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連載 ロックのヒット曲が出なくなる史(2) 「ヒット曲」の解釈に大きなジェネレーション・ギャップが生まれた90s

どうも。

では、昨日からはじまった連載、「ロックのヒット曲が出なくなる史」、続けていきましょう。今回は90年代についてお話することにしましょう。

この時代に言えること、それは

ロックのヒット曲の概念が根本的に変わった!


ここを根本的にアピールしたいと思います。

今も思うんですけど、このポイントが一番わかられてないと思うんです。80sまでの捉え方のままではこれ以降のロックが決定的に理解できないところがこれなので。年配のロックファンで今日のロックにずっと前から文句を言われている方、その多くがこの壁にぶち当たっている方だと僕は思ってます。もっとも最近では、そういう方も年齢がかなり上がってきてるので、若い別のロックおじさんも出てきているような気もしますけどね。

ロックの教科書的には

このニルヴァーナの「Smells Like Teen Spirit」、ここからその後のロックのあらゆるものが変わった、と言われています。それはまぎれもない事実だと思います。

ただ、「ロックのヒット曲の流れ、そのものを変えたか」となると、僕の見立てでは「部分的にイエス」としか言えないです。なぜなら、この曲、ビルボードのシングル・チャートで6位まで上がるヒットにはなっているので。一応、これまでのアメリカでのロックのヒットになぞった売り方にはなってはいるんですよね。

 ただ、ニルヴァーナよりももっとダイレクイトに、当時まだロック大国だったアメリカでのロックの売り方を根本的に変えたバンドがいます。これが

①パール・ジャムがロックの売り方を根本的に変えた!

パール・ジャムなんですよね。ニルヴァーナのグランジの上でのライバル。そんな風に目されているバンドなんですけど、彼らが何をやったか。それは

シングル盤を売るのをやめた!


これが、もう、ロックのヒット曲史上に残る最大の転換点です。

それはなぜか。シングル盤を売るのをやめたら、ビルボードのシングル・チャートに入らなくなってしまうからです。

 これ、すごい英断だったんですよ。だって、これまで、ロックのアルバム・チャートの上位にあるような作品だったら、シングル・カット3〜4曲してて当たり前の世界だったんですよ。そこを「シングルなし」にしてしまったんですから。

MTVでも、ライブの様子が映されてるものか、コンセプトを基に作った「Jeremy」でプロモーションする感じで。これまでのロック界がやってきたような大掛かりなビデオ戦略、とらなかったんですよね。

 ただ、それが非常にうまくいきまして。ロック系のラジオ局はデビュー・アルバム「Ten」の曲をこぞってかけてチャート独占になります。それによって「シングル・ヒットは出ないのに熱狂的に支持されているバンドがいる」ということになってカリスマ化したんですね。で、その結果、1993年秋のセカンド・アルバム「VS」が、その当時としては史上初の、予約だけでミリオンに行ったアルバムになったんですね。

 おそらく彼らとして,

70年代のように、「ロックを、あくまでもアルバムと、ライブで勝負するもの」に戻したかったのかな、と今にしてみれば思います。シングルで売る事を目的として、アルバムが2の次になるような、そういうことを避けたかったんじゃないかと。

それに加えて

80年代に、大きく陽のあたることのなかったインディのアーティストたちへのリスペクトも含まれてたような気もするんですよね。80sはMTVやシングル・ヒットで 脚光を浴びたアーティストの時代でしたけど、その裏でインディ・カルチャーが限られたものではあったものの、すごく熱く、今日まで強いリスペクトを受けるようなものだったことも事実なんです。ブラック・フラッグとかリプレイスメンツとかソニック・ユース、まだまだたくさん当時のインディで偉大なバンド、たくさんいましたけど、ヒット曲なんてなくても揺るぎない名盤はあるし、それはヒット曲の有無で価値が決まるものではないじゃないですか。

 少なくとも僕はそんな風に解釈したし、僕自身の音楽の聴き方も大きく変わりました。それまで僕もどちらかというと、「このアルバムからは、あれとこれがヒットしてて」なんてことを購買の目安にしているようなところがあったんですけど、これ以降、「アーティストがリスペクトにあげている」とか「信頼の置けるレーベル」とか、そういう基準で聞くように変わりましたからね。この体験がなかったら、80sまでの「ヒット曲史上主義」的な考えのままだったかもしれません。

②「記録上、シングルヒットしていない」、今日のアンセムたち

 
これ以降、アメリカでは不思議な現象がおきます。ビルボードのシングル・チャートには記録されないのに、若いロック・ファンなら誰でも知ってる曲、というのが連発されていくんです。


はい。どれも1992〜94年に出た有名な曲ばかりですよね。だけど、これらの曲、いずれもビルボードのシングル・チャートの100位に入ったことがないんですよ!

