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展開に困ったら取り敢えず月を割れ



はいどうもー。いやー、去年のパルプの盛り上がりはちょっとしたどころじゃない歴史的事件でしたね。言うまでもなく、第1回逆噴射小説大賞のことですよ。平成最後の逆噴射小説大賞にふさわしい盛り上がり。選考したダイハードテイルズの皆様も逆噴射先生も、そして応募した異能者の皆様、本当にお疲れ様でした。というか、急に1000人単位とかで大量発生した異能者が気軽に原稿を投げつけてる様子を見てて、審査する先生方がマジで過労死するんじゃないかと気が気でなかった。



でね、年も改まったので、逆噴射大賞に応募しなかった俺だけど、早速偉そうに言わせてもらう。絶対面白いんだから、逆噴射大賞に応募した異能者は全員続き書けよ!

まったくなんだよ! 気軽に400字書いて原稿投げつけたらダイハードテイルズ公式アカウントがリツイートとかnoteで紹介とかしてくれてみんなが読んでくれるってチョーうらやましい! 死ぬほどうらやましい! これがどんだけうらやましいか、あなたは自覚してます? 俺も勝手に忍殺スピンオフみたいなのを書いてたまに公開するけど、俺が書いたやつを公式アカウントがツイート・リツイートしてくれたことなんて今まで一度もないんだぞ!……もしかして、俺って公式から避けられてる?


一年くらいためしにツイッターで物理肉体エージェントに宣伝させてみたけど、なんか書けば書くほど読まれなくなってる。読んでくれた人がツイートしてくれなきゃこんなもんだ。逆に、頭おかしいようなやつが書いた「モンストレス」の滅茶苦茶なレビューらしき記事はなぜかダイハードテイルズ公式がツイートしてくれて読まれるんだから理不尽。



「止めたらいかん。俺が見てるから、楽しいことやめないで」っていう本兌先生のありがたいお言葉もありましたが、実際、ダイハードテイルズの先生方がほんとに見てくれてんのかどうか、みんなの作品をツイートとかしてくれないと書いてるみんなは分からないから、「ほとんど誰も見てくれてないのか」って思って止めちゃいますよ? 俺もやめちゃうかもですよ? だから、気軽に俺が書いたのを、俺が自分で言うのは恥ずかしいからこっそり言うけどチョー面白いやつを、ツイートしてくれてもいいんですよ?

ってなんか横目でチラチラ見る感じが自分でもキモいのでこんな話は止めだ止めだ。俺が言いたいのはとにかく、これまでフィクションなんか書いたこともなかったのに逆噴射小説大賞がきっかけで気軽にフィクションを生み出して応募した奴は、自分で分かってないかもしれないけど全員異能者としてうっかり覚醒しちゃってるんで、異能者としての振る舞いかたを身につけて続きを書く責務があるってことです。

だいたいね、普通生きててある日突然フィクション書こうと思いついて実際にさっさと書いた上にネットで公開して他人に読ませようとしますか? しかも、ほかならぬ逆噴射先生に無理矢理読ませるとかめっちゃ怖い。それをやっちゃって逆噴射小説大賞に応募した人はだから異能者なんです。気軽に書いてみようかなと思った途端に、実際にオリジナルの設定やら主人公やらをあれこれ思いつくどころか、さらにこれまで地上にもネットにも存在しなかった新たなフィクションとして具体的なテキストの形でこの世界に現出させたあなたは、普通に考えてヤバい異能者ですよ。そんなやつ普通いないって。それを自覚してください。そして続きを書いてください。

そんなふうに上から目線で偉そうに言われたあなたの反応は大体分かる。「ほんの思いつきで応募しただけなのに、僕に続きを書いて完結させる才能があるなんて決めつけるなよ!」「本当は続きが書きたいけど、原稿に向かっても続きが思い浮かばなくて……」「次の展開を考えながら書いてるうちに、どんどん変な方向に行っちゃって、書いたものの出来に納得できない……」こんな勘違いが原因のモチベーション喪失で断念してせっかくの異能を腐らせるのは勿体ない。

だから俺は一切の出し惜しみなくあなたの勘違いを指摘して、どうすればいいのか教える。俺にはそれが可能です。なぜか。人間なんてみんな似たもの同士だから、みんなおんなじようなところで躓く。ダークソウルシリーズが面白いのは、みんなおんなじところで死にまくるゲームデザインだからですよ。んで、死にまくったとはいえあなたより先にボスを倒した俺は、あなたがボスに殺される原因を指摘できるし、どうやってボスを倒せばいいのか、その攻略法を伝授できる。ダクソみたいな高難易度ゲームでも全然死なずにクリアできるような天才ゲーマーじゃない俺だからこそ、それが出来る。

だから俺はまず最初にズバリと指摘します。あなたは本当は、物語を考えはじめた時は本気で逆噴射大賞に応募しようと思ってなかったでしょ?


