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戦線の拡大が懸念されるガザ情勢③ - フーシー派による船舶への攻撃の拡大

10月31日にイスラエルへの宣戦布告を表明したイエメンのフーシー派は、10月中旬から続けられているイスラエル南部へのドローン・ミサイル攻撃と並行して、11月19日の商船拿捕を皮切りにイエメン近海での船舶への攻撃を増加させている。

  • 11月19日、紅海にて日本郵船が運航する自動車運搬船Galaxy Leaderを拿捕。同船はイスラエルの富豪Abraham Ungar氏が経営するRay Shipping社が保有しており、日本郵船にリースされていた。フーシー派は、イスラエルの旗を掲げる船、イスラエル企業が運航・保有する船は攻撃の標的になると述べ、世界各国にイスラエルへの関与を止めるよう呼び掛けた

  • 11月29日、バーブ・マンデブ海峡において米軍艦護衛中の米ミサイル駆逐艦Carneyが、自艦に向けて飛来してきたフーシー派のドローンKAS-04を撃墜。フーシー派からの声明はなし。

  • 12月3日、紅海を航行する商船3隻に対し、4件のミサイル・ドローン攻撃が発生。9時15分、Ray Shipping社が保有するばら積み貨物船Unity Explorerに向けて対艦弾道ミサイルを発射(船付近に着弾)。12時、Carneyに向けて飛来してきたドローンを撃墜。12時35分、Unity Explorerに向けてミサイル攻撃、船体に軽微に被害。Carneyがドローンを撃墜。15時30分、コンテナ貨物船Number 9(3年前までイスラエルの海運企業ZIMが保有)にミサイル攻撃。16時30分、ばら積み貨物船Sophie IIにミサイル攻撃。同船の救援に向かう途上でCarneyがドローンを撃墜。なお、フーシー派の声明では、Unity ExplorerとNumber 9に対する攻撃は認めたものの、Sofie IIについては言及なし。

  • 12月9日、紅海を航行していた仏フリゲート艦Languedocが自艦に向かって飛来してきたドローン2機を撃墜。フーシー派からの声明はなし。

  • 12月11日、バーブ・マンデブ海峡を通航していたタンカーStrindaが巡航ミサイル攻撃を受け、船上で火災が発生。フーシー派は同船がイスラエルに向かっていたとして、攻撃の事実を認めている

  • (11月26日にアデン湾で発生したタンカーCentral Parkの拿捕は、ソマリア海賊による可能性が高いと整理されている

フーシー派は11月19日の声明ではイスラエルの旗を掲げる船、イスラエル企業が運航・保有する船を攻撃の標的にするとしていたが、12月9日にはガザ地区への食糧・医薬品の搬入が認められなければイスラエルに向かう全ての船を標的にすると警告を発しており、攻撃の標的が徐々に拡大している。

フーシー派による攻撃のエスカレーションが上がっていることに対し、米国は困難な対応を迫られている。12月7日、米国のファイナー国家安全保障担当大統領副補佐官は、現在は有志連合の結成とシーレーンの安全保障の確保に重点を置いているものの、「(フーシー派に対し)軍事行動を取る可能性は排除していない」と述べた。イスラエルの報道によると、ネタニヤフ首相はバイデン大統領に対し、米国がフーシー派への対処をしないならばイスラエルが軍事行動を起こすと伝えたと報じている。一方、サウジアラビアは米国に対し、フーシー派への反撃を抑制するよう要請していると報じられており、紛争が地域に波及することを懸念していると伝えた模様だ。

米国は2016年10月にフーシー派から米軍艦への攻撃が行われたことを受けて、自衛措置としてイエメン本土にあるフーシー派のレーダー基地3カ所をミサイルで攻撃したことがある。米国は戦争への直接介入を避けるべくイスラエルに対する攻撃をもってフーシー派への攻撃を実施することは困難と見られるが、自軍への攻撃と見られる事案が既に発生していることから、2016年同様に自衛を理由にしてイエメン本土のフーシー派を攻撃することは論理的に可能と見られる。米国がドローンの撃墜を発表する際に自艦が標的になった可能性があると言及しているのは、将来の可能性に備えた法的な下準備だろう。

もっとも、2016年の事例もそうであったように、フーシー派に米軍やイスラエル軍と交戦する準備はない。従って、仮に米国やイスラエルによるフーシー派への直接攻撃が実施されるとしても、フーシー派に警告を発するための単発的な作戦になるだろう。フーシー派としてはガザ情勢をめぐって国内外に威信を示すことが大きな目的であり、それは既に達成されたとも言える。

Galaxy Leaderを襲撃するフーシー派戦闘員
出所: イエメン国防省(フーシー派)

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