修士了の私がSPHに進学する理由

はじめに

という質問をフォロワーの方からいただきました(というかだいぶ前にいただいていました。遅くなってすみません。)。実は、私は所属している会社の事業展開を結構見据えて、SPHに進学しています。「何になれるのか」というよりは、「何になりたいか」や「何をしたいか」を考えて、その目的にSPHが合致するかどうか考えることが大切だと思います。なんといってもSPHで取り扱われる領域は非常に多岐にわたっていて、ある意味何にでも役立つと思うからです。

今回はこの質問にお答えしながら、SPH進学によってどのようにキャリアが広がりそうだと考えているか、またどういった思考でそう考えるのか、ご紹介できればと思います。

まだ入学して間もないので、実はもっと広いキャリアの幅があるのかもしれませんが、一端しかご紹介できず残念に思います。

私のバックグラウンド

薬学系の修士課程を修了後、新卒で製薬業界に入職しています。修士課程ではかなりミクロで基礎寄りの研究を行っており、会社に入ってから臨床を対象とすることになって、あまりにも薬学教育(4年制薬学部+修士課程)と臨床現場との差を感じるようになりました。このころから、より臨床に即した内容を学びたいという気持ちがあり、疫学や臨床医学についての勉強を始めました。

専門職学位課程?専門職大学院?

私がSPHを将来のキャリアに結び付ける上で、専門職学位課程の持つ特殊性が大切になります。「専門職学位課程」という聞きなれない課程は何なのでしょうか?私は通常の大学院修士課程を卒業しており、これまで大学院といえば博士前期(修士)課程や後期課程しか知りませんでした。

専門職大学院の法律上の位置づけ及び修士課程との比較は以下の通りとなっています。

「大学院は、学術の理論及び応用を教授研究し、その深奥をきわめ、又は高度の専門性が求められる職業を担うための深い学識及び卓越した能力を培い、文化の進展に寄与することを目的とする。」(学校教育法第99条)
「大学院のうち、学術の理論及び応用を教授研究し、高度の専門性が求められる職業を担うための深い学識及び卓越した能力を培うことを目的とするものは、専門職大学院とする。」(学校教育法第99条第2項)

大学院と専門職大学院

このように大学院の目的とする「研究者の養成」及び「高度専門職業人の養成」のうち、専門職大学院の設置基準では「高度専門職業人の養成」に重きが置かれているようです。通常、大学院と聞くと研究が主体で、講義は各研究室の先生方が自身の研究についてお話しされるオムニバス形式の講義があるくらいだと思いますが、専門職学位課程では高度専門職業人の養成の基礎となる講義が充実しています。つまり、どちらかというと入学当初は座学中心ということです。

ただ、京大SPHや東大SPHではかなり「研究者の養成」にも注力していますので、その辺りは大学や研究室に依存するようです。

私の場合、学んだことを所属企業での新規事業(特に統計解析やRWD活用事業)に還元することが目的でしたので、社内にその分野について質問できる人がいない中では、必要な知識を体系的に学習できる専門職学位課程は非常に魅力的に映りました。実際、半年分の講義を受けてみた感想としては、SPHで開講されている講義では、研究に役立つものと実務に役立つものが半々ぐらいで構成されていると思いました。私の場合、SPH開講の講義以外にも経営管理大学院や情報学研究科で開講されている講義を受講していて、これらの部局で受講している科目は実務向けのものが多いのかなと感じいています(特に経営管理大学院の受講科目については別の記事を書く予定です)。

私の修了後のキャリア

修了後は、所属企業に戻って新規事業(特に統計解析やRWD活用事業など)の立ち上げもしくは事業拡張に努めます。

近年、製薬業界でも統計学や疫学、そしてデータサイエンスの重要性は日に日に増しています。私が主に従事する医薬品開発の中でも、特に臨床開発(治験や臨床試験を行う事業)は、これまでモニタリングと呼ばれる労働集約的な業務により発生する人件費などの関係から非常に高コストで、原価算定方式で算定される場合には医薬品の薬価にも大きな影響を及ぼします。社会保障費抑制のための毎年薬価改定で薬価削減圧が高まる中、製薬各社は何とかしてコストを圧縮しようと躍起になっています。そういった状況下で、レジストリや電子カルテデータなどを用いた新たなエビデンス創出手法は、従来の臨床開発の一部を代替し、こういったコストを削減することが期待されています。もちろん方法論などについて本邦ではまだまだ議論の途中ですし、実際のところ否定的な意見もあります。一方、アメリカではFDAによってReal-World Evidenceの議論が進んでいます。

【モニタリング】
CRAや臨床開発モニターと呼ばれる製薬企業の臨床開発担当者が臨床試験等を実施する医療機関に訪問して、書類手続きや試験データを収集し、臨床試験などが法令に沿って適切に行われていることを担保する業務。

京大は、「医療データ取扱専門家育成コース」という、次世代医療基盤法などに基づく医療データの利活用を行うもしくはその基盤を維持するための人材を育成するプログラムを実施しています。当該コースではRやSQLといった解析のためのツールのみならず、法制度やデータベースシステムなどの基盤となる知識に対する講義をパッケージとして含んでいます。このことから、先述のRWD活用事業においても、このようなコースで学ぶ内容が役立つと考えています。

同級生に聞いた修了後のキャリア

私が特殊なだけかもしれないので、同級生にも終了後の進路についてお聞きしてみたところ、以下のような進路を考えられているようです。

製薬会社からの派遣できており、派遣元に復帰する
臨床医を休職/退職してきており、臨床医に復帰する
ベンチャー企業(ヘルスケア中心)
官公庁(特にPMDA)
大学病院の臨床研究推進部門
アカデミア・研究機関

上記のように、SPHで身に付けた内容を活かすことのできる様々なキャリアパスがあるように思われます。

まとめ

修了後のキャリアプランとしては、各学生それぞれにヘルスケア業界や官公庁を含め様々な選択肢があります。SPHでは、疫学・統計学や医療経済学をはじめとする様々な実務に役立つ講義が開講されており、さらに他学部受講によって経営管理など他の分野への理解も深めることができるのが京大SPHの良いところであろうと思います。

私個人としては、より臨床的な考え方を身に付けて臨床開発に役立てようというモチベーションが大きく、入学後実際に講義などを通して、SPH進学という選択は間違っていなかったと思っています。

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