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ユーリ・ドゥヂ「ロシア軍支持者との会話」から考える、肯定派の論理とそれに関して考えること

はじめに

先々週ロシアでは、1本のインタビュー動画が大きな話題となっていた。

вДудь
Разговор с тем, кто поддерживает армию России / The supporter of Russian troops
(ロシア軍支持者との会話)

1000万人の登録者を抱えるロシア有数のYoutubeブロガー、ユーリ・ドゥヂによる、ロシア軍支持を公言しているテレビ司会者オスカル・クチェラへのインタビューである。
英語字幕もあるので、非ロシア語話者の方も安心。

ある意味「苦行」とも言えるこのインタビュー、公開から2週間半が経った2月3日現在で2000万回再生を記録し、独立系メディアでも大きな話題となっている。
またこれに対する批評動画も上がっている。いくつか紹介すると;

Майкл Наки
Как устроены сторонники войны? Кучера у Дудя. Как переубедить близких?
(戦争支持者はどのようにできているのか?ドゥヂインタビューでのクチェラ。どのように近しい人々を納得させられるのか?)
インタビューから戦争支持者のメカニズムを考察している。

ШЕПЕЛИН
РАЗБОР КРИНЖУХИ: Кучера у Дудя | фейки, база НАТО в Крыму, трэш, Оскар Михалкова | Юра, это трэш!
(恥の解析:ドゥヂインタビューでのクチェラ/フェイク、クリミアのNATO基地、トラッシュ、ミハルコフの”オスカー”/ユーラ、これはクソだ!)
クチェラの発言のファクトチェック・解説動画。

НО.Медиа из России
Дудь терпел, и нам велел
(ドゥヂは耐え、我らにも求めた)
このインタビュー動画を簡潔に解説し、紹介している。題名はБог терпел, и нам велел (神は耐え、我らにも求めた)から。

我が家でもこの苦行を行った。
そのフィードバックとして、いくつかの場面を取り上げ、自分の考えを交えながら紹介したいと思う。

ロシア開戦の理由(20:46~25:58)

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ドゥヂ
「なぜロシアはウクライナと戦争を始めたのだろうか?」
クチェラ「むしろあなたに聞きたい。オスカル・クチェラという、政府機関とも、高官の友人、そう、友人がいない人間がどうしてそれがわかると言うのか?(中略)自分としては、計算づくのことだと思う。もちろん自分は政治に関してずぶの素人だから間違っているかもしれないが、何が起こっていると思うかというと、アメリカという、何も生み出さなくなった、それまでも生み出していたかはわからないが、パンデミック、いやそれ以前にダメになって生活レベルも・・・・(後略)
(その後ドゥヂが「それは数字に基づいているだろうか」とアメリカ経済の健在さを示す指標を提示、それに対し「スコルコヴォでMBAの中のMBAを修めた友人などの情報をあわせると、それほど抜きんでてはいないはずだ」と反論)
ドゥヂ「ではあなたの考えだと、アメリカ経済がひどく悪いということだけれど、それで?繋がりがわからないのだけど」
クチェラ「欧州から何か持ってこないといけないわけで、それにはロシアを弱体化させなければいけない。何か「ゲーム」が始まるのだと思う。なぜかというと、正直自分が今話していることは全くばかげていると思う。直接なぜ始めたかと訊かれても、全く理解できない。ただ一つだけ確信しているのは、ウクライナを侵略するためではないということだ。
ドゥヂ「そのためではないと」
クチェラなぜそんなことをする必要がある?説明してくれないか?なぜなのか?もし君がそう考えているのであれば。」
(ドゥヂが「アメリカ経済が悪化→欧州で戦争を起こす→欧州の戦争で稼ぐ」とクチェラの意見をまとめる)
ドゥヂ「あなたは「ロシアはこの戦争を始めたのは断じてウクライナを侵略するためではない」と言った。」
クチェラそうだ。確信している。
ドゥヂでは9月30日にロシアでは何があっただろうか。
クチェラ「住民投票のことか。」
ドゥヂ「住民投票、そしてその後ロシアはドネツク州、ルガンスク州、ザポロージャ州、へルソン州は、ロシア連邦となったとした。これが侵略と言わず何という?
クチェラ・・・・・(沈黙ののち)侵略だな。(両者沈黙)説明してほしいと?」
ドゥヂ「そりゃ、あなたが言った「ウクライナを侵略するために始めたのではない」というのと辻褄があわないから・・・」
クチェラ正直自分でも辻褄が合わず、説明できないことが沢山ある。9月30日までの流れを見てきた限り、脅したいのか、緊張感を高めてけん制するのかという手なのかと思っていたが、そうではなかった。何のためにやったのかは、説明できない。自分は政治家でもないし、正直分からない。」
ドゥヂロジックが成り立たないのだけれど
クチェラ「成り立たないんだ。」
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序盤のところは、「欧米によって仕組まれた戦争だ」という、ロシア国内に限らずこの戦争を肯定する人々の間で語られている話である。

