見出し画像

「Get Back」 人類史上永久保存作!音楽史上の偉人に最も濃密に迫った記録

どうも。

やっと全部見終わりました。

画像1

ビートルズのドキュメンタリー「Get Back」。いやあ、見るの、すごく疲れました。なにせ、全部で8時間近くある大作ですからね。

この

画像2

ピーター・ジャクソンにとっては「ロード・オブ・ザ・リング」と並ぶ時間的スケールの3部作ですけど

これ

もう、大傑作ですよ!

しかも

人類史上の記録として残すべき!


もう、そう言い切って良いと思いますよ。

 だって、これまでの音楽史上、歴史上に残るアーティストの素顔にここまで親密、かつ濃密に接近した瞬間って、ないわけですからね。

 20世紀以降の文化が素晴らしいところは、歴史上の人物の足跡がこうやって映像資料として残ることです。モーツァルトとかベートーベンとか、どうやったって、こういうこと、できないわけじゃないですか。19世紀以前では、これ、できないことだし、20世紀に入っても、映像は残ってても素顔に迫れるレベルの映像が残ってる巨人なんてそうはいないわけじゃないですか。それがエルヴィスにせよ、ロバート・ジョンソンにせよ、ジュディ・ガーランドにせよ、マイルス・デイヴィスにせよ。

 そこへくると、このビートルズには、かけがえのない貴重な映像がこうやって残っていました。1969年1月に記録された150時間にもわたる映像。これを8時間まで縮めることによって、ビートルズがどうやって音楽を作り、どんな会話をし、どんな人間関係だったか、その一端を知ることができたんですから。こんな貴重な瞬間、ないですよ。

 ビートルズというのは、20世紀に大衆文化というものが出来上がって、その音楽部門における最大の成功者にして、最大の音楽遺産の創作者です。この先、22世紀になろうが、23世紀になろうが、間違いなく語られていく存在になることは決まっていますが、その時代の人に「数百年前の音楽の偉人はこんな風に音楽を作っていたんだよ」と示すことが可能であることを考えても、これは本当に貴重な記録です。ここを起点にして、こういう音楽家たちの「生きた瞬間の保存」、進んでいけばいいと願いたいですね。

 そして、これ、記録の保存の意義だけでなく、内容的にもすごく見応えあり、見て学ぶことが多かったですね。

まず

画像3

メンバーがすごく若い!

もう、これ以前に、人類史上に残る曲、アルバムを作っていく彼らが、その終焉を迎えることになった瞬間が今回は描かれていくわけですけど、このとき、まだジョン、ポール、ジョージ、リンゴ、まだ全員20代だったんですよね。見てて肌ツヤがきれいなところに目を奪われましたね。こんな、まだ一般社会だと十分「青春」といった感じで、これから大人になっていくような人たちがそんな偉業を成し遂げていたのか。そう考えると、改めて彼らのすごさというものがわかりますね。

 そして、このレガシーを、そのあとの50年を超える月日で本人たちがライブなどで披露し、誰かしらにずっと愛されてきたことによって本当の意味での文化として浸透した。そう考えると感慨深いものがあります。

 また、こういう若さでの偉業であったがゆえに、「解散」も早期に起こってしまったのだなと思いましたね。アーティストとしていかにすぐれていても、人間としてはまだ人生経験も少ない若者です。「相手の気持ちを受け止める」とか、そうしたコミュニケーション上ではまだ成熟できていません。彼らに限らず、「バンド」というものの解散が起こるのって、やはりこうした20代なんですよね。以前は「バンドが再結成」なんて言ったら「金のためだ。汚い。幻滅する」みたいに過剰に言われていた頃もあったんですけど、当のバンド側にしてみれば「あの若き日に、もう少し相手を思いやることができていれば。もう少し、自分の気持ちを冷静に引いていればm絆が断たれることまではなかったかもしれないのに」と、そうした人間関係の修復を目指しての再開だったりもするんですよね。近頃はバンド再結成のこうした側面も理解されてると思うんですけど、ビートルズだってまさにその典型です。「あの仲の良かった4人がもう一度集まってほしい」と願うから再結成を望む声もあったわけだし、それがジョンの死で叶わぬものになったことで惜しまれ、90sに残った3人がアンソロジー編集した時も歓迎された。このドキュメンタリーはそういう、誰もが愛おしいと思っていたバンドが、ケミストリーの消えかかるフラジャイルな瞬間をとらえた貴重な一瞬でもあります。

