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連載・ロック、これからの課題①ロック化するカントリーにサウンドを奪われるアメリカのロック

どうも。

今日からですね、三回にわたって、久方ぶりに「ロック定点観測」、やろうと思います。

これまで僕のロックの連載、とりわけ2021年くらいからポジティブな方向性での話が多かったんですけど、そこで底上げがあったと仮定した上で、そこから先、なかなか進みにくい、いわばロックの課題になること、これを話して行きたいと思います。

今日のお題はこれです!

はい。濃い顔がやたら並んでますけど(笑)、今年に入って何度か取り上げていますカントリーですね。実はこのカントリーの存在が、アメリカにおけるロックの立ち位置をかなり危うくしている、その話をしましょう。

 これは、「カントリーがロックの人気を食っている」ということでは、
それも確かにあるんですけど、それ以上に、「カントリーのサウンドそのものがロック化して、ロックファンを大量に吸収する方向に向かっている」、それくらいの危機です。

「そもそもカントリーって、フォークとかロックとかとどう違うの?」。そう思う人も少なくないでしょう。これは実は聞き慣れと、歴史の変遷を知らないと難しい話ではあります。

ただ、その昔はロックとカントリー、全然違う音楽だったんですよ。70sから90sにも「カントリーがロックに近づいた」と言われることはあるんですけど、それでもその時点までだとまだかなりサウンド違うんです。

 ところがですね、このカントリー、21世紀以降、ものすごくロックに近づくんです。そして2010年代以降に関しては、ロックからサウンド奪うレベルです。

 それがどれくらいのレベルかというとですね、以下のロックがカントリーに奪われるようなイメージです。

<60年代>ボブ・ディランCCR、クロスビー・スティルス&ナッシュ、<70年代>ニール・ヤング、ヴァン・モリソン、ジョニ・ミッチェル、イーグルス、ジャクソン・ブラウン、ドゥービー・ブラザーズ、リトル・フィート、ブルース・スプリングスティーン、ボブ・シーガー<80年代>トム・ペティ、ブライアン・アダムス、ジョン・メレンキャンプ、ヒューイ・ルイス&ザ・ニュース<90年代>カウンティング・クロウズ、フーティ&ザ・ブロウフィッシュ、シェリル・クロウウォールフラワーズ<00年代>ジョン・メイヤー、マッチボックス20、ニッケルバック

これが一気にゴソッと取られることを想像してください。相当のもんじゃありません?

 つまり、これくらいのイメージのリスナー層をアメリカのロック界は失ったようなものなのです。こんなことはイギリス、そして日本ではないことですから、いかにアメリカがロックリスナー、他の国に比べて失ったことがお分かりかと思います。

じゃあ、イメージ湧くように、カントリーがどんな風にロックに近づき奪っていったか、話すことにしましょう。

 まずカントリーというのは、そもそも2拍子の音楽でドラムのリズム、凄い弱い音楽だったんです。アコースティック・ギターで、エレキ使っても、それよりはスティール・ギター使って「激しさよりも泣き」を表現するかのような。その意味で、8ビートで、パワーコード使って、ドラムの音がかなり大きなロックとは必然的に違っていたわけなんですよ。

 それが90年代になって、ブギーのギター・リフを使う人もちらほら出てくるようになります。

https://www.youtube.com/watch?v=VcXg8RrylII

この辺りですね。こう言うのが出てきた時点で、あの当時、「カントリーがロックに近づいてきた」という言われ方、してたんですよ。曲そのものだけだったらヒューイ・ルイスとかボブ・シーガーに近いですからね。

あと

1993年にカントリーのアーティストたちによるイーグルスのトリビュート・アルバムが出て、これが大ヒットするんですよ。これでカントリーの曲調そのものがイーグルスの初期っぽいものには接近してくる流れもできました。

ただ、それが2010年前後になると、こんなもんじゃなくなるんですよ。

この時期、「ブロ・カントリー」という、野郎カントリーのブームが来るんですけど、

こないだ人種差別ソングで物議醸したジェイソン・アルディーンがこれで台頭するんですけど、これなんてAC/DCの「Back In Black」みたいなギターリフですからね。

これ聞いた時も驚きましたね。曲調そのものが、00sにアメリカのラジオでよく流れてたポスト・グランジのバンドみたいでしたからね。

 で、こういう流れがこういう流れができちゃったもんだから、

https://www.youtube.com/watch?v=vsQzw_Ax8Cw

ロックからカントリーに転向して大成功収める人まで出てきたんですよ。90sにアメリカで馬鹿受けしたフーティ&ザ・ブロウフィッシュのダリウス・ラッカーとか、リンプ・ビズキットの秘蔵っ子のポストグランジのバンド、ステインドのアーロン・ルイスとか。後者はとんでもない極右でそれも困ったものだったんですが(笑)。こういう流れもできてきたんですよ。

