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マネスキン「Rush!」 笑って喝采!全世界本格デビュー作にして、ケイオスな反抗

どうも。

では、行きましょう。予告通り

マネスキンのニュー・アルバム「Rush!」、これについて語ることにしましょう。

いや〜、なんか日本、とんでもないことになってるようですね。発売日、1月20日のオリコン・デイリー・アルバム・チャート、2位って、どういうことなんです???たしかにですよ、僕が2021年6月に初めて彼らの記事をここに書いた時から「日本での人気は心配してない」と書いたし、「固定ファンは絶対つきやすいタイプだから、いつかあわよくばトップ10に入るくらいになれば」ぐらいだったし、それでも楽観的な望みだと思ってたんですよ。それが、たった1年半でオリコンのトップ争いしてるってのは・・・。

 で、その今回のアルバムなんですけど、どう思ってるか。もうひとことで

ウケました(笑)!

 
もう、最高ですね、この人たち。もう、これに尽きます。

 マネスキンに関しては、ユーロヴィジョンからtik tokを経て、急激に世界的なスターダムに上がったでしょ?それで、本格的な世界進出もアメリカのメジャー主導で始めて。

 そうなると、期待も高いけど、不安だって同じくらい高くなるわけじゃないですか。「レーベルが変に音をいじってポップにしてしまうんじゃないか」「ロックとは言えない代物にでもされたらどうしよう」とか。そういう不安は僕にもあったし、つぶされてしまう可能性だって危惧してました。

 マネスキンのワールドワイドなファンダムも実はそうでして。大きなポイントが2つあったんですよ。2021年の6月のユーロヴィジョンで勝った直後には「デビュー当時からのマネージメントを切った」という話があった。翌2022年5月にシングル「Supermodel」が出た際には「マックス・マーティンがプロデュース」という話にもなった。あのときには、「マネスキンはポップバンドとしてつぶされてしまう」って声がネット上ですごく上がってたんですよね。僕とて、すごく不安だったんですよ。

 だって、メジャーとしては、マックス・マーティンと組んだりして、マルーン5とかイマジン・ドラゴンズみたいにして、たとえば「featuringデュア・リパ」「featuringセレーナ・ゴメス」「featuringリル・ダーク」とかのほうが数字は稼いでくれるわけじゃないですか。マネスキンのあの売れ方だったら、そういう風にセッティングするのも十分ありえた話だと思ったんですよね。

 僕としては、「仮にそうなったとしても受け止めるしかない・・でも、さみしいよなあ」とか感じながら見てました。

 でも、その間にやってたライブが、あのサマーソニックとロック・イン・リオだったわけでしょ。ガンガンにロックで、両国のファンたちまち増やしちゃった!あれを実際に見て、さらに反響の爆上がりも体験してたんで、「全然ロックで行けるじゃん!」とは思いはしたんですけどね。だから「どうするんだろうなあ・・」とは思ってたんですよ。

 その矢先に、今回のこのアルバムが届いたわけです。

https://www.youtube.com/watch?v=XrsbfrFPATs

1週間先行でこれを聞いた時に「あっ、なんとかなるかも」と思いました。

曲が相変わらずな上に、フィーチャリングがレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのトム・モレロだったわけでしょ?これ見て、「あっ、女の子のセレブとかトラップのラッパー、リクエストできたのに、トム・モレロなんだ(笑)?」と思ったんですね。よりによって、国際デビューで、なんでそんなゴリゴリにロック的に硬派な人、選んだんだと。ポップに売れる要素がないじゃないですか(笑)。

 あと、そこに、そこそこ良いレビューの情報も耳に入ってきたんですね。マネスキンって、日本のレビューだと、僕も前作年間1位にしましたけど、ロッキンオン、伊藤政則さん、インロックさんが同時に推した極めて珍しいパターンがあったから気づかれてませんでしたけど、ほとんど批評媒体、のらなかったんですよ。さらに、tik tokとユーロヴィジョンで受けたので本気にしてない人がほとんどだったんですよね。だから、偏見持ってレビューするとこ多いだろうと思って、そこでも正直期待してなかったんですよ。ピッチフォークなんてやるのかわからないし、「どうせ10点中3点とかつけんだろ、このヤロウ」くらいにしか思ってなかったんで。またバカにできる材料欲しいから、むしろつけてほしいくらいに思ってました。ピッチ、本当に嫌いなんで、毎度すみませんね(笑)。

で、ようやく本題に入るんですけど、17曲、はじめて通して聞いた第一印象は

なに、この曲順??