異能の本当のヤバさが既に面白さを保証してる


何度でも繰り返すけど、たとえ冒頭400字だけであってもオリジナルの、新たなフィクションを生み出すなんてことを、「ほんの思いつき」みたいなきっかけで実現してる時点で異能者はヤバい。けど、本当のヤバさはもっと奥深いところにある。

逆噴射大賞の告知を最初に見たとき、すぐさま「大賞ゲットしてやるぜ!」って勢いづいて書いた人なんて、ほんの少数だったはずです。大多数の応募者は、これまでフィクションを書こうとも思わなかった一般人だから「逆噴射小説大賞……面白そうだけど、自分がフィクションを書くなんて……ましてや、自分が書いたフィクションを他人に読んでもらうなんて……」って最初は考えたでしょう。

なのに、冒頭の400字だけ書けばいいっていう、一見するとハードルが低いっぽいレギュレーションだから、「別に本気で書いたり応募しようとは思わないけど、別に誰に読ませるわけでもないし、遊び半分で設定や主人公を考えてみるかな」くらいの軽い気持ちで物語を考え始めて……そしてあなたは異能者として覚醒した。

軽い気持ちで、遊び半分で設定や主人公を考えてみたあなたは、その異能故に、すげえ面白い設定やめっちゃクールな主人公を数時間なり数日なりの短期間であっという間に生み出してしまった。しかもそれがどれだけ面白いかというと、別に本気で書いたり応募したりするつもりなんて全然なかったあなたを執筆に駆り立てるくらい面白かった。あなた自身がその面白さに抗えずに否応なく執筆してしまうほどチョー面白かった。それほどまでに面白い物語を生み出したからこそ、あなたの異能はマジでヤバいのだ

そうして異能が生み出した物語にエキサイトしたあなたは、たとえ冒頭400字に過ぎなくても自分で絶対に面白いと確信した物語を執筆し、実体化させた。それを自分で読んでみてやっぱり完全に面白かったのであなたはますますエキサイトし、自分が書いたものを他人に読んでもらうなんて……みたいな心理的抵抗は何処へやら、気づいた時にはnoteに自作をアップし逆噴射小説大賞に応募してしまっているという有様だ。自分が思いついた物語に自分でエキサイトして我を見失った挙げ句応募に至ってしまうなんて、一般人を基準にすれば異常そのものだ。だけどあなたはヤバい異能者なんだから仕方ない。諦めろ。

要するに、俺があなたの物語を絶対に面白いと断言するのは、異能が生み出した物語の冒頭だけでその面白さがあなた自身をどうしようもなくエキサイトさせて執筆公開という異常行動に走らせたという明白な事実があるからです。

いやもちろんね、実際にあなたが書いたものを読んで俺が面白いと思うかどうかは別ですよ。他人に読ませて面白がらせるには、他人に文章で伝える技術っていうのが異能とは別に必要ですし。けど、異能に加えてそういう技術まで最初から持ってる奴なんか絶対いない。絶対は言い過ぎかな? まあ、いたとしても異能者の中のさらに1000人に1人とかそういう確率でしか存在しないんじゃないの? 適当だけど。いずれにしろ、どんな異能者でも、技術のほうは技術を意識しながら色々読むとか、実際に書くことを通じて練習するかどうかして身につけるしかないですよ。

他人に伝える技術の習得のために俺がおすすめするのはこれ。

「こんなお上品な作文講座みたいなのに用はねえよwww」ってみんな思うでしょ? 俺もそう思ってた。それで冷やかし半分で読んでみて即座に反省した。これね、テキストの純粋な素の強度を鍛え上げるっていう観点が貫かれた良書。pv稼げるブログの書き方だとか先生に褒めてもらえる読書感想文の書き方みたいなもんとは全く別物と思ってください。自分が書いたテキストを「これでいいのか? いいのか?」って批判的に見ながら自問自答してとことん叩き続けることが要求される、すげえ厳しい修行の指南書です。これより良いテキスト指南があったら教えてください。

話を戻すと、絶対面白いと思ったのに逆噴射小説大賞の審査では評価されなかったからって落ち込んでるそこのあなた! 勘違いすんな! あなたは現時点で読者に伝えるための文章の技術面がおろそかになってるかもしれないけど、だからって、あなたの異能のヤバさも、あなたの生み出した物語の本来の、あなたが知ってるその面白さも全然損なわれてない! 俺が絶対面白いって断言できる物語をあなたが中途半端に放置するのは全然納得できねえ!

