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ビリー・アイリッシュ グラミーでの快挙を完全に手放しでは喜べない4つの理由

どうも。

昨日のグラミーですけど

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ビリー・アイリッシュがグラミー史上2組目となる、主要4部門を総ナメするという結果となりました。

まあ、僕はこの1年というもの

こういう記事を早いうちから書いてきて、ビリーのこと、ずっと応援してきたつもりです。

ちなみに、2019年の年間ベスト・アルバムでもビリーのデビュー・アルバムは僕の3位、2010年代アルバムでも21位と、やはり高い位置につけています。

ところが

こと、グラミー賞に関しての記事だと、僕はそんなにテンションあげて書いてません。それは、このときから僕の心の中に

ビリーはグラミーなんかに勝つ必要はない。

そんな風に思ってるところがあったからだと思います。

ぶっちゃけ、いいんですよ。グラミーって、ポップ・ミュージックのレジェンドが必ずしも受賞してきた賞でもないわけだから。僕の中では、映画におけるオスカーほどには力は入れていないと言うか。

ただ、それでも、やっぱりアルバムは去年、世界的に圧倒的なロングセラーとして現象的にヒットして、ある世代にとっては「青春のバイブル」みたいな扱いにもなっている事実があるんだから、せいぜい新人賞と、主要部門でもうひとつ何かとれればいいな、と思っていました。

でも、それで十分でしたよ。たとえば、2010年の、20歳のときのテイラー・スウィフトだって、受賞したの最優秀アルバムだけだったけど、社会的には十分なアピールになったわけじゃないですか。そういうので良かったんですよ。仮にそれだけでも受賞していりゃ、日本での横浜アリーナの公演売り切るくらいは行くと思ってましたから。

でも、もう、今回みたいな圧勝になりゃ、もう、これ、1984年のマイケル・ジャクソン並のインパクトだから、もう世界のどこに行ってもライブなんてすぐ完売になっちゃうでしょう。日本公演だって1公演じゃ間違いなく足りなくなりますよ。

でもなあ〜。

なんかモヤモヤする!

この気持がどうしても拭えません。その理由を以下に書いていこうかと思います。

理由 その① クリストファー・クロス

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今回のビリーの主要4部門受賞の快挙は、39年ぶりなんですが、それを過去に成し遂げた唯一のアーティストがクリストファー・クロスでした(2003年のノラ・ジョーンズは、Song Of The Yearが自作曲でないので受賞対象にならず)。1981年にビリーと同じく最優秀レコード、最優秀アルバム、最優秀楽曲、新人賞の4つを受賞してしまったがために、彼は「グラミーの語り草」がアイデンティティとなり、なにか記録がかかるたびに「クリストファー・クロス以来の」と言われ続けてきました

が!

その快挙は、その後の彼の音楽に続いていかなかった。

これは非常にねえ、つらいとこなんですよね。クリストファー・クロスのその後なんですが、快挙達成直後には「ニューヨーク・シティ・セレナーデ」の特大ヒットもあったりしたのですが、2作目のアルバムが意外や全米11位で止まり、1985年のサード・アルバムでトップ100にも入らず、以後、彼がビルボードのアルバムのトップ200に戻ってくることはありません。

クロスの人気に一番熱心に追随したのが実は日本でして、セカンド・アルバムは1983年当時バカ売れしてて、1990年代の半ばまでオリコンの100位に入る、世界で唯一の国になってましたけどね。

まあ、クロスの時代とビリーの時代では、グラミーの機能の仕方もファン層も全く違うのでなんとも言えませんが、ジンクスに従うと不安です。「準4冠達成」のノラ・ジョーンズもクロスほど極端な落ち込みはしてないものの、ファーストの恩恵受けるように大ヒットしたのはサード・アルバムまででしたからね。偉業達成者でいい印象のあるアーティストがこれまでいないので不安なのです。

