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電気けいれん療法(mECT)レポート

電気けいれん療法(mECT)を受けたので、レポートとしてまとめておく。

経緯

難治性、治療抵抗性のうつ病としてアナフラニール150mg、増強療法として炭酸リチウム400mg、オランザピン20mgを投与するも奏効せず。常に頭が回らない、体が鉛のように重いなどの全身倦怠感があった。

増強法は抗うつ薬の効果を一つの次元で強め合うと考えられる方法であり、三環系などの抗うつ薬に Table 3に示すような薬物が追加される

難治性気分障害の診断と治療―うつ病を中心に―
https://www.jstage.jst.go.jp/article/iryo1946/55/8/55_8_361/_pdf/-char/ja

経口のアナフラニールに関しては副作用(特に口渇)が強いため増薬に関して言及すると現実的ではなかった。アナフラニール3Aの点滴を週1回のペースで投与するもこれもまた奏効せず。詳しくはアナフラニール点滴レポート参照。アナフラニール点滴は、電気の治療が決まってからは中止になった。

アナフラニール点滴は一時的な効果はあったが、効果が持続しない。
そして希死念慮が強いため、重症個室での経過観察を行うことに。

重症個室

重症個室はつらいものだった。
カメラ付きの部屋で、マットレスと枕と布団とトイレだけの場所だ。一番辛かったのはトイレで、重症個室のトイレにはもちろんウォシュレットなどついていないので、ウォシュレットを使いたい私は日中の看護師さんが多い時間帯に用を足さないといけなかった。(準夜、夜勤は看護師さんが少ないため、外に出れない)
その次に辛かったのは、看護師さんを呼ぶ時で、いちいち大声で「すみません!」と叫ばないとならない。これが呼んでもなかなか来ない時が多く、その度に苛立ちが溜まっていく。(後に無線のナースコールをもらい、この問題は解決した)
服も、普通の服だと服で首を絞める可能性があるので、紙製の検査着に着替えさせられる。紐類も当然禁止なので、スマホを充電したい時は看護師さんに預けて、ナースステーションで充電してもらう。そもそも病状がさらに悪いとスマホ、紙、ペンですら持ち込みできないので、ずっと天井を眺めることになる。
また、ご飯も、どんなに曲げても絶対に折れないスプーンで食事をしたし、皿も全て紙製のものだった。お茶を入れるボトルですら、ふにゃふにゃで自傷できないもので、徹底的に自殺リスクについて考慮されていた。

重症個室後

重症個室を自分より病状が重いという患者さんに譲るために、一般個室に移動になった。しかしながら、自傷リスクはまだあるので、時間帯で扉を施錠、持ち物の管理、遠隔カメラでの見守りなどは継続して行われた。また、意識が若干昏迷を呈しており、話す人に「眠いの?」と問われることが多かった。
これらを踏まえた上で、投薬治療が奏効しないことも含め、治療の手段の一つとして電気けいれん療法が上がってきた。

手術前に中止した薬剤

手術前に投与中止した薬として、1週間前から炭酸リチウムとフルニトラゼパム、マイスリーを中止する予定だった。しかしながら、マイスリーが完全に体に馴染んでいて、それなしでは目が覚めてしまうため、私の場合、マイスリーだけは中止せずそのままの状態で手術を受けることになった。これはベンゾ抜きが辛いと噂を聞いていて、覚悟をしていたが、結果としてことなきを得た。

・減量または中止を検討する薬剤
benzodiazepine系薬剤:発作閾値を上昇させる。認知障害を増強する可能性がある         1ithium:せん妄や遷延性けいれんの危険、再発の危険性が高まる可能性がある
内服継続の安全性については異なる見解があり、症例毎に利益と不利益を判断する必要がある

mECT(修正型電気けいれん療法)マニュアル
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/0000067408.pdf

手術前の検査、サイン、様子

手術前の検査として頭部CT(頭蓋内病変の有無)、採血、胸部レントゲン、心電図、SDS(Self-rating Depression Scale)があった。
また、体調は、鬱の倦怠感はあったものの手術を受けるという判断力はあり、最悪ではなかった。おそらくオランザピンが多少奏効したのではないかと思われる。また、同意書のサインが多いという噂を聞いていたが、私の場合3、4枚にサインしただけなので特別多いとは感じなかった。SDSに関しては、点数の開示は電気けいれん療法が一通り終わったタイミングで通知するよう希望したため、この時点で結果は分からなかった。また、自分から希望してSDSを受けたため、電気けいれん療法の治療の尺度としてよく使われるのかは不明だった。

