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Vtuberにおけるガチ恋の発生に対する考察

この文章では主に脳科学の既往研究を参考に,Vtuberにガチ恋する人がなぜ発生してしまうのかといった点について考察する.
筆者は脳科学の専門家ではないので,その分野の専門家から見ると稚拙な文章や論理の飛躍が見られるだろうが,素人の戯言だと思って笑い飛ばしてくださると幸いである.

1. 今回の考察における対象及び範囲

1.1 ガチ恋の定義

今回の考察におけるガチ恋の定義を以下に記す.
任意のVtuberに対し真摯な恋愛感情を抱く視聴者

1.2 考察における対象について

今回の考察ではVtuberのガチ恋についてのみ考察する.
従って他のアニメキャラに対するガチ恋や3次元のアイドルに対するガチ恋の考察ではない.

1.3 考察における範囲について

今回の考察ではガチ恋が発生することに対しての考察であり,ガチ恋が発生することによる影響や,ガチ恋がどのような行動をするかについては今回の考察の範囲には含めないこととする.

2. 既往研究の紹介

今回,参考にするのは以下の論文である.
Fisher, H., Aron, A., & Brown, L. L. (2005). Romantic love: An fMRI study of a neural mechanism for mate choice.
以下,この章では論文から重要と思われる部分を翻訳の上,引用している.

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今回紹介する論文は上記のページからフルアクセスできる.

2.1 Abstractの全訳

哺乳類や鳥類には,相手を惹きつけるために進化した形質が数多く存在することが知られている.しかし,これらの特徴に惹かれて仲間が集まってくる脳の仕組みはほとんどわかっていない.しかし,哺乳類や鳥類は相手の好みを表現し,相手を選択する.この「誘引システム」がドーパミン作動性報酬系に関連していることを示唆するデータがある.異文化間でのロマンティックな恋愛は,この引き寄せシステムが発展したものであると提唱されています.恋愛に関連する神経メカニズムを明らかにするために,我々はfunctional magnetic resonance imaging(fMRI)を用い,真摯に恋をしている17人を調査した(Aron et al.[2005] J Neurophysiol 94:327-337 ).右腹側被蓋野と右尾状核という,哺乳類の報酬と動機に関連するドーパミンが豊富な領域で,最愛の人に特有の活性化が起こったのです.これらの結果は,ドーパミン作動性報酬経路がロマンティック・ラブの「一般的覚醒」成分に寄与していること,ロマンティック・ラブは感情というよりも,主として動機づけシステムであること,この刺激は性欲とは異なること,ロマンティック・ラブは時間と共に変化すること,ロマンティック・ラブは哺乳類の魅力と生物行動的に類似していることを示唆するものであった.我々は,このアトラクションのメカニズムは,個体が特定の相手に交尾エネルギーを集中させ,それによってエネルギーを節約し,生殖の主要な側面である相手選択を容易にするために進化したことを提唱している.最後に,多様な情報を報酬信号と組み合わせることができる大脳皮質は,恋愛や仲間選びの複雑な要因の解剖学的基盤として優れていると言える.J. Comp. J. Comp. Neurol. 493:58-62, 2005.

2.2 研究の目的

以下の恋愛に関連する神経機構に関する2つの仮説を検証すること(Aron et al.、2005)
1.恋愛は報酬を媒介する皮質下のドーパミン作動性経路が関与している(Liebowitz, 1983;Fisher, 1998)
2.恋愛は目標指向的な行動と関連する神経回路が関与しており,恋愛は特定の感情ではなく,様々な感情をもたらす目標指向的な状態である(Aron and Aron, 1991; Aron et al, 1995). 

2.3 研究手法

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女性10名,男性7名を口コミとチラシで募集し,現在,激しく恋をしている人を探した.年齢層は18-26歳(平均20.6,中央値21),「恋をしている」期間は1-17カ月(平均7.4,中央値7)と報告されている.半構造化面接により,恋愛感情の持続期間,強さ,範囲について口頭で聴取を行った.
予備調査では,最愛の人の写真が激しい恋愛感情を誘発する効果的な刺激であることが確認されている(Mashek et al.,2000).
実施プロトコルとして,写真を用い,4つの課題を交互に提示するブロックデザインで構成した.30秒間,最愛の人の写真(ポジティブな刺激)を鑑賞し,続く40秒間,カウントバックによる注意散漫課題を行い,続く30秒間,感情的にニュートラルな知人の写真(ニュートラルな刺激)を鑑賞し,続く20秒間,同様のカウントバック課題を行った.カウントバック課題とは8421のような大きな数字を見て,その数字から7つずつ逆に数えるというものであった.恋愛感情というのはなかなか消えないものなので,ポジティブな刺激を見た後の持ち越し効果を減らすために,カウントバック課題を取り入れた.この4部構成(またはニュートラルな刺激から始まる逆バージョン)を6回繰り返し,合計720秒(12分)の刺激プロトコルを行った.スキャン前の指示は,最愛の人との性的でない幸福な経験について考えることであった.スキャン後のインタビューにより,参加者は恋愛的な思考と感情を持っていることが確認された.

詳細はAron, A., Fisher, H., Mashek, D. J., Strong, G., Li, H., & Brown, L. L. (2005). Reward, Motivation, and Emotion Systems Associated With Early-Stage Intense Romantic Love. Journal of Neurophysiology, 94(1), 327–337. 

