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なぜ90年代R&Bの名曲、名作は思い出されにくいのか?

どうも。

今日はこういう特集をしましょう。

はい。タイトルにもあげました「90年代のR&Bの名曲や名作はなぜ思い出されにくいのか?」。これについて語っていきましょう。

「何を言ってるんだ。いつだって思い出してるぞ」というR&Bのファンの方はもちろんいらっしゃるかとは思います。コア・ファンのあいだでは、どんな音楽でも時代でもずっと聞かれるものです。

ただ、こないだツイッター上で「90年代の洋楽の名曲ランキング」みたいな企画があって、僕も出してみたんですけど、このときに他の投票者の内容見たら、もうほとんどがオルタナティヴ・ロックかブリットポップだったんですよ。

「そういうクラスタにいるんだろ」と言われれば、そうといえばそうなんですけど、ただ、その割に各人の投票内容を見てみると、90年代のリアルタイムの頃の選ばれ方よりはバランスいいんですよ。その当時だったら、全員が一つのジャンルに偏って他のジャンルの人と重なるのがゼロでも当たり前だったのに、そういう感じのものはあんまり見なくて、その当時の一般ヒットだったり、テクノ/クラブとかメタルとか適度に混ざってるんです。ただ、その中でR&B関係の曲が不思議とあがってこない。これ見て「あれえ
〜」と思ったんですよね。

それだけじゃなくて、他の国のオールタイム・ベストとかでも90sのR&Bのもの、ほとんどあがってるの見ないんですよね。後述しますけど、あるにはあるものの、それももうほとんど定番が決まっていて、それ以外のものをまず見ないというか。

 そういうふうな疑問を僕がツイッターでつぶやいていたらですね。

このように、中古CDの現場で働いている専門家の方から、「90〜00sのR&B/ヒップホップは中古CDで最も売れないジャンル」との情報もいただきました。それでちょっとテーマとして考えてみたくなったんですよね。

 本当はこれ、フジロックの前に企画として出そうと思っていたんですけど、ちょっと延びてしまいまして。そしたらタイミング良くビヨンセのアルバムが出たのでまた考える機会ができて。彼女も、ソロになってから、それも後半のアルバムからは文句なしに一般的な名盤選にあがるんですけど、デスチャの頃なんて、どんなに売れてても名盤選には選ばれにくいですよね?僕はセカンド・アルバム選びました(あれは重要)けど、それでもそんなに一般コンセンサスは取れていないような。

そういうこともあり、なぜ90sのR&Bの名曲、名作アルバムが一般に思い出されにくいことになっているのか。そのことを僕なりに検証してみたいと思います。


①自作自演でない弱さ


まずひとつはこれがあげられると思います。「自作自演でない弱さ」。これですね。

この時期のR&Bでの名盤。あるにはあるんですけど、今、まっさきに思い出されるのって、このあたりですよね。

やっぱディアンジェロとかローリン・ヒルですよね。あと、強いて挙げればエリカ・バドゥとか、僕個人の推しで言えばラファエル・サディークのいたトニ!トニ!トニ!とか。そういうとこだと思うんですが、彼らに共通してるのが、みんな自前で曲が作れることです。こういうアーティストの方が名盤選にはどうしても選ばれやすい。

 それというのは、やっぱりロック的なものの見方の影響の方が強いと思うんですよね。だって、ロックの場合、バンドのメンバーが曲を作って当たり前の世界でしょ?一方、R&Bの世界って分業制がはっきりわかれすぎてて、歌う人と曲作ってプロデュースする人が分かれている方が普通でしょ?そこのところで損してるのかなと、まずは思います。

 それだからかなあ。たとえばメアリーJブライジなんてこの時代を代表する最高のシンガーだと思うんですけど、こちらが思うほどには名盤選には入ってこない。セカンドの「My Life」なんて最高なんですけどね。TLCも。最初の3枚は本当に良くできてるんですけど、当時のヒットほどに人々が長く覚えてくれていないというか。これも、産業システム上の敬遠の傾向がまだ見え隠れしている結果なのかなと思います。