だから、ビルボードのシングル・チャートしか見ない人はこういうの知らないから、「なんだ、ロックはもう流行らなくなってしまったのか!」と、あの当時、本当に嘆いてたんです!僕の持論だと、「ロックが売れなくなった」の嘆き節の最初は、この誤解からはじまった、という意識です。

https://www.youtube.com/watch?v=YgSPaXgAdzE

 シングルで売れたのって、ベックのこれがトップ10に入ったくらいですよ。でも、これしか知らないのと、上にあげた「チャートにカウントされなかった名曲」を知ってるか知らないでは、大きな認知差が生じで当たり前ですよね?

だから当時の日本ではですね

日本でもテレビ中継された「ウッドストック94」見て、業界の人までカルチャー・ショック受けたんですよ!「えっ、いつのまに、知らないアーティストでこんな大観衆が盛り上がってるの??」みたいな感じで。そこからようやくオルタナティヴ・ロックの売り方に本腰が入ることにもなりました。

③実はアメリカでバカ売れしてた、幻のロックの大ヒット曲

こうしたことが続いた結果、やがてアメリカですごい矛盾が引き起こされていくことになります。アメリカのラジオでは上位に入って、ロックファンじゃない人まで知ってるのに、シングル売らないからチャートに入らない曲、というのが続出するんです!

最初の例が1993年のこれですね。これ、ラジオのチャートだとトップ5とか入ってたのに、ビルボードのシングルでは知られなかった曲。それから

95年のこれも同じような売れ方でしたね。

さらに

ノー・ダウトのこの曲に至っては、1996年の夏の間中、ラジオ・チャートでは10週以上1位だったのに、ビルボードではカウントされなかったんです!

このあたりから、「ビルボードの規定、いくらなんでもおかしいじゃないか」の議論が高まります。

カーディガンズのこれもすなんですよね。1997年にアメリカのラジオ・チャートで1位になってるんです!渋谷系発のスウェディッシュ・ポップなんて次元どころじゃない、ものすごい成功だったのに、それが伝えられず過小評価されちゃったな、という苦い思い出があります。

 これの2、3年後ですね。ビルボードがようやくチャートを改正して、シングル盤出なくても、チャートに入るようになっていきます。

④シングル・ヒット量産のブリットポップ


 と、アメリカが「幻のロックヒット」で溢れていた時代、イギリスは逆に、正真正銘のロックのヒットで賑わったんですね。

 今となってはイギリスのシーンっていつもロックが売れてるように見えますが、とんでもありません。1985年くらいまでのMTVアイドル・バンドのブームが終わったあと、マスの見方では10年くらい「イギリスはロックのヒットが出なくなった!」という見方だったんですから!

「だって、スミスもキュアーもデペッシュ・モードもニュー・オーダーもいたじゃないか!」って思うでしょ?実際、国によってはそのあたりカリスマ人気もあったわけですけど、「局部的なカリスマ」って感じで、アンダーグラウンドのイメージ強かったんですよ。日本だと、このあたりだとラジオでかけてもらえなかったんですよ。だから、なおさらそういうイメージで。

あと、これは前にも話したんですけど、それはストーン・ローゼズのファースト・アルバムとか、マイ・ブラディ・ヴァレンタインの「Loveless」の発売タイミングでの最高位でも明らかです。前者が19位で、後者が24位だったんです。ロックの期待の(当時)若手での最高位でそんなもの。いかにイギリスで一般的なロック人気が冷え込んでいたか、ということです。

それを根本的に覆したのがブリットポップだったんですよね。

このブラー、オアシスの登場でなにが変わったか。アルバムからシングルの全英トップ10ヒットが、昔のように3曲も4曲も出るようになったんですよ!

 これで、シーンそこまで追わない人でも、「イギリスのロックにメジャー感出てきたな」と思うようになった人が出てきたのは事実です。

実際問題

このあたりの曲も、4曲くらいビッグ・ヒットのでたアルバムからの曲ですからね。そう考えると、ブリットポップ期の、対一般社会での盛り上がりの説得力、大きかったことは事実なんですよね。

ただ、これがアメリカに反映されなかったじゃないですか。アメリカで売れたの、オアシスの「Wonderwall」1曲だけ。そういう見方しかしてくれなかった人も、あの当時多かったのも事実です。

⑤ヒットを認知してくれる場所はフェス!


ただ、あの当時のロックファンからしてみたら、ヒットの認識ってチャートじゃなかったんですよ。それが一番実感できたのって

ライブ!

もう、ずばり、ここだったんですよね。そしてなによりフェスですよ!

こういうのが情報で伝わりやすくなったんですよね。大観衆が人気曲で大合唱するのが、やがてネットも普及して、より速く伝わるようになり、さらに日本でもフジロックやサマーソニックがはじまった。そうしたら、チャート上のものより、より熱心なファンのあいだで一体化できるものがリアリティ持つようになるんですよね。

直接的なヒット曲よりも、大観衆酔わせるライブでの決定的なアンセム、こういうものが長く愛される名曲として残っていく。実はこれ、大昔からそうなんですけど、90sからのロックはとりわけこの要素が強くなってると思います。

そこを忘れて「ロックのヒット曲が出るの、出ないの」と論じるのは、僕は筋違いだと思っています。






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