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アメリカの音楽批評やフェスを席巻する「ポプティミズム(ポップ至上主義)」とは何か?

どうも。

今日はこういう話をしましょう。

つい先日、アメリカのピッチフォーク・メディアでこういう企画がありました。

90年代のベスト・ソングとベスト・アルバムを選ぶ、という企画がありました。ベスト・ソングが250位、ベスト・アルバムが150枚、順位をつけられた形で選ばれてます。

これがいわゆる

https://note.com/themainstream/n/ndf25fda22787

2年前にローリング・ストーン誌が選んだオールタイム・アルバム同様、女性や黒人に配慮がやや行き過ぎたものになっている・・・と言う印象で、
一般的にはとらえられています。

 今、こういう客観的で回りくどい表現をあえてしたのは、「一見、そう見える」というだけなんですね。これ、250位から1位を順に1ページでだだ貼りしてるので、下の方、つまり上位をよく見ないと気が付き損ねるんですけど、まあ〜、上位が結構、驚くことになっていました。

だって1位がこれですよ。

マライア・キャリー!!


・・これ見てちょっと唖然としたんですよね・・・。僕、いろんなオールタイム見るの好きですけど、マライアが高評価されたものなんて見たことがなかった上に1位ですよ!

 理由は後述しますけど、これが僕、ちょっと言い方悪いですけど、拒否反応が出まして「なんでだ!」と憤っていたらですね、通常、批評ベストのオールタイムで見ない、大衆向けのポップの曲のオンパレードだったんですよ!

ちょっと、「え??」と思ったものだけを抜き出しますよ

1.Fantasy/Mariah Carey
23.Believe/Cher
28.Baby One More Time/Britney Spears
30.The Boy Is Mine/Brandy & Monica
49.Always Be My Baby/Mariah Carey
59. I Will Always Love You/Whitney Houston
67.Show Me Love/Robyn S
81.Wide Open Space/The Chicks
96.You Are Making Me High/Toni Braxton

これだけあるんですよね。主に女性のR&Bが7〜8割ですね。

これ以外にも「えっ!」とまでは思わなかったものの、ローリン・ヒル、アリーヤ、TLC、デスティニーズ・チャイルド、ジャネット・ジャクソン、ミッシー・エリオット、エリカ・バドゥといったところは上位もしくは複数入っていたので、なおのこと席巻しているように見えましたね。

これ違和感感じたんですよね。だって

つい最近、こういう企画を書いたばっかりだったんですよね。今、ツイッターでも90年代の洋楽の名曲で投票やってて、それの発表をやってるんですが、ここで書いているように案の定、R&B/ヒップホップ、入っていることは入ってるんですけど、そこまで多くはないんですよね。入ってるので、ドクター・ドレーとかウータン・クラン、ローリン・ヒル、TLCとか、そんな感じでしょうか。ピッチフォークみたいな勢いは全然感じません。

「なんか、これ、ポリコレとかとも少し違うんじゃないかな」と思ってツイッターを英語でエゴサしてみたんですよ。そうしたら

https://twitter.com/UpSwifting/status/1575261506102607872


「ピッチフォークの今回のランキングはポプティミズムの行き過ぎだ」


この表現を、かなりの数で見たんですよね。「Pitchfork, poptimism」の言及がですね、9月27日から30日までのあいだに29件もありました!