 ただ、かのプリンスが90年代にすでにR&B業界にすごく厳しい事を言ってて「プロデューサーズ・ミュージックになりすぎていて、自分で音楽を作る事を忘れてしまっている」と批判してたんですよね。これ、前にYouTubeにあったアメリカのトークショーのインタビューで言ってたんですけど、このあたりの脆弱さを彼は予見していたのかもしれません。

②全盛期の短さ、サイクルの早さ

あと、他の音楽に比べて、R&B/ヒップホップのアーティストの寿命が短いんですよね。

なんか印象として、「2世代にまたぐことが少ない」。この印象がどうしても強いです。「90年代だけで終わってしまったアーティストが多い」。この印象が拭えないんですよね。

 これにはたとえば不幸もあるんですけどね。TLCのレフトアイとか、アリーヤみたいな早逝してしまったパターン。ただ、それがあったとしても、期待されたスターが世代超えていかなかったことは残念ながら事実で。モニカとかブランディもティーンでデビューして特大ヒット曲もだしたけど、00年代持たなかったでしょ?あとトニ・ブラクストンとか。男性だったらジョデシィとかもそうでしょ?

これヒップホップも同様で、90sはレジェンダリーな人たくさん出たからまだいる方なんですけど、00sにしたって、ネリーとかフローライダーとか、最盛期とてつもなく売れてたのに10sになったらどこいったかわからなくなった。ワイスピに出てたリュダクリスもそう。あの当時、「人気ラッパーが俳優を」のはずだったのに、今、「あれに出てる俳優」の方の認知なわけで。

00年代のR&Bにしたって、アッシャーも特大のスーパースターになるかと思いきや10sにすごく地味になってしまったり、Ne-Yoなんかもすごく短命で。

 だから、どれだけ売れててもなんか人気の長さが保障されてないところがあるというか。そこがロックと随分違うというか。ロックだと、1枚か2枚、評判が良くて売れてるアルバムがあったりすれば、あとはそこまでのヒットが出なくても長くやっていけてるんですけど、R&Bだと、そういうわけにはいかない。80年代のロック界みたいな「40の声聞く頃には下り坂」の人がいまだに多い印象があります。

③ライブ活動の不徹底

あと、この問題もありますね。

ロックのアーティストの場合、仮に曲やアルバムがそれほど売れなくても、自分たちのアルバムのツアーやフェスの出演がむしろ収入源になっています。しかも、こっちの世界は多少、曲作りの感覚が衰えたりしても、演奏で魅せることができれば続ける事ができる。しかも最近はもう年齢制限がなく、終身ビジネスにもなっていて。そういうところで、単に作品が売れているとか以上のアピールがずっと可能なんです。

ところがR&Bって、ライブ興行にそこまで熱心じゃないんですよね。ロックバンドほどには熱心にツアーやってないというか。あと、ここ最近はアメリカでフェス文化が根付いたのでやるようになってますけど、00sまではR&Bやヒップホップのアーティストがフェス稼働にすごく消極的だった。そうなってしまうと、フェスに行くような人たちにはどうしてもアピールしてはきませんよね。

このあたりは最近はR&B/ヒップホップのアーティストも意識変わってきてるので、フェス参加がずっと当たり前の文化になっていけば、そこらの事情はだいぶ変わってくるとは思うんですけどね。

④人に覚えられるのに大事なのはビルボードで長く1位をとる事じゃない

 ここも忘れられてはいけない事だと思います。
 
実は90年代、「チャート上のヒット」ということでいえばR&Bが圧倒的なんですよ。オルタナティヴ・ロックでクロスオーバーしたヒット曲なんて、あの当時で既に少なかったから。

 でも、いくらビルボードで1位たくさんとったからって

マライア・キャリーとボーイズIIメンのこの曲なんて、何人の人が覚えてます?これたしかあの当時、ビルボードの記録となる16週だかの1位なんですけど、そんなテクニカルな数字的なインパクトほど、記憶に残ってないことないですか?