「そうは言っても……」ってモチベーション上がらない人もいるでしょう。書くモチベーションがないと書きながら鍛錬とかするモチベーションも当然湧かない。つらい。そのつらさが俺には完全に分かる。

書きかけの原稿ファイルを開いて続きをどうしようかってあれこれ考えつつも良いアイディアが思い浮かばない中で、それでも自分を叱咤激励しながらチマチマ書き足してみたテキストが、自分で読んでみても正直面白くない……すげえつらいよね。自分には才能がないのか……って諦めそうなときの無力感。書いたことがあるやつだけにしか分からない、虚無の暗黒の気配に怯えるあの感覚。

だがここで、俺はあなたの最大の勘違いを容赦なく指摘する。あなたは既に、チョー面白いフィクションを書くために必要な唯一の才能、すなわち、フィクションを生み出すという異能に既に覚醒してる。その他の才能は一切必要ない! つまりあなたは才能がちっとも欠けてない! 続きを最後まで書くことが出来なかったり、続きを書いてみたけど自分でも納得できなかったりするのは、単に方法を間違ってるからにすぎないんです!

だから俺が、絶対に最後まで書ける、チョー面白いやつを完成させることが出来るみっつの方法を教えてやる! 耳かっぽじって良く聞きやがれ! 

その方法の最重要ポイントは、忍殺を引き合いに出して言うならば、展開に困ったら取り敢えず月を割れってことです。つまり、


1 ラストを先に決めろ!


これです。これがストーリー構築の上で最も効果的です。もちろん、これが唯一の正しい方法とまで断言は出来ません。出来ませんけど、書きながら次の展開を考えるみたいな書き方でラストを目指すよりも、ずっと楽ちんで効果的だと結論せざるを得ない。原稿に向かって書きながら次の展開を考えるっていう執筆手法は、よほど書くことに慣れた人か一握りの天才でもなければ、即刻やめたほうがいいと思ってます。

ここでみなさん、原稿書こうと思って原稿ファイルを前にしている時って、自分の脳みそはどういう状態だと思います? まず例外なく、これからどういうテキストを書くか、どういう言葉を選んでどう描写すればいいのかっていうことに集中する表現モードになっているはずです。そういう表現モードに入っている脳みそで同時にストーリーの展開とか内容を考えるっていうのは普通無理ですよ。人間の脳みそはそういうふうに全然別ベクトルの思考を同時にこなすようには出来てないですもん。一握りの天才みたいな人はどうか分かりませんが、人間おのずと出来ること出来ないことに限界があるのは仕方ない。

だから人間の脳みその性質上、ストーリー展開とか物語の内容を考える時は原稿からいったん離れたほうが絶対良いと思います。物語の内容面とかは、寝っ転がるなり散歩するなりしながら考えましょう。原稿を前にしながら無理矢理次の展開についてウンウン悩んでも、無理に複数の思考を同時並行させようとして苦しむどころか、かえって書けない状態が続いてネガティブ思考になっちゃうだけです。

そしてストーリーとか物語の内容面とかを考えるにあたって、最初の出だしや主人公をはじめとする主要登場人物のアイディアや物語の設定とかがある程度固まってるなら、次は真っ先にラストを決めるべきです。特にあなたがお話の次の展開を考えるのに詰まってるなら、絶対に、次の展開を考えるのはストップして、その代わりにラストをどうするかを考えたほうがいい。どうしてか。世の中のチョー面白いフィクションは、大抵ラストから逆算してストーリーを構築してるからです。だから絶対この方法を真似なきゃ損! お話の途中や次の展開をどうするかなんてことはひとまずほっといて、展開に困ったら取り敢えず月を割れ!

