的な進化!これはちょっと衝撃でした!

特に、この2曲続きの落差ですよね。「愛のハーレム」での低音の声の厚みと語尾処理でのビブラート。あれ、セクシーですよね。ちょっとエルヴィスとかモリッシーっぽさがあって。こんな声、太い人でしたっけ?以前はどちらかというと、声の細さを指摘されていた記憶があったんですけど、すごい成長ぶりですよね。後半のちょっと演劇がかった「老婆は笑う」の口上の不気味な役者っぷりも光ります。

そして、これを受ける曲がなんとドゥー・ワップ!「ウ〜、シャラララ」みたいな。この落差(笑)!これをBuck-Tickでやっちゃう強引さが痛快なんですけど、そこに乗る櫻井の声が前曲とは一転して、子供を意識した高い声。そこで歌われるのが、「パパに戦争に行って欲しくない子供の心情」で「ほら、血が出てる」なんて言葉がアメリカン・グラフィティみたいなハッピー・ムードをバックに不意に出てくるのが薄気味悪いバッド・ジョークになってて。

こんな曲を2曲続けてキメられる人なんて、今、他にどこ探してもいないでしょうね。ある意味、このアルバムの最大のハイライトじゃないかな。唯一無二です。

あと、毎度恒例の今井ヴォーカル曲と「無限Loop」を挟んだ後に「Boogie Woogie」「野良猫ブルー」あたりは、ある時期のロックンロール回帰と昨今戻ってきたエレクトロとの折衷がうまいですね。

そして、ラストのこの2曲にすごく「和」のテイストが漂うのも、すごく独自ですよね。こういうゴシック・ロック、ちょっと聞いたことがないというか、彼らが長い活動の末にたどり着いたひとつの境地ですよね。今回、「異空」というタイトルで、さらにこのアートワークということで日本的な和はだいぶ意識にあるような感じはするんですけど、それを、和風テイストの曲だけでなく、それこそサンバから、ドゥワップから、エレクトロから、ロカ・テイストのロックンロールまでひっくるめた上で、違和感なく聞かせてしまっている。このあたりは、今井、星野のソングライティング・チームの、30余年の経験値のなせる技だと思いましたね。

 そして、そこをまとめているのがやはり今回の櫻井の圧倒的な存在感でしすよね。シアトリカルかつさらにエモーショナルになった妖艶な激唱と、強い反戦思想まで感じられる重い終末感に対してのささやかなる反抗を思わせるドラマ性、「老婆」「おじいちゃん、おばあちゃん」といった、従来の基準で見ておよそロックらしくない言語の老獪な操り方。ここまで彼の放つ世界観がビシバシと放射されるのを感じた作品は、少なくとも僕は他に記憶にないですね。

その意味で、今回のBuck-Tick、もう完全に独自の境地に辿り着いちゃってますよね。それを櫻井の、まるで才能あふれる新人アーティストがとげるかのような瑞々しい確変を伴った形で。これが悪いはずがないと思います・・・。

・・・って語るだけでこれ、終わりにしたいくらいなんですけど(笑)、この1週間、デビューの頃から今までのBuck-Tickを全部聴いてそなえたことは無駄にしたくはないので、手短ですけど、僕自身のBuck-Tickのオールタイム・ベストのトップ10をここで紹介しておきましょうね。アルバムは全てオリジナル。人気の「殺シノ調べ」も基本は過去曲なので除外してあります。

次点Hurry Up Mode(1987)

まずは、これが実質11位です。太陽レコードでのデビュー作です。実は彼らに関しては初期はあまり気乗りしないんですけど、1枚選べと言われたら、これですね。この頃から、世界同時代進行のニュー・ウェイヴを嗅ぎとるセンスは非凡だったことはわかるので。なんか聴いてて、ブラジルの80sのロックバンド思い出したんですよね。ブラジル、その頃、ポストパンク大国だったので。これなんてブラジル、ウケるんじゃないかな。むしろ、このときの感覚を、メジャー・デビュー後にしばらく失っていたのが僕は好きじゃないかな。なんか「周囲が第2のBOOWY狙わせてるのかなあ」という感じもして。このデビューの際に見せた片鱗がしっかり開花するのに4年くらいかかった感じはしますね。

10.Razzle Dazzle(2010)