これでしたね。アルバムとして、妙につながりがないんですよね、これ。一貫性みたいなものが。だって、最初アップではじまって、3曲目に突然メロウ来て、そこからアップに戻って、えらくガレージ・ロックっぽい感じでゴリゴリ攻めたかと思ったら、突然泣きのバラード入って、イタリア語3曲続いて、あとシングル3曲。順番としては、「なんだ、これ??」って感じなんですよね。

 アルバム全体をトータルで考えた時に不自然というか。もっと流れで選曲できたと思うし。ここ不思議だったんですよ。だって、前の2作のアルバム、それ、普通にできてましたから。「イタリア語3曲ブロック」「シングル3曲ブロック」ってやり方はボートラつけてるみたいな感じがしたのはたしかです。全体の曲の流れそのものの、決して良いとは言えませんでしたから。これがマネスキンじゃなかったら、とんでもない駄作になった可能性さえあったと思います。

ただ、結果として、全然駄作になってないんですよね。むしろ、この無秩序さがゆえに面白くなってるというか。むしろこれ、本人たち狙って、あえて無秩序に作ったのではないかと。

 これ、思うんですけど、彼らとしては、根本的に「反逆のパンク・アルバム作りたかったんじゃないか」と思うんですね。それを音楽ギョーカイで一番ブイブイ言わせてる人たちを相手にして。

さっきの「ゴシップ」にせよ、この「Supermodel」にせよ、ハリウッド・ライフに対しての強烈な皮肉ですよね。パーティ・ライフやパパラッチ文化に対するね。

以前からグローバル・シチズンのキャンペーンにも使われてたこの「Gasoline」はロシアのウクライナ侵攻に対してのプロテスト・ソングだし

きわめつけはこれですね。この「Kool Kids」。これすごいんですよ。なんたって、アイドルズ意識したゴリゴリのハードコア・パンクですから!

https://www.youtube.com/watch?v=dEe4i2osF5A

この曲を意識したのではないかと言われてますけど、ダミアーノ、イギリス南部のアクセントまで丁寧にマネしてるんですよね。しかもアイドルズがよく使うscum(クズ)って単語多用して、「俺らはパンクでもポップでもなくミュージック・フリーク」とかっていうのもアイドルズ的な歌詞でね。

あとマネスキンもアイドルズも強烈なLGBT支持者ですけど、ここでは「ヴィクをホットなチックだと思うだろ?でも、彼女はホットなチックの方が好きなのさ!」とヴィクのバイセクシャリティを讃えたりもしてます。

 ちなみに、マックス・マーティンって人は、ブリトニー・スピアーズやバックストリート・ボーイズで当てて以来、アイドル畑、ポップ畑でずっとやってる業界の大物なんですよね。そんな人、あるいはその部下たちがスタッフについて、やってる曲がトム・モレロとの共演にアイドルズ。「アイドル違いだろ?」って話ですよね。

あと、「I Wanna Be Your Slave」系の、言葉遊びと挑発系セクシー・ソングの系もちゃんとやっててですね。

「BKA BLA BLA」もハリウッド系尻軽ビッチへのディス・ソングですけど、「キミのママの顔なら好きだ」という、レディキラーのダミアーノらしい挑発的な言葉遣いが際立ってます。

あと、どうやらこれが次のシングルになるんじゃないかと予想されてて、ストリーム数が「Gossip」「The Loneliest」といった最近のシングルの次に多い「Baby Said」。これはかなり濃厚なセックス・ソングですね。

 このあたりは本当に歌詞も含めてかなり挑発的ですね。

 あと、サウンド的にはですね、これまで言われがちだったような、70sや80sのハードロックみたいな、やや曲解されたイメージがだいぶ修正されてる感じに感じましたね。今回すごく思ったのは、かなりストレートにロックンロール・リバイバルからの影響出してるな、ということですね。

1曲目のこれはかなり初期のフランツ・フェルディナンドだし、

これはホワイト・ストライプスかなりまんまだし。

 「Gossip」とか、これとかはセカンド・アルバム「Worst Favorite Nightmare」あたりのアークティック・モンキーズみたいですしね。

 こう説明していくと、かなり遠慮なくロックンロールなアルバムなんですよね、これ。サウンドも言葉も。およそマックス・マーティンが必要だったとは思えない内容です。

 なんか、これ邪推ですけど、マックス・マーティンと組む話が決まったから、逆に反逆的な曲を書いてやろうと思ったんじゃないかと。こういうひねくれ方、ダミアーノならやりかねないなと思いまして。

今回彼ら

「ニュー・アルバムは俺らに『ユーロヴィジョンなんかロックバンドは出ねえ』と言ったヤツらへのビッグなファック・オフだ!」って言ってるんですよね。もう、これから察するに、ギョーカイに飲まれる気は最初からなかったのではないかと思われます。

が!