って言われてもこの手法に抵抗がある人も多いでしょう。「物語のラストって、物語のはじめから物語の展開が積み重なった上で迎えるものなのに、途中の展開を無視してラストを考えても良いの?」ってどうしても思っちゃうのが普通。だけど既に面白いフィクションを作ってるやつらの手法を検証する限り、やつらは物語の始まりすら余り考慮に入れてないっぽい。

忍殺を例に出して解説します。ご存じのとおり、あの壮大なトリロジーの最終章クライマックスでは月面決戦の果てに主人公のせいで月が砕ける。んで物語の始まりのほうに目を向けると、第三部の時系列的に見た始まりは、復讐を果たしきった末に虚脱状態になったニンジャスレイヤーこと通称フヌケドのエピソードになってるわけです。最初と最後だけ見ると、フヌケドが復活して暗黒非合法探偵になるっていう話から始まったのが、どうして最後月が砕けるんだよ! いい加減にしろよ! ってなる。だけど第三部をラストまで読んだ忍殺読者ならみんな知ってるとおり、それで全然問題ない。

ここで、物語の始まりと終わりの間の中間部分に目を向けてみましょう。第三部の連載の初期や中期の時点で早くも、何故か月の裏側が重要になるエピソードや、何故か悪の組織アマクダリ・セクトがニンジャを乗せた宇宙ロケットを飛ばすエピソードみたいな、それまでのストーリーの文脈からは唐突過ぎる展開があります。何でそんなエピソードが入るのかっていう説明は殆どなくて読者は断片的な情報から推測するしかないし、アマクダリ・セクトの思惑が明かされるのは物語の終盤になってから。

それでですよ、この点を考えてみてください。もし忍殺の作者であるボンド&モーゼス(以下「ボンモー」)が、最初に物語の始まりを考えてから、ラストをどうするかを決めずに時系列順で物語の展開を順番に考えていたとしたら、いきなり唐突に月の裏側を持ち出したり宇宙ロケット飛ばそうとかいう発想が出てくるでしょうか? ボンモーは相当に狂ってるので、もしかしたらボンモーのどちらかが唐突に「理由もなく急にロケット飛ばしたくなった。後の展開は知らん」みたいなことを言い出した上にもう一人もこれを了承した可能性はゼロではないですが、普通に考えると、月面を舞台に最終決戦をやるっていうことを相当早い段階で先に決めていて、それから月面決戦につながるように途中の展開を考えたって推測せざるを得ない。

考えたら恐ろしいことです。ボンモーのやつらときたらですよ、第二部ラストまでの展開からすれば第三部の時系列としての始まりはフヌケドを出すしかないって分かってる状態なのに、そんな物語の始まりなんかほとんど無視して第三部のラストをどうするかを完全に好き勝手に考えた挙げ句「クライマックスは月面で最終決戦やってフジキドのせいで月が割れるとかどう?」「何だよそれめっちゃあがるわwww」くらいの感覚で、とにかく作者である自分たちがエキサイトするかどうかだけを基準に完全にデタラメとしかいいようがないクライマックスを先に決めて好き勝手にエキサイトして、そしてクライマックスの更にその後に来る衝撃のエンディングを考えてまたエキサイトしてるんだから、もうほんとにどうしようもない。

けれど俺ら忍殺読者も結局、ボンモーに乗せられて物語のラストにたどり着いた時には、ボンモーがエキサイトしたとおりにまんまとクライマックス読んでエキサイトさせられた末、更なる衝撃のエンディングで衝撃を受けて、その物語の余りの面白さに驚愕して大満足してるんだから、ボンモーみたいに始まりも途中もすっ飛ばしてラストから考えるっていう手法の有効性は認めるしかないでしょう。

だからいいですか、あなたも展開に困ったら取り敢えず月を砕くとかして、あなた自身が完全にエキサイトする大迫力のクライマックスと感動のエンディングを先に考えるべきだと思います。そこに至るまでのストーリー展開をどうするかなんて考えずに、あくまで自由に。どうしても途中が気になるんなら、なんか適当に、楽しいことがあったり悲しいことがあったりしてなんか色々苦労した末に主人公と仲間が最終決戦にたどり着いたんだなとか、そんなあやふやなことだけ決めとけば十分です。あなたが書き方とかをちゃんと工夫してそのエキサイトを読者に届けようとするなら、ラストだけ見たらどれだけ無茶苦茶に見えるラストでも全然問題なくて、読者はきっとついてくる。

「そんなことをしたら、せっかく途中まで書いた原稿が無駄に……」 な・り・ま・せ・ん! あなたが途中まで考えた物語は、チョー面白いラストとの相乗効果で更に面白くなるので、あなたは益々エキサイトするほかない。だから、ほとんど無理矢理の力業でもいいから、話をつなげましょう。