②早い成功で心配されるモチベーション低下やプレッシャー

あと、これはすでに言及してる人、多いですね。「早い成功で、後の活動にプレッシャーが与えられたことになったのではないか」という意見ですね。あと、アーティストによっては、これで舞い上がってしまうパターンもあります。

ビリーの場合、心配されているのは

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カート・コベインやエイミー・ワインハウスに続いてしまう流れになってしまわないか、という不安ですね。これは僕もよくわかります。とりわけビリーは、メンタル・ヘルスの繊細さへの共感で大きくなったアーティストなので、そこは本当に心配ですよね。

このあたりに関して言えば

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兄フィニアスがどう彼女を支えていくか。これにかかりますね。この兄妹の場合は、ここが強みなんですよね。このコンビネーションが崩れないで行くことを僕は心から願ってます。

あと、ビリーの場合はカートみたいに「有名になったとたん、昔、俺をいじめてたメタル野郎みたいなヤツの前でプレイしなくてはいけなくなった」という有名な発言があるのですが、ビリーの言動を聞く限り、こういうパターンはなさそうな気がしてるので、そこは楽観してるんですけど、どうでしょうか。

③授賞式直前に内幕暴露があった

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今回のグラミー受賞式の直前には、今年からついた’ばかりの、グラミー主催の音楽アカデミーのCEO、デボラ・ドゥーガンが突如職務停止にされ、その反論として、全国放送のモーニング・ショーに出て、グラミーの内幕暴露した、という事件がありました。

彼女はいくつかの媒体にわたって証言してるのですが、それを整理すると、「前任者CEOのセクハラを咎めようとした」、この前任者はグラミーの演説で「女性アーティストはステップアップしろ」といい顰蹙買った人なんですけど、これがひとつ。そして、それ以上に大きかったのは「グラミーは選出プロセスで不正が行われている」とのことでした。

その例として彼女は、「Song Of The Yearの今年のウィナーはテイラー・スウィフトのLoverだった」という発言までしてるんですね。さらに、「本当は事前投票で20位くらいだったアーティストの作品が、投票者の利権関係の優先で繰り上がってノミネートされた場合がある」とのこと。

これは解釈の仕方が2つあります。ひとつは本当にガチに利権からみの不正の場合。もうひとつは、「審査員に本当に審査させると、一般の批評とはかけ離れたダサいものを選びかねないから、かっこつけのために一部を変更せざるを得ない」のパターン。僕は、両方のパターンがあるんだろう、と解釈しています。

今年のノミネートみても、ドゥーガンいわく「マドンナとマライアのアルバムが本当は入る予定だった」らしいんですが、これは明らかに後者ですよね。そんなノミネートが起こっていたなら、僕だって椅子から落ちますよ。あと、Song Of The Yearでサプライズ・ノミネートされたタニヤ・タッカー。70sから活動する大ベテランでノミネートに喜んでいた人もいたのですが、あまりにも唐突。彼女に限らず、昔からグラミーのノミネートって「あんた、誰?」みたいなものが混ざっていることが少なくないんですが、それもそうかと。あと、一般の批評が「そこそこいい」評判なのに、グラミーがやたら猛プッシュしてるHERとかも、ファンの方はごめんなさい。僕は疑ってます。

いずれにせよ、このきな臭さが判明しての中の偉業達成、というのではビリーがあまりにもかわいそう。この気持もあります。

④ハナから競争相手にされていなかったノミニーたちの存在

あと、去年年間ベスト、いろいろチェックしてるでしょ?それで見てみると、

「ビリーが余裕で独占」というノミニーのならびでは必ずしもなかった

これもまた事実です。

上のバナーは、2019年の各媒体の年間ベスト・アルバムをまとめたものなんですけど、これによると、グラミーの最優秀アルバムの候補で見てみると1位がラナ・デル・レイがダントツで、ビリーが4位、ノミネートはされてないけど最優秀ラップ・アルバムのタイラー・ザ・クリエイターが5位、ヴァンパイア・ウィークエンドが11位、リゾが12位、アリアナが21位、ボニーヴェアが25位と、いずれもかなり批評メディアの評価、高いアルバムが並んでいたんです。今年に関しては、ビヨンセに勝ったアデルとか、ケンドリック・ラマーに勝ったブルーノ・マーズとか、ありえないチョイスはノミネートの時点ではなかったんです。