もっともマライア・キャリーとかボーイズIIメンってそんなアーティストですよね。マライアなんて全米1位の曲が10数曲あるのに、今日いちばん人々に覚えられてる曲、クリスマス・ソングですからね。

 この当時のR&Bのヒットってこういうタイプの曲が多いんですよね。なんか、カルチャー・レファレンスになりにくいタイプの、「数字上のヒット」が多いというか。でも、人々の記憶って、そういうチャート上の数字で残るものじゃないんですよね。

こういった曲の方がずっと聴き継がれ、歌い継がれていると思います。リアルタイムのチャート上のインパクト、そんなに大きなわけじゃなかったのに。

 だから、青春期の少年少女とかにとって、どういうことしたら思い出に残りやすいのか、というところで、なんか認識の差が出てしまっているような気がします。

⑤クリエイティヴィティのイメージがヒップホップに流れてる


あと、R&Bよりもむしろヒップホップの方が、トラックメイカーの腕のためしどころみたいなところがありますよね。

 とりわけ、ヒップホップがその点で有利だったのは、ジャンルが最初の黄金時代を作ったのって、80年代後半から90年代前半でしょ?だからその頃はまだかなり実験的な余地が残ってて、まだ完成し切ってる感じもなかった。だからこそ、パブリック・エネミー、NWA、ドクター・ドレー、ウータン・クラン、トライブ・コールド・クエスト、NAS、ビギー・スモールズ、トゥパック、ジャイZ、アウトキャスト・・といった風に、ラッパーも、トラックメイカーも名盤と呼ばれるものをたくさん作っていけたと思うんですよね。

 ただ、90sのR&Bも、プロデューサー、たくさんいたんですよ。ジャム&ルイス、テディ・ライリー、ベイビーフェイス、Rケリー・・・。ヒット曲も何曲も連発して。でも、この人たちがヒップホップのプロデューサーたちほど評価される状況ってないですよね。

 くしくもティンバランドと、ファレル・ウイリアムズがやってたネプチューンズがヴォーカルものもヒップホップも両方手がけるタイプのプロデューサーがメインになったのでその辺りの事情も変わっていると思うんですけどね。今なお、「ヴォーカルもののみのプロデューサー、ソングライター」って影薄いですからね。

⑥60〜80年代ソウル・アイコンと比べて力負け

あとR&Bって、ヒップホップと違って、それ以前の歴史もあるから、「過去との勝負」にもなるんですよね。ただ、そうなった場合に、過去のレジェンドに勝るとも劣らないか、と言われた時に、やや力負けしてるところは正直あるんですよね。

 たとえば50sにレイ・チャールズ、サム・クック、レイ・チャールズと出てきて、60sにモータウンがファミリーで一気に出てきて、その横でアレサ・フランクリンやオーティス・レディングがいて、70sに差し掛かる頃にスライとかカーティスとかアイザック・ヘイズ、フィリー・ソウル、アイズレー・ブラザーズ、Pファンク、80sにマイケル・ジャクソン、プリンス、ジャネット・ジャクソン、ニュー・ジャック・スウィングとか、そういう流れでしょ。

 90s、いろいろR&Bのスター、いたけど、それに拮抗しうるスターが客観的に考えて正直少ないんですよね。このあたりも、思い出されにくい要因になってる気がします。90s、00s、ともに弱い気がします。

むしろ10sの方が、スーパー・エンターティナーと化したビヨンセ、ウィーケンド、フランク・オーシャン、ソランジュ、リアーナとかドレイクも加えていいと思います。ここも90sよりは強い感じするんですよね。

やっぱり、10sの例見ても思うんですけど、アーティストに作曲能力がある、もしくはそれがなくても作品に自分自身の世界観を強く投影させる事ができる、この能力が必要なんですよね。そこのところが、もしかしたら90sのR&Bは弱めだったのかもしれません。

⑦単にまだリバイバルが来ていないだけ

なんてことを言ってますけど、可能性として「まだ90sのR&Bの本格的な見直しが行われていない」だけで、むしろこれから再評価があって評価があがるのかもしれません。

 よくよく考えてみれば、今のシティ・ポップのブームだって80sなわけじゃないですか。まだ90sまで文化が降りてきてないだけなのかもしれません。ただ、その復活の口火を切るものが何かのかは、僕にはまだ見えないんですけどね。もしかして、ビヨンセの今度のアルバムくらいからはじまるのかな?


































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