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世界一周旅行でロシア人のボーイフレンドができた話

友人が最近コーチングを始めたというので、人生相談をしたところ「人間は5歳くらいから、無意識的にやってしまっている行動が誰しもあって、それを言語化して自分の今後の生き方に活かすと良い」らしい。

私の場合、無意識のうちに他人に笑顔で接してしまうことだろうか。いわゆる「良い顔」しい。初対面の人には明るく接しやすい人に思えるかもしれない。自分ではわからないけど、「良い笑顔だね」と褒められたことが何度もある。

それと因果関係があるかわからないが、これまで私は恋愛というものを多くやってきた。高校生のときからこの年齢になるまで、切れ目なく恋人を作ってきた。

みんな最初は私の笑顔を見て、優しく素直で明るい女性を期待する。

でも本来の私は、我が強く自分の考えを曲げたくない。気分屋だし、どろっとした負の感情もある。何より自分が1番大事だ。関係性が深くなるとそういった面が少しずつ滲み出てくる。

1つ前の元彼は菩薩のように優しい人だったけれど、その彼に「なんて自己中な女なんだ」と言わせ、最後にふられたのが半年前。

その彼とは、世界一周旅行に一緒に行くというプロジェクトを計画していた。出発が残り1ヶ月を切りそうなタイミングで、別れを切り出された。

正直ショックだった。彼が、というより、「せっかく計画していた世界旅行に行けなくなる」方がショックだった。この後に及んで、やっぱり自分のことしか考えられない自分に腹が立ったし、このタイミングで言い出す彼の無責任さにも腹が立った。こうなったら意地でも1人でも行ってやろうと思った。

そもそも、これまで色んな男性と付き合ってきたけれど、幸せの選択自体を相手に委ねることを繰り返すのであれば、永遠に幸せになれないんじゃないか。それで、恋愛はしばらくやめて、1人に向き合う時間が必要だと思った。

そんなわけで、4月から世界一周の旅を始めて4ヶ月弱。

旅に出て、精神面での変化が色々あった。

日本にいたときは、漠然と怖かった1人で生きていくこと。それが怖くなくなった。

まず、やることがいっぱいあって、忙しいけれど、毎日が充実している。旅は毎日が同じではないことを教えてくれる。そして全てが思い通りにいかないことも教えてくれる。

気持ちの良い朝に街を歩いたり、美味しい朝ごはんを陽を浴びながら食べたりするだけで、幸せを感じる。

店員さんやホテルの人との何気ないやりとりも嬉しい。Thank youと言ったらYou're welcomeって言ってくれること。困ったときに手を差し伸べてくれる人がいて、人の温かさや素晴らしさに気づけること。泣きそうになることもあるけど、その分嬉しさも倍増すること。

英語はまだまだ発展途上だけど、旅先で出会った友達と喋って少し嬉しくなったり、反省したりもする。友達も増えたし、友達と一緒にいる時間がより楽しいと思えるようになった。

SNSを見て、誰が結婚したとか、子供が生まれたとか、他人の人生と自分の人生を比べることも少なくなった。

そして「書く」という好きなことを始めた。
自分の本音を伝えられる場所、自己表現の方法を手に入れた。

あとは、自分自身、ありのままでいようと決めた。食べるものを我慢をしたりせず、着る服も着たいものを着る。自分の体に自信を持つ。日本だと同調圧力や脅迫観念に駆られるけど、世界には色んな人がいるから、自分らしくでいい、と思える。

これからもきっと1人でも怖くないし、楽しい人生を送れる。そんな自信がついてきた頃だった。

キルギスのビシュケクに滞在中の6月、日曜日の午後、ホステルのコワーキングスペースで、旅の記録をYouTubeにあげようと、動画を作っていた時だった。

5時間くらいパソコンと睨めっこをしていただろうか。端の席にいた男性の方をふっと見ると、彼もこちらを見ていて目が合った。
そして、「君はずっとパソコンの前で座っているね。少しは外に出た方が良いんじゃない?」
と話しかけられたのが彼との最初の会話だった。

その後、彼と彼の友達と3人で、近くの公園に走りに行った。

走りながら、仕事のことや旅行のこと、家族のこと、いろんな話をした。彼はロシアのモスクワ出身だけれど、このビシュケクの街が好きで、ずっと滞在しているらしい。

その公園には小さな遊園地もあって、そこに絶叫マシーンがあった。時計の針みたいに全体が回転しつつ、座席も前後に不規則に回転する乗り物で、乗っている人からは悲鳴が聞こえてくる。彼は「乗ろう」と提案してきたけれど、彼の友達は絶叫が苦手らしく、先に帰ると言い出す。私も正直提案に気乗りはしなかったけど、一方で何が起こるかわからない未知のものに飛び込んでみたい好奇心もあった。結局2人で乗ることになった。