考えてもみてください。あなたが物語の途中を無視して全然予想できないけどとにかくエキサイトするラストを思いついたのなら、途中まで考えてある物語と全然予想できないラストの間をくっつけるのは、当たり前ですけど作者のあなたですら今の時点では予想もつかない驚愕の展開です。エキサイトするラストが思いついたのなら、あなたは絶対に、ラストに至るまでに発生する驚愕の展開も思いつく。それも簡単に。その驚愕の展開は、ラストから逆算すれば論理必然の展開だから、逆算によって想像力とかみたいなものを持ち出す必要すら無く導き出されるものだからです。ヤバい異能者であるあなたなら、多少時間がかかっても絶対に、それまでの物語の展開から見ると予想外の驚愕の展開であると同時に、ラストから見て振り返れば必然的な展開だった、っていうような最高の物語の転換点を思いつくに決まってるので、あなたは諦めて完全にエキサイトしてください。

そうしてエキサイトしていれば、物語の転換点になる驚愕の展開はストーリーの真ん中あたりに計算して持ってこようみたいな戦略的思考やそこからラストに向けたストーリーの加速みたいなプロットとかが芋づる式で湧いて出てくるから、あなたは自分自身が驚くほど簡単に、物語の全体像を構築する結果となるでしょう。そうして、物語の冒頭400字を生み出した時のあのエキサイトの感覚が物語の全体に満ちることになるので、あなたはきっと、再び否応なしに執筆に駆り立てられる。取り敢えずみたいなノリで月を砕けば絶対そうなると、俺は断言します。

こんなふうにですよ、物語の成否はとにかく面白いラストにかかってるんです。物語のラストを最重要視することで、ラストの展開をどのようなものにするかっていうアイディアを起点として物語を構成するいろんな要素が有機的に結びつくっていう機能が物語のラストに備わり、それが基本的な設定とかとともに、物語を駆動する両輪になるからです。

「理屈はそうかもしれないけど、物語の設定や冒頭しかない状態でラストを考えろなんて……」とおっしゃるそこの異能者のあなた! あなたは異能者だからこそ、簡単な工夫だけで、いろんなラストの展開に関するアイディアがいくらでも湧いてくるようになるんです!

ということで、最高の物語を成立させる最高のラストに関して、あと二つくらい補足しておきます。


2 ワンアイディアに頼るな!


もしあなたが異能者なのに最高のラストを思いつくのに苦労してるんだとすれば、その理由はただ一つ。アイディアの不足です。

「そんな……せっかく最高に面白い設定を思いついたのに、まだアイディアが足りないなんて……そんなの僕の才能じゃ……」だから何度も繰り返しますけど、あなたは異能者として才能が有り余ってるんですから、あなたに必要なのは発想の転換です。

再度耳かっぽじって良く聞いてください。どんなに最高の設定、最高のアイディアがあったとしても、そのアイディア一つで最高の物語や最高のラストが成立するっていうことはあり得ません。だからあなたは、自分の最高のアイディアに固執するのはとっとと止めて、別なアイディアを見つける必要があるんです。

じゃあどうやってその別なアイディアを見つけるのか。ここで発想を転換してください。あなたの異能が生み出した最高の設定は既にオリジナリティーとかが凄くて面白いんですから、そこにくっつける別のアイディアなんて、そのへんに転がってる手垢にまみれた、既存のありふれたアイディアで十分です。だから、そのへんに転がってる適当なアイディアを無造作でいいのであなたのアイディアにぶっ込めば十分です。

ここで具体例を出してみましょー。古代ファンタジー世界を舞台に神話や伝承を題材にした、王族たちの愛憎を軸にして宮廷陰謀劇とかもある、親子二代にわたるシリアスで壮大な復讐劇……ある異能者がこんな設定を思いついたとする。なんか凄そうですけど、実際にこれを物語に仕立てても、なんか暗くてシリアス一辺倒で、芸術的っぽいのは分かるけど正直劇場で観たら俺は鑑賞中に寝る自信あるわ。こんなんでエキサイトするラストなんか思いつくの?

だがその時、S・S・ラージャマウリという異能者が突然現れ、興奮状態でまくし立てた!

「聞いて聞いて! 僕チョーすごいラスト思いついたんだけど! あのね、クライマックスはね、シヴドゥが、あっシヴドゥっていうのは二代目のバーフバリなんだけど、そのシヴドゥが親父の仇のバラーラデーヴァとね、戦うんだよ! そしたらでかい馬の石像が壊れたり、でかい黄金像が倒れたりするんだよ! それでここからが凄いんだけど、シヴドゥとバラーラが戦ってるとね、シヴドゥのかーちゃんが頭に火鉢を乗せて歩くの! そして止まらずに歩き続けるの! それでね、最後には小枝に火をつけるんだよ! すごいでしょ? それで、エンディングでは黄金像の頭が河に浮いて滝から落ちるんだよ!」

ナムサン! ラージャマウリが「古代ファンタジー世界を舞台に神話や伝承を題材にした、王族たちの愛憎を軸にして宮廷陰謀劇もある、親子二代にわたるシリアスで壮大な復讐劇」に無造作に投入した別のアイディアとは、たまたま手近に転がっていた、「超人バトル」という手垢にまみれたアイディアだったのである! この二つのアイディアを無造作に混ぜ合わせるとは何たる無謀か!

