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2022アメリカ音楽界の問題(後) 翳りと内弁慶化が見えるR&B/ヒップホップ〜地球規模でレゲトンとKポップに凌駕され

どうも。昨日に引き続いて、アメリカの音楽界の問題点、行きましょう。

今日はちょっと、まだあんまりおおっぴらに言う人、いないんですけど、あえてドカンといってみようと思います。それは

アメリカのR&B/ヒップホップ


これに関しては、とりわけ2010年代の半ばですね。ケンドリック・ラマーとかフランク・オーシャン、ビヨンセ、ソランジュ、ウィーケンド、タイラー・ザ・クリエイター、トラヴィス・スコット・・・みたいな感じでたくさんいいアルバム、アーティストが立て続けて出たときに、それまでインディ・ロック聴いてたような人まで一気にそっちに流れたんですよね。それが2016年くらいのことだと思うんですけど、あの頃のことが残像に残っているからか、まだ好意的に捉えようとする人が、特に日本の音楽ファンの人にみられます。

 しかし、これがですねえ、僕みたいに毎週全米チャート紹介してる身からすれば、必ずしもいいことばかりじゃない。上位のアルバム見てみると、「もう、いつまでそのトラップやり続けるわけよ」みたいなのが2015年くらいからずーっと5年以上続くとするでしょ。もう、それで結構うんざりはするんですよね(汗)。

 ただ、それでも2010年代後半のアメリカのR&B/ヒップホップの勢いって本当にすごくてですね、たとえばSpotifyの各国別チャートとか見てても、上位に入る曲って、「それ、アメリカのトラップの曲の現地語訳?」みたいな曲ばっかだったんですよ。そして、歌詞検索サイトのGenius、ここでも何度か紹介したことあるんですけど、そこの人気歌詞のチャートなんてヒップホップしかなかった。それくらい影響力強かったんです。

が!!

それがここ1、2年でガラッと変わりつつあって、USのR&B/ヒップホップの商業的パワーダウンを感じ始めてきました!

「何言ってんだ。ケンドリックもビヨンセもウィーケンドも出たじゃないか」という声もあるでしょう。でも、逆に問いかけてみましょうか。「そのほかに、国際的に流行ったR&Bなりヒップホップって何があった?スティーヴ・レイシー除いて」となると、返す答えは実はかなりきついんです、これ。

そのことを今回は語っていくことにしましょう。

①ドレイクとポスト・マローンの、新作での急速な失速

まずはこれをあげたいと思います。

 ここ最近の北米のR&B/ヒップホップの超スターといえば、ドレイク、そしてポストマローン。もうセールスでいえば、かなり圧倒的だったと思います。アメリカでもそうでしたけど、他の国のシングル・チャートでも上位にくる曲連発してね。アルバム出せば、2〜3年チャートから外れないくらいのロングヒット記録してね。

 ところが、この2人が最近出したアルバムに、異変が生じているんですよ。そのことについて語らせてください。

まず、ドレイクの新作「Honestly.Nevemind」。これがですね、アメリカでもバッドバニーやハリー・スタイルズのアルバムに押され苦戦し、チャートイン12週目でトップ20から落ちるという、ここ最近になかった展開をしているんですけど、これがですね、アメリカの外だともっと苦戦をしてるんですよ。

これがイギリスだと、チャート・イン12週目で80位まで落ちてるんですよ。これ、ドレイクとしては異様なことです。だって、その2作前までの3枚、イギリスのチャートでも100週以上ランクインして、前作の「Certificated Lover Boy」も1年以上、まだランクインしてるのにですよ。もっというなら、オーストラリア、フランス、イタリアなどではもうチャート圏外ですよ!そういう国ではウィーケンドが軒並みロングセラー続けているのに。

そして、ポスト・マローンの「Twelve Carat Toothache」。これも、ドレイク同様、チャートイン10週ほどで全米チャートの20位以下に落ちるという、これまでの彼のアルバムには見られなかったチャート・アクション。

 さらにイギリスでは11週で100位圏外に落ちました。それまでの3枚のアルバム、全部100週以上100位に入ったのに!