 つまりこれ、アメリカ人はですね、今回のピッチフォークのランキングをですね、ポリコレよりポップへの擦り寄りと解釈してるようなんですね。事実、「pitchfork, political correctness」ではこれ、発表期間中にはひとつも言及出てきません。 

 それで「ポプティミズムってなんだ?」と思って調べてみたんですよ。

それは簡単にいうと

これ、僕自身のツイートなんですけど、こういうことです。これ、なんか新鮮だったみたいで、かなりの数、リツイートもされていましたね。

これはですね。

このウィキに詳しく書かれているんですが、つまりはですね、「ロックこそは最高」と思っている、これをロッキズムというんですが、こういう人たちから馬鹿にされやすいR&B、ダンス・ポップ、アイドルなどに価値を見だして評価してやろう、という考え方です。

 このポプティミズムがですね、僕の目から見て良いと思うのは、性や人種的マイノリティにはロッキズムと比べてはるかに優しいところです。これはそれこそ昨今のポリコレにもあてはまって、これに支えられている考え方だとも思うんですよね。

 僕自身、「ロックだったらなんでもえらい」という考え方は一切してません。ロックの中での一部にある凄くマッチョなタイプのものですとか、インディ・ロックのファンの中でさえ存在するセクシズム、これ、インターナショナルなインディ・ロック・コミュニティに入ってた時、本当にビリー・アイリッシュに対してやってるアメリカ人見たことあってびっくりしたことあるんですけど、そういうのは僕も許せないし、勘弁して欲しいんですよね。

 あと、日本人はこの感覚あると思うんですけど、「しょうもないバンド聞くくらいだったら筒美京平の歌謡曲の方がよっぽどいい」みたいな考え方は僕も大学生くらいのときには持ってたものだし、それ以前からマイケル・ジャクソンとかマドンナが半端なロックよりも全然かっこいいこともわかってたから、それは理解してたつもり・・・というか、別にそれが普通のことだと思っていて、こんな「ポプティミズム」なんて言葉が出来るほどたいそうなことだとも思っていませんでした。

 ただ、このポプティミズムには問題点が指摘されてもいます。その例として、上のウィキでは

①「売れれば勝ち」信仰に陥りやすい

②13歳くらいの価値判断で止まってしまう危険性がある

ということですね。

たしかに「ポップで何が悪い。多くの人が聞いてるからいいってことだぞ」という理屈からはじまった考え方なので、そうなりがちですよね。で、ばかにされがちというのは、それが低年齢層の子供達が自分たちのテイストを大人にマーケッティングされたにも気がつかずに自分たちの感性を信じてそういう発言になってもしまうから、趣味がそこから動きにくくなる可能性も生じるんですよね。これ、確かに今のアメリカのリスナーにこれ、感じるんですよね。前だったら、例えば2000sの半ばのアイドルのファンって「卒業」してたんですよ。それがマイリー・サイラス、セレーナ・ゴメス、ジャスティン・ビーバーあたりからファンが卒業しなくなってきたんですよね。それも、このポプティミズムの現象を支えているんじゃないかと思います。

あと、この2つに加えて僕が感じる問題として

③「自分で曲を書かない」「演奏しない」の問題になかなか応えられない

④「女性」「黒人」を十把一絡げにして個別の評価を怠りがちになる


この問題があるんですよねえ。

ロッキズム側の人がどうしても気にする「自分で曲が書けるのか」「ちゃんと演奏できるのか」の問題はですね、ポップ側の人がどんなに反論しようが、その点にこだわる人を消すのはどの時代になっても無理です。ここを克服できない限り、ポプティミズム、ロッキズムにはどうしてもかないにくいんです。

 これは特にフェスに言えることです。最近、特にアメリカのフェスに思い切り顕著ですけど、ポップのアーティストの出演が多くなって、それに対してロックファンが賛否両論みたいな話、あるじゃないですか。これに関してはですね、僕の考え方だと、たとえば音源で、フェスに出る確率の高いカテゴリーであるところのインディ・ロック聞くような人にも受けて、なおかつライブ・パフォーマンスがちゃんとできるのであれば、僕も積極的に入れていけばいいと思うんです。

が!

