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絶景×DJ Yogurt | 大雄山最乗寺

11月24日、まだ紅葉の残る神奈川県南足柄市の大雄山最乗寺にて、DJ Yogurtさんを迎え撮影を行ってきました。 最乗寺は関東の霊場として知られ、開創より600年以上の歴史を持ち、鬱蒼としげる杉の老木に囲まれた、大変立派なお寺です。 30余りの山門やお堂・宝塔などが、130町歩という広大な山林を境内として立ち並んでおり、一帯には静謐かつパワフルな気が漲っている様です。 (約129ヘクタール:1ヘクタールは、100m×100m) 日本らしい美しい秋の風景の中で撮影をしたいと探していたところ、来場者の邪魔にならなければどこで撮影しても構わないとご快諾いただきました。 折角なので、ここからが最乗寺の守護である道了大薩埵の浄域だよという「結界門」を潜ったところにブースを設置し、DJ Yogurtさんにプレイを披露して頂きました。

ライターの草刈朋子さんに、後日大雄山最乗寺へご訪問いただき、最乗寺の方へのインタビューを踏まえて、大雄山最乗寺と山岳信仰についてレポートを書いていただきました。


天狗信仰の禅寺

南足柄市にある大雄山最乗寺は、道元を開祖とする曹洞宗の禅寺の中でも永平寺、總持寺に次ぐ名刹として知られている。開山は室町時代の1394年と大変古く、藤原氏の流れを組む了庵慧明という高僧が1羽の大鷲に導かれてこの地に寺を建立したのが始まりとされている。

最乗寺は一言で表すと、曹洞宗の修行道場だ。寺は樹齢500年以上の杉の巨木が何本も立ち並ぶ山中にある。神聖でパワフルな山の気がみなぎる環境は、修行に集中するにはまさに好適地だといえる。しかし、ここをひときわ特徴づけているのは、今回の動画でも見られるように、広大な境内の所々に立つ天狗の像だろう。

ターンテーブルが置かれた結界門や祈祷所の御真殿、奥の院の石段の下には、大天狗と小天狗が大きな目を見開き、眼光鋭くそこを通る者を睨み付けている。御真殿の脇には各地から奉納された天狗の履き物である高下駄がまことしやかに置かれ、屋根の寺紋には天狗の葉うちわが取り付けられている。つまり、ここは天狗信仰の寺でもあるのだ。

山岳信仰と天狗の関わり

天狗は赤ら顔に高鼻の山伏の姿をした妖怪で、神通力を持ち自由に空を飛び回る存在として有名だが、もともとは中国で災いを意味する流星を意味するものだったらしい。それが仏教とともに日本に渡り、先述した天狗になったのは室町時代のこと。これは、山伏によって山岳信仰が一般化した時代にあたる。

この頃の山伏は山中で厳しい修行を行うだけではなく、里に降りて人々に仏教を教え、講を組織し道先案内人の先達としても活躍していた。一方で、山伏は薬草や医療の知識にも長けており、山間部の暮らしに必要とされる存在でもあった。天狗が*山伏の姿をしているのは、決して偶然ではないのだ。
*山伏:山野に住んで修行する僧

大雄山最乗寺の天狗は、実在するある人物がモデルとされている。その人物とは、伊勢原出身の道了という山伏だ。道了は各地の山中で厳しい修行を積んだ修験者であり、当時石川県にあった総持寺の住職をしていた了庵慧明に弟子入りし、滋賀県の三井寺で多くの弟子を育てた人物だと伝えられている。

最乗寺に伝わる天狗伝説は、道了の武勇伝に事欠かない。
まず、師匠である了庵が足柄の地に最乗寺を建てることを聞きつけると、滋賀から山を超え、野を走りたった1日で尊敬する和尚のもとに馳せ参じてしまう。さらには、最乗寺の建立時に怪力を発揮し、巨岩を砕き大木を切り倒す大土木工事を一人で成し遂げる。そして、了庵和尚が75歳でなくなると、「自分の役目は終わった。以後山中にあって大雄山を護り多くの人々を利済する」と言い残し、天狗の姿になって奥山へ姿を消すのだ。
このように超人的に語られる道了は、おそらくは八面六臂の活躍をしたパワフルな人物だったのだろう。天狗になった道了は大雄山最乗寺の守護神として絶大な人気を誇る神になっていく。

神と仏は区別されない

しかし、ちょっと待って欲しい。冒頭にも書いたように、ここは曹洞宗の修行寺で、開祖は了庵慧明であり、御本尊はお釈迦様だ。天狗となった山伏の道了が神として祀られているのは、奇妙な話ではないだろうか。
しかし、それをアリとしたのは寺と民衆の両方のようである。
明治時代に神仏分離令が発令されるまで、日本では土着の神道と仏教が混ざり合う神仏習合の時代が1000年以上続いていた。神と仏を区別しないという独特の精神のもと、最乗寺は現世御利益を体現する大権現として天狗の道了を寺の守護に据えたのだし、その御利益にあやかるために、神奈川や東京を中心に遠くは愛知、広島から多くの講中がここを目指したのだから。

ちなみに、最乗寺では、今でも寺の配役リストの一番手に道了の名前を位置付けている。それは、道了が決して亡くなった人ではないことを表しているのだという。最乗寺の1番手として永久欠番化された道了は、今も僧侶たちの心の中で生き続けているのだ。

大雄山最乗寺は、天狗になった道了が見守る聖地である。道了天狗は、結界門の中という聖域で行われた前代未聞のDJプレイをどのように聞いただろうか。「神も仏も一緒でいい」と言ってくれるおおらかな神ならば、きっとその場で踊り、楽しんでくれたのではないだろうか。

*参考資料:瓜生生『よくわかる山岳信仰』(角川ソフィア文庫、2020年11月21日)

草刈さんプロフィール写真-683x1024

草刈朋子(くさかりともこ)
縄文探求ユニット「縄と矢じり」の文章担当。北海道出身。コピーライター、雑誌・書籍編集を経てフリーの編集・ライターとして独立。2009年よりNPO法人jomonismに参加し、縄文関連イベントの企画・制作に携わる他、縄文をテーマに執筆。フォトグラファーの廣川慶明とともに「縄と矢じり」を結成し、全国の遺跡や考古館を旅しながら各地の縄文のカタチ、環境から読み解ける先史時代の価値観を探求中。

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山深い中に現れる日本らしい秋の風景、老杉の合間をぬい結界門を潜ってDJ Yogurtさんが登場するオープニングのドローン映像、30余りの歴史的な建造物や深い自然とテクノビートが奏でる美しいコラボレーションを、みなさまぜひお楽しみください!

THAT IS GOOD 編集部 中村

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