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売れてほしいけど、人が増えるのは嫌だ

うちのお店は一人で来られる方が多くて。

常連さんのほとんどはそうだと思います。

前に言ってみた事があります。

「たまには誰か連れてこい」

「いや、ここには誰も連れてきたくないんです」

「なんで」

「万が一何かあったら嫌じゃないですか」

「確かに、俺のせいか」

「あと、一人のほうが落ち着くので」

分からなくもなくて。

僕も自分の好きなお店ほど一人で行くし、連れて行くとしても人を選ぶ。

そのお店が人気になるのを複雑な気持ちで応援してた気もする。

売れてほしいけど、人が増えるのは嫌だ。

きっと、うちの常連さんもそんな気持ちがあるのではないかと。

(僕の口煩さは一旦置いておこう)

それはそれで嬉しくて、誰かにとって大切な場所になれてるならいいかと思うんですが、昨日は違った体験があって。

ずっと一人で来てた人が、妹さんを連れてきてくれたんです。

家族ってのがポイントで。

たまにあるんです。

いつもの常連さんが不意に誰かを連れてきたと思ったら「お母さんです」とか「妹です」とか「兄です」とか。

うれしはずかし。

いつも以上にちゃんとしなきゃと、何故か背筋が伸びるのです。

きっと常連さんは家で話してくれてるんだろうな。

この店の事を。

それで連れて行けとなってるのではないかと。

連れてくる常連さんは最初ちょっと恥ずかしそうで。

渋々連れてきた感があるし。

僕は僕で期待を裏切れないといつも以上に気合いが入ります。

お店の運営だけを考えると、お客さんが多いほうがよくて。

一人よりも二人で来てくれたほうが売上は上がるし、連れてきた人がまた誰かを連れてきてと、ねずみ算式にお客さんが増えていくのが理想かもしれません。

でも、それはそれというか。

一人で行ける場所というのは誰しもに必要だと思っていて。

そんな場所が幾つもある人は珍しく。

大抵一つか二つかな。

だから大切にしてほしい気持ちがあるんです。

僕にも大切な場所があって。

そこには誰も連れて行きたくないけど、誰のお願いだったら聞けるかと考えたら、たしかに家族ぐらいな気もしていて。

そんな事を考えると、昨日連れてきた常連さんも同じ気持ちだったのかと思い。

これはまあまあ大きな出来事だったのかと思ったのです。

お店の事を凄い考えてくれる人もいますが、まずは自分の楽しみを優先してください。

無理して誰かを連れてくる必要はないです。

でも、強いて連れてくるとしたら家族。

みたいなのは、嬉しいです。

一家総出で応援してもらえるのは、なんか愉快で面白いので。

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