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戦略を言語化、説明する「台本」

イベントや試合などにおける必須アイテム。それは「台本」です。芸人やJリーガーをキャスティングしたサッカー大会にも、コメントや尺を詳細に記載した台本があり、打ち合わせをして演者と共有を図ります。JリーグやWEリーグの公式試合にも、試合を含めたキックオフ前後のコンテンツやセリフ、尺が分単位(ときに秒単位)でまとめられています。そんな台本づくりも、仕事として請け負っている私です。

イベントや試合にはスタッフが大勢関わります。ディレクター、音響、映像制作、MC、演者など。それぞれが、それぞれの持ち場で考え、動きを想定して台本をチェックします。当然、台本づくりには、関係者の思い、要望などの「断片」を随時集約して、修正することが要求されます。

重要なのは、情報の断片を調べ、それらの関係性を発見すること。部分の集まりから全体像をつくりあげ、皆が理解できる「意味」を付与しなければなりません。単に情報を受け流すだけなら誰にでもできます。台本制作者の存在意義は、そこに本質的な意味を見出すところにあります。点の集まりではなく、点同士をつなげる線に気づくことが求められます。

また、それだけをみると一見して非合理なのだけれども、全体の文脈では強力な合理性を持つ、というケースがあります。例えばスターバックスのケース。家でもない、仕事場でもない「第3の場所」を創造するというコンセプトがスターバックスにはあります。ほっと一息、静かな空間で自分のために時間をつくりたいというニーズを満たす価値です。

そして「だから」なのでしょう。スタバの商品提供時間は、割と長め。忙しい人にとってはイライラさせられる時間です。そう、スタバは忙しい人にあえて嫌われようとしている。語弊を恐れずに言えば、たとえ嫌われてでも、「第3の場所」というコンセプトを守ろうとしているわけです。局面では非合理な施策でも、ストーリー全体の文脈に位置づけると強力な合理性を持っているという二面性。ここに競争優位の源泉があります。

少し話がそれましたが、台本づくりにも明確な「コンセプト」が必要です。コンセプトという「全体性」が、「部分」の評価を決定づけます。部分だけ見ると「?」ということでも、コンセプトを通してイベント全体を俯瞰してみると「なるほど」と肘を打つ。断片を近視眼的にみるだけでは気づけない、全体視野というセンスが効いて差異を生み出します。

ビジネスは「違いをつくって、つなげる営み」

個別の違いをバラバラに打ち出すだけでは戦略になりません。それらがつながり、組み合わさり、相互に作用する中で長期利益が実現されます。個別の要素について意思決定し、アクションを取るだけではなく、そうした要素の間にどのような因果関係や相互作用があるのかを重視する視点。

台本は、戦略を言語化したものでもあります。個別の要素がなぜ、齟齬なく連動し、全体としてなぜ事業を駆動するのかを説明するもの。自社がなぜ、他社にできない価値を生み出し、利益をもたらすのか。個別の打ち手は静止画ですが、因果論理で縦横につながったとき、戦略は「動画」になります。勝負を決定的に左右するのは戦略の流れと動きにあります。

久保大輔




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