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沢田太陽の2019年1月から3月のアルバム10選

どうも。

では、お約束通り、2019年最初の3ヶ月での僕のアルバム10選、紹介したいと思います。

例年は4月超えて発表するんですけど、前も言ったように今年の4月頭は予定が詰まってるので前倒しでやることにしました。今年のこの時期は結構な豊作で選べなかったものも多く残念なものもあったんですが、それでもいざ10枚選べとなったら、そんなに困りませんでした。結構スンナリ選んでます。

では、こちらです。

普段、このブログをご覧いただいている方なら、随分と分かりやすい10枚になった気が自分でもするんですけど(笑)、では1枚ずつ見ていきましょう。

When We All Fall Asleep Where Do We Go/Billie Eilish

まずはやっぱり、これですよ。ビリー!このアルバムの場合は、もうすでに「歴史に残るアルバム」になる運命は決定しています。弱冠17歳3ヶ月にして、世界の主要な国のアルバム・チャートで初登場1位になるのがほぼ目に見えてますからね。まず、記録面、そして、もうすでに起こっている現象面で後世に名前は確実に残ります。

あとはもう、「でも、それが本当にそれに見合うだけの作品なのか」と言ううがった見方をするかしないか、だけですが、こないだも言いましたけど、それをやるのは無謀なのでやめておいた身のためです。僕の場合、これ、表向きには「新しい10代の教祖」の作品の機能ももちろんしていると思うんですけど、僕にとってそれ以上に衝撃だったのは、そんな作品を、実質、21歳の兄と17歳の妹の、実質たった2人で作り上げてしまったことです!スウェーデンあたりの人たちが10人がかりくらいでこしらえたものとかじゃないんですよ(笑)。庶民的な次元に置き換えると「就活のお年頃」と「新高3」の時期の2人がですよ。しかも大メジャーが、2人にそれをやるのを認めてしまっている。僕はその行為こそパンク的だと思うし、究極のDIYポップですよ。しかもそれが素人臭いサウンドになっているどころか、最新鋭の技術を駆使したオーディオ的に極めて優れた音質(とりわけ低音と生楽器!)で行われていて、曲作りもベーシックな部分から基礎がちゃんとできていて、ハーモニーのアレンジなんて絶品ですし。聞けば聞くほど、信じられないんですよ、これ。

このフィニアスとビリーによる兄妹コンビ。僕はビリーの個人としてのキャラクター性よりも、このクリエイター・チームによるソングライティングの可能性により注目したいですね。「レノン/マッカートニー」に将来的に並ぶか否かとかはどうでもいいんですが、それくらいの銘柄感が出せる名前になって欲しいですね。

When I Get Home/Solange

そして、当ブログでもう一人大特集を組みましたソランジュ。彼女のこのアルバムでのイノヴェーターぶりも素晴らしかった!

彼女の場合は前作の「A Seat At The Table」が、フランク・オーシャンのデビュー作、2作目と並ぶ「21世紀型ネオ・ソウルの新たなロール・モデル」として極めて強いリスペクトを受けたものでしたが、このアルバムでは前作で勝ち得た評価に甘んじることなく、自分の音楽の地平をさらに意欲的に進めた点で頭が下がります。しかも、ブラック・ミュージック史上屈指の天才だったスティーヴィー・ワンダーのクリエイティヴィティのピークにあった時期のアナログ・シンセの実験性、さらに60sのフリー・ジャズの影響も交えた、予定調和を拒んだ予想のつかない楽曲展開。そうした、ややもすると難解で自己満足に陥りかねないアプローチを、前作で開花させた類い稀なメロディメイカーとしてのセンスでしっかりわかりやすくつなぎとめる絶妙のバランス感覚。これも光ります。

個人的には、今後も前作から続いている「作詞作曲、自分」の路線を徹底させ、研究熱心にアートな実験性を保ち続けて、この世代のR&Bにとってのジョニ・ミッチェルみたいな人になって欲しいですね。