その後、クチェラは戦争の目的を「ウクライナ侵略ではない」と語る。これ自体はロシア政府の公式見解とも重なる発言である。
一方で9月30日の併合という事実を前にすると、「侵略」という事実を否定できない。
ここに関しては「住民投票を行ったのだから民族自決だ!」という意見があるだろうから、クチェラがその考えに至っていないのか、ロシア軍の暫定政府下で行う投票の意味のなさを理解しているか、どちらかだろう。

その後、「自分は詳しくない。自分たちには語られない本当の、マトモな理由があるはずだ」という話へ移行していく。
自分たちの国が理解不能な戦争を突き進んでいるという事実を認めるのは、精神的に苦しい。

国を愛することと、国家を愛すること(25:59~27:27)

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(上記の続き)
クチェラ「色々なことがわからないが、ひとつ言えるのが、あなたのようにはできないということだ」
ドゥヂ「というと?」
クチェラ「自分の国と敵対するということだ」
ドゥヂ「誰が、私が自分の国と敵対してると言った?」
クチェラ「だってあなたは特別軍事作戦に断固反対しているじゃないか。戦争も・・・・・戦争は問題ないな、私も反対だろう。どんな戦争もひどいものだ。」
ドゥヂ「区別しましょう。自分の国と敵対することと、自分の国家、21世紀に非道な戦争をもたらした国家と敵対することは、全く違うものだ。もし共通の友人がいたら、私のロシアに対する立場を、公ではない場面についても含め、訊いてみてほしい。インタビューの初めでもクラースナヤ・ポリャーナの話をしたのを覚えているでしょう?それがまず1点。
それから、狂気じみた決断をする国家を糾弾することは、自分の国と敵対することではない。
(その後クチェラはフェイスブックへの武力衝突反対の投稿に来たヘイトコメント、ドネツク出身のタクシー運転手が語った東部地域の悲惨な状況について、さらにはマイダン革命の正統性やギルキン、ウクライナの先制攻撃計画に話が続いていく。)
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国と国家を同一視する人々にとって、自国の判断、それも戦争という非常に重い判断に対して異を唱えることは、祖国への反逆行為である。(ここには国民主権的考えの希薄さも影響している)。

国内ではこの戦争を始めた政権の判断に反対する人間は「祖国に対する反逆者」と呼ばれ、「外国エージェント」というその象徴となる人々は活動家ら学者、ジャーナリストやアーティストなど多岐にわたる。

では彼らはロシアを忌み嫌っているのか?そうではないだろう。
彼らの立場はドゥヂの言う通り、祖国を戦争に巻き込んだ国家に対してNoという、というところである。

この部分を取り上げた理由の一つとして、日本語でロシア政府側を支持する人々が「親露派」とまとめられることに対するもやもやがある。

自分が親露派か否かというと、親露派である。だがそれは国としてのロシアであり、政権を支持しているということでは全くない。
ではその立場が反露であるかというと、私はその考えに全く賛同できない。
友人の言葉を借りると、今回のロシア政府の決断は「自殺行為」である。
西側の隣国や経済的強国と敵対し、その結果一部例外を除いて対等とは言えない関係を作ることが国の為になるのか?
20世紀、もしくはそれ以前の形での全面衝突を始め、文化的にも近接し、自国民の大多数が何がしかの繋がりを持つ隣国民を殺害し、街を破壊していくことに何の意味があるのか?