10位は2010年の「Razzle Dazzle」にしました。「或いはアナーキー」「Abracadabra」あたりと迷いましたけど。僕自身、さっきも書きましたけど、Buck-Tickに関しては「大胆で強引な曲」というのが好みなんですけど、エレクトロなポストパンクに乗りながら、いつになく明るい異色作ゆえに、これ、好きです。その明るさが、なんかかえって不気味だったりする矛盾もまた、彼ららしくて好きです。

9.極東I Love You(2002)

9位は「極東I Love You」。ミレニアム近辺のエレクトロ路線の時期で選ぶなら、僕はこれですね。サイバー・パンクでイケイケな感じよりは、抑制の効いた抑えめの曲の方が好きなので。このエレクトロの時期って、アルバムによってはシングルとアルバムがはっきりと分かれたりしてそこで損してたりとかもあったんですけど、時期の巡り合わせとして、いい曲を量産するモードにないときに運悪く重なっちゃったのかもしれないなと、今回聞き返して思いました。そこに関しては、10年代後半からの方がケミストリー働いてる気はしましたね。

8.天使のリボルバー(2007)

8位は「天使のリボルバー」。2000年代後半の、生身のロックンロール回帰の時期だと、これですね。「Rendezvous」「絶界」「Aice In Wonder Underground」「Revolver」など、小気味いいロックンロール目白押しで。タイプとして、グラム、ロカビリーと相性良いタイプの曲が似合いますよね。彼らだとエレクトロ使う印象あったりもしますけど、根っこの部分でこういう要素が根底にある気はしますね。

7.Darker Than Darkness Style93(1993)


7位は「Darer Than Darkness Style 93」。セールス的に一番売れてたあたりでもあるのかな。重いベースラインを生かしたヘヴィなニュー・ウェイヴで、かなり多様なアルバムですけど、あの当時にオルタナとかUKロック聞いてた印象からすると、リアルタイムからすると若干古いタイプのニュー・ウェイヴだったのは気になったかな。「キラメキの中で・・」はクラッシュっぽいレゲエですけど、これをトリップホップ風にしてたらもっとかっこよかったかもなあ、とかですね。今聴くと、そういうタイムライン、気にならなくなってますけど。哀愁味ある「ドレス」のメロディはタイムレスにかっこいいし、あと、あの当時はそんなこと思わなかったんですけど、「die」、ちょっとスエードっぽいギターですね。


6.Cosmos(1996)

6位は「Cosmos」。これは僕の中での「再評価枠」かな。当時はその前のアルバムに比べると、リリースの間隔が短かったのもあったと思うんですけど、なんかちょっとあっさり聞こえすぎちゃったところもあったんですけど、今聴くとここで聞かれるインダストリアル処理されたギターとリズムはむしろ前作よりタイムレスな鮮度があるし、この後のエレクトロ路線よりもロック色も強くてバランス取れたカッコ良さがありますね。ただ、やっぱり目玉は、時代をかなり先取ったジーザス&メリー・チェイン・リバイバルの「Candy」でしょうね。あの、まんまなジザメリ・ノイズギターでシングル曲になった日本の曲って、他になにかあったっけ?

5.十三階は月光(2005

ここから先は割とBuck-Tickファンの方達のあいだでも人気の作品であるような気がします。5位は「十三階は月光」。これは、それまでエレクトロ路線を続けていたBuck-Tickが原点に立ち返り、王道ゴシック・ロックに立ち返った作品ですね。特に「Romance」での物々しいキーボードの音色なんて、その最たる典型ですよね。僕が長いこと邦楽から離れていた時期があったんですが、そのときもこの曲は巷で流れたのが聞こえてきてて、「ああ、健在なんだな」と思っていたこともありましたね。そこからしばらくは生身のロックなBuck-Tickが続くことになった意味でも、その当時の大きな転換期のアルバムだと思います。

4.No.0 (2018)

4位は「No.0」。これがファンの方達のあいだで「最高傑作だ」と騒がれてから、Buck-Tickファンのあいだでの「最新作が最高傑作」というキャッチフレーズが活発化した契機となった作品ですね。作風は彼らのエレクトロ路線が完全復活した作品の決定版的趣ですね。「Razzle Dazzle」あたりから少しずつ戻ってきて、「或いはアナーキー」からしっかり戻ってきて、ここで完璧なのがきた、という感じですね。これ、何がいいかって、エレクトロとロックのバランスなんですよね。すごく音と音のあいだの隙間が活かせるようになったというか。エレクトロ使うと、特に90sの頃なんていろんなアーティストに顕著でしたけど、電子の音の壁で埋めちゃう感じのアレンジになりがちだったんだけど、そこのところの整理整頓が抜群なんですよね、これ。あと、これのライブ盤聴いた時に、「櫻井敦司、歌うまくなったね」とも思ったんですけど、今作ほどはっきりではないんですけど、この頃からそれを感じ取っていた人がいたのかな、とはなんとなく思いました。


