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アラブ諸国でアブラハム合意の評価が低下

米国のシンクタンク、ワシントン近東政策研究所が定期的にアラブ諸国で実施している世論調査によると、2020年にイスラエルとUAE、バーレーン、モロッコ、スーダンが結んだアブラハム合意への評価がこの3年で大きく下がっていることが分かった。

注:「アブラハム合意が地域にもたらす影響は何か」への問いに対す
る回答。それぞれの調査は2020年11月と2023年4月に実施。

出所:The Washington Institute for Near East Policy,
"The Washington Institute Arab Polling Project"より筆者作成

アブラハム合意の当事国であるUAEでは、合意締結直後の2020年11月には「非常に肯定的」と「やや肯定的」を合わせると、47%が合意を肯定的に評価していたが、2023年4月にはこれが27%と20ポイント下がっている。バーレーンでは肯定的な評価が45%から20%へと25ポイントも下げており、同時に否定的な評価が増えている。

米バイデン政権は現在、イスラエルとサウジアラビアの国交正常化を仲介しているとされるが、そのサウジアラビアでもアブラハム合意への評価は大きく下がっている。2020年には41%が肯定的な評価をつけていたが、2023年の調査では20%まで下がっている。「やや否定的」、「非常に否定的」を合わせると否定的な評価は78%に達しており、サウジ政府がどのように戦略的な判断を下すかはわからないものの、少なくとも国内世論はイスラエルとの関係構築に後ろ向きである。

この背景には、2022年末にイスラエルで極右政党を含んだ連立政権が発足し、イスラエル・パレスチナ関係が更に悪化していることがある。世論調査の実施後であるが、今年7月にはパレスチナ領であるヨルダン川西岸のジェニンでイスラエル軍による軍事作戦が行われ、パレスチナ人12人が死亡(イスラエル兵1人も死亡)、3,000人が避難する事態も起きた。

イスラエル政府によるパレスチナへの苛烈な対応は、アブラハム合意以降進められてきたイスラエルと地域諸国との関係構築にも影響を及ぼしている。今年3月に開催される予定だったイスラエルと地域諸国との新たな協力枠組みであるネゲブ・フォーラムは、ホスト国のモロッコが開催を数度に渡って延期しており、未だに開催の目途が立っていない。イスラエルは係争中の西サハラにおけるモロッコの主権を承認すると発表し、モロッコへの大きな譲歩を示したが、イスラエルが期待するネゲブ・フォーラムの9-10月開催が実現するかは定かではない。

アラブ諸国における対イスラエル感情の悪化は、経済にも影響を及ぼしている可能性がある。Bloomberg紙は、関係性は不明なるも、UAEのアブダビ国営石油会社(ADNOC)が英石油大手のBPとともに、イスラエルのエネルギー企業NewMed Energyの株式50%の取得する計画が、3月の発表以降何も進展がないことを指摘している。

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