ただ、良い流れもその一方であって。カントリーがどういうわけだかメタルやポスト・グランジみたいなところとくっついていく流れがある一方で、もっと土臭いソウルフルなロック方面で発展していく例もありました。

https://www.youtube.com/watch?v=IBLruNfUqUs

ミランダ・ランバート、エリック・チャーチ、クリス・ステイプルトン。
彼らに関してはカントリーの枠で語るのもったいないですよね。ルーツロッカー、ハートランド・ロッカーとしてカウントしたいです、個人的には。エリック・チャーチなんて歌ってる曲名が「スプリングスティーン」な訳だし。まさにスプリングスティーンを聞いて育った青春期を回想する曲です。クリス・ステイプルトンもどっちかといえばソウルシンガーですよね、これ。

こういう風にポジティヴな面もあるんですけど、ただ、カントリー、困った人も多い訳ですよ。

このモーガン・ウォレンがパンデミックの際に、反ワクチン、反マスク、黒人を「ニガー」と呼んだビデオ流出でバッシングの中、保守の連中の心掴んで今やアメリカで一番人気のアーティストですよ。

で、この彼のバックについてるプロデューサーがジョーイ・モイって人で、00年代にポスト・グランジ最大の成功バンドだったニッケルバックのプロデューサーなんですよ。もう、ヒット人脈そのものがロックからカントリーに移ってきてるわけです。

そしてモーガン・ウォレンの最大の対抗馬のルーク・コームズがトレイシー・チャップマンのこの曲のカバーで全米1位だか2位の大ヒット。もう、完全に狙いが年齢層高めのロックファンなんですよね。

そしてこれだけじゃないんですよ。最近の男性カントリー、もうカントリーじゃありません(笑)。

もう、ここまでくると「これ、カントリーにカウントしちゃダメだろ」という曲まで出てきます。上の曲は「ブリング・ミー・ザ・ホライズン?」って感じだし(笑)、下の曲はもう歌い出しからニッケルバックの00sのヒット曲みたいだし。これはあまりに過ぎたか、アメリカではロック・チャートに換算されまして、そこで1位になるヒットにもなってます。

そんなさなかに


ザック・ブライアン、出てきたわけですよ!


去年出たアルバムからの超ロングヒットになったこの曲、ストレートなフォーク・ナンバーで、ソウルフルに歌い上げるんですけど、持っていかれましたもんね。

これの時点で、他のカントリーの人とはだいぶ毛色ちがうなと思ったんですけど、かなり熱い人でして、LGBTを強く擁護したり、高騰するコンサートチケットに反対してチケッットマスターと戦ったり、「もう、そんなのロックに移るしかないだろ」なキャラクターなんですよね。

彼、「Z世代のスプリングスティーン」とも呼ばれているんですが、もう、この曲なんてモロですからね。あと音楽だけじゃなくて、歌詞の書き方まで似てるんですよ。小さな町で違和感を感じ旅にでる感じを風景描写、心理描写を細かくおこなう感じでね。

だからですね、「こういう人なのにロック認定されないの、絶対おかしいだろ!」と思ってたんですよ。そしたら、ビルボードが気を使ってくれまして(笑)、

この曲を総合チャートの1位だけじゃなく、ロックチャートの1位にまでしてくれました!

その甲斐もあって、「1年以上ぶりにロックの1位が出たよ」とロック認定されることにもなりました。

でも、ファン層の認知、カントリーで、まだロックファンが気がついてないんですよね。そこのところがもどかしいです。

やっぱ、この手の音楽やる場合、今、「ロック」で売り出すより「カントリー」で売り出した方が確実により多くのファン層ができることが、カントリーによるロックの大規模吸収につながっているんですよね。そこの部分をなんとかしないと、カントリーのロック化、アメリカにおけるロックのサウンドの喪失、ファンの減少は止められなくなる気がするんですよねえ。

それと逆に、今、どんなにサウンドがロック化しているからといって、「おお、そうか」と簡単に聞けるほどカントリー、単純じゃありません。基本、保守の人たちが聞く音楽ですからね。ロック好きとしてはイデオロギー的に受け付けるのが極めて難しいい音楽ですからね。それだけに、サウンドを奪われるのは「まあ、もとから保守的な要素だったしな」とは思うんですけど、でも、なんかもったいない気もするのも確かなんですよね。












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