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2.4 研究結果

右腹側被蓋野(VTA)を含むいくつかの領域で,最愛の人の画像によって集団活性化され,それはA10ドーパミン細胞の領域に限局していた(Aron et al.) VTAは,脳の「報酬系」の中心的な部分である(Wise, 1996; Schultz, 2000;Martin-Soelch et al., 2001),また快感,全身覚醒,集中的な注意,報酬を追求し獲得する動機付けに関連する脳の「報酬系」の中心部分である(Schultz, 2000; Delgado et al;Elliot et al., 2003). VTAは尾状核を含むいくつかの脳領域に投射しており(Gerfen et al, 1987; Oades and Halliday, 1987; Williams and Goldman-Rakic, 1998),そこでも特に右内側と後背部体において集団活性化が見られた(Aron et al, 2005).尾状核は,報酬の検出と期待,目標の表象,行動準備のための感覚入力の統合に役割を果たす(e.g. ,Schultz, 2000;Martin-Soelch et al,2001; Lauwereyns et al,2002;O'Doherty et al., 2002).
Zald (2004)は,予測可能な金銭報酬の提示が,我々が活性化を認めた内側尾状体においてドーパミン放出を引き起こすことを見出した.

これらのデータは,仮説が正しいことを示唆している.恋愛は報酬系の皮質下ドーパミン作動性経路と関連しており,恋愛は特定の感情ではなく, 様々な感情につながる動機付けのシステムが主体であることが示唆された.

また,fMRIによるヒトの性的興奮の研究では,私たちの被験者に見られたものとは大きく異なる脳領域の活性化が見られることから,恋愛が性欲とは異なることを示唆している(Aron and Aron, 1991; Fisher, 1998).

加えて,fMRIの結果は,複雑な行動や情動をもたらす脳内の統合的な事象についても何かを示唆している. 
恋愛感情が高いと自己申告した人は,右前内側尾状体の活性化も大きくなっていました.この結果は,恋愛感情という特定の脳部位と特定の脳機能の関連性を示す強い証拠となる.しかし,この領域は,金銭的報酬の期待時(Knutson et al., 2001),報酬に基づく確率的学習時(Haruno et al., 2004),注意課題時(Zink et al., 2003)にも活性化していた.このことから,尾状核前内側体のこの領域は,恋愛の報酬的,視覚的,注意的側面と特異的に関連している可能性がある.

3. ガチ恋考察

3.1 既往研究の手法とガチ恋考察への応用可能性

2.3で紹介した既往研究の研究手法は,Vtuberのガチ恋への考察にこの既往研究が用いることができる可能性を示している.
この既往研究の手法では最愛の人の写真を用いて,激しい恋愛感情を呼び起こしている.これはVtuberを人間として捉えている人がガチ恋しているVtuberを見た際と類似しており,十分今回紹介した既往研究が今回の考察に利用できると考えている.

3.2 既往研究結果から考えられるガチ恋発生のメカニズム

2.4で紹介した,既往研究の結果からガチ恋がどのように発生するか考察する.
最初に,既往研究では最愛の人の画像によって報酬系の中心であるVTAが活性化されていると報告している.これはVtuberにガチ恋している人も同様に,好きなVtuber見るとVTAが活性化していると考えられる.
次にVtuberの配信によってどのようにVTA,及び尾状核を含む脳領域が活性化されるのかというのを考察する. 研究結果の報告では予測可能な金銭報酬の提示によって内側尾状体が活性化されると記述されている.また最後の部分では金銭的報酬の期待時,報酬に基づく確率的学習時,注意課題時にも右前内側尾状体が活性化していたと報告されている.
金銭的報酬に関しては視聴者側が得られるものではないため、ここの部分は関係ないと考えられる.
次に報酬に基づく確率的学習時はVtuberの配信でいうとコメントを配信者に読まれる行為に近いのではないかと考えられる. Vtuberの配信にコメントし,それが読まれるのは視聴者にとっては"報酬"であるからだ.
最後に注意課題時についてだが,これは集中して配信を見ていると当てはまるのではないかと考えられる.
これらからVtuberの配信によって右前内側尾状体が活性化されることがわかる.そして,脳内で恋愛の際と同じ部位が活性化され,対象となるVtuberへの恋愛感情が高まるのだと考えられる.

4. 参考文献

原田伸一朗. (2021). バーチャルYouTuberの人格権・著作者人格権・実演家人格権. 静岡大学情報学部. https://doi.org/10.14945/00028103

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Fisher, H., Aron, A., & Brown, L. L. (2005). Romantic love: An fMRI study of a neural mechanism for mate choice. The Journal of Comparative Neurology, 493(1), 58–62. https://doi.org/10.1002/cne.20772
https://www.researchgate.net/publication/7511905_Romantic_love_An_fMRI_study_of_a_neural_mechanism_for_mate_choice

Aron, A., Fisher, H., Mashek, D. J., Strong, G., Li, H., & Brown, L. L. (2005). Reward, Motivation, and Emotion Systems Associated With Early-Stage Intense Romantic Love. Journal of Neurophysiology, 94(1), 327–337. https://doi.org/10.1152/jn.00838.2004

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