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トム・ヴァーレイン死去 「パンク前にして、すでにパンク後」だった、ロックギターのゲームチェンジャー

どうも。

これは悲しい訃報ですね。

ニューヨーク・パンクの元祖、テレヴィジョンのトム・ヴァーレインが亡くなってしまいました。73歳でした。

ここのところ、僕の旅行中にジェフ・ベックがなくなり、その後に高橋幸宏さん、デヴィッド・クロスビーと訃報が立て続いていました。いずれもキャリアをフルに包括できるほどには詳しくなかったこともあり、もう僕自身もおいつけず追悼記事も書けない状況でしたが、さすがにヴァーレインはショックでしたね。僕自身の音楽的な価値基準にかなり影響を残した人だったんで。

ヴァーレインといえば

やはりテレヴィジョンですよね。1970年代半ば、ニューヨークがローワー・マンハッタンのライブハウスCBGBを中心としたアートなバンド・シーン、パンクの勢力の一角を占める名バンドでした。

 そのパンクのシーンには、のちのパンクの一般的なイメージとなる、ラモーンズのようなパンクロックや、女性のロックのゴッデスとでもいうべきパティ・スミス、サウンドの進化、拡張で世界的な人気バンドとなったブロンディやトーキング・ヘッズを生んだシーンでもあるんですが、そのシーンの先駆者的存在だったテレヴィジョンは、鋭角的かつ金属質なヒリヒリする音色で、エレキギターのより生々しい実験性に挑んだギター・サウンドを展開していました。

この音源は、まだ彼らがレコードレーベルと契約する前、メンバーに同じく伝説のパンクス、リチャード・ヘルがいた時代の、10分を超す初期の大名曲を入れたものです。


そして、やはりこの1977年の名盤「マーキームーン」、これでしょう!ちょうど時代はセックス・ピストルズやクラッシュを筆頭としたロンドン・パンクのブーム真っ只中にありましたが、その中でテレヴィジョンのこれは異彩を放つギター・サウンドを放っておりました。

ヴァーレインとリチャード・ロイドの2本の鋭角的なギターの絡みと、楽器間の均整のとれた空間の隙間までしっかりと自己主張のあるサウンド。今聴いてもメチャクチャかっこいいです。

これもそうですね。ギターのガリガリした感じと浮き上がるベース、空間に割って入るようなスネア。これらがすごく対位法的に鳴らされる感じが独特ですよね。

圧巻はやっぱり、10分にも迫る長尺のタイトル曲ですね。これはヴァーレイン自身が敬愛したドアーズの「ハートに火をつけて」の70年代のそれにあたる金字塔的な名曲というか。

このアルバムは出た時から名盤との誉れ高い1枚でして。パンクのほとんどのアーティストがデビュー・アルバムを出したことで超名盤ラッシュだったこの年にNMEやヴィレッジ・ヴォイスなどの年間チャートでのきなみトップクラスの評価を獲得します。

そして翌1978年にはセカンド・アルバム「アドベンチャー」が全英TOP10入りするも、その矢先にテレヴィジョンは解散してしまいます。

 ただ、テレヴィジョンの影響というものはやはり大きくてですね。その影響をダイレクトに真っ先に受けたのが実は日本でして。

このフリクションと言うバンドは、1977年、ニューヨーク・パンクのムーヴメントのあった時代に実際にニューヨークにいた人たちで作られたバンドです。

 彼らはどちらかというと、ニューヨーク・パンクのすぐあとにできた「ノー・ウェイヴ」というムーヴメントの当事者で実際にそこのシーンにも参加していたわけですけど、ジャギジャギしたギター・サウンドにはやはりrテレヴィジョンの色がかなり濃厚ですね。上の動画でもあげましたけど、だいたい、フリクションというバンド名からしてテレヴィジョンの代表曲のそれですからね。

 そして彼らが78年に日本に帰国して本場ニューヨークのパンクの感覚を日本で浸透させたわけですけど

その2年後、1980年に発表されたデビュー・アルバム「軋轢」。ここで彼らはテレヴィジョン直系のギター・サウンドを聴かせるわけです。

この当時だとまだ日本の場合、いわゆるピストルズやラモーンズみたいなタイプの2分で燃焼する2、3分のパンクロックはうまく伝わり損ねてまして。むしろテレヴィジョンのような、アートっぽいタイプの感覚の方が伝わってた感じがしましたね。

これがイギリスだと、やはりギャング・オブ・フォー。この切り裂きギターに、ベースラインをよりファンキーにしたサウンドは、今日のロックでも未だに根強い強さを誇るポストパンク・サウンドの雛形ですよね。改めて聴いても、この鋭角的、対位法的な音の鳴らし方はやはりテレヴィジョンの痕跡を感じさせますね。

