サブカル時代、僕の考え

 90年代半ば、猛毒のライブの後、ファンに囲まれ詰問されたことがある。(猛毒が)芸能人をターゲットにするのはいいのだけど、人種差別や障害者を題材にするのはどうしても納得がいかない、と言うのだ。

 ずいぶん前のことなので、そのときに正直、うまく説明できたかどうか、記憶が定かではない。たしか自分一人で、ほかのメンバーはいなかったと思う。ただ、その時に伝えたかった僕の考えは今でも変わらない。

 80~90年代にかけて、日本でアフロ・アメリカンの人たちは差別される対象というより、ファッショナブルな人たちというイメージのほうが強かった。1980年にシャネルズ(ラッツアンドスター)が顔を黒塗りして「ランナウェイ」を大ヒットさせた。1985年に山田詠美の「ベッドタイムアイズ」が文藝賞を受賞し、1987年に映画化された。そのころから、六本木には「ぶら下がり族」といわれるアフロ・アメリカン大好きギャルが現れる。さらに1988年にはボビー・ブラウンの「Don't Be Cruel」が大ヒットし、街には「ボビ男」と呼ばれるボビーの髪型やファッションをまねた若者で溢れていた。猛毒の「コーヒー豆とかりんとう」の歌詞をよく聞けば、この曲で揶揄しているのはアフロ・アメリカンではなく、日本人としてのアイデンティティを忘れその真似をしている日本人であることがわかるはずだ。

 ここからは個人的なことになるのだが、90年代の初め、僕はよく新宿のクラブで遊んでいた。新宿三丁目のミロスガレージから、新宿二丁目のブギーボーイ、69、ニュー・サザエ……。特に新宿二丁目は、まだ学生で財布に余裕がなくても、チャージ+ワンドリンク千円で遊べる店が多く、朝まではしごできるのでとにかく楽しかった。しかし、そこで目にしたのは、当時バブル全盛の日本に流れ込んでいた、アフリカンの強引なナンパだった。文化の違いといってはそれまでだが、日本人の女の子が困ってるのに抱き着いて離れないのだ。ただ、ここで正義感を発動して止めに入ったところで事態はもっと複雑である。彼らから言わせれば、彼女たちが思わせぶりな態度をとってるというのだ。はっきりノーと言わない日本人の女の子にも問題があったのかもしれない。ちゃんと話すと彼らにも言い分があるのだ。

 何が言いたいかといえば、人種や肌の色にかかわらず、いい奴もいれば悪い奴もいる。悪い奴と思ってもそれは文化の違いからくる誤解もあったりする。

 乙武洋匡の「五体不満足」がベストセラーとなったのは1998年だった。多分、この人が世に出る前と後では障害者めぐる状況はかなり違うと思う。僕たちが子供の頃は、街中で障害がある人を見かけると必ず、「じろじろ見てはいけない」と注意された。見てはいけない、存在を意識してはいけない、というのが90年代半ばまでの圧倒的な空気だったと思う。

 見てはいけない、存在を意識してはいけないって思われる人たちはどう考えているのだろうか。そんな時、たしか風俗情報が載ってるようなエロ本だったと思う。風俗嬢のコラムで、障害者のお客さんが来た時の苦労話を読んだ。とにかく重労働らしい。女性の力で車いすからベッドに運ぶのは並大抵ではないようだ。そしてどういう体位がいいか聞くと、正常位と答えるとのことだった。そう、障害者は無垢な妖精のような存在だから性欲は持ってないみたいな幻想があったことも事実で、ボランティアに行って彼らの性欲を目の当たりにして、ショックを受けたという話もその当時、よく聞く話だった。

 腫れ物に触るように扱われることで、疎外感を覚えている障害者の人がたくさんいたし、その人たちの声がまだまだ伝わってこない時代だった。「バリバラ」みたいな番組は当時は絶対に考えられなかった。

 この世に生まれてきたからには、いかなるハンディがあろうと、見てはいけない、意識してはいけない存在などいないし、かわいそうな人などいない。はたらくくるまの替え歌でやってることも、ちゃんと存在してるからには、見てはいけない人がいていいはずがない、というメッセージがあると思っている。

 確かに、その時代は、一般常識からどこまで離れられるか、というチキンレースのような状況だったし、その中で、面白半分、興味本位、露悪趣味を競い合う風潮はあった。とはいえ、それは雑誌やラジオの深夜放送、同人、インディーズのような限られた範囲の、内輪感覚を共有できる者同士の内緒話しといったもので、ゴールデン・タイムのテレビ、メイン・ストリームがそれらが許容していたわけではない。

 そんな時代のバブル前後の日本で、メジャーに対するカウンター・カルチャーとしてのインディーズ、パンク・ロックの持つ反骨精神とは何か、権威に屈しないということはどういうことか、正義を振り回す同調圧力といかに戦うか。僕はそんなことを考えていた。

 








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