ここまで評価高いアルバムが揃って、他の主要部門でも、リゾ、アリ、ラナ、ボニーヴェアは軒並み顔を揃えていた。こういう状況で、ガチの投票で本当にビリーだけが突出するものなのか?この疑問もぬぐえないし、熱心に音楽追ってる人であればあるほど「今回、もっと接戦になると思ってた」と言っている人、実際に多いんですよ。

とりわけ

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批評媒体の評価が圧倒的だったラナ・デル・レイ、過去に新人賞獲得経験もあるボニーヴェア。この2つが、主要部門で2つもノミネートされていたのに、パフォーマンスの機会を与えられていないんですよ!

だいたい、パフォーマンス機会のない人が、4時間近くもあるイベントで受賞なんてするわけないじゃないですか。その時点で「あんたは蚊帳の外」と言われているようなものです。

これと同じことは

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一昨年のLordeもそうです。彼女もあの年、アルバム「メロドラマ」がケンドリックの「DAMN」に続いて2番めの媒体評価で、主要部門複数ノミネートだったのにパフォーマンスなし。それについて

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この左側に写ってる、グラミーの総合演出を40年近くやってるおじいさん、ケン・エーリッヒが「他のアーティストのコラボを提案したのに、Lordeが聞かなかったんだ」と言い訳しました。実はこれと同じことは、ボニーヴェアが新人賞受賞したときにも起きてて、このとき彼らも「共演提案を拒否で」パフォーマンスはしてません。

でも、

はっきり言って、そんなものは大嘘です!


なぜなら、

じゃあ、どうしてジョナス・ブラザーズやカミラ・カベーロ、デミ・ロバートは主要部門でノミネートさえなかったのに、ソロ・パフォーマンスをやったのでしょう。

もっと言うなら、なんで最優秀アルバム・ノミネートで最優秀オルタナティヴ・アルバムだったヴァンパイア・ウィークエンドじゃなく、注目度の低い最優秀ロック楽曲受賞のゲイリー・クラークJrだったらソロ・パフォーマンスがあったの?

おかしいでしょ、こんなの?

それに加えて

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シンディ・ローパーになんら敵意はないんですが、今年のグラミー、エーリッヒが勇退するので、彼に捧げるパフォーマンスなんていうことまでやってしまっています。

これは正直、あきれましたけどね。なんのためのアワードなのかと。

なのでごめんなさい。これ、「ちゃんと投票をガチでやった結果にビリーが選ばれた」とはどうしても思えないんですよね。

いうなれば、これ

「今年はビリー主要4冠ってことで、よくない?」

これが、あらかじめ、最初から決められたコースだったんじゃないか、という気が拭えないんですよね。

だとしたら、同じく4部門ノミネートだったリゾにも失礼ですよね。上のコラムにも書きましたけど、4冠達成するなら、彼女のほうが時期的な問題でも良かったと思うし、「苦労人が報われた」といういい話にもなったと思うんですよね。ビリーの将来的なメンタル・ヘルスも心配しなくてよかったし。

 ただ、その中、ひとつだけよいことがあるとするならば、あの、

10代アーティストに厳しかったグラミーが、ビリーの才能を認めた

ここは大きかったと思います。伝統的にグラミーって、大人アーティスト偏重イベントです。昔、ブリトニーとか、アヴリルとか、お呼びじゃなかったですから。まあ、彼女たちとビリーではレベル違いすぎるとも思いますけど、それでも、年齢で差別を受けずに、「そこまでしなくていい」くらいの大きな称賛をさせたという意味で、ビリーはグラミーの歴史を変えた。そこは評価していいことだとは思いますけどね。



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