Psychodrama/Dave

そして、この3ヶ月、「歴史に残りそう」なアルバムはまだあります。それがUKラッパー、デイヴのデビュー・アルバム。

もう、ここ数年でイギリスでもしっかり自国産ヒップホップ、根付きましたけど、その中でもデイヴは、これまで僕が聞いてきたこの国のラッパーでは桁違いの存在ですね。これまでUKラッパーに求めていたものって、例えばブリティッシュ・アクセントによるフローだとか、US産とは違うサウンドのユニークさだったりしたしたんですけど、デイヴの場合は、もうそんな小手先の差異性など気にしなくていいくらい、「リリシスト」「ストーリーテラー」としてのスケールの大きさが際立ちます。自分の生い立ちから、地元、刑務所、黒人であるということなど、すごく内省的かつ哲学的なラップをするんですよね、彼。聞いてて思わず、ノトーリアスBIGの「Ready To Die」を思い出してしまったんですけど、それくらいのプレゼンスが彼にはあります。中でも圧巻は、前にも紹介してます「Lesley」ですね。11分、6章で構成される、荒んだ黒人社会に生きる悲劇の女性を描いたこの曲には「Brenda's Got A Baby」「Dear Mama」あたりのトゥパックに通じるフェミニスティックなスピリットも感じさせたり。

このアルバム、フォールズをも抑えて見事全英初登場1位の快挙も成し遂げてますけど、それはまだ伝説の始まりにすぎません。

Beware Of The Dog/Stella Donnelly

これは、将来的に「名盤」の扱いを受ける作品になるのかどうかはわかりません。でも、オーストラリアはパース出身の26歳、ステラ・ドネリーのこのデビュー作が現在のところ、僕の今年の年間ベストTop10の候補の一角になっていることは否定できない事実です。

昨今、インディの女性SSWってたくさん出てきてますけど、ステラの場合、何がいいかというと、もう圧倒的に歌唱力ですね。彼女の歌声、表現にすごく幅があるんですよね。パッと聞きはあまり力んで歌わないロリータ声に聞こえるんですけど、「ここぞ」の時の高音の伸びは抜群に素晴らしい。技も多彩で、力んだときの声のかすらせ方から、声を伸ばしたときのヴィヴラートでの声の振るわせ方とか「聞かせるアクセント」がしっかり計算できているというかね。こう言うヴォーカルのコントロールに関して言えば、ここ数年のニューカマーの中でもトップクラスなんじゃないかと思います。あと、彼女を後ろで支えるバンド、とりわけ煽りの合いの手をフレージングでユーモラスに入れる、ギタリストの人はかなり才能あると思いますね。

まだ本国オーストラリアでやっと15位くらいですが、媒体の年間ベスト発表後に評価がうなぎのぼりになるような気がしてます。

thank u next/Ariana Grande

そして、アリアナのこのアルバムも、この期間の僕のトップ10には入りますね。

このアルバムでアリアナ、全米シングル・チャートのトップ3を独占。もう、この時点でこのアルバムも「人々の記憶に残り続けるアルバム」にはなったし、タイトル曲はおそらく最大の代表曲になるであろうから、いわゆる「最高傑作」にもなりうるアルバムだと思うし、僕も客観的に優れたアルバムだと思います。特にアルバム前半の、ダウンテンポの抑えめの曲で、彼女自身のヴォーカル・コントロールだけで世界観が構築できているところなど見事です。この辺りは前作の「Sweetener」での経験が生きた気がします。

ただ、それにもかかわらず、僕の年間トップ10にはやや微妙ですね。一つは後半に固まったトラップ攻勢が「風化早そう」と思ったこと。あとはやっぱ、ビリーとかソランジュとの比較においてですね。確かに優れてはいるんですけど、でも、それは古くからの「ザ芸能界」的な、こしらえてもらったポップの作り方であることには変わりないじゃないですか。最後の最後はそういうとこの差はどうしても出ちゃいますね。

Grey Area/Little Simz

UKヒップホップだったらこれも素晴らしかったですね。女性ラッパーのリトル・シムズ。彼女は「ケンドリック・ラマーのお墨付きラッパー」ということで事前からすごく注目度の高い人でしたが、このアルバムの絶賛で、より評価を上げたかと思います。