今のフェスの問題って、ポップ側の人の出演が、「女や黒人だったら誰でもいい」みたいな感じになってて、中身を吟味したものになってないんですよね。

これおかしいんですよ。ロックだって別に、「バンドならなんでもいい」わけではなく、フェスに誰でも出しているわけじゃないじゃないですか。ロックの中でも世代もジャンルも全然違うわけでしょ。そこんとこが何か勘違いされているような気は以前からします。

 その、最近のフェスと同様、もしくはそれ以上のいただけないことをやってしまったのが、今回のピッチフォークだと思いますね。

だって

90年代をリアルに生きた身として思う実感として、あの当時、コアに音楽を聴こうとする人たちにとって、マライアなんてリスペクトされるどころか、あえてこういう言い方をするなら「最大の仮想敵」でしたよ!

人によってはR&B/ヒップホップに入れると思うんですけど、そこでリスペクトがあったかと言われると、それも微妙です。やっぱり彼女の場合、基本がバラッディアーで、アッパーな曲が得意じゃなかったし、あの超高音は別にソウルフルとかそういうものではなかったですからね。むしろ「マライア聴いてR&Bを聴いたと思われても・・・」みたいな印象の方が強かったですね。

 そういう人を1位にしちゃったわけですから、正直な話、気分は良くないですよね。僕はポリコレには賛成なので、黒人女性で1位に選ぶとしたら、やはり批評的に優れた人にして欲しいんですよね。もっとソウルフルに歌えて、自分で曲も作れてそれが当時革新的で、社会的メッセージで時代のオピニオン・リーダーになれてしまいそうな人。だとしたらローリン・ヒルとかミッシー・エリオットが理想です。実際、ローリング・ストーンはこの二人を上位にしていました。

 で、今回、マライアをピッチフォークが1位にした理由。これがもう、驚愕的にひどいものなのがさらに驚きましたね。

「現在、一般的になったフィーチャリング・ラップの曲を知らしめた」


・・・もう、絶句するしかなかったですね。およそ批評メディアの口から出る分析とは思えません。

 だって、フィーチャリング・ラップのR&Bが流行りだしたの、1995年なんて大間違いですよ。

フィーチャリング・ラップで最初の全米ヒットは

マライアよりも11年も前にグランドマスター・フラッシュのラッパー、メリー・メルをフィーチャーしたチャカ・カーンの「I Feel For You」です。

有名ラッパーのフィーチャリングなら、エリックB&ラキムがフィーチャーされたこの曲があるし

1990年代入ってからはフィーチャリングラップの曲が1位取るなんて既に当たり前になってましたし

 マライアの曲のヒットの2年半前には女性ラップ・グループとと女性ヴォーカル・グループによるフェミニズム的に大事な曲もヒットしていたし

ウータン・クランのラッパーのヒットなら、こっちの方が半年早かったし、

 その上で、今回1位の「Fantasy」ですよ。これのどこが先駆なんでしょう。もう、フィーチャリング・ラップなんて、ヒット曲を中心に聞く人のあいだでさえ、大いに浸透しまくったあとじゃないですか。

 しかもピッチが評価している頃のマライアって、舞台裏でのわがままディーヴァぶりが顰蹙買って嫌われ始める時期でもあるんですよね。それを覚えてるものだから、「そんな時期を評価するの?まじで?」ともなるわけです。

 再評価というより、これ、僕にはゴリ押しにしか見えないんですよね。今回1位のマライアのレビュー書いたの、今のピッチフォークの編集長の女性なんですよね。彼女がどういう人なのかまでは調べられなかったんですけど、今回の全体ランキングも見るに、もう1回、僕が「えっ!」と思った曲、見せると

1.Fantasy/Mariah Carey
23.Believe/Cher
28.Baby One More Time/Britney Spears
30.The Boy Is Mine/Brandy & Monica
49.Always Be My Baby/Mariah Carey
59. I Will Always Love You/Whitney Houston
67.Show Me Love/Robyn S
81.Wide Open Space/The Chicks
96.You Are Making Me High/Toni Braxton


