大人になれば 06『停電の夜に・秘密・人質の朗読会』
ひとは不思議だ。
話すべきことを秘し、話すべきではないことを話す。ぼくはたいてい言葉が多すぎるけれど。
すこし昔、『停電の夜に』という短編集が話題になった。新人作家であるジュンパ・ラヒリがこのデビュー作でピュリツァー賞を受賞したことが大きなニュースだったけど、ぼくはそれよりも彼女の書いた短編の設定が印象に残った。とても鮮明に。
それは毎晩一時間だけ家が停電となる電気工事の一週間をきっかけに、若い夫婦が夕食にろうそくを灯して互いに秘密を一つずつ打ち明ける遊びを始めた物語で。