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tari textile BOOK 前編 第4章 課題④

課題④

〇この課題から緯糸につまみ糸を交織する。1号または2号の藍糸を、こぶなぐさで採った染液でさらに上から染めて緑色にし、縞に取り入れる。それ以外の染色は栗の皮もしくはこぶな草。経糸250本、半反。

 

 

 早いもので、そんなこんなで始まった伝習生も、1年目最後の課題となった。当初は全てが生まれて初めての体験で、先生のお手本をただなぞることに必死だった作業も、この頃にはだんだんと慣れてきて、一通りの流れも把握できてきた。同期のメンバーとも徐々に親しくなり、それぞれの丹波布に対する思いやこの先の目標などについて少しずつ話をするようになっていた。

 

 私が丹波布長期伝承教室に応募した理由は、自分の手で糸から布をつくれる人になりたい、ということ。その技術を学びたいと思ったのだ。卒業後については、作家になろうとか丹波布を世に広める活動をしたい、といった具体的なことは何も考えていなかった。ただこの布づくりの技術を学び、それを生かしてかっこいい布をつくりたい、という単純な動機だけで応募した。その先はどうしたいのか、具体的にはわからなかったけれど、必ず何かに繋がっていくだろうという予感はあった。

 そして実際に伝習生として丹波布の技術を学び1年が経とうとしていたその時は、改めて丹波布を学ぶことと、その先について考えるタイミングでもあった。

 

 名前も存在も知らなかった丹波布に偶然出会い、一番惹かれたのは「糸から手で紡いで草木で染めて手織り」というその原始的な技法。特に糸から紡いでいる手織物が現代日本に存在しているというのは初耳で、ものすごく興味を持った。そしてそれが商業的に量産されていないことや、丹波という自然豊かな土地で静かにのびのびとつくられていることにさらに魅力を感じた。実際に糸紡ぎ体験に参加する中で、この技術を本格的に学びたい、糸から布をつくれる人になりたい、と強く思うようになった。

 

 そして伝習生として実際に青垣に住み、生活をしながら布づくりを学ぶ中で、新たに見えてきたこともあった。

 

 布づくりはまず糸紡ぎから始まる。ただひたすらコツコツと、毎日少しずつ紡ぐ。そうして準備した糸を、今度は草木で染色する。近所で採ってきた染色材料の植物を大鍋でぐつぐつ煮出して染液を抽出し、その液で糸を煮るのだ。大きな家庭科室のような染色室で行う染色は、まさに大人数分の調理のようで、科学実験のような緻密なものではなく力仕事に近い。糸も、1つの作品分となると結構な量になり、それを染めたり洗ったり干したりといった作業はなかなかの重労働だ。そうしてようやく染め上がった糸は、糊付けをしてはたにあげる準備に入る。考えた縞の通りに、順番に糸を1本ずつ引き揃える整経せいけい、整経で揃えた糸を、均一な張り加減で巻き取っていくちきり巻き。その後、機織り前には600本近い糸を順番通りに1本ずつ小さい穴に通す綜絖そうこう通し。そしてようやく機織りとなるが、1本ずつ緯糸を通しては打ち込む、という作業をひたすら織り上がるまで繰り返す。

 

 こうした丹波布の一連の作業を実際に経験して、この布は自然の中で暮らすごくごく普通の人が、日々の生活の一部としてつくる布なのだ、と実感していた。

 特殊な技能や経験のない普通の人間が、ごく身近に生えている植物を材料に、田舎で日々の生活や仕事の合間にコツコツとおおらかにつくる、ただの綿の平織物。しかし、私はそれこそがすごい、と思うのだ。そこら辺にいる普通のおばちゃんが、そこら辺に生えている材料で、淡々と、なんだかすごく味わい深い布をつくっている。なんてかっこいい。そういう人に私はなりたい。

 となると、技術を学んだその先には「なんだかすごく深い味わい」のある布をつくることが出来なければいけない。でもその「出し方」は誰にもわからないし、ましてや誰かに教えてもらうものでもないし、言語化・数値化できるような法則もない。うーん、具体的にはどうすればいいのかわからないけど、とてもわくわくする。とにかく一つ一つの作品を積み重ねていくしかないな。そう感じていた。

 

 丹波に来て初めての冬。雪の積もった道を歩きながら、丹波布を学ぶこととその先について改めて考えてみるが、具体的にはやはりまだどうしたいのかわからない。でも布づくりがますます面白くなってきた。もんもんと考えて火照った頭に冷たい空気が心地よく、歩くと頭も身体もスッキリしてくる。道には真っ白でたっぷり積もった雪、見上げると雪が止んだ後のスッキリした青空、そして午後の太陽が眩しく雪に反射している。そんな気持ち良い景色をぼんやり眺めながら、長靴で、ズボズボと雪にはまりながら歩いているうちに、次の課題の布のアイデアがキラリと湧いてきた。

 

 

 こぶな草の爽やかな黄色と、綿わたの白さを活かした大きめのブロックチェックで、太陽と雪のイメージにしよう。そして藍とこぶなぐさをかけあわせた緑を差し色にして、どことなく春の気配漂う布にしよう、と雪道を歩きながら思いついた縞。前回がおとなしめの色使いの細かい格子だったからか、今回は大柄のポップなイメージ。

 

作品NO.4

→経糸:こぶな草(みょうばん)、藍1号×こぶな草(みょうばん)
 緯糸:こぶな草(みょうばん)、藍2号×こぶな草(みょうばん) 

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