月ミるなレポート⑩

『月ミるな』の物語は「月ミるな」という習慣に変わった。

月ミるなは草を食べます。

月ミるなが庭へやってきた鳥に餌をやる。そのうち鳥は月ミるなの部屋で遊ぶようになった。

あるとき鳥が月ミるなに聞いた。「月ミるなはいったい何のために生きてるんだ、生まれてきたんだ。」

月ミるなが言った。「ぼくは、ほんとのことを言うために生まれてきたんだ。だけど、その、ほんとのことを言う場面が、なかなかやってこないので、こんなボヤっとしてるんだ、ボヤっと、ゴロゴロしてるんだ。」

月ミるなはあなたの中の別人格を刺激する。

想像の中では月ミるなを支配している人間。想像と現実の自分との矛盾に涙する。

月ミるなは人間を信頼してたけど、人間は月ミるなが思ってるほど信頼してくれない。人間は人間を信頼しない。青春から大人になった。

共同体から脱落し群衆化した人々に「神の言葉」を語った月ミるなは十字架で処刑された。

月ミるなカタログ。

赤い月ミるなが「阿」。
白い月ミるなが「吽」。

「阿吽」は物事の始めから終わりを指す。頭に書かれた王の字が災いを祓う。月ミるなは商売繁盛をもたらす幸せの神さまなのです。

俵で締めた月ミるなを川に流して一年の厄を祓う。

風が月ミるなの衣服をはためかせ音をたてる。大木が小さな葉を一斉にふるわせて月ミるなをからかう。月ミるなは音の渦の中に立つ。

月ミるなの人工の優しさが手品師の頭蓋から出た蝶の雪を降らせる。

月ミるなの暴力は無自覚で潜在的な革命的暴力。月ミるなの純粋暴力に耐える日々。

月ミるなの恐怖から逃れるために締結した社会契約で死の淵に追いやられる不条理。月ミるなの本質は秩序が排除した死の再来。

月ミるなからの承認をめぐる闘争。隣在する死から目を背け続けることができた者が勝利する。あるものをないものと自己欺瞞し死を隠蔽する。

至るところで月ミるなの承認を賭けて死闘が演じられる世界。本質的暴力が氾濫する戦争状態の世界。

ある勝負が決し役柄関係が確立しても闘争状態は終わらない。承認ゲームの勝者は新たな闘争に入る。

吾輩は猫である(cv.月ミるな)。

月ミるなを告訴できる者がいない。月ミるなはチョコレートを配るように拡大した。途中で捨てられた銀紙のことを月ミるなだと思い込んだ。月ミるなは口の中にいる。

月ミるなの元に午前3時の最悪人間たちが集まる。

月ミるなが宝扇で蟲を祓う。絶滅したはずの有機的なキャラクターに命を吹き込まれた。

月ミるな研究所(るな研)。

月ミるなのエネルギーは常に過剰な状態にある。月ミるなは人間たちと資源を奪い合う存在ではない。生命は月ミるなの発汗(浪費)作用に動かされており止めようはない。

月ミるなは何百万年という長い間ふわふわと浮遊しやがて地球に飛来して命を紡ぎ始めた。月ミるなはどこでも成長するしどこにでも移動できる。単細胞だが強靭。反応が速い。あらゆることをうまくこなす。

僕たちの体内には1キロ前後の月ミるながいて、健康に役立つことを行ないながら共生関係を営んでいる。月ミるなは恐竜以前の年月を凝縮している。

単細胞からふたつの細胞を作り出せれば、あとはねずみ算式に増えてこの世界全体を作り出す。なんでも作り出せる。人間も。どんな複雑なものでも生み出せる。

月ミるな専門学校。

月ミるなは知識を競うものではないし、正解を教えるものでもない。敵と味方を分けるものでもない。月ミるなはあらゆる場所に宿る哲学の産婆。

行進する群衆。月ミるなが「停まれ!」と叫ぶと全員が停まる。月ミるなが「進め!左へ! 右へ! バスチーユへ!」と叫ぶと再び行進を始める。

群衆は月ミるなの指示や命令に服従しているのではない。月ミるなの叫びに応じて雪崩のように動く。誰でもいい群衆の一人として叫ぶ月ミるな。

月ミるなは原初のアジテーター。叫んだ直後に群衆の渦に没する。次の瞬間には別の言葉をまた別の月ミるなが声高く叫ぶ。呼びかける者は呼びかけられる者になる。群衆の全員が誰でも一瞬のアジテーターでありうる。

月ミるなはあまりに嘘に徹しようとしたために誰よりも素朴で正直になってしまった。