「親露」であるからこそこの無意味な戦争に反対であるし、そのように考え「祖国の反逆者」となった人々も多いのではないだろうか。

隣人への干渉(59:09~1:07:57)

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(上記の続き)
ドゥヂ「独立した他国で起こっていることに、干渉するべきではないと考えている。特に、自国が抱える問題が解決できていないのであれば。そうであるべきであるし、それが世界が順守しようとしていることだ。
クチェラ「そうか。では1つ例を出そう。あなたが住んでいるマンションの隣の家で、成人男性たる夫が妻を殴っている。警察を1回、2回、3回と呼んだ。その後、これは落ち着かせるために自分が殴らないといけないと悟り、そしてもう1度やるようなら更に殴ると言う。これは問題ないだろう?」
ドゥヂ「それは正しい比較ではない。自分の家でロシアで起こっているようなDVが起こっているのと、国を家に例えると、貧困が広がり、格差が大きく、汚職がはびこり、軍でさえ物凄い量の問題を抱えているような、自分の家は全く持ってちゃんとしていないのに、隣人にちょっかいを出して、他の部屋で起こっていることに目を向けるのは、少なくとも自分の部屋に住む人にとって良心的ではない。
(クチェラは、自分の家は問題を見つけるたびに解決するが、扉越しにある隣の部屋から助けを求める声が聞こえているのに助けないのか、「確かに自分の家はめちゃくちゃかもしれない。けれど隣の部屋の問題は明らかなのに、何もしないのか?」と反論)
その後、
他のジムのダメなトレーナーは教育すべき(クチェラ)/武器を持って入っていくのは違う(ドゥヂ)
「隣人が妻を銃撃しているのなら、武器を持って脅しに行かないのか?妻を撃つのも隣の部屋に武器を持っていくのも悪だが、ましな方を選ぶしかない(クチェル)」
「ハバロフスクで動乱が起こったら中国は介入していいということか?(ドゥヂ)/ハバロフスクには民族的中国人がいるのか?(クチェラ)/ドンバスにいるのはウクライナ国民だろう?(ドゥヂ)/民族的にはロシア人と自認しているのでは?(クチェラ)」
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自分の部屋の問題の点もそうだが、そもそも隣家を蜂の巣にして、妻を強引に自分と結婚させ、同居していた従妹とも銃を持ったまま養子縁組させているような状況である。
他人の家を蜂の巣にすることはいかなる理由があっても犯罪であるし、武器を持って姻戚関係を結ばせて「本人の意思だ」なんてものが通るわけがない。

後半のところにもつながるが、この戦争の立場の対立軸となっているものの一つとして、「歴史的正統性」と「現代国際秩序」というがあるのではないだろうか。
ロシア側の論理として「あそこに住んでいるのはロシア語を話す民族的ロシア人なのであり、帝国ロシア・ソ連を通じ我々の土地だ」という考え方がある。そのため同胞を西側から助けるための戦争、という考え方になる。
ここにソ連崩壊後に存在しているウクライナという国家の存在、ウクライナ国民の存在を尊重するという考えはない。国家は不当に切り離されたものであり、東部の人々は迫害される同胞であるという考えである。

私自身、東部住民の中に親欧・ウクライナナショナリズムよりも親露にシンパシーを感じる人々はいたのではと考えているし、この戦争後どのようにウクライナが国内のロシア系住民と向き合っていくのかは大きな課題となるのでは思っている。
しかしその全ては武力侵攻の言い訳になるものではなく、国同士で取り決めた領土を侵犯し、更には併合することを認めるものでは決してない。