ただ闇雲にパンクのアルバムを作るだけでも面白くない!


こうも思ったんでしょうね。

 それはとりわけイタリアへの思いががゆえでしょう。今回、イタリア語の曲が3曲入ってるのは、イタリアのファンへのトリビュートでしょう。彼らのインスタ見るとわかるんですけど、毎日のように「もっとイタリア語で歌って〜」という書き込みがあるんですよね。

 あと、ダミアーノって昔からバラードにすごく定評があってですね。ここも古くからのファンを裏切れないとこなんですよね。だから今回もバラード4曲、この内容にしてちゃんと入れてたりするんですよね。

これも早くも人気曲になりつつあります「Timezone」。遠距離恋愛の時差のこと歌ってますけど、ダミアーノの、イタリア国内ではインフルエンサーとして有名なカノジョ、ジョルジアへの曲だと思われますけど、これはかなり90sのエアロスミス意識しましたね。「Crying」とかあのあたりの。ダミアーノが幼少時にファンだったことを公言してます。

この「If Not For You」は「Kool Kids」の直後に来るんですけど、この極端な変わり目の瞬間が笑えて好きですね。フェイクアクセントで「クー、ケーッツ」とか叫び散らしたあとに「シャバラバ、ラッタッタ〜」ですからね(笑)。これはラブソングの体裁をとった、ニルヴァーナやマイケル・ジャクソンといった、音楽の先人たちへのリスペクト・ソングで「あなたがいたから僕の今がある」という曲。今後、いろんなシチュエーションで使われるんじゃないですかね。

 ここまでの話の流れだと、ダミアーノの反骨精神がかなりケオティックな感じで表されたアルバムのような感じに僕がとらえている、と解釈されるかと思います。そこはそうです。付け加えるなら、忌野清志郎ばりの調子のいい言いたい放題のダミアーノを、バンドの裏番のヴィクがしっかり方向付けてる感じ、というのがむしろ近いかもしれません。

 ただ、同時に見逃せないのが、彼らのパフォーマーとしての成長なんですよね。とりわけトーマスですね。

https://www.youtube.com/watch?v=odWKEfp2QMY

今回、ソロが素晴らしいんですよね。特にこの2曲。

印象としてはですね、「レディオヘッドに突如目ざめたハードロック少年」みたいなプレイが目立つんですよ。ジョニー・グリーンウッドばりのワミー使ったプレーをハードロックのルーツを生かしたっぽい感じで弾くというか。これできる人、今、世界のロックシーン広しといえども、そうはいません。まだ彼、22になったばっかりです。世代代表ギタリスト、なれるんじゃないですか。

 あと、ヴィクのよりディープでヘヴィなリフ、ズドンと重量感のあるイーサンのドラムも力感が増してます。真骨頂は「Gasoline」。とりわけ、一回終わったかと思いきや、もう一回立ち上がってのリフレインのアンサンブル。あそこゾクゾクしますね。

・・と、1曲1曲拾ったら、すごく密度濃いし充実してるんですよね。全体の統一性がないのにとっちらからないのは、こうやって捨て曲なく聴けるからだというのは間違いないです。どれをライブでやっても映えそうですからね。

 望むらくは、ここまでケイオティックに作るなら、いっそのこと25曲くらいのアルバムでもよかったんじゃないかとも思ったんですけどね。レコーディング、50曲くらいしたと聞いてるし。あれだけツアーやって、いつ曲書いてたんだと踊ろくしかないですけど。おそらく、曲が短かったので、17曲でも51分でダレないから、そのままいっちゃおうとなったんだと思うんですけどね。

 いわゆるアルバムの構成上の問題で言えば、レビューする感覚で言うならあの並びは減点対象にはなるんですよね。美しくはないです。ただ、その欠点を補ってあまりある魅力はあるし、国を問わず多くのファンの満足度は高いんですよね。結局のところ、なんとかなるような気はしてます。

 今後は、チャート結果が出る頃にでも。






















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