だが、一体どのような確信を得たのか、その場に居合わせた異能者たちの困惑をよそにラージャマウリは意味不明の説明を続けるばかりだ。異能者の一人が、たまらず口を挟んだ。

「『王族たちの愛憎を軸にして宮廷陰謀劇もある、親子二代にわたるシリアスで壮大な復讐劇』で超人バトルを行うとは、ラージャマウリよ、貴様とうとう狂ったか」

その言葉にラージャマウリは振り向き、絶叫した。

「黙れ! 僕の映画では、王族は王族だからチョー強いんだよ!」



……っていうのが、俺が入念なリサーチに基づいて推測した、限りなく真実に近いと思われるバーフバリの制作過程です。いや実際、アイディアの融合なんて、こんなふうに無造作なほうが良いんですよ。マジで。何なら、思いつく限りいろんな既存の安直アイディアをとっかえひっかえしながら、あなたのアイディアに色々ぶっ込んでみてどんなラストが思いつくか試してみてもいいでしょう。そうやって試した結果出てきたいろんなクライマックスからお気に入りのを選んで、最終的に作品に採用すれば良いんです。

それで、ここ注意してほしいんですけど、ラストの展開を思いついてエキサイトするのは、作品として形になるまではあなた一人で十分です。クライマックスとエンディングだけ他人に説明しても完全に意味不明で誰にも理解されなくても問題なし。むしろ、そのほうがいい。ラストだけ観れば十分でほかの部分は観なくても構わない作品っていうのは要するに駄作だからです。逆に言えば、完成した作品を最初から鑑賞して初めてラストが意味を持つ作品こそが、あなたの異能が完成させるであろう傑作なわけです。「月が砕けるのがどうして面白いの?」って言われるような作品が傑作なんですよ。

だからこそ、あなたは初っぱなからラストをどうするかについて考えたほうが絶対良い。バーフバリを観た人なら、異能者ラージャマウリが、劇中の要素全てを、ラストに向けた伏線として計算したことが即座に理解できたはずです。そして、バーフバリを観ない限り、バーフバリのラストシークエンスがどのように凄いのかをいくら説明しても分かってもらえないということ、その重大性を。

そしてですよ、あなたが思いついたラストであなたがエキサイト出来たのなら、伏線とかを使って物語を構築するっていうのが、実はすげえ簡単なことに気づきました? デーヴァセーナがクライマックスで頭に火鉢を乗せて止まらずに歩くのがすげえって観客に思わせたいなら、ラストよりも前の段階で、同じシークエンスをいっかいやっといて、その意味を観客に予め理解させといて、わざと同じことをクライマックスで繰り返すだけでいいし、小枝を燃やすのがすげえって観客に思わせたいなら、ラストよりも前の段階で予めデーヴァセーナに小枝を拾わせて「お前を燃やす」みたいなことを言わせるだけで良い。まあ実際はこんな単純な話じゃないとしても、どうやればいいのかっていう基本方針は一発で分かってもらえたはずです。

で、もう気づいたと思うんですけど、ラストを最初に決めとけば、ラストにつながるオープニングっていうめっちゃ効果的なオープニングが作れる。念のため言っときますけど、ラストが思いついたことで別な物語冒頭のアイディアが生まれたとしても、既存の冒頭のアイディアは無駄になりませんから安心してください。たいていの場合、既存の冒頭は、新たに思いついたオープニングに続く次のシーンとかにそのまま流用できるでしょう。こうしてオープニングが最高な上に、既に書かれていた最高のシーンが続くっていうふうに作品の面白さはガンガン連鎖する。

そしてもう一つ。一見無造作に見えるアイディアの融合がどうしてこんなにも効果的なのか。それは、あなたの凄いアイディアに別なアイディアがぶっ込まれるとき、そこには、全く異種の二つのアイディアを結びつける、作品を貫くアティチュードがほとんど自動的に生まれるからです。バーフバリの例でいえば「王族は王族だから強い」。王族だから平然と雷を召喚して蛮族まるごと焼き払うし、王族同士が殴り合えばコラテラルダメージで馬の石像も黄金像も容赦なく破壊される。そしてその理屈には、一切の説明が不要です。