 だいたい、このアルバム、アメリカでさえも初登場の週の売り上げが前作の4分の1しかなかったんですよね。最初からかなり勢いは落ちてました。

②トラップ自体が、国際的に陰ってきている

 
ドレイク、ポスト・マローンといえば、トラップのイメージの強いアーティストですが、これがここ最近のグローバル・チャートで振るわなくなりつつあることも、これ、残念ながら事実です。

たとえば

 新作では本当はハウスをやってるのに、アルバム内で唯一やったトラップがビルボードで1位を獲得してしまった「Jimmy Cooks」、この曲はアメリカでは人気あって、最近のSpotifyのグローバル・チャートでまだトップ10に入っているんですが、他の国で50位に入っているような国はもうないです。

 これに限らず、アメリカのトラップの曲が他の国のチャートで席巻している例自体がもうほとんどないです。というか、他の国でもトラップ風の曲、もう流行ってません。今、他の国でチャートの上位占めてるの、バッドバニーやレゲトン、もしくはその国のレゲトン風の曲です。

③国際展開しても、アメリカほど売れないパターンも

 
もちろん、現在も国際的に大きく当たっている人はいます。ウィーケンド、ビヨンセ、いちおうケンドリックもそうかな、前作ほど売れてはいませんが。彼らなら、どこの国でも上位に入ってきます。

ところが

新作で国際的に売り出したかったはずのDJキャリド。彼の新作も全米でこそ1位になったものの、昨日の記事でも書いたように、他の国はどこもミューズの方が圧倒的に売れてます。

④「アメリカでしかビッグでない存在」も増加中


 あと個人的に気になってるのは、ここ数年、「アメリカでしかビッグでないアーティスト」が目立つんですよね。ちょっとここも国際的影響力の低下の一因かなと、心配されるところではあります。

たとえば

Youngboy Never Broke Again。彼はアルバムが3作連続でアメリカで1位なんですよ。ところが他の国では全く振るいません。イギリスでもアルバムの最高位は47位で、最新作に至っては文化圏ほとんど同じはずのカナダでさえトップ10逃してますからね。非英語圏ではチャートインしてません。

このMoneybagg Yoという人もビルボードのアルバム・チャートでしか名前を見ません。彼も3作連続でトップ5で最新作は1位なんですが、その最新作でさえチャートインしたのはアメリカとカナダだけ。カナダではトップ10に入ってません。

それから

このロッド・ウェイヴ、この人はシンガーなんですけど、これも「ビッグ・イン・ザ・USA」の顕著な人ですね。彼もアルバムが前々作2位、前作と今作1位なんですが、この人もアメリカとカナダだけ、前作だけかろうじてイギリスのチャートに入りましたけどそれだけで、全米1位になったのにカナダでさえ30位台です。

 こういうタイプの人たちが頻発するというのは、まだヒップホップがアメリカのみの現象で国際進出してなかった90年代の半ば以来ではないかと思います。でも、それから30年近く経って、国際進出したものもいっぱい出てる状況でこれですよ。ちょっと、これは気になりますね。

⑤アメリカのチャートの甘いルールをついた商法


 あと、最近のヒップホップ・アーティストの商売上のやり方で好きになれない方法で、アルバムの過剰収録というのがあります。

 これは、ストリーミング対策で、たくさん曲があったほうが、その分、ストリーミング数が増えるから、という理屈のものとやり方です。だから最初から20曲くらい入れて、あとから「増強盤」とかいって、もう10曲くらい足すんですよね。

 これ、イギリスとか他の国だと、起こらないんですよ。なぜなら、他の国のルールなら、そういう収録曲数のハンデがつかないように、収録曲内でストリーム数の多い上位数曲のみの集計になるので。だから、何曲曲を入れようが変わらないんですね。

 まあ、言いたくはないし、これまでの音楽的功績もそれだけでなしにすごく評価は個人的にはしてるんですが、ドレイクのアルバムもだいぶこのアメリカでの甘いルールに助けられていた部分も、ないと言えば嘘になります。

 しかし、なんで、世界のチャート・ビジネスをリードしてるはずのビルボードが規制対策に乗り出していないのか。アメリカの音楽業界のこの辺りの杜撰さには呆れますけどね。

⑥評判いいアーティストがチャート上位に行かなくなっている


 あと、ここも気になるところですが、チャートの上位に評判のいいアーティストが行きにくくなってる状況があるんですよね。

 厳し目なことを書いてますが、今年のアメリカのR&B/ヒップホップ、そこそこいい作品、出てるんですよ。ただ、それがビルボードのチャートの上位に行かず、「まだこんなこと、やってるのか」と思いたくなるようなトラップのラッパーよりも順位が下になるんですよね。

