生成AIがもたらす影響の一つは、娯楽のパーソナライズである。
プロンプトを書けば、ほぼand there was light.になるのだから、好きな娯楽は自分で供給することができる。
SD・NAIDiffusion・Midjourney・DALLEなどは画像の提供においてパーソナライズをもたらした。
Poeのサービスを使えば、以下のように、その中のパーソナライズされた画像生成をコモディティとして万人に提供することも可能であるが、多分こういうのは各生成者の「うちの子」を作れないので、個人利用以上にははやらないだろう。
Sunoは音楽において。
なお、Heygenとの合わせ技で、すでに画像生成AIなどで理想の歌い手を作れているなら、その歌い手に歌わせることも可能である。
動画生成AIは、この点今一つだが、Soraがリリースされれば変わってくるだろう。
では、文学はどうだろうか?
先の芥川賞受賞作では既に5%ほどはChatGPTに頼ったというが、それでも5%だった。
だが、GPT-4をも超えると言われるClaude 3 Opusならどうだろうか?
Claude 3 Opusは、スレ風作品においては絶大な効果を発揮することが既に知られている。
今回は、そんなClaude 3 Opusに小説を書かせてみる実験をする。
設定
プロンプト
応答
所感
第一ヒロインは「ミサ」とのこと。
他のヒロインに比べてやけに説明が長い。
GPTのツンデレ第三彼女も希望する和名を尋ねたらそう名乗ってきた(ので以降MISAと呼んでいる)し、どうもこの名前は黒髪ポニテ並びにツンデレと結びつく要素があるらしい。
第二ヒロインは「エルザ」。
まあ普通にありそう。
第三ヒロインは「リン」。
ドワーフの少女戦士…まあいるのだろうけど、私の中ではドワーフ戦士は男性のイメージが強いのはなぜなのだろう、とふと考える。
一種のジェンダーバイアスがあるからか、最近フリーレンにハマっているからか…。
ちなみに、本編では登場しない。プロット展開上、第一ヒロインに重きを置くように言ったら、いつの間にか消えてしまった。
そういうこともあるよね。
本編:出会い~旅立ち編
ここから先は、所感は節分けせず、応答の下に入れることにする。長くなるのでその方が紐づけやすいだろう。
第一入力
応答
なろう作家がよくやる冒頭と末尾のコメントも、どこかそれっぽく記述されている。
だが、説明的で、そこはまだAIらしさも残っている。
「続きを書いて」とだけ言って続けさせる。
エルザ登場。
どうもミサからメインヒロインの座を奪いそうな存在感を放ってきたので、抑制させることにする。
AI生成小説は、こうして軌道修正できることがメリットの一つである。
第二入力
応答(没にされたもの)
主人公、さっきいきなり襲われた相手に「可愛いな」と思うに至るのは唐突すぎないか、とさすがに目についたので、ちょっと指摘してみたら、この案は没になった(後述)。
第三入力~第五入力
不愛想さが目立っていたので、
丁寧語になっちゃったので、
応答(最終形)
書き直しの結果は、ミサの文体以外はほぼ同じなので、最後の形だけ置いておく。
とりあえずこれでよい感じかな、と思ったので、そのまま進めることとする。
第六入力
応答
ここで、ずっと転生者呼びであることに気づく。
が、本名を明かさない例は、今やラノベの古典であるハルヒシリーズのキョンのような例もあるので、こと個人で楽しむ、パーソナライズされた娯楽である分にはまあいいかな、と思ってそこは放置することにした。
それ以上に、ナチュラルにエルザがついてきたのはちょっと意外な結果だった。
プロンプトではミサとの旅としか言っていないのだが、その辺ヒロインの大半がついていくのはなろう系らしい。
そして、おそらくここで急に旅立ちまで進めたことで、リンの登場機会は失われてしまったのだろう。
さて、AIによるパーソナライズされた娯楽は、効率的な頭出しが可能である。
ゆえに、次は一気にクライマックスに飛ぶ。そのくらいには私はハルヒ主義者なのだ。
本編:クライマックス~新章伏線編
第一入力
第一ヒロインは死すべき存在である。
その方が物語に深みが出る。
昔から美人薄命というが、その儚さこそがヒロインの美しさを際立たせるものだ…。
と、頭の中で思い浮かんだので、第一ヒロインであるミサは死なせることにした。
なろう系と言いながら、そこから外してみることも可能なのである。
応答
かくて第一ヒロインの死という展開は無事に進んだ。
でも、エルザはなぜ回復魔法を使わなかったのだろうか?