あなたはここで決して怯んじゃだめです。異能者ラージャマウリは「王族は王族だから強い」を、確信に基づいて、わざと無造作に説明抜きで、作品内で当然のこととして扱ってる。これこそがマジで強いパルプの原動力なんです。こういう作品内でしか通用しない理屈をアティチュードとして貫くことで、その作品だけが持ちうる独自の面白さが生まれるんです。要するに「ノーカラテ・ノーニンジャ」が貫かれると面白いっていう仕組みですよ。

さらに! あなたの最高のアイディアと既存のアイディアとが融合して最高のラストが生まれ! そして作品を貫くアティチュードが生まれたことで! あなたは、あなたの異能が生み出した物語が何についての物語なのかを俯瞰する視点を獲得する。

「王族は王族だから強い」というアティチュードが貫かれた作品を鑑賞してエンディングを迎えた時、あなたはこの作品が何についての物語なのかを、全くの説明抜きで自然と知ったはずだ。そのあなたの認識や解釈が正解なのかどうかはここでは問題ではない。王族が王族たるゆえん、王族たる者のなすべき義務、そして王族が王族であるために必要な資格とは一体何なのか……そうしてあなたは、あなた自身に宿っていた王族の魂に気づき、自らもまた王族であること、真の王族として振る舞うべき義務があることを悟る……

そういう物語の強度は、あなたの異能が生み出した物語からもあなた自身が読み取れるし、絶対にそうすべきです。あなたはテーマみたいなものを全面的に打ち出す必要は全くないし、あなたが意識するテーマと読者が感じ取るであろうテーマが一致する必要も全然無い。あなたがなすべきことは、あなた自身の「これは何についての物語なのか」という観点を心に留め置いた上で、その観点から様々なエピソードのアイディアとかを取捨選択することだ。そうすることで、脇役のエピソードとかサブプロットとかの全てが、エンディングに向けた一つの流れとなって合流し、クライマックに雪崩れ込む最高の物語を生み出すんです。他でもないあなたの異能が。


3 物語の推進剤「設定」は大事にとっとけ!


最後にもうちょい注意点を。俺のアドバイスのおかげで最高のラストを思いついて物語の全体像ができあがってあなたは完全にエキサイトしたので、もう後はひたすら書くだけになり、いても立ってもいられずに原稿ファイルを開いて、ストーリーの展開みたいなことには全然悩むことなく表現モード全開の脳みそでひたすら書き始め……たのに、なぜか執筆が止まる。そういう人は多い。そういう場合の原因は、もうほとんどって言っていいほどただ一つ。

執筆が止まっちゃったそこの異能者のあなた! あなたは最高の物語を生み出してエキサイトしちゃったので、「あとは僕の最強兵器を冒頭から惜しみなくぶっ放して読者を殴り倒すだけだぜグヘヘヘヘ」みたいな欲を出しちゃったでしょ! それで何も考えずに冒頭で最強兵器を開幕ぶっぱしちゃったんじゃない?

これは絶対に覚えといて。あなたの異能が生み出したチョー凄い設定は、あなたの最強兵器だ。それは間違いじゃない。だからといって、あなたのチョー凄い設定を冒頭で開幕ぶっぱするのは絶対に、絶対に、やっちゃダメだ!

いや本当にこのことをよく考えてほしいんだけど、あなたは異能が凄いから、その異能ですげえ強い機体を駆って無双してえ! ってなるのは仕方ないけど、だからって、最強兵器を開幕ぶっぱしてどうするんですか!? ってことですよ。そんなことしてたら、たとえあなたの機体がキュベレイだろうとネオジオングだろうと、あっという間にエネルギー切れ起こして推進剤もなくなった挙げ句、身動きとれないところをダセえ緑色のジェガンあたりに為す術も無くボコられるのは当然でしょ。

俺が親切丁寧にガンダムで例えてるのにそれでも分かんない人にはこう言えば分かる? もしあなたがですよ、チョー凄くて怖い怪異についての斬新なアイディアが思いついたからめっちゃ面白いホラー書いて全人類をびびらせてやるぜ! って思ったとして、いきなり冒頭で「実はこの怪異の正体はこういう理由で生まれたこういう性質のやつで、こんなに殺傷力が高くて怖いけど、実はこういう方法で立ち向かえば倒せるんだぜ!」って設定を開幕ぶっぱする? しないでしょ絶対! そんな開幕ぶっぱしたら、その後書くことなんて何も無くなるって、誰でも本能で知ってるだろ!