この人の場合、資料的に不明なことが多いんですけど、プロデュースを担当しているInfloなる人、そして、このアルバムでの生演奏部分を担当しているミュージシャン、もしくはバンドの存在について知りたいですね。ここで展開されているバンド・サウンドのままライブやられたら、高揚感かなり高いものは間違い無いですからね。もう、このサウンドの時点で、人気ラッパーの数が増えていけば増えていくほど、なんとなくアメリカのトレンドに目配せしたような人がむしろ目立ってきている今のUKのシーンの中では際立って異例になってきているのも立派なことです。

Everything Not Saved Will Be Lost Part 1/Foals

ここでやっとバンドものの登場です。僕にしちゃ、あんまりそういうことないんですけど、それだけバンド、最近目立ってないのも事実です。

だけど、このフォールズのアルバムは立派でしたよ。前作までで、イギリスやヨーロッパにおけるポジショニングはかなり高いものになっていましたけど、これと、今年後半に出てくるこのアルバムのパート2、これを持って一気にヘッドライナー・クラスに王手かけにきましたね。サウンドとしては、これまで4枚のアルバムで積み上げてきたものをより大きなグレードで表現した感じですけど、この貫禄の示し方はUKロック全体にとっても良いことだと思います。

Amo/Bring Me The Horizon

そして、もう一つバンド、行きましょう。ブリング・ミー・ザ・ホライズン。

BMTHのこのアルバムの場合、これまでの彼ら以上にポップでメロディックになったことと本格的なエレクトロ化を持って、彼らの従来のファンからも強い批判を受けていたりもしますが、セルフ・プロデュースのアルバムで、そうしたリスクをあえて自分たちで冒して挑戦した姿勢は僕は好きすね。彼らの生きてるメタルの世界なんて、そういうしがらみ、特に強そうなのにそれをやる勇気は立派だと思います。

あと、やっぱどうしてもTHE 1975思い出しますね。サウンドの表現の仕方は違うんですけど、果敢にコンテンポラリーな新しいことをやろうとして「ロックをなんとかしたい」とするオリー・サイクスの姿勢はマット・ヒーリーのそれと近い気は前からしてました。

Remind Me Tomorrow/Sharon Van Etten

あとはもう、とにかく”インディの女性アーティスト”。もう、声しかなかったですね、この3ヶ月は。その一つがシャロン・ヴァン・エッテンでしたね。

このアルバムは1月の3週目にリリースされた、今年最初の優秀作でしたね。彼女は出産の関係もあって、前作からアルバムのリリースがだいぶ遅れてしまったんですけど、その間にいい意味でガラリと変わりましたね。これまで割とシンプルなサウンド・プロダクションの人な印象でしたけど、今回はエレクトロの要素も入って、ガッシリとした音像に変化して。しかもポップになったとこそういうことでは全然なく、むしろそれによって骨太になったというかね。2017年のザ・ナショナルのアルバムに近い進化を遂げた感じですね。

Quiet Signs /Jessica Pratt

そして、最後の1枚、迷いましたけど、ジェシカ・プラットのこのアルバムで。

もともと、60sのアングラ感、アシッド・フォーク感を表現させたらかなり上手い人でしたけど、このアルバム、「実はこれ、1969年に発表されたフォーク・ロックの名盤でね」と嘘言って紹介したら騙される人が続出しそうなまでに、もう、60sそのまんまのカルト名盤的な響きと風格があります。その筋のサウンドが好きな方には無条件に響くと思います、これ。

ただ、彼女の場合、サウンドばかりが気になって、肝心な彼女自身が何を歌っているかになかなか入って行きにくいところが課題なんですけどね。今後、このポイントで発展が見られたらもう一皮むけるような気もしてます。

・・と、こんな感じでしょうかね。

このほかに良かったアルバムも以下に挙げておきますね。

On The Line/Jenny Lewis
Mazy Fly/Spellling
Crushing/Julia Jacklin
This Land/Gary Clark Jr
Stuffed & Ready/Cherry Glazerr
Ulfila's Alphabet/Sundara Karma
It Won't Be Like This All The Time/The Twilight Sad
Feral Roots/Rival Sons
Assume Form/James Blake
Why Hasnt Everything Already Disappeared/Deerhunter

このあたりの作品であれば、この先、年間ベストでのTop50の可能性もあるし、今回紹介した10枚との間の逆転もあるような気もします。










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