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映画「Da 5 Bloods」感想 黒人とベトナムに残った傷跡とモータウン・リスペクト。スパイク・リーは新たな最盛期へ

どうも。

今日は久々ですね。映画評行きましょう。と言ってもネットフリックスなんですが、こちらです。

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はい。「Da 5 Bloods」。2018年の映画「ブラッククランズマン」の久々のヒット、オスカーでの脚本賞獲得で復活した伝説の黒人監督スパイク・リーの最新作です。今回はネットフリックスでの新作と、更に話題性が高くなっています。2作連続のオスカー・ノミネートの期待も高まっていますが、はたしてどんな映画なのでしょうか。

さっそく、あらすじから見てみましょう。

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話は現代。4人のベトナム帰還兵が、老後になって、再びベトナムを訪れることからはじまります。

彼らは

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1971年当時、黒人兵5人で組んだグループ、「Da 5 Bloods」のメンバーでした。彼らはひときわ射撃に強く、激しい戦闘の前線で戦っていました。

しかし、あいにく

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リーダー格のノーム(チャドウィック・ボーズマン)は1971年の戦闘で命を奪われていました。キング牧師に強い薫陶を受けていた彼は、理性的に黒人人権運動を行う人物で、メンバーたちにもそう諭し強い尊敬を受けていました。

そのノームの代わりに今回は

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仕切り屋のポールが、息子のデヴィッドを連れてきていました。メンバーの中でひときわ激情家でノームの力で抑制され得いた彼はノームを失った後、荒れた状態が続き

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今ではMAGAキャップをかぶるトランプ支持者になっていました。

デヴィッドをくわえた、ポール、オーティス、メルヴィン、エディ、デヴィッド5人の今回の目的は、ノームと共にベトナムの戦地に隠していた金塊とノームの遺骨を回収しに行くことでした。道中にはベトナム人ガイドもつけていました。

その金塊探しの前までに

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オーティスはベトナムに残した愛人と40年ぶりの再開を果たし、産み落としていたことを知らなかった娘と対面も果たします。

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一方、デヴィッドは、フランス人女性エディと会い、意気投合します。彼女との会話でエディは、ベトナム後遺症に悩む父ポールとの破綻した親子関係について吐露します。

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そして金塊探しの日がやってきます。思った以上に順調に金塊が探せていた彼らでしたが、ベトナムのトラウマを抱えていたのはアメリカ兵だけだったことではないことを、彼らはこの後、身をもって体験することにもなり・・・

・・と、ここまでにしておきましょう。

これ、2013年に元となった脚本があったらしく、それを

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スパイク・リーが加筆して完成させたのが今作のようですね。

この映画ですけど、

リー、冴えてます!

前作の「ブラッククランズマン」見て、彼が黒人の意識高揚の映画作り続けていた80s末から90sの絶頂の頃を思い出したんですけど、この映画もすごく「何かを取り戻した」、そんな感じが強い映画でしたね。

まず、なにがいいか。ひとつは「黒人兵から見たベトナム戦争」。これがまず、あまり見なかったものです。この映画でも語られるんですが、ベトナム戦争期間中、黒人の人口というのはアメリカで11%しかいないのに、30%のベトナム兵が黒人だったんですね。ただ、たとえば「地獄の黙示録」見ても、黒人兵って若き日のローレンス・フィッシュバーンぐらいだったり、あまり多く描かれていなかった印象があります。その黒人兵を、「ブラック・イズ・ビューティフル」の、公民権施行後、もっとも黒人の意識の高揚の高まりが見られたその時期に、リアルに描くとどうなるか。この映画はまずそれを見せていると思います。

そして、その黒人問題も含め、「ベトナム後遺症」、これもしっかり描いています。まず、黒人問題ですが、上でも書いたように、「尊敬できるリーダーを失った黒人はどうなるか」。これもポールを描くことによって示しています。キング牧師のようなリーダーがいないと、黒人の心は塞ぎ、それが時間が経つとあきらめにかわり、遂にはトランプ支援者にまでなってしまう・・。彼が軍人で右翼になりやすいタイプだとはいえ、これは現実に「さもありなん」な感じだと思います。

加えて、「ベトナム後遺症」、これは「タクシードライバー」でも「ボーン・イン・ザ・USA」でも描かれる、アメリカの長きに渡る問題でもありますけど、それは兵隊だった彼らが受けた傷でも有り、彼らの黒人家族への暗い影であり、同時にそのアメリカから受けた攻撃でのベトナム人の心の傷であり、戦地で生まれた兵士と現地の愛人とのあいだに生まれた子供とその後の人生であったり、戦地でいまだにいつ爆発されるかわからない危険な地雷だったり・・。こうした問題を、「旅」と「回想」とアクションとサスペンスで、この寓話はわかりやすく描いています。

寓話の中で風刺的に問題を盛り込むリーのやり方って

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彼の初期の傑作群思い出してうれしいんですよね。最大の代表作になった「ドゥ・ザ・ライト・シング」だけじゃなく「スクール・デイズ」とかね。この感覚、「ブラッククランズマン」でも蘇ってましたけど、それは今作でも引き続いてますね。

あと、この映画、ソウル・ミュージック・ファンにも嬉しい映画です。

全編にわたってつかわれるのが

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マーヴィン・ゲイの金字塔的アルバム、「What's Going On」ですよ。1971年で黒人意識高揚とくれば、もうこれです。この中から複数の曲が延々とこの映画では使われます。

さらに、この5ブラッズ。名前をポール、オーティス、メルヴィン、エディ、デヴィッドといいましたよね。これって

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マーヴィン同様にモータウンを支えた名グループ、テンプテーションズの黄金期のメンバーと全く同じなんですよ。

で、チャドウィック・ボーズマンが演じたノームというのは

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ノーマン・ウィットフィールド。テンプテーションズが「サイケデリック・ソウル」といって、メッセージ色濃い曲を連発していた、1968〜73年くらいまでのプロデューサーです。こうしたところにも、リーのこの「ブラック・イズ・ビューティフル」の時代に、音楽からもオマージュを捧げようとする気持ちが見て取れます。

というわけで、これ、機会があったらぜひネットフリックスで見てほしいですね。ジョージ・フロイド問題に直接つながる題材なら「ブラッククランズマン」とか「ドゥ・ザ・ライト・シング」「マルコムX」の方が良いかもしれませんが、この映画の視点も同様に必要なものなので。



















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