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全オリジナル・アルバム FromワーストToベスト(第31回) ポール・マッカートニー その1  26位〜11位

どうも。

今年は割と頻繁にやった印象のある当ブログおなじみの企画「FromワーストToベスト」ですが、年忘れにもう一回やります。

ネタは、この人で!


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はい。先ごろリリースの「マッカートニーIII」も話題のポール・マッカートニー。彼の、ビートルズ解散後から現在までのソロ作でのFromワーストToベスト、やってみましょう。

対象となるのは、ウィキペディアでの彼のディスコグラフィーでオリジナル・アルバムとカウントされている26枚のアルバムで、それらにランクをつけました。したがって、クラシックの作品やファイアマン名義の作品はここには入れてませんのでご了承ください。

では、早速いきましょう。ワーストの26位から。


26.Wings Wild Life (1971 UK#11 US#10)

ワースト1位、26位は「ウィングス・ワイルドライフ」。ビートルズ解散後のポールの3枚は録音がすごく雑でデモテープみたいだとしてリアルタイム時にはすごく嫌われたようですけど、その線でいえば、これこそがまさに、ただのセッション、というか「練習」ですね、これ。演奏がラフでも別に良いと思うんですけど、曲が生煮えなのはいただけないですね。他の2枚が、楽曲そのものの良さでしっかり再評価されたのとは対照的に、ここでは曲そのものに聞くべきものがないですね。全く印象に残りません。よって、当時の人が本当に問題にすべきこのアルバムがワーストです。

25.Give My Regards To Broad Street (1984 UK#1 US#21)

25位は「ヤア!ブロードストリート」。これはまあ、もとが「映画のサントラ」ということで作りが通常のアルバムと違い、ほとんどが既発の曲ばかりなのでいちがいに比較はできないのですが、それにしても編集粗すぎですね、これ。既発曲のアレンジが雑な上に曲の並びもバラバラで。当時シングル・ヒットした「ひとりぼっちのロンリー・ナイト」以外に特に聴くべきものもないというか。まだ、映画、見たことないんですけど、怖くて見れません(笑)。

24.CHOBA B CCCP (1988 UK#63 US#109)

24位は、すみません、キリル文字が打てないので強引にこのタイトルで。これがソ連が音楽の市場開放をはじめる頃に出したアルバムで、50sのロックンロールのカバーのみで構成されています。このころのポール、調子よくないんですけど、細かいところではありますけど、そうした調子の優れなさはアレンジにも出てますね。シンプルなロックンロール・サウンドではあるんですけど、この当時の80sのバンドのアレンジ、概してこんな感じですけど、やっぱスネアの処理が甘いというか、変に大味なんですよね。これもいまひとつ、聴くのに手が伸びないアルバムです。

23.Kisses On The Bottom (2012 UK#3 US#5)

23位は「Kisses On The Bottom」。これは2012年に出したジャズのスタンダードのカバー・アルバム。この当時、ポールは67歳。本来、年齢から考えたら年相応の似合うタイプの企画だったはずなんですが、ポールがロックやって調子良かったものですから、「今、あえてやる企画なのかな?」の疑問の方が皮肉にも高くなってしまいましたね。アレンジにしても、この手の企画のごくごく普通のアレンジなので聞いててあんまり面白くもなかったんですよね。ポールにはやっぱり、思い存分ロックしててほしいものだと思います。

22.McCartney II (1980 UK#1 US#3)

そして「マッカートニー2」は22位。偶然ながら「2ならび」になってしまいました。これですが、「ポールがニュー・ウェイヴに挑戦」みたいな感じで言われたアルバムで、その観点で再評価を、との声もあります。たしかに「Temporary Sectetary」みたいなひねくれシンセ・ポップ・チューンは面白いし、コーギスの「Everybody Got To Learn Sometimes」を思わせるリズムレスなシンセ・バラード、歌詞も自殺防止を呼びかけシリアスな「Waterfalls」など聴くべき曲もあるんですけど、いかんせん、各曲の出来がぶっきらぼうで甘く、すごくデモテープ的なんですよね。「粗さ」自体は良いとは思うんですけど、いくらなんでももう少し完成させてから世に出しても、これで出すには曲そのものの出来がいまいちすぎる、というのが率直な印象ですね。あと、このアルバムの前に大ヒットしたシングル「カミング・アップ」の収録はやっぱり浮いてると思います。