席に座り、上からもガッチリと安全バーが固定される。そしてその乗り物は、ゆっくりと動き始めた。

乗り物は、円方向にぐるぐると高さを変えながら回る。同時に自分の体も前後にぐるぐると回る。スピードが上がり、四方八方に体を投げ出されそうになる。私は悲鳴をあげたけど、彼はそんな私を見て、ずっと笑っていた。

体内の血がミキサーにかけられたように体中を巡り、頭に上る。興奮が高まる。ジェットコースター理論というのは、あながち間違いではないかもしれない。

乗り物は想定した以上に回転時間が長く、「もうやめてくれ」と思ってから5回転くらいして止まった。

私たちは、乗り物を降りて、歩き出した。
「楽しかった」自然と言葉が出ていた。

誰かとこういう体験を共感し合って笑い合うのが久しぶりだった。

その後2人で公園で話をした。拙い英語で。
6月のキルギス、ビシュケクは、夜風が気持ちよかった。

そして「君のことが好きだよ。君はどう?」と言われた。
私は正直よくわからなかった。嫌いではないけど、好きと言い切れる自信はまだなかった。

だから「あなたの笑顔は好き」と言った。そうすると、「君は優しくて、頭がよくて、可愛くて、笑顔が素敵で、僕は君の全てが好きだよ」

言葉のインパクトというのは時にすごい威力を発揮するものだ。この短時間でその言葉を言い切れる彼の自信に私は一気に心を持って行かれてしまった。

それで、そのロシア人の彼と、たった3日間だけど、ビシュケクの街で共に過ごした。

彼は「君は最高だよ」といつも私を褒めてくれる。

元々自己肯定感がそんなに高くない私は1度、「ロシアには、モデルみたいな美しい人がたくさんいるでしょう?あなたが私みたいな人を好きになるなんて信じられない」と言ったことがある。

そうすると彼は、
「ロシアにも色んな人がいるよ。みんなが一緒じゃない。それに、僕は君の丈夫そうな腿の筋肉、ごわごわの髪の毛が好きだし、美しいと思う。」と言った。

その言葉は私に自分らしくて良いという確信をくれた。彼からもらった素敵な言葉の数々は、今も私を勇気付けてくれるし、彼と仲良くなれて良かったと思う。

キルギスを出国するとき、彼はバスセンターまで私を送ってくれた。

「ウズベキスタンに行ったら、またキルギスに戻っておいでよ。そして湖畔の町でゆっくり過ごそう」
彼は少し切ない表情を浮かべているように感じた。
一瞬だけ「そんな生活もいいか」と揺らぐ気持ちをぐっと抑えて、「世界一周をするっていうミッションを完遂したいから、今は一緒にいれない」と伝えた。誰かと一緒にいることも幸せだけど、少なくとも今は自分の人生を生きたいと思った。

色々を経て思うのは、恋愛やパートナーの形も1つにこだわらなくて良いんじゃないかということ。社会的には結婚して子供を産むということを推奨されているけれど、少なくともそこだけにこだわらなくて良いのではと思える。恋愛においても、ずっと一緒にいるだけが全てではない。

世界を回っていていろんなカップルや家族を見るけど、性別や国籍、民族を越えて多様な人たちがいる。同じように体や顔つき、髪型だって、そう。

だから、ただ自分らしくいよう。
思いっきり自分のやりたいことをチャレンジし続ける30代でいたい。

キルギスを離れて、各国を周りながら、たまに彼とは連絡している。

今後彼との関係が続くかもわからないし、新しい恋人ができるかもしれないし、一生結婚しないかもしれない。

人生は何があるかわからないからこそ、面白い。
それも世界旅行に行って、学んだこと。

クロアチアで、首都ザクレブに向かう夜行バスに揺られ、夕日で真っ赤に染まる空を見ながら、そんなことを思った。

#創作大賞2024 #エッセイ部門

「働きながら世界一周」と銘打ってはいるものの、旅の刺激からインプットを得て、書くお仕事をもっと増やせたらなと思っています。 少しでも良いな、今後も読みたいな、と思ったらサポートいただけると励みになります!!!