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沢田太陽の2019年年間ベスト・アルバム20位〜11位

どうも。

では、沢田太陽の2019年年間ベスト・アルバム、今回は20位から11位を見てみましょう。こんな感じです。

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はい。こうしてズラッと並んでいるのを見ても、好きなアルバムばかりですけど、早速20位から見てみましょう。

20.Amo/Bring Me The Horizon

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20位はブリング・ミー・ザ・ホライズン。長い間、メタルコアの人気バンドとして知られた彼らが、前作「Thats The Spirit」から推し進めたがっていたエレクトロ・サウンドとの融合を完成させた一作でしたね。これで彼らはメタルからのファン層を失うというリスクも負いましたが、同時にかなり新しいファンの獲得にも成功しました。僕のツイッターのTL見てても、このアルバム、かなり人気なんですよね。その要因となっているのは、フロントマン、オリー・サイクスの抜群のソングライティング・センス、それから「こうと決めたらやり通す」という意思の強さですね。ゲストにグライムスまで迎えようという、徹底した好奇心。彼、奥さんがブラジル人だからって、サンパウロでのライブのMC、全部ポルトガル語でやろうとしてたんですけど、とにかく生真面目な野郎です。風貌のチンピラくささとは全く対照的に。それから、いまやバンドのナンバー2、踊るキーボード、ジョーダン・フィッシュの与えた影響とケミストリー。これが利いています。そして、この2人の冒険を信じて従っている、他の3人も。このチームワークが生きる限りは、まだいい作品、出そうな気がしてます。

19.Two Hands/Big Thief

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19位はビッグ・シーフ。25位と26位にフォールズの今年発表の2枚のアルバムを続けて入れましたけど、「今年2枚」で話題だったのはこの人たちもですね。これはその10月に出た2枚目の方ですけど、人の好みによってはこちらを上位にしている人さえいるほど、人気の高い1作です。でも、僕はもう一方の方が好きかな。というのは、やっぱりこれは、もう一方のアルバムがあったのを前提に、そこで表現仕切れなかった、より、荒削りなロック魂を表現した、いわば彼らにとっての「パンク」を表現したアルバムだから。彼らのやり方だと、まんまクレイジーホースがバックについたときの二ール・ヤングみたいになりますけど。でも、そういう表現をさせても、彼ら立派ですよ。今後、仮にこちら側に流れたとしても、十分通用するアルバムを作ったと思います。そして曲でいうなら「Not」。声質が高く、繊細で時に不安定さも垣間見せるエイドリアンですが、ここでは彼女の自己MAXとでも言うべき、マイクにくらいつくくらいの勢いの激しい咆哮が聞かれます。2枚通じて、曲ならこれがベストかな。

18.Grey Area/Little Simz

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18位はリトル・シムズ。今やイギリスでは間違いなくナンバーワンの女性ラッパーですね。ロンドンの、黒人の多い南部ではなく、本人がライブで「ノーフ、ノーフ」とthをfで発音するアクセントで強調してましたけど、北部イズリントンの出身。その実力の高さはかねてから折り紙つきで、ゴリラズのアルバムに参加したのみならずワールド・ツアーにもサポートで帯同し、ケンドリック・ラマーのお気に入りのラッパーでもあります。そんな彼女のサウンドの特徴は、生バンドによる肉感的なグルーヴですね。ケンドリックがセカンド・アルバムで聞かせた感じにも少し似てる。この独自性でまず、十分、通なファンを惹きつけるのが可能なんですけど、リリックも彼女は非常にまじめですね。ホーミーとのなんとなくの連帯感歌ったようなラップが勢い目立つ中、彼女は「エゴ」と「自尊心」のあいだをゆらめく自己につてだったり、子どもたちが憧れるラッパーの虚言と現実のギャップだったり、カート・コベインやエイミー・ワインハウスといった、いわゆる「27クラブ」と言われる若くして亡くなった天才の悲劇と孤独、そして改めての敬意を歌ったり。それこそ、ケンドリックの域くらいまで行くといいですけどね。

