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大虐殺を生き延びたからこそ、僕は漫画を描く。- ルパート(ルワンダ)【Part 3】

ルワンダの大虐殺を生き延びた、漫画家のルパートさん。
Part 1で大虐殺の歴史を振り返ったうえで、Part 2では、父親が大虐殺の餌食となってしまったときの、最期に放った一言についてお伝えした。
三部作最後となるPart 3では、ルパート本人の逃避劇、そしてそれをバネにして力強く生きている今の生き様についてご紹介する。

また、皆様の感想コメントをルパート本人にも直接届けたいと思っているので、是非最後まで読んでいただけると嬉しい。

「信念」が武器になる、ということを知った日

「父、妹、祖母を家に残した僕たちは、必死に走りました。
やっとの思いで教会にたどり着くと、他の避難者の人々と共に、おびえ続ける毎日が始まります。

当時のルワンダには、植民地時代から受け継がれてきた教会に、白人の牧師たちが長年従事していました。僕らをかくまってくれたのも、そんな牧師たちです。
しかし。
ある日突然、白人の牧師たちが全員母国に帰されることになったんです。
虐殺の状況にやっと国際社会が注目するようになったと思ったら、『まずは外国人を救いだそう』という動きになったわけです。
僕たちは、牧師を頼ってきたのに、あっけなく見捨てられた。
牧師たちも、不本意だったのかもしれません。でも、裏切られた悲しみは、深く、辛いものでした。

しかしそこで、『負けてはいけない』と声をあげた一人の男がいました。
アルベルトという名のその男は、『生き延びるためには、強くい続けなければならない。パニックしてしまってはおしまいだ』と、周りの人々を鼓舞してまわったのです。

的は、政府の軍隊の支援を受けている。彼らが銃や爆弾をもって襲ってきたら、そこにいる1000人近くが一瞬にして全滅してもおかしくない。
『それでも、自分たちは自分の身を守れる、と信じるしかないんだ』
そう語るアルベルトのもとに、5名の勇敢な若者が賛同し、戦う意欲をみせました。

そんなとき。
『もうお前らは終わった』
敵の兵士たちが現れたんです。

アルベルトたちは、ひるむことなく立ち向かいました。
『やってみろ。戦うぞ。』
あたかも彼らと匹敵する武力をもっているかのような堂々とした態度で彼らを出迎えたのです。

すると、なんと、ひるんだのは敵のほうでした。
(こいつら、まさか何か武器を持っているんじゃないか‥?)
そんな不安を感じたのか、一目散に退散したのです。
彼らは、あまりに余裕のあるアルベルトたちを見て、もしかしたら国連やベルギー軍から武器を支援されているんじゃないか、と疑ったんでしょう。

まさかの展開でした。
当のアルベルトでさえ『驚いたよ』と語っていたほどです。『まさか本当に逃げるとはね』と。

武装した敵を目の当たりにしてそんな態度をみせられるとは、なんという強さなんだろう…

何かのために戦っている人は強いんだと。そんなことをアルベルトから学んだような気がしますね。
自分を突き動かす強い力と信じる心がある人は、負けないんだなと…。

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しかし、もちろんそれで一安心するほど余裕はありません。

それからの一週間、食料もままならないまま恐怖におびえる日々が続きました。
そんな状況を救ってくれたのは、赤十字でした。
他のNGOらがあっけなく撤退していった中、彼らだけは違った。唯一つながっていた電話機から誰かがかけたら、水と食べ物を届けに来てくれたんです。自らのスタッフが命を落としているような状況の中で、銃弾をかわしながら来てくれた。あんなに素晴らしい組織、見たことがありませんよ。

2週間後。
ついに、敵が今度は政府軍を背後に連れてやってきました。
もう、太刀打ちできる力は残っていません。抵抗なんてしたら即死だろうということは明白でした。

『落ち着こう』
ここでも、前にでてくれたのはアルベルトでした。

『おまえらをグループに分けて殺していく』
敵軍はそう言い放ちました。

この頃、国際社会からのルワンダへの批判がさらに強まっていたんです。
だからといって直接介入をしてくれたわけではなかったんですけどね…
でも、彼らは一応その批判の目を気にして、目立つ場所で一気に大量殺人をするよりは、隠れた場所で少しずつ殺していく戦法をとったんでしょう。

そう言われたとき、アルベルトは即座に『まずは男性が行く』と回答しました。

そうして、アルベルトは、最初のグループの一員として、銃で殺されてしまいました。
でも僕は、彼の見せてくれた強さを忘れることはありません。

死ぬはずだった自分が生きている

その日、100人の命が奪われました。
僕が生き延びたのは、ただの運でした。

僕は、移動させられた先の教会内で小さな部屋をみつけて、そこにいた4名の人とともに、ビクビク震えながら息をひそめていました。
窓もドアも開いたままでした。閉める気力も、残っていなくて。
そこに、静かに、敵があらわれたんです。

僕は、ドアの隙間から覗き込んだその男と、目が合いました。
死んだな。

そう思った瞬間、なんと、その男は立ち去ったのです。
未だに、なぜだったのかはわかりませんね。

僕らはその部屋をそっと抜け出し、次に見つかった部屋に必死に走りこみました。

すると今度は、近くに爆弾が落ちてきて、爆風で吹っ飛びました。
今度こそ、死んだな。
そう思ったはずだったのに、体はまだ動いていました。あれ、まだ生きてるぞ…という不思議な感覚でしたね。

そしてその夕方のことでした。
ツチ族を中心とした反政府グループである「ルワンダ愛国戦線(RPF)」が、僕らを救い出してくれたんです。
どうやら、その数時間後には、フツ族側が僕ら全員を殺しにくる計画だったそうです。
まさに、間一髪というところだったんです。
でも、そうして、僕や、母や、他の兄弟たちも、全員生き延びることができた。