そして近年再評価著しいザ・フォールもそんな感じですよね。いわゆるポシトパンク・サウンドのルーツ上にテレヴィジョン、あります。

 だからテレヴィジョン、こういういわれ方もされるんですよね。「プロト・パンクにしてポストパンクだった」。つまり「パンク前にして、すでにパンク後だった」。これはすごく言いえて妙だと思います。

そしてポストパンクとは違った形でテレヴィジョンのマインドを継承したバンドが

やはりソニック・ユースですよね。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドやテレヴィジョンの、エレキギターという楽器の実験性と可能性を引き受けた後輩。それが彼らでしたね。

 こうした後続の影響が隔世で伝えられた形で日本で生まれたのが

まさにナンバーガールですよ。

僕は1998年2月に、彼らがはじめて東京でやった下北沢シェルターでのライブを運良く見れてるんですが、その時にピクシーズはもちろん感じましたけど、同時に「ちょっとテレヴィジョンっぽくもあるな」という感想を抱いてたんですよね。

 で、3ヶ月後に本人たちと話す機会を持てまして。たしか福岡まで見に行った時の打ち上げだったかな。その時に本人たちに「テレヴィジョンとか好き?」って聞いたんですよ。そのときに向井がちょっと苦笑い気味に「それ、わかりますか?」って答えたんですよね。

 あと、彼らの発掘者でもある加茂さんっていうカリスマ的なレコード会社の方がいらっしゃるんですけど、あの人が「はっぴいえんどの歌世界をフリクションが歌ってる。日本のロックでこれ以上正統的な継承もない」ということを言ってて「なるほどなあ。そうだよなあ」と感心したこともありました。

 そして、99年入ったくらいだったかな。彼らがワンマンやりはじめるようになった頃に登場SEでかけはじめたのが、まさに「マーキームーン」でした。

そして僕自身にも、めちゃくちゃ影響ありましたよ。僕の場合、音楽ジャーナリスト・キャリアがナンバーガールとともにはじまったイメージを持たれてることもあって、「こういうギターが好きな典型のヤツ」みたいに思われてるところもあるんですけど、どっちかというと、この頃を契機にそれが濃くなった、という感じですね。それまではグランジとか、その遠い先祖のザ・フーとか初期のエアロスミスとかチープ・トリック、AC/DCみたいなタイプの、60sのブリティッシュ・ビートの影響の濃い、適度な重低音の効いた粗いソリッドなギターが好きだったんですよ。それがナンバーガールを経由したテレヴィジョンの影響で、よりポストパンク的なギザギザしたギターもかなり入ってくるようになりましたね。

面白いことにこのあとも時代は

https://www.youtube.com/watch?v=vdkmhquF60o

こういう感じでポストパンク・リバイバルになったでしょ?

あと、ニューヨークの後輩にストロークスもいるわけで。ジュリアン自身はテレヴィジョン、あんまり知らないと言ってましたけど、やっぱ、似たような要素って感じましたしね。

 それが今となっては

https://www.youtube.com/watch?v=i6qeQuR6gnY

サウス・ロンドンのバンド聴いても、その遺伝は感じますものね。ドライ・クリーニング聴いたときに、「これはモロ!」と思いましたからね。ギターの音色だけでなく、音の配置、これがもうまんまテレヴィジョンでしたからね。

 ジェフ・ベックが亡くなった際に「ギターヒーローがいなくなった」という嘆き方をしてる人が結構いて。僕もヤードバーズ時代は熱狂的に好きなので一応同意はするんですけど、ただ、ロック界のその後の主流になってたか、と問われるとやや違和感はあったんですね。それがなんなのか、うまく説明できなかったんですけど、それはヴァーレインが変えたロックギターの潮流が見過ごされた気がしてたからなんだと思います。むしろ今、その「ギターヒーローの喪失」を僕は感じています。

ヴァーレインは、その後、3枚のソロ作を80年代の前半までに発表。テレヴィジョンほどはどうしても目立ちませんけど、そこでもギター・サウンドそのものは健在でした。

あとは、テレヴィジョンの時折の再結成を繰り返してましたね。残念ながら僕は見るチャンスを逃し続けて生で体験することができなかったんですけどね。2002年のフジロックもすごく見たかったんですけど、ニューヨークにザ・フーとかデヴィッド・ボウイ見に行くことが先に決まってたので見れず。あの時、逃したのが悔やまれます。

 ただ、再結成のライブも、いまひとつ評判が良くなく、僕も映像で確認する限り何かを失ってしまっている感じ(ごめんなさい)はどうしてもしてたので、「やっぱり音楽って、瞬間の生き物なのだな」と思っていたものでした。

ではラストに

ALVVAYSがヴァーレインに捧げた、その名も「Tom Verlaine」で締めましょう。失恋の曲なんですけど、「あなたは私のトム・ヴァーレインだった」と、40年後もこのようにして伝説化され愛され続ける存在であることを示しています。

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