17.Beware Of The Dogs/Stella Donnelly

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17位はステラ・ドネリー。彼女は、今年出てきた女性インディロッカー、SSWの中では、もしかしたらそこまで目立った人ではないかもしれないんですけど、僕は大好きだし、日本ですごくウケがいいですよね。少女性の強い歌い方に、陽気でいたずら好きそうな小悪魔っぽさがある・・ってとこでは、日本人好みするかもしれませんね。僕も、歌い始めはすごく楽そうにしてるのに、感情高ぶるとキーとテンションがあがって、サビの伸ばしで声がかすれて、ビブラートがかかる瞬間はゾクッとしますもんね。ヴォーカルの出し入れのコントロールは非常に上手い人だと思います。こういう歌のキュートさを持ちながらも、このファースト・アルバムを聴くと、曲がったことの大嫌いな鼻っ柱の強さを感じさせ、世の保守的な男性をこらしめようとしたりもする、すごく明るい曲調なのにサビが「Die」だったりするブラック・ユーモアのセンスもあったりもして。キャラクターとセールス・ポイントは今の時点でもうしっかり出来ていると思います。オーストラリアでせかせかせずにのびのび音楽をやってきた良さがまだありますが、これが損なわれないことを祈りたいです。

16.When I Have Fear/The Murder Capital

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16位はザ・マーダー・キャピタル。今年のロックはいきおい女性アーティストがとにかく目立った1年でしたけど、小さいながらもピンポイントで盛り上がったものも見逃してはなりません。僕にとってそれはアイルランドのダブリンのシーンですね。その一番手はもっと上に入れているんですけど、この2番手のマーダー・キャピタルもすごく、クールに熱い5人組です。サウンド・スタイルは同郷の先輩のU2の初期を思わせる、陰影の中に熱き血潮を宿したような感じがありながらも、同時に初期ニック・ケイヴが持っていたような背徳の黒い美学も感じさせる瞬間もあって。だいたいバンド名からして「殺人都市」ですからね。さらにプロデュースにあたったのが90sにナイン・インチ・ネールズとPJハーヴィー手がけたフラッド。もう、デビュー作にして、ダークなロックの王道中の王道を進んでいるわけです。ポスト・ぱんく・リヴァイヴァル以降に珍しくなくなったタイプのバンドではあるんですけど、フロントマンのジャイムス・マッガヴァンの貫禄とスケール感に溢れたヴォーカルと、楽曲構築力は早くも非凡。大化けを期待したいところです。

15.Schlagenheim/Black Midi

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15位はブラック・ミディ。「今年のUKロックは、このバンドしかない!」くらいの勢いで一部すごく盛り上がったバンドです。出身はロンドンで、2017年に作られたばかりのバンドですけど、その特異な個性から早くも大手インディ・レーベルのラフ・トレードと契約。それも話題に拍車をかけています、このバンド、世間一般的には「マス・ロック」と言われてますけど、僕自身は、それが彼らの真骨頂ではないと判断しています。マス・ロックとかプログレが悪いパターンに陥ったときの「型重視」の感じではなく、あくまでも基本はよりパンク的な自発衝動で、その先にマス・ロック的な変拍子なり、そうしたオカズがついてくる、といった感じですね。加えて、展開はありつつも、基本はベーシックとなる楽曲のメロディを大事にしている感じもあるので、どうあろうがいい意味で聞きやすさが残っているのもいいです。単なる前衛バンドとは違う、基本、新種の「パンクバンド」なんだと思います。ありきたりなポストパンクのバンドとかに飽きた耳には新鮮だし、「次の時代を見据えたバンド」として重宝されそうな気がします。

14.Jaime/Brittany Howard

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14位はブリタニー・ハワード。「アラバマ・シェイクスのリードシンガーのソロ・アルバム」というより、僕はこれ、もう「アラバマ・シェイクス後のの実質上のソロ」だという見方をしています。アラバマの2015年の「Sound & Color」には、デビュー時のジャム・バンドくささがなく、このアルバムにまんま通じるネオ・ソウルのニュアンスがすでに濃かったし、申し訳ないけど、それまで一緒にやってきた白人の野郎バンドにどういう才能があるのかも今ひとつ見えなかったですしね。このソロでブリタニーは「カーティス・メイフィールド〜プリンス〜ディアンジェロ」と継承されてきた、生演奏の形態を維持しての革新的な進化形ソウル・ミュージックを、彼女自身が自ら曲を書いて表現しています。エフェクトのかけかたとか、自分の声のハーモナイズのさせ方とか、すごく多重的な耳を持ってるなと感じさせます。あと今回、すごく抑えた歌い方マスターして歌心アップしてます。これまでの爆発的なシャウトの迫力も十分かっこ良いのですが、そこにコントロールが加わったことで説得力も増していますね。