手術前夜から当日まで

手術前夜は、普段と変わらずに過ごした。
また、当日の手術4時間前からの絶飲食(水も含む)がとても辛かった。三環系抗うつ剤の副作用による激しい口渇で、喉が常に渇いている状態だったためだ。1時間前からはソルアセト(酢酸リンゲル液)を点滴していたため脱水になる危険性はなかった。病棟から手術室まではストレッチャーにて移動。また、点滴のルート確保は病棟であらかじめ行っていた。入室するとリストバンドを確認、名前を名乗って本人確認をした。

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/0000067409.pdf

初めての全身麻酔

手術室に入り、一通り電極をつけ終わるとすぐにプロポフォールによる全身麻酔を施された。一瞬で意識を失い、次に意識が戻った時は回復室だった。また、筋弛緩薬はスキサメトニウムを用いた。そして、全身麻酔が気持ちいいとの噂を聞いていたが、これは1回目ではあまり実感できなかったが、2回目は確かに気持ちがいい感じがあった。

電気けいれん療法の適応と実践マニュアル
https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1405100136

頻度、副作用

頻度は週に2回ほど行った。
副作用として、筋肉痛、吐き気、発熱があった。
しかし、一晩寝ればどれも改善した。

手術後

手術後は酸素マスクによる酸素化が行われ、ものの1時間ほどで飲食、歩けるようになっていた。また昼ごはんを抜いていたため、ECT食と呼ばれるお粥と卵を食べた。

効果

効果はまだ1クールも終わっていないため、別の記事で述べたいと思う。しかし数回行っただけで頭の霧が晴れる気がある。

「体験の連続性」の消失

ECTの倫理的な問題についても触れたいと思う。私はよく精神薬の服薬について、精神薬を飲んでいる自分が本当の自分なのか、飲んでいない自分こそがありのままの自分なのではないのかと考える。これに関して、ECTでも同様のことが言える。次の文章を引用する。

ECTは、精神症状を「改善する/しない」にかかわらず、患者の意識を変容させることによって患者の自己存立に関わる問題を生む治療法である。たとえ、患者がECT施行を自ら希望して、病的体験が消失した場合でも、ECT施行前後の患者の意識に断絶が起これば、その間の「体験の連続性」は剥奪されることになる。「体験の連続性」の剥奪は、ECTの施行形式の問題ではなく、過去から現在まで存続しているECT自体の問題である。だからこそ、「精神病」者団体の一部はECTによる治療を病者の存立に関わる問題として機敏に反応するのである。病的体験をめぐる社会関係と、そのなかで病者が育んできた体験全体の意味は問われないまま、病者の意識だけが変容させられる。ECTの“劇的効果”は、患者の「体験の連続性」が剥奪されることを引き換えにして成り立っており、それこそがECT自体の最大の問題である。

精神医療論争 https://www.r-gscefs.jp/pdf/ce03/yy03.pdf 

この文章だけだと理解しづらいので、以下の文章も引用しておく。

通電療法が効いたとしても、患者さんにとっては何が何だかさっぱりわからないうちに症状だけが消えたことになるから、病気への自覚が生まれてこない問題があるんだよ。「症状」と「ぱっと目が覚めた」という二点だけが残って、「治っていく」という連続性が失われてしまう。どういうときに具合が悪くなって「おかしくなる」かに、患者さんは治療の過程で気づいていって、「おかしくなる」前に注意するようになる場合が多いんだけれど、これじゃあ「おかしくなる」ことへの抵抗力も防御力も身につきっこない。したがって、再発もしやすいわけだ。治療者にとっても患者さんにとっても、治療は「線」でなくちゃいけないのに、それが「点」になっちゃうのが、ECTの一番の問題だよ

同上、野村、2003

服薬は自らが希望して、納得の上で施される体験であるが、電気けいれん療法は人為的に介入しない限りできない“体験”である。また、服薬は患者が異議を申し立て、医師と患者の両者間に相互のフィードバックができるが、ECTにはフィードバックがない。これらのことより、「体験の連続性の消失」が問題になってくる。
これに関して私は、確かに体験の連続性の剥奪はECTの根源的な問題であると同感している。しかしながら、うつ病の体験は、それ以上に体験の母体である“命”に急進的に影響してくるため、治療の効果の有無に関わらず、必然的に選択されるものだと考える。つまり、ECTも服薬の延長線上にあり、ある一定の重症度を超えると、体験自体の有無の問題になってくるため、頭では理解しつつもECTを受けるということになってくると考える。

最後に

ここまで読んで頂き、ありがとうございます。電気けいれん療法は効果が長続きするのかも含めて今後もレポートを書いていこうと思います。またよろしくお願いします。

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