未だに、振り返ってみて、あんな状況を生き抜くなんてことが可能なはずがない、と不思議な気持ちになることがありますね。
アルベルトや父が死んだのに、僕は生きているのはなぜだ、って。
神は、きっと何か理由があって僕らを生かしてくれたんだろう、って。

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生き延びたからこそ、選んだ道

大虐殺は、RFP軍が領土をどんどん占領する形で、数週間の月日を経て終焉しました。
人数的にも軍備的にも、敵には劣っていた。けれど、彼らには「何かのために戦っている」という信念があったから、強かったんですよね。

国連を含め国際社会は、何もしてくれなかった。けれど、ルワンダは、ルワンダ人の力で、流血を止めたんですよ。

その後、僕ら家族は本当に何もないところから、少しずつ生活を立て直していきました。
そして僕は数年後、カナダに移住し、自分の体験を記録するための漫画を描いたわけです。

なぜなら、それが僕の宿命だと思ったから
僕が信念をもって何かのために戦うとしたら、それしかないと思ったから

きっとそれが自分に課された宿題なのだから、それを信じてやるしかない、と。

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本音を言うと、当時の体験の話なんて全然したくありませんでした。思い出したくもなかった。
でも、奮い立たせていざ漫画を描きだしてみると、その過程で、自分の中で少しずつ過去を消化していくことができたんです。
後から知ったんですけど、セルフセラピーっていうみたいなんですよね。
あのとき何が起きたのか、父やアルベルトから学んだことは何だったのか、それを経てこれからどう生きていきたいのか。そんなことをじっくり考えるためにも、漫画を描くプロセスはとても大事な時間でした。

そのおかげで、自分はこうして今、二人に話すこともできてるんです。
僕の物語は色んなところで読まれるようになりました。ハーバードジャーナルに記事が掲載されたりもしました。
それがキッカケで、ユニセフなどともつながって、あらゆる社会問題を漫画で伝えるというキャリアを築くことができたのです。」

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今は、二人の可愛い息子と美しい奥さんとともに幸せな生活を送っているルパート。その温厚で落ち着いた笑顔の裏には、自分の宿命を真正面から受け止めて、大虐殺の生存者としての役割を必死に果たそうとしている強い信念がメラメラと燃えていた。

私達にも何かできることはないか・・・そんな風に思って、聞いてみた。

「日本の方にも、このストーリーを伝えていきたいんです。
是非協力してほしい。
あの時のような悲劇は、もう起きてはいけないから。漫画でも、講演でも、どんな形でも良い。二人にこのストーリーを伝えてもらえるのであれば、僕も嬉しいですよ。

アルベルトが教えてくれた通り、『信念をもって何かのために戦う人は強い』と思っていて。
君たち二人は、まさにそんな信念をもって旅をしている。素晴らしいことだと思うんだ。応援しているよ。」

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編集後記

2020年、3月。
ルパートのAirbnbには、予定よりも数日多く宿泊させてもらった。というのは、本来次の国であるタンザニアに移動しようと思っていた頃、コロナウイルスがアフリカ内でも広がり始め、あらゆる航空会社や国が閉鎖し始めていたからだ。

一旦冷静に状況を見極めよう。そう決めて、しばらくルワンダに残ることにしたのだ。

「いつまでいてもいいよ」

そう受け入れてくれたルパートに、コロナウイルスについてどう思うのか、と聞いてみた。彼にはまだ幼い息子が二人いる。医療環境も万全ではないルワンダで広まったら、どうなってしまうんだろう。

「死ぬときは、死ぬときだ。僕たちにできることなんて限られているだろう。リラックスすればいいんだ。」

・・・

言葉が出なかった。
ルワンダ人は、何が起きても動じない、そんな芯の強さも備わっているのだなと改めて感じた瞬間だった。
ルワンダの大虐殺を生き抜いたルパート。
彼のストーリーを3部作にわたってお伝えしてきたが、いかがだっただろうか。

私達と彼が経験してきたことは、あまりにも違う。天と地のような差がある。

それでも、こうして、同じテーブルで朝ごはんを食べたり、テレビを見たり、コロナウイルスについて語り合ったりしたのだ。

「人間、皆違うけれど、皆同じなんだよね」

そんな言葉を、旅中に何度も耳にしたのだが、今回もそれを実感するような体験だった。

歴史上の人物だって、争い合っている部族だって、遠い国に住んでいる知らない人だって、皆人間であり、仮に偶然出会うことがあるのであれば、対話をしたり、過去を共有しあったりすることができる人たちなのだ。

だから何?
と思うかもしれない。

私も今実をいうと、だから何なんだろう?とちょっと悩みながら書いている。
でも、この気づきは、なんだかすごく大事な気づきだと直感的に思っているし、その感覚を味わったことがない人には是非今すぐにでも旅に出てほしい。まあ、コロナが落ち着いたら。

最後に、感想コメントのお願い

3時間にわたって体験談をシェアしてくれたルパートに敬意を払いたい。
この話を聞いて皆さんがどう思ったか、その感想を本人に伝えることができれば彼もすごく喜んでくれると思う。
もしよかったら是非、コメント欄、もしくはツイッターにて、感想を書いてください。私達のほうで責任をもって英訳して届けます!

もし彼の漫画「Smile Through the Tears - The Story of the Rwandan Genocide」に興味を持ってくださった方がいればそれも併せて教えてください。

※ツイッターでコメントを頂ける場合は、本ツイートをRTもしくは直接DMにてお送りください。
※彼の本を日本でも出版したい!なんて方がいたら、おつなぎします。

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