 たとえば最近の例だと、デンゼル・カリーのアルバムなんてすごく評判良かったのに、アメリカだと過去3作で一番低い51位。でも、そういうアルバムのほうが国際的にはウケが良くて、いろんな国のチャート入ってるんですよね。

ヴィンス・ステープルズもそうですね。彼も出すたび評判いいんですけど、これまでのビルボードのアルバムの最高位は16位で、ここ数作はトップ20入りを逃してる。

ジョーイBADASSもそうですね。彼なんか前2作はトップ10入ってたのに、売れ線を狙わなかった今年の最新作は25位。

R&Bだとケラーニも評判のいいアルバム出したのに、これまでで一番悪い13位。こういうのが続くとさすがに、チャート追っててもウンザリはしてきますよ。

 個人的にはそれプラス、Jコールのレーベルのドリームヴィルのアーティストに期待はしてるんですけどJIDとかアリ・レノックスとかも評判はいいんだけどそこまで上位に行かない。歯がゆいものです。

⑦グローバル・チャートでは、レゲトンとKポップに押されまくり


 あと、ここ最近はビルボードのチャートよりも、Spotifyのグローバル・チャートのほうが「全世界実績」ということもあって人々の関心度も上がってて、一国だけ、しかも他の国のチャートとずれまくってるビルボードの信頼度が相対的に落ちてるように感じます。

 そのグローバル・チャートで健闘するアメリカのR&B/ヒップホップ勢もだいぶ限られてきてます。今年はそれこそウィーケンド、ビヨンセ、あと、後で名前挙げる人に限られてますけど、その代わりに大活躍してるのが

バッドバニーですね。彼はもうどこの国のチャートにも上位で入ってます。アメリカでもずっとアルバム、1位か2位のすごい状態ですけどね。

 皮肉なのは、彼がアメリカ進出果たした時に、サウンドは完全にアメリカ仕様でバリバリのトラップにドレイク、カーディBをフィーチャーといった、完全なアメリカン・スタイルの踏襲だったんですよ。だけど、そこから離れて、中南米、スペインの、しかもエッジの強いアーティストとくみ出して、今の現象を作ったんですよね。実質、アメリカに勝ったのは彼なんだと思います。

 あと、やっぱりKポップですよね。グローバル・チャート見てもブラックピンクの曲の人気はすごいし、ビルボードのアルバム・チャート見ても、このところTXT、TWICE、セブチと毎週なにかトップ5にも入ってきているし。

バッドバニーがブームを大拡散させたレゲトンとKポップの勢いに飲まれてる感じがしますよね。

⑧もっとUS R&B/ヒップホップは多様性に応えるべき


 USのR&B/ヒップホップがこうなったのもひとえに、売ろうとするサウンドが硬直化しているのが原因だと僕は思ってます。いつまでトラップにこだわり続けるのかと。

 これ、僕、数年前からすごく不満なんですけど

だってせっかくイギリスからデイヴとかリトル・シムズとか、あの国の歴史に残りそうな素晴らしいラッパー出てきてるのにガン無視してますからね。「どれだけ閉鎖的なんだ」と、ここは前からすごく不満でした。

あと、個人的にナイジェリアからのアフロビートは、次のレゲトンになるんじゃないかと思って注目してるんですけど、バーナ・ボーイとか、もう少し受けれてもいいんじゃないかという気もしてます。その前にウィズキッドの曲はトップ10入ったりしてましたけど、ここももっと積極的にアメリカで紹介すべきなんじゃないかと思ってます。


 そんな中、救いはスティーヴ・レイシーがアメリカだけでなく、全世界的にブレイクしていることですね。これまでアメリカのシーンだとかなりオルタナティブに映ってた彼みたいな存在が台頭するということは、潮流変える可能性がありますよ。僕自身、そこまで押してたわけじゃないし、正直まだ物足りないとこもあるんですけど、それでも何かを変えるきっかけを作ってることはすごく好意的に評価したいとは思ってます。

 個人的に望むことがあるとすれば、グローバルのチャートがレゲトン、Kポップ、アフロビートで「中南米、アジア、アフリカ」が台頭してバラエティ豊かになり、アメリカのR&B/ヒップホップがイギリスやらアフリカ、国内のオルタナティヴな存在をもっと受け入れることで再活性することですけどね。




















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