画像4

子供時代は「自分より30歳も年上の髭もじゃの人たち」な感じだったんですけど、僕が50代になった今これを見ると、もう彼ら、「青春」でしかない。これに気がつけたことは大きな発見だったと思っています。

 そして音楽史の記録的にも、これ、かなりの収穫、ありますね。

  あと、人間関係の描き方にせよ、かなり写実的なのがうれしいところです。進行を急ぎ、「ホワイト・アルバム」でバラバラになったバンドをなんとかまとめようとするあまりにいささか命令調のものの言い方になっていまうポールや、バンドの中でまだ格下扱いされることに少しずつ不満をためていくジョージ、ビートルズへの気持ちが少しずつ離れつつあったジョン、一歩引いた立場で3人を見守るリンゴ。おおまかにいえば、こういう人間関係でしたけど、これをことさら「対立」ということを強調しないで、起こったことをありのまま見せていることにすごく好感が持てました。しかも、特定のメンバーに肩入れした編集ではなく、4人に平等にスポットが当てられているのが良かったです。

画像5

 また、終始ヨーコと寄り添い、ビートルズへの貢献が次第に減ってたジョンではあるんですけど、パート2に顕著なんですけど、興が乗ってくるとイニシアチヴ発揮し始め、何やるにしても終始ジョークでメンバー引っ張っていくんですよね。それにポールがワイワイと乗ってことが進行していく。こういう有様を見てると、「おそらくこれ以前は彼ら、ずっとこんな感じだったんだろうな」と伺えて、これも発見でしたね。「仲の決裂した失敗セッション」なんて言われ方もよくされていた「ゲット・バック」セッションですけど、必ずしも仲が悪いわけでもなかった、人間関係が良くないながらも、良かった頃のコミュニケーションを発揮することでなんとか持っていた姿もとらえたものになっています。予想したよりも笑顔が多いのが、これ、一番うれしいんですよね。

 また、音楽的にも発見が大きいんですよね、これ。

ひとつは、この「ゲット・バック」セッション時の彼らの音楽の嗜好がわかったこと。ジョンがボブ・ディランの「地下室テープ」の「マイティ・クイン」や「I Shall Be Released」を口ずさんだり、ポールがキャンド・ヒートを口ずさんだり。彼らなりの、この当時のザ・バンドに代表されるスワンプ・ロックや南部ロックの接近へのアンサーみたいな意味合いもあったんだろうなと思いましたね。それはレコーディング時のかっこうにも反映されている感じもしますけどね。

 あと、のちに別の形で出た曲がすでにこの1969年1月の時点で姿を見せていたことも大きな発見でしたね。ジョンなら「ジェラス・ガイ」や「真実がほしい」、ポールだと「アナザー・デイ」や「バックシート・オブ・マイ・カー」、そしてジョージなら「オール・シングス・マスト・パス」。あと、「アビー・ロード」に関しては、8割がた、このドキュメンタリーには登場します。これだけの曲の数々が創作上にすでに上がってきていたんです。これがどうして「失敗したセッション」などと言えましょう。この時期もビートルズにとっては大きな創作時期だったんですよね。これがわかったこともすごく重要です。

そして

画像6

1月30日に行われたルーフトップ・セッション。これもすごくいい音で再現されてますね。同時に、この突然の演奏を聴いてた人たちの反応も、やはり「レット・イット・ビー」の映画よりは、はるかに克明になっています。

画像7

 これにしたって、とても「失敗」などとは思えません。キーボードのビリー・プレストンをサポートに加えた5人でのツアー。かなわないけど見てみたかった気にさせてくれます。これをやった瞬間ではすごく夢があるし、パート2でビリーが加わったセッションでもそれは同様です。彼は70年代にソロで2曲の全米1位を出すほど成功もしてるんですけど、ここでのエレクトリック・ピアノでのプレイもすごくケミストリーがあるんですよね。

あと、まだ40代だったジョージ・マーティン、当時まだ駆け出しだった、のちにザ・フーをはじめロックの名盤を多数手がけたグリン・ジョーンズなどのプロデューサー陣との関わりが描かれている光景も、これ、ロックのマニア的にはすごく見ものです。

 ということでこれ、これから先の人類の記録としても、青春ドラマとしても、音楽探求としても、どの立場からも楽しめます!もし、少しでもビートルズのことが好きだと思われるなら、お試し期間はないですが、ディズニー・プラスに手を伸ばして見てみたほうが良いと思います。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?