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ジンは、ジュニパーベリーという季語で詠む俳句—長野県・佐久のジンができるまでVol.2

長野・佐久の風景を封じ込めるクラフトジンとして、「YOHAKHU」は2020年12月にリリースされました。佐久で約130年つづく芙蓉酒造で蒸留されています。(プロジェクトのはじまりはこちら)。このジンの開発にあたり、アドバイザーとして参加していたのが、フライングサーカス代表の三浦武明さんです。三浦さんは、日本最大級のジンの祭典「ジンフェスティバル東京」を主催し、日本におけるクラフトジンのムーブメントを牽引してきました。そんな三浦さんは今回のプロジェクトを通じて、ジャパニーズジンの可能性をどう見ているのでしょうか。

この10年でもっとも多くの国と地域で造られるようになったジン

「ジンはジュニパーベリーという季語を入れて詠む、俳句のようなもの」
ジンという酒について話すとき、三浦武明さんはこんなふうに説明します。ジンはオランダでその原型が生まれ、イギリスにわたって「ロンドンジン」というスタイルが発展しました。バーでカクテルにして飲むものというイメージの強かった「ジン」ですが、近年は、その土地ならではの素材や酒造りを生かした、「クラフトジン」や「プレミアムジン」と称されるジンが増えています。

「10年前には全世界で500銘柄程度だったのが、現在では7000銘柄を超えています。体感的な数字ですが、ジンはこの10年でもっとも多くの国と地域で造られる蒸溜酒になったのでは?」と三浦さんは言います。

ジュニパーベリーを使用すれば、それはジン?

なぜジンはここまで急速に造られるようになったのでしょうか? その背景には、俳句になぞらえられるほど自由な、ジンの定義が関係しています。
欧州でのスタンダードではこうです。

1)ジュニパーベリーの香りを主とすること
2)瓶詰アルコール度数は37.5%以上あること 
3)3つのカテゴリー「Gin(ジン)」、「Distilled gin(蒸溜ジン)」、「London gin(ロンドンジン) 」に分ける

これは少々乱暴な言い方をするなら、ジュニパーベリーを使用すること以外には、製造方法に明確な規定がないということです。ベースに使用するアルコールの原料も、そのほかに入れるボタニカルも自由。
一般的には、穀物を蒸留したニュートラルスピリッツに、ジュニパーベリーを主体とした素材(ボタニカル)を浸漬してから、再蒸溜して造られますが、広く捉えればアルコールにジュニパーベリーを漬け込むだけでもジンと名乗ることができるのです。

これは俳句が、季語を入れるというルールさえ守れば、五七五の十七音から字足らずでも字余りでも、「俳句」といえるのと同じです。
ジンという酒に許されたこの“余白”を生かして、日々、多様なジンが誕生しています。

ロンドンジンの伝統をリスペクトしたい

現在、ジンのマーケットには多くの新たなつくり手が参入する一方で、"自由さ"を捉ちがったジンもでてきているとも指摘されます。そうしたジンは本場イングランドでは亜流と捉えられ、「フレーバードジン」と称されることも少なくないそうです。

今回の「YOHAKHU」プロジェクトでは、当初より世界のマーケットを目標に据えていました。そのため、日本酒や焼酎を造ってきた芙蓉酒造の6代目・依田昂憲(よだ・だかのり)さんが手掛けるジンであっても、ジンの歴史をふまえ、ロンドンジンのスタイルを理解した上で造るべきだと三浦さんは考えたといます。

「ぼくのミッションは、依田さんに『ジンとはどういう酒か伝えること』でした」

ジンは香り、焼酎は味わいの酒

「ジンと焼酎、洋酒と和酒では同じ蒸留酒といえど、設計の考え方はまったく逆。大きな言い方をすると、ジンは香り、焼酎は味わいの酒です」と、三浦さんは説明します。
ジンは、ジュニパーベリーなどのボタニカルを、アルコールで蒸留することで油分を抽出し、そこから香りをとって造られます。一方で、焼酎などは麹を使い、原材料自体に含まれる糖分を使って発酵させ、アルコールが精製されます。そのため、原材料の味をできるだけ残すような蒸留方法が採られます。
「この違いを理解してジンを造らなければ、法律上はジンであってもジンとは認めてもらえない場合もあります」と三浦さん。

香りの音程をとることがジンの設計を理解する近道

香りの酒であるジンが、どのように考え設計されているのかを感じ取りたいなら、音楽でいうバンドに例えてみるとヒントが得られるでしょう。

「バンドでは、ベースがギターを支え、そこにボーカルのメロディが乗る。音域の異なるものがハーモニーを奏でるから、ぼくらは音楽を聴くときにそれぞれの音を感じることができます。それと同じことが、きちんと設計されたジンを飲むときにも感じられると思います。
香りにも音程があって、口に含むとそれぞれのボタニカルの存在を感じながら調和していることが感じられるはずです。そうして飲み込んだとき、ひとつのお酒としてきれいな輪郭が浮かんできます。
でも、そうした香りの構造を知らずにジンを造ると、ドラムもベースもなくて、でもギターは6本もある。しかも同時に全員がソロを弾いている、というような、音は鳴っているけど音楽とは言い難い出来栄えになってしまう危険性があります」

最近では、ジャパニーズジンに限らず、カルヴァドスのブランドが手がけるもの(le gin)や、バーボン原酒を使ったものなど、ニュートラルスピリッツではなく、味わいのある酒をベースに造られるジンも登場しています。

「最終的に目指す方向は、もちろんロンドンジンと違っていいんです。多様な酒が造られることが、ジンという酒の新しい可能性を広げているので。YOHAKHUでは、ベーススピリッツを粕取り焼酎を採用されていますが、何を選ぶにせよ、ジンに欠かせないジュニパーベリーの香りとどこでバランスをとるかがポイントになると思います」

基本の型がわかってこそ、字余りの俳句が詠めるというわけ。YOHAKHUがどのようなジンに仕上がっているか、期待が高まります。次回は、実際に蒸留を手がけた芙蓉酒造の依田昂憲さんに、開発の裏側をうかがいます。

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佐久についてもっと知りたい人は”from JUNIPER”のコミュニティへ

「YOHAKHU」ジンをつくる「芙蓉(ふよう)酒造」では、長野県や佐久エリアの地形、歴史、里山、生き物、植生(ボタニカル)を探究し、“風景とつながるジン”の開発を目指すコミュニティのメンバーを募集しています。参加者には交流会の優先参加権や、4月中旬に発売予定の「YOHAKHU」先行購入権などの特典が。

コミュニティへの参加はこちらから

YOHAKHU
発売:2021年4月中旬(予定)
定価:¥6,000(税別)
アルコール:45度
内容量:500ml
タイプ:蒸留ジン
ベーススピリッツ:粕取焼酎、穀類スピリッツ、果実スピリッツのブレンド
ボタニカル:ジュニパーベリー、コリアンダー、リンゴ、カルダモン、クロモジ、熊笹、青実山椒、セージ、アンジェリカルート、リコリス、クローヴ
オンラインショップ:https://www.yohakhu.jp/