21.Press To Play (1986 UK#8 US#30)

21位は「Press To Play」。80年代半ばに発表された、リアルタイムで覚えていらっしゃる方には、「ポールのヒット・アーティストとしての勢いを止めてしまった」アルバムとして記憶されている方も少なくないと思います。これ、ポールが典型的なエイティーズ・サウンドにトライしたアルバムとして、当時風に言うなら「打ち込みを多用したアルバム」で非常に不人気で、ポールのオールタイムではワースト常連です。なので僕もそのつもりで聞いたら、今、聴くとそこまで悪いアルバムではないですね、これ。確かに先行シングルになった「Press」にはギッタンバッタンしたリズムのイメージあるんですけど、他の曲はそうでもないというか。これよりもむしろテクノロジーに頼りすぎてダサいアルバムなら他にも知ってるし。むしろレゲエとかブラコンとか無防備にやりたがる節操のなさの方が気になるというか。バンド・サウンド離れていろんなことやりたがって自滅した80sのポールの典型例、といった方が正しい気がします。

20.London Town (1978 UK#4 US#2)

20位は「ロンドン・タウン」・ウィングスの最後から2番目のアルバムですね。ウィングスが5人バンドとして2枚アルバムが成功した後ですが、ジャケ写撮るまでにギターのジミー・マカロックとドラマーのジョー・イングリッシュが抜けて3人になってますね。このアルバムですが、バンド色がちょっと交代してAORっぽさ、それから、アイリッシュ、スコティッシュ風味のフォークのメロディが目立ってきてますね。このレコーディングの後にウイングスのシングルとしてはイギリス最大のヒットとなった「夢の旅人」が出て、このアルバムの出る前にシングルで出てるんですけど、流れ的にわかる気がします。ただ、これ、アルバムがここまで弱いんだったら、この曲、収録すべきでしたね。ウィングスに勢い抱かれがちな悪い意味での「ポップス」のイメージを助長する、芯のないタイプのアルバムですね。

19.Off The Ground (1993 UK#5 US#17)

19位は「Off The Ground」。このアルバムは、現象的な成功に終わった初の日本ツアーを含むワールド・ツアーの後に作られたアルバムだけあって、バンド色の強いアルバムになっていますね。ある意味、このアルバムこそが、その後、一貫している「バンドマンとしてロックするポール」のはじまりだと見なすことも可能です。その意味で、姿勢的にはむしろ好みのアルバムなんですが、悲しいかな、このアルバム、曲が弱くて印象に残んないんですよね。これで、少しでも印象に残る曲があればだいぶ印象違ったと思うんですけど。その後に進むべき方向性的には間違ってなかったアルバムだけに「おしい」アルバムです。

18.Red Rose Speedway (1973  UK#5 US#1)

18位は「レッドローズ・スピードウェイ」。ビートルズ解散以後、ビートルズ時代のヒット曲数ほどに他のメンバーとソロ・ヒットの差がついていなかったポールですが、このアルバムあたりからヒット街道を築いていきますね。ここからはラヴ・バラードの「マイ・ラヴ」が特大ヒットになって、このアルバムも英米でともに1位です。ただ、B面のメロディにポールらしさを感じさせはするものの、アルバムそのものとしてはきわめて地味なアルバムです。理由は簡単で、この頃のヒット攻勢のシングルを入れてないから。この前に「ハイ!ハイ!ハイ!」や「Cムーン」、あとに、かの007の「死ぬのは奴らだ」と目立つ曲なら結構あったのに。収録曲の存在感の弱さを考えると欲しかったですね。

