THE MAGRITTE Museum vol.11『白紙委任状』ルネ・マグリット
▲ 1965年 キャンバスに油彩 81.3×65.1cm
Washington, National Gallery of Art
『白紙委任状』は1965年にルネ・マグリットによって制作された油彩作品。
1930年以降のマグリットの絵画でよく現れるようになったのが「だまし絵」と「哲学性」ですが、その代表的な作品。
描かれている馬は分割されてしまっており、その断片はあいまいに配置されています。また馬は木々の背後と前にもあるように見えます。馬上の女性はよく見ると木の幹に描かれているように見え、女性が乗っている馬の身体と思われる部分は木の色であるように見えます。
マグリットは1966年『ライフ』誌のインタビューでこの作品について次のように説明しています。
「これはアマゾン、馬に乗って進む女性です。タイトルは、空間移動に関係しています。見えるものは常に他の見えるものを隠すことができます。
女性は、4本の木を通過して、これらの木を隠します。他の木々は彼女を隠します。
白紙委任状とは、彼女にやりたいようにやることを認めるものです。目に見えるものは、隠されて目に見えなくなることがあります。しかし、目に見えないものは決して隠れません。それは、恐らく無視されるのです。
オブジェは目に見えます。しかし、我々の目に見えない思考は、そこにありますが、無視することができるけれども、隠すことはできません。
この絵が人を不安にさせるか、ですか? それはその人が世界をどう見ているかによります。魅力的であるとも、心をかき乱すともいうことができません。曖昧なのです。心をかき乱すかもしれないけれども、同じように愉快にさせるかもしれない。神秘は驚異です。」
林のなかを進む馬上の女性と、林の木々の前後関係が、場所によって曖昧になっており、見えるはずのものが隠されて、隠されているはずのものが見えている。
マグリットは、目に見えるものと目に見えないものとの関係に関心をもっていましたが、目に見えないものとは、隠されて目に見えないもの、思考や感情、神々や怪物を、目に見えるかたちにして描き出すことは、彼の関心事ではなかったのです。自分の作品に寓意や象徴を読み取ることを禁じたのも、そのためでした。
▲ René Magritte マグリット展より
私たちの思考は「見えるもの」と「見えないもの」を同時に見ることはできませんが、両方の存在を察知することはできているということです。
マグリットは「見えるもの」と「見えないもの」を同時に表現するために絵画を利用しています。たとえば『光の帝国』では、昼と夜を現実的には同時に見ることはできませんが、両方の存在は察知している要素を表現しています。そして『白紙委任状』とは馬上の女性が、見えなかったり、見えたりしながら行動することを許す許可証なのです。
▲ タッシェン「マグリット」より
同様の着想で描かれたものには、『人間の条件』(1965年)や『空の鳥』(1966年)などがあります。
株式会社マグリット
専務取締役 羽原正人
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