これ、言い方悪いんですけど、1999年に14歳くらいだった子供がしそうなチョイスなんですよね。なんかすごく「私が音楽聴き始めの頃に好きだった感」が強い曲ばかりなんですよね。批評的評価が高かった曲なんてないですよ。思い出のレベル以上のものをここから感じることはできないですね。

これがむなしいのはですね、ピッチフォークって2010年にも全く同じ企画をやってまして、そこで1位になった曲って

ペイヴメントの「Gold Soundz」なんですよね。

このときのトップ10を紹介しておくと
1.Gold Soundz/Pavement
2.Common People/Pulp
3.Nuthin But A G Thang/Dr Dre feat Snoop Doggy Dogg
4.Paranoid Android/Radiohead
5.Protect Ya Neck/WuTang Clan
6.Only Shallow/My Bloody Valentine
7.Holland 1945/Neutral Milk Hotel
8.Are You That Somebody/Aaliyah
9.Loser/Beck
10.Say It Aint So/Weezer

まあ、いかにも多くの人が知ってるイメージのピッチフォークだったんですよね。この時のランキングでマライアの「ファンタジー」は200位にさえ入ってなかったんですよ!そんな曲を1位にすること自体、無責任です。このとき8位だったアリーヤを1位にした方が、妥当じゃなかったか。今回、このアリーヤの曲が3位でしたけど。

 このときのピッチフォークのランキングそのものも僕は本音言うと好きじゃないんです。それは、このトップ10はまだしも、トップ50にヨラテンゴとか、ガイデッド・バイ・ヴォイシズとか、ビルト・トゥ・スピルを、パールジャムとかサウンドガーデンとかレッチリとかRATMとかを差し置いて選んでたから。「選んだところでカルトすぎて歴史的にも伝わるのか」とはそのときから思ったし、僕もメタルのマッチョさは苦手でしたけど、このグランジのバンドさえマッチョ扱いになってしまう極度のナードっぽさも僕には相容れなくてですね。

でも、それでも、世間一般の流行りには目もくれず、一生懸命知られざる名曲を彼らなりに探そうとしたのはわかるし、そこはシンパシーが湧いたんです。それを今回は、そんな彼らがリアルタイムでそれこそ嫌ったんじゃないかという曲が目白押しなんですよね。これは一体どういうことなのか。

ある人がこういう指摘をしてましたが、「2015年に買収されて、ピッチフォークの方針が変わったんじゃないか」と。これは興味深い指摘です。これとほぼ近い時期にコーチェラもポプティミズム的なラインナップに変わっていったので。

 そして、ピッチフォークが推奨していた、ナードっぽいテイストの強いインディ・アクトが売れた最後の年も2015年です。僕は10年代の始め頃から、「ピッチが喜ぶ感性のロックなんてマスでは流行らない」の主張者でしたけど、それが悲しいかな当たってしまって、業界全体が路線変更せざるをえなくなったのではないか。ビルボードが、インディ・ロックが弱い、ストリーミング主体のチャートに切り替わったのも2015年だったんで・・・。

まあ、ポリコレが力を持って、それこそ女性や黒人、LBGTなどのポップな人気アクトを抱えるエージェンシーが恩恵を受けたのは確かで、そういう人たちが売り出すのに、「ちまたのヒット曲にとらわれない、自分に意味のある音楽を探しに行く人たちのための場」だったはずのフェスとか批評メディアにも侵食してくるようになった、ということでも、これあるんですよね。「時代の流れ」とかなんとか、あっさり受け流して「ピッチフォークがいいって言うんだから、なんか重要な意味があるんだよ」なんて盲信する前に、考えることはあると思います。

 僕自身はポプティミズムは生かしようによってはいくらでも生きるので反対はしませんし、近いうちに「ポプティミズム名盤選」をやりたいなくらいにさえ思っているのですが、全てはやり方次第です。今回の1位のような、検証の間違いと強引なこじつけみたいなことにはならないよう、僕自身も気をつけたいと思ってます。















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