17.Back To The Egg (1979 UK#6 US#8)

17位は「Back To The Egg」。ウィングスでのラスト・アルバムであり、これがヒットしなかったことで解散したような印象も与えているので、一般的に良い印象ないと思うんですけど、これ、実はアルバムとしては悪くありません。バンド感あるし、ポールにしては全編において割にハードめな曲でロックしてて統一感があります。シングル用に際立った曲はないんですけど、それでもロックンロールな「Getting Closer」、シティ・ポップ調の「Arrow Through Me」も良い曲だったんですけどね。若い後任メンバーも2人入ってバンドでやる気だったんですけど、すべてはあの日本公演でのマリファナの逮捕で狂っちゃいましたよね。あれ、もし日本公演やれてて、ワールドツアー成功してたら、別のシナリオができていたかもしれません。

16.Egypt Station (2018 UK#3 US#1)

18位、これは記憶に新しい方もいらっしゃると思います。前作「エジプト・ステーション」ですね。これ、良いアルバムではあるし、前半部だけを聴くと、「この20年でベストなものを作ったか!」の期待も覗かせているんですけど、よせばいいのに「Fuh You」みたいな、今どきの子供にこびたポップなタイプの曲歌って、そこで自滅してますね、これ。なんか、いかにも「ダメになってからのコールドプレイ」みたいな感じというか。曲書いたのがライアン・テダーだからしょうがないんですけど。せっかく、それまでグレッグ・カースティンがうまい具合にプロデュースしててうまくコーディネイトしてたんですけどね。90s以降、音数絞って音の隙間生かしたギターとアコースティック・ピアノ主体の音で締まってるんだから、あんまり媚びたメロディ・ラインとかいらないんですけどね。「Fuh You」以降に乱れて作品そのものがなんか冗長になったのがすごく惜しかったですね。

15.Flowers In The Dirt (1989 UK#1 US#21)

そして15位に「フラワーズ・イン・ザ・ダート」です。「えっ、もう出るのか!」「わかってない!」なんて思う方もいらっしゃるかと思います。人気作ですからね。とりわけ日本のポール・ファンには、このアルバムで初の日本ツアーを行って大ブームとなったから思い入れの強い方は多いと思うんですね。たしかにこれ、「My Brave Face」をはじめとしたエルヴィス・コステロとの共演曲4曲と、その系譜の数曲(「Figure Of 8」「This One」)の、計6曲くらいはいいんですよ。ただですね、残りの6曲くらいが、それこそ多くのポール・ファンが忌み嫌ったその前作「Press To Play」の収録曲とやってること、たいして変わらないんですよね。ファンクにレゲエをオーヴァー・プロデュースでやってて。せっかくのコステロの部分がこれでだいぶ台無しになってしまっているというか。2017年に、そのコステロとの未発表セッション部分を足した増強盤が出ましたけど、ぶっちゃけ、10曲はあったあのパートを元にしたアルバム作ってたら、歴代でもトップ5の出来の傑作になったと思います。

14.Run Devil Run (1999 UK#12 US#27)

14位は「Run Devil Run」。これは1999年に出したロックンロール・カバー・アルバムなんですが、この前年に乳がんで亡くなったリンダの願いで実現したアルバムです。そうしたことからか、ポールのモチベーションが前に書いたロシア用のアルバムのセッションとは大違いで、オールディーズの選曲からして、ビートルズでもカバーしたチャック・ベリーやカール・パーキンスでもむしろ知名度の低い、よりロックンロール・ナンバーとして尖った曲を選んで、そこに、それに合うような50s調の新曲3曲もすごく効果的に混ぜていてね。しかもバンドがこれ、ギターにピンク・フロイドのデヴィッド・ギルモアにドラムがディープ・パープルのイアン・ペイスですよ。イアンはよほど気に入ったか、2002年のワールド・ツアーにも同行して叩いてましたけど、それくらいケミストリーが合っていたようです。ポールの21世紀に入ってからの復活の準備は着々と整っていたようです。

