サイエンスコミュニケーションの話。あるいは2022年の反省。

今年は実験中にひたすらゆる言語学ラジオを聴いていた。書き物や読み物中に会話を聴けない質なので、いいポッドキャストがあるとたくさん実験したくなる。論文書きに忙しかったはずの2022年だけれども、たくさんポッドキャストに逃げていたとも言える。スピンオフ企画のゆるコンピュータ科学ラジオは言語学より少し前提がわかるのでこれも楽しい。


言語学やコンピュータ科学を面白おかしく話していくのを聴きながら、いつも自分にフィードバックをかける。つまり、遺伝学をどう面白おかしく話せるのだろうかと。アウトリーチ活動も研究者の仕事の一つなのは重々承知しつつ苦手意識ばかりが募る。自分の専門にどんどんフォーカスすればするほど、前提知識を共有しない人への説明が億劫になる。「ゲノムのシスエレメントが…」と始まる部分に時間をかけるのが面倒だなと思ってしまうし、もっと言えば「ゲノム」の3文字を説明しなければならないと思うだけで言葉に詰まる。研究費の申請であったりポストの応募であったりと自分の研究を平易に伝えなければならない場面は多々あるものの、ゲノムぐらいの用語は説明する必要がないぐらいの場所から始められる。とはいえおそらく問題は繋がっていて、いつでも基礎用語を平易に説明できるような準備がなければ申請書も空虚な文章になり得る。

年末に出た論文について、研究所のライターの人が一般紹介用のウェブ記事を書いてくれた。テクニカルな論文だったから難しかったよとコメントをもらったけれど、まぁたしかに記事の中身はあまり一般受けしそうにはなかった。とはいえこれ以上歪めてお届けするつもりもない。むしろ本職のライターさんもこのあたりで止めるんだな、という確認ができた。論文をアウトリーチする場合はこの具合。では分野全体ではどうなるのか。

そういえばゆるXXラジオからいくつかのフランチャイズ企画が出た。とりあえず音声だけで楽しめるゆる哲学ラジオから聴いてみたがやはり面白い。他も消化していきたいと思いつつ、ゆる遺伝学ラジオがあったらどう反応しただろうかと想像する。面白く話されてしまうときっと嫉妬してしまう。違和感を覚えればきっと長文メールをしたためては消し、そっと婉曲的なツイートだけをして溜飲を下げる日々を送っただろう。毎週面白い話題を用意して嘘にならないギリギリのデコレーションをしつつ話術巧みに届ける。どのステップも難易度が高いのはもちろんなのだけれど、いずれも研究者に必要とされている。されているのだけれど、とりわけ最初の話題選出というのが構造的な難しさを孕む。日々触れている細分化されている話題からいかに視点を引いていくかという取り組みが必要とされる。なんなら教科書のコラムに載っているような話に戻らないといけない。その意味では教科書を書いているような偉い先生方というのはサイエンスコミュニケーションのお手本のようなことをされているのかもしれない。レビューを書いたりしつつ最終的には教科書やら本を書くような感覚で思考のポジションを変えていくことが大事なんだろうか。そういう訓練が新しい研究テーマをもたらしてくれるかもしれないなと思うと、日々粛々と取り組んだほうがいいのかもしれない。これは2023年の宿題。


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