ルワンダの子供たちに、背中をピシっと正してもらった話。【短編ストーリー:ルワンダ】
ルワンダの子供たちに、「マニー!マニー!」と声をかけられた。
(わあ、お金か…。)
(この子たち、この年で物乞いしてるのか…。)
(でも、あげるわけにはいかないよな…。)
そんな風に思ったことをのちに激しく反省することになったのは、なぜか。そんなお話です。
***
ルワンダ北部のギセニ地域でのこと。
コンゴ共和国とルワンダを隔てるキブ湖や、活火山であるニーラゴンゴ山などの雄大な自然を誇るこの場所で、コンゴナイルツアーというサイクリングコースに挑戦しました。
この写真は楽な道だったのであまりハードさがつたわらないのですが、とにかく容赦のない坂道を登っていくこのコース。
でも何がユニークかって、普通に人が生活している村をたくさん通っていくところなんです。そして、道が一本しかなくて、その道沿いにしか民家がないため、とにかくたくさんの人を通り過ぎていくんです。
そんなコースを必死に上っていた時のことでした。
4,5歳くらいの数人の子供たちに、笑顔で
「マニー!マニー!」と声をかけられたのは。
悩んだ末、「マニーはないよー!」と返事をしようとしていたら、
一緒に自転車をこいでいた付き添いのガイドさんが、
「グッマーニン!」
と返事をしたんです。
「・・・・!!!」
なんと、私が「マニー(Money)」だと思っていた子供たちのセリフは、「グッドモーニング(Good Morning)」だったのです…。
グッドモーニング→グッモーニン→グッマーニン→マーニン→マニー
私には、Moneyと、聞こえてしまっていたんです…。
その時、ハッとしました。
私は、貧しい村の子供たちがいかにも言いそうな言葉を想像して、きっとMoneyと言っているんだろうと勝手に思い込んでいたのではないか、と。
猛烈な反省と恥ずかしさと申し訳なさで、心の中で、「ごめん…!」と叫びました。
子供たちはもちろんそんなことを知る由もなく、屈託のない笑顔で
「マーニン!」と挨拶をし続けてくれていました。
***
それから続いた4時間の(辛すぎる)サイクリング。
おそらく、その間、合計50人の子供には挨拶をされたと思います。
「ハロー!」
「グッマーニン!」⠀
「ハウアユー?」
私たち外国人がチャリに乗ってきたぞ!ということに気づいた瞬間、学校で習ったばかりの英語を、一生懸命使ってみているんですよね。
それに対して私たちも、
「Hello!」
「Good morning!」
「I'm good! How are you?」
と返してあげると、嬉しそうに笑う子や、照れて顔をうつむいてしまう子や、はしゃぎながら追いかけてくる子などがいました。
ちょうど登校時間に被ったときには、私たちを全方位から囲うように子供たちが寄ってきて。そして楽しそうに笑いながら、並走して。
中には、ハンドルを握る私の手の上に、自分の小さな手のひらを乗せて嬉しそうに見上げてくれる子まで。
なんて、無邪気なんだろう。
なんて、ピュアなんだろう。
この子たちにとっては「貧困」とか「人種」とかは、関係ないんだな…。
心がほっこり温まった瞬間でした。
***
しばらくすると、大雨が降ってきました。
ヘルメットなんてまったく意味もないくらいの、大粒のスコール。
私たちは仕方なく、民家で雨宿りさせてもらうことにしました。
民家といっても、泥のレンガで手作りされたような、照明なんてないようなお家。
「え、入っていいのかな…。(お金取られるかな…。)」
思わず躊躇をしてしまったのだけれど、家の人たちは皆温かく迎え入れてくれた。
中には、杵と臼のようなもので緑の野菜をゴリゴリ潰しているお母さんと、子供たちが10人くらい。雨のせいで皆やることもなく、私たち黄色人種二人が注目の的になっていました。
そこで、この子たちと友達になろうと決め、夫婦そろってiPhoneを取り出して、写真を見せたり、手書き機能で算数の問題を出したりしました。
2+5=?
6x9=?
この辺りまではスムーズだった10歳の男の子。
6+4x2=?
という質問を出したときに、ありがちなミスをしてしまいました。式の順番通り、足し算からやっちゃうパターンですね。
でも、ちゃんと教えてあげたら最後は理解し、分数や小数点の質問までクリアできるようになったんです。
"More question!" (もっと質問出して!)
と言われて、もはやこっちのほうがネタ切れになって困っちゃったり、質問の出し方をミスって分かりづらくなってしまい、反省したくらいです。
彼らは、学校や家庭教育の機会でいえば、比較的恵まれていない立場かもしれません。
でも、好奇心や学ぶ力、コミュニケーションを取ろうとする力や人と人とのつながりを楽しもうとする力でいうと、私たちとまったく一緒なんです。
雨に降られて困っていた私たちを、助けようと、心から思ってくれるような人たちなんです。
国際協力とかボランティアの世界ってよく「〇〇してあげる」というような、あたかも恵まれている人が恵まれていない人への支援をするという見せ方がされるけれど、違うんだなと改めて感じます。
おんなじ人間なんだけど、生まれた場所が違うだけ。学んでいることが違うだけ。生活のスタイルが違うだけ。人間としてどっちが不幸とか、どっちがすごいとか、そういうんじゃないんだよなと。
頭では分かっていたけれど、ギセニの子供たちの輝いた目と無邪気な笑い声に触れたことで初めて、心の中にストンと落ちた気がします。
でも、やっぱり、現実は現実。
子供たちはほぼ90%全員挨拶してくれるのに対して、大人たちは90%が無言でスルーでした。
相当たくさんの人を通り過ぎていきましたが、高校生くらいの年齢から反応をしなくなるんだな、というのが顕著でした。
中には、「金を恵んでくれないか」と言われるような場面も、ありました。
大人になるにつれて、どんどん「疑い」とか「欲望」とか「羨み」といった感情が、ピュアな心をむしばんでいくんだなあ。
それが現実。だから、それ自体は仕方がないことだし、子供が大人になる中で辿るべき成長過程なんだと思います。
でも、たまに、疑いのないキラキラ笑顔で「ハロー!」と言ってくれる大人もいるんですよね。
そしてきっとその人たちは、観光客だって村人だって家族だって、同じように「ハロー!」と挨拶しているんだろうな、と思ったんです。
私は、そんな大人でありたい。
世界の嫌なところだって醜いところだって知っているけれど、それでも、「人はみんな同じ、人である」という考え方をもってして、誰とでもピュアに接することができる、子供のような大人。
冒頭の私みたいに、「アフリカの子供だからきっとお金が欲しいんだろう」なんてとんでもない先入観をもっていない、子供のような大人。
そんな大人になりたいなと、思わせてくれるサイクリングツアーだった。
自分は、まだまだだ…。
ルワンダで出会った子供たち、そして一握りの「子供のような大人たち」へ、尊敬の気持ちを込めて。
ムラコゼ!(Thank you!)
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