13.Sugarhouse/(Sandy)Alex G

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13位は(サンディ)アレックスG。ペンシルヴァニア州出身の、ベッドルーム系インディSSWで、その界隈では何年か前からずっと人気ですよね。僕も前から好きではあったんですけど、このアルバムではアレンジのサイケデリックなテイストと、もとから持っていた甘美なメロディ・センスが、このアルバムの主題にもなっている童話「ヘンゼルのグレーテル」のお菓子の家のイメージともあいまっで、現実からいい意味で遊離したファンタジックな味わいが堪能できる作品となっています。彼みたいな手法って、USインディではあまりにスタンダードになりすぎてて僕も正直飽きてるところもあるんですが、この作品は個室の中での創造性がしっかり生きた、”単なるろうファイ”な生きを大きく超えた作品で、こういう世界観をライブ・パフォーマンスでもやることができたら、ロックの次の前進も期待できる内容だし、ソングライティング的にも、よく比較に上がるエリオット・スミスがもつそこはかとない悲しみの世界観とはまた違う方向に枝分かれしていくような、そんな成長も感じました。正直、もう少し批評的だけでなく商業的にも騒がれるかとも思ったのですが、このままの感じで成長していくのみですね。

12.Gold & Grey/Baroness

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12位はバロネス。このあたりの順位になると、「過小評価枠」なんですけど、このアルバム、今年出た中で最もそういう目にあったアルバムだと思ってます。この人達はジョージア州出身の、もうそれなりに年齢も行った、40代のメタルバンドなんですけど、かねてからちょっと毛色の違うことやってたので、以前からインディ系批評メディアでもレヴューが載って高得点取ってた存在だったんですけど、このアルバムはもう、メタルの次元超えちゃったせいで、メタル側のメディアからいい顔されず、インディの側だと批評的にメタルが旬じゃなかったこともあってか、一部の絶賛に終わった感がありました。だけど、これ、やってること、すごいんですけどね。だって、前半部の曲なんて、各パートがアンサンブルを無視して、全部が自発的に弾いたものが一緒になってる感じがあるんですよ。それが「変なミックス」といってメタルファンには不評買ってましたけど、すごく発想がジャズ的で画期的だと思ったんですけどね。それで楽曲がくずれているとかでは全くなかったし。加えて、これ、それだけじゃなく、聞き進めていけばアコースティックもあるし、エレクトロの要素なんかも出てきて、彼らなりにいろんな実験やって、表現の地平を拡大してるんですよね。これ、プロデュースがデイヴ・フリッドマン、インディ界隈ではフレーミング・リップスからモグワイから、MGMTで有名な第一人者なんですが、それも納得。こういうのがもう少し評価されるようになると、ロックもだいぶ変わると思うんですけどねえ。

11.Father Of The Bride/Vampire Weekend

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そして11位はヴァンパイア・ウィークエンドの4枚目のアルバム「Father Of The Bride」。前にも先行で言いましたけど、これが惜しくもトップ10を逃しました。ただ、僕自身とは非常に相性のいいアルバムでして、ロスタムにさほど思い入れのない僕としては、エズラの持つ個人的な音楽性が爆発してたほうが好きなので、こっちですね。前もコラムで書きましたけど、この人、デーモン・アルバーンとかに近いタイプだと思うし、個人性がより発揮できればできるほど良いタイプとも思うので。やっぱり、ポール・サイモンをロールモデルにするなら、エスニックなリズムとフォーキーなテイストが磨かれたほうがよりいいですしね。あと、ある時期からのトーキング・ヘッズみたいに、今回のHAIMなんか特にそうですけど、ゲストを招き入れやすいオープンな感じになったのもいいし、ダニエール・ハイムとのデュエットのように、楽曲のドラマ性があがってたり、ストーリーのユーモア・センスが濃くなってたりするのもいい。もう、アー写もエズラのものばかりにもなってきてるんだし、もう、このまま行くので良いと思います。その意味ではすごく大きなターニング・ポイントになったアルバムだし、これを機に僕が個人的にウィークポイントだとずっと思っているライブが良くなるといいですけどね。

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