それなのにですよ、ホラーなら本能的にみんなが分かる単純な理屈なのに、ホラー以外のジャンルを書こうとした途端、なぜかみんなそのことを忘れる。なんでだよ。なんでそんな簡単なことも忘れてせっかくの作品だめにしちゃうんだよもう。

念のため、ここの点の仕組みを理屈でも説明しときます。あなたがホラーを書こうとしたときには本能的に知っているのに、そうでないときには何故か忘れてしまう鉄則、それは、「設定を使って直接殴るべき相手は、読者じゃ無くて登場人物だ!」ってことです。

ホラーを書こうとするならみんなこの鉄則を本能で理解してる。だから、登場人物を、怪異について何も分からないシチュエーションに放り込んで恐怖体験をさせる。その中で怪異の正体について登場人物が知識を得れば得るほどますます登場人物はびびって恐怖し、そうこうしてるうちに「もしかしたらこの方法で怪異に立ち向かえるかも」みたいなことに気づき、自らの恐怖心とも戦いながら、ついには反撃に出る……みたいな感じで、登場人物の体験や行動を通じて設定とかに関する情報を読者も知るっていう体験をするから、登場人物の行動や体験が読者にも伝わってあなたと同じように読者も物語でエキサイトするんですよ。

んで、この理屈は当然ですけど、ホラー以外の物語でも当然通用する鉄則です。こういう仕組みで、設定は物語の推進剤の役目を果たすんです。このゲージ回復できない最強兵器は、出し惜しみしないとダメです。そして、その兵器を使う相手は読者じゃなくって登場人物なんだってことを、絶対に、絶対に忘れないこと! 読者を驚かせることすら可能な最強兵器である設定ならば、読者じゃ無くて登場人物にむけてぶっ放して登場人物を驚かせないと勿体ない! そういうふうに考えれば、この最強兵器をここぞとばかりに登場人物に向けてぶっ放してやるのは、物語の中のどのタイミングにしようかな……って考えたりするようになって、あなたはさらにエキサイトする。


覚醒の第二段階があなたを待っている!


さあ、いよいよあなたが俺のために書く番だ。肩肘張らずにエキサイトして書くだけなんだから、とっとと始めてください。

それとね、驚くかもしれないから先に教えておくけど、あなたが物語の次の展開なんかに頭を悩まされずに表現モード全開で書くようになると、あなたに次の変化が起こる。んで、あなたは絶対びびる。

なにが起こるのかというと、別に何かストーリーとかについて考えてるつもりは全くないのに、執筆中でさえ、急に新しいアイディアが湧いてくる。それどころか、登場人物が予定にないことを勝手に喋り始めて、これ見よがしに作者であるあなたに向かって「お前が考えたセリフが正直ダサい」みたいな態度を取り始める。

これが起こったとき、あなたは絶対、自分がとうとう頭がおかしくなったのかと思って本気でびびる。だけどね、これは異能の覚醒の第二段階だから全然恐れる必要はない。どうしても怖いっていう人は回れ右して逃げ出すしかないです。

いいですか。あなたは異能の覚醒によって、別な目を開かれただけです。あなたはあなたの想像力とかに頼って物語を頭のなかでこねくり回す段階を過ぎて、あなたの脳みその外部に既に存在する物語を客観的に俯瞰的に眺めて検討する視点を獲得しただけです。だから無意識のうちにあなたの脳は物語を多角的に検討して、もっと優れた物語の改善案を提案してきたりするようになるわけです。

これは考えてみれば別に不思議なことじゃないです。彫刻は彫刻家の頭の中にはないし、絵画は画家の頭の中にはない。映画だって監督だけじゃ無くて脚本家や俳優とかのチームワークでくみ上げられるものであって、誰かの頭の中にあるわけじゃない。どれもこれも、頭の外にある構築物なんです。

要するに、小説みたいなフィクションだって同じだってだけのことです。物語はとっくの昔にあなたの頭の外に存在してる。あなたは誰よりも最初にその物語に出会ったっていうだけなんですよ。たった一人の想像力で無から生み出す物語なんて、人間の想像力なんかたかがしれてる以上、たいしたもんじゃない。あなたの異能があなたを導いて遭遇させた物語は、そんなつまらない代物じゃない。

だから恐れず迷わず、時には生意気なことを抜かしやがる登場人物の意見も聞いてやったりしながら、登場人物とともにあなたの物語を体験してください。そのあなた自身の体験を読者に伝えたいとあなたが願うなら、読者もきっとあなたついてくる。

だから俺のためにとっとと書け。以上だ。

それじゃ、またねー。




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