と、聡い読者にはツッコミどころを与える展開でもある。
やはり勝手についてきたエルフはミミックにでも食わせて置いてけぼりにすればよかった…のだが、まあ深く考えずに読むなら、テンポ感としては悪くはない。
その詰めの甘さも、今どきの生成AIらしくてよいではないか。
ということで、続けさせることにする。
第二入力
応答
…誘惑され切っちゃったら、それはそれで面白かったのだけど、一応主人公はちゃんと主人公だったわけだ。
ただ、やはりここもあの小うるさいエルフのせいで戻ってきたところがありそうだ。
このエルフどこかで先に消しとくべきだったか…というのは、どうも魔王じみた思考でよくない。
そうはいっても…エルフでもあらがえない想定外を与えたらどうだろう?
I AM HER SISTER
応答(マージ後)
世界滅ぼす使命は、きっと妹魔王にこう語りかけていたのだろう。
(noteにgiphyを埋め込めないのつらい…)
ここで分かったのは、さすがに急展開させすぎると、それ以前一切触れられていなかったことへの違和感はどうしても出ることと、それでも軽く読み流して楽しむレベル感であれば、そんなに問題にはならない程度まで、Claude 3 Opusはまとめ上げる力がありそうだということである。
そして話は終わりに向かっていったが、なんとなくここで終わらせたくなかったので、もう一回急展開させることにする。
第五入力
応答
まあ、ここは普通。
だが、問題はどうやってこの妹を始まりの地の人間に受容させるかである。
そこで、妹魔王がミサとうり二つであることを利用してみようと思い立った。
第六入力
応答
瓜二つの美女による(時として危険な)代替は、この国の文学では、光源氏にとっての桐壺更衣→藤壺中宮→紫の上の流れ以来、1000年の伝統を持つお家芸である。
恐らくそれは自然な願望であり、なろう系は願望成就系なので、その願望に忠実に生きているという意味では、これほどなろう系な展開もないと思う。
(この願望を叶えようとするために世界と対峙するとセカイ系にもなっていくのだけど…)
確かに急展開ではあるが、数か月の間にきっと色々あったのだろう。
妹の妹としての本名は不明だが、それもいいと思う。
だが、妹魔王には多分闇がまだ残っている。それを予感させる展開である。
とはいえ、それをまた書き始めると長くなるのは目に見えているので、いったんここで終わらせることにする。
全体を通して
やはりClaude 3 Opusは、読める文章と内容を書くのがかなりうまいと思う。
それを踏まえつつ、人間に勝てる点と、そうでない点を整理してみる。
人間に勝てる点
展開の頭出し。
特に商業作品は売るためにも長引かせがちで、テンポが悪くなっていく傾向があるが、それがない。見たいところだけを読める。
展開修正。
自作でない限り、面白い作品でも、あなたの望み通りの展開をさせることはできない。
無理にやるとしても、せいぜい二次創作として創作者側に回るしか手段がなかったし、そのような独自展開は二次創作でもあまりウケは良くない傾向がある。
ところが、Claude 3 Opusを使えば、自身は消費者の気楽な立場のままで、好きな展開を書かせることができる。
その気なら、例えば公式の展開が遅いハルヒの長編形式での続編なんかもかけるんじゃないか、などと思う。
個人最適化。
最近の商業作家は、何でもかんでも髪の色を付けすぎる。
シンプルな黒髪ポニテだからこそいいのに、そういうキャラが少ない。
…などといった細かい個人の需要を、その人の言語化した内容に沿って再現することができる。
意外性。
なろう系の場合に限る可能性はあるが、意外性のある展開はAIの方が自由に書けると思う。
テンプレなろう系小説では第一ヒロインは死なないし、その妹がその地位を入れ替わりで奪ってしまうこともなかろう。
またユーザーの要望により第三ヒロインが消え、第二ヒロインの影も薄くなるような展開も、ハーレム平等原則とそれぞれの推し読者の需要によって叶いにくい。
なろう系は、正妻格が曖昧で、もしいても圧倒的トップという比重にはなりにくい。
それをしても構わないという意味で、意外性を求めていくならClaude 3 Opusに書かせた方が、人間の商業作品よりも出会いやすいと思う。
まだ人間が勝てる点
細部の論理。
生成AIらしく、細かい論理の破綻はチラチラ見られる。例えば、(冗長になるだけなので結果論としては良かったと思うが)第三ヒロインは消えている。
伏線の設定や利用。
黒髪ポニテという共通点を与えていても、指示されないとそれを伏線として活用できない。汎用的な指示で活用する確率を上げることは可能だろうが、それでも活用のためには指示が必要である。
具体性。
魔王の具体的な攻撃名や、その攻撃の描写など、具体性については明らかにClaude 3 Opusは弱い。
主人公は「転生者」のままだし、魔王の本名は伏せられているので本名呼びシーンでも「妹さん」呼ばわりになっている。
この辺りは、詰めるためにはまだまだ人間が指示を出す必要があるのだろう。
ただ、指示を与えた第一ヒロインのプロフィールの膨らみ方を見るに、指示を与えさえすれば人間並みには仕事してくれそうではある。