13.Wings At The Speed Of Sound (1976 UK#2 US#1)

13位は「Wings At The Speed Of Sound」。これは非常に惜しいことをしたなあと思わせるアルバムですね。だって、これ、「心のラヴソング(Silly Love Songs)」に「しあわせのノック(Let'em In)」という、人気の高い2曲のビッグ・ヒットの存在がありながら、それでいてアルバムの評判をよく仕損なっているんですから。この頃、アメリカ・ツアーも大成功してウイングス的に絶頂だったんですけどねえ。それをぶちこわしたのは他でもない、「メンバー全員に歌わせる」という、ビートルズがやった手法やっちゃったからです。あれ、ビートルズみたいに、少なくとも3人が曲をかけてかつ歌えてもう1人も歌え、かつ全員に華があるバンドだったからこそ面白かったわけで、ウイングスの当時のメンバーにそれが求められたわけではないんですけどね。特にリンダの「おうちでお料理」はいくらなんでもなあ(苦笑)。ポールが長いこと、なかなかいいアルバムを作れなかった理由のひとつがこういうとこです。セルフ・プロデュースだからやめさせる人もいなかったんですよね。

12.Tug Of War (1982 UK#1 US#1)

12位は「タッグ・オブ・ウォー」。これも、ポールのアルバム・ランキングだと普通、上位に入るんですけど、厳しめにこの順位です。このアルバム、ファンのセンチメンタル・ヴァリューは高いんですよね。ウィングスの看板を正式に捨てた最初のアルバムで、御大ジョージ・マーティンとのコンビ復活。さらにはジョン・レノン追悼で以降のライブで必ず披露する「Here Today」まであって。おまけにスティーヴィー・ワンダーとの「Ebony And Ivory」のビッグヒットまであって。人気なのはわかるんです。ただ、アルバムに統一感と節操がんさすぎるんですよね、このアルバム。特にスティーヴィー・ワンダー参加曲ね。「Ebony〜」はともかく「What' s It That You're Doing」は完全なるスティーヴィーのエレクトロ・ファンクでポールのカラーはゼロ。そうかと思えば、きわめて英国伝統のミュージック・ホール調の「ボールルーム・ダンシング」みたいなおちゃらけた曲やったかと思えば、「ワンダーラスト」みたいなスコティッシュ調の感動のバラードまで。ビートルズ的なバラエティを狙ってるんだとは思うんですけど、これもビートルズだからキマるのであって、ポールひとりだけでやってもまとまりがないだけというか。ポールがいいアルバム作れなかった第2の理由がこれだと思います。

11.Memory Almost Full (2007 UK#5 US#3)

そして11位に2007年のアルバム「Memory Almost Full」が入りました。これはすごく良いアルバムでして、トップ10に入れても別に構わなかったんですけど、このアルバムをプロデュースしたデヴィッド・カーンの作品を1作品だけに絞りたかったので、あえてこちらをはずしました。彼のもう一方のプロデュース作の方がトップ10に入ったわけです。実はこの「デイヴ・カーン・プロデュース体制」での制作が、今日まで一定して知られているある時期からのポールの音楽性、ライブでのパフォーマンスの個性として決まった形になってるんですよね。それはすごくシンプルな、あまり手を加えないストレートなバンド・サウンドにほんのり甘いメロディ・センスなんですけど、単純そうで、でもなかなか固定、というか復元かな、しなかったバンドマン、ポールの個性がここで築かれてます。一般的にはリードトラックにもなった軽快なマンドリンをフィーチャーした「ダンス・トゥナイト」が人気ですけど、ポール・ファンとしては正調パワーポップでこのツアー時に人気だった「Only Mama Knows」みたいな曲が光ってます。





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