3.異空

そして、「暫定」という形にしておきましょう。「異空」、3位です。でも、将来的に1位、ありえます。なぜ、この位置にしたかというとですね、「十三階は月光」にしても「No.0」にしても、「長年の修練によって導き出した」という感じなんですよね、少なくとも僕には。ところが、このアルバムの場合はそれだけで片付いていないというか。それを裏付けるのが、繰り返して言ってる櫻井敦司の確変というか、彼の中に潜在的に供えられたポテンシャルが突然変異で化けちゃったような、そういう予期せぬ凄みがあるからなんですよね。あと、これまで楽曲単位でしか到達してなかった和のテイストが、アルバム全体を通して表現できてて、「日本のゴスバンド」として貫禄ある作風に到達しているところも圧巻というか。こんな風に書いたら1位にしてもいい気がするんですけど(笑)、一応リリース直後の興奮を差し引いておきました。

2.Six/Nine(1995)

2位は「Six/Nine」。これはもう、洋楽も並行して聴いてるBuck-Tickファンのあいだでは絶対的存在ですね。僕のTLのBuck-Tickファンの方達のあいだではレジェンド的な1作です。そして、これ、リアルタイムで僕が買った唯一の作品がこれでもあります。やっぱ、これ当時、ビックリしましたもん。「うわっ、これはもう本場のインダストリアル・ロックとして通用するわ!」という感じで。実際、海外のアーティストとの絡みもあった時期でしたしね。インダストリアル的なところだけでなく、当時日本のアーティストがまだ弱かったグランジ的なギター・リフとかも。このときはもう、世界でも最新鋭のサウンドやってたし、「なぜもっと評価されないんだろう」とも思ってましたね。久しぶりに聞いて、なまじ先端だっただけに経年劣化も多少は感じたんですけど、ただ、今そこをフォローしてたのが言葉の洪水みたいなすごい歌詞、曲名ですね。「あいかわらずのアレの・・・」とか「見えないものを・・・」とか。あの感覚は古びないで逆に力強くなってますね。あと、「唄」は普遍的なアンセムですね。

1.狂った太陽(1991)

そして1位は「やはり」というか「狂った太陽」ですね。これは彼らにとっての人生変えた、逆転ホームランみたいな作品だから、その後に音楽的な成果で得た作品よりも好きなんですよね。明らかに「変異」がある作品なので。僕の場合は初期にちょっとルックスに偏見があって、それがリアルタイムで「悪の華」のシングル聴いて印象かなり良くなったんですけど、でも、アルバム今回聞いてみても、「TABOO」「悪の華」あたりは部分的に「ポストBOOWY」的な歌謡ポストパンクがやっぱり好きではなく(リアルタイムで強力なアンチBOOWYだったもので・・)。それを変えたのが、就職して入った放送局での、今は亡き音楽評論家の大伴良則さんが「日本でBuck-Tickだけは好きだ」とおっしゃったことだったんですね。これで「えっ」ってなって、音楽資料室行って借りたのがこのアルバムで。そこで聴いた「スピード」にびっくりしたわけですよ。「えっ、マンチェ!?しかもこれ、出たのフリッパーズのヘッド博士より早いぞ!」って驚いてですね。聴き進めていっても、もう、ここでさっき言ったような歌謡ポストパンク色は完全に消えて、「Iconoclasm」とか「悪の華」とか楽曲単位で表現できてた国際基準のポストパンクがムラなくできるようになった。さらに「和風Buck-Tick」の最初ともいえる「さくら」ね。このときから、「このバンド、大胆で強引なことやるなあ」と思ってたんですが、今回の「異空」が好きなのは、その大胆で強引なところを強く感じさせるところがあるからだと思います。この作品以降、ある一定のラインからは落ちなくなった点でも、やはりここが起点だったのかなと思います。

 それにしても、これ「ヘッド博士」どころかニルヴァーナの「ネヴァーマインド」よりも先に出てるんですよね。そんな時期に代表作出してるバンドの新作が今作というのは、ちょっとこれ、世界的に見ても驚異的だと思いますね。










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