前線にいる兵士に対する感情(1:43:43~1:51:38、2:01:51~2:04:21)

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ドゥヂ「あなたは人生は白黒ハッキリできるものだけではないという。けれども単純なロジックでハッキリさせられるものもある。例えば、結果的にだとしても占領者となったロシア軍や兵士を支持するのであれば、この戦争に反対とは言えない。この戦争に賛成ということになる。乗った飛行機が問題なければ目的地に向かうように。違うというなら説明してほしい」
クチェラ「よし。過去に立ち戻ってみると、2月24日に兵士たちはその場所で送られたわけだ。彼らには何をするのかが伝えられたはずだ。そうでなければ何をするかわからないからだ。彼らは何かしら伝えられたのだと思う。そして彼らはウクライナにやってきた。ヴェトナムに来た米兵のように、別の国に。そして批判されるようになった。当時は平和活動家などによるデモが多く起こった。ロシアでも同じことだ。ただそれは禁止されているが。自分の意見を言うだけで監獄送りになる可能性がある。
そうして彼らがその場に立ってしまった状況で、彼らを見捨てるのか?見知った人、話したことさえある人々を、「占領者だ」と後ろ指を指すのか?彼らはこの戦争を望んでいるだろうか?もちろん望んでいる人もいるだろう。ただ大多数はそうではない。彼らにどうしろと?脱走しろと?彼らはもうその場にいて、我々ももうその場にいるんだ。国を出て「この件には関係ありません、潔白です」と言うのか?恥ずかしくないのか?
(その後話は金の為に国外に出るのかというテーマに移る)
クチェラ「話を戻すと、彼らはその場にいて、逃げることもできない。戦場だ。そこで彼らを見捨てろと?ロシアにいて止められると思うのか?」
ドゥヂ「オスカル、あなたは軍を支持していて、動員から逃げる人々が気に入らないと。そこで「なぜ志願兵とならないのか」と訊くと「この戦争に反対だからだ」という。
クチェラ「私はどんな戦争にも反対だ。」
ドゥヂ「それなのにあなたの言い分は全く以て好戦的で、軍を支持している。これの後に「私は戦争に反対だ」と言ってもどのように響くだろうか?
クチェラ「何が聞こえてなくて何がわからないんだ。我々の同胞の兵士たちが運命のいたずらでその場にいた。そこで、命令を遂行するために戦っている。私はその兵士個人を支持している。彼らに服があって欲しいし、食べ物もあって欲しい。戦ってほしいかって?そうではない。なぜそれがわからないんだ。」
ドゥヂ「今私がまず話しているのは、動員から逃れた人々についてだ。あなたは彼らの行動を尊重しないし、理解できないと言う。一方であなたに「なぜ戦わないのか」と訊くと「戦争反対だからだ」という。彼らも反対なんだ。(私は逃げていない!というクチェラの叫び)待ってくれ。あなたは戦争反対で、彼らも戦争反対だ。棄損も否認も起こらないはずだが?」
クチェラ「私は逃げないからな。逃げないからな。動員開始3日前に「始まるぞ」と電話がかかってきた時に妻は頼むから逃げてくれと言ったが」
(その後ドゥヂは5人の子の親は動員免除だと突く。更に18歳以上のクチェラの子供が動員されたらどう思うかと訊くと、クチェラは「ひどいことだ」と答える。18歳の子供たちは前線に送らない、最初にあったのも改善されたというが、ドゥヂは1回起こったことがまた起こらないとは言えないという。クチェラの子供たちは逃げないというし、妻は開戦後と動員開始後に逃げるよう説得しようとしたが、クチェラが説き伏せたという。)
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ドゥヂ「軍に関して最後の質問。今日も、また別のインタビューでもあなたは「常に自分たちの軍を支持する」と言ってきましたね?」
クチェラ「私は常に、自らの国を、支持するだ」
ドゥヂ「と、軍と。これは色々なインタビューからの引用だ。」
クチェラ「わかった、わかった。私は他国の軍を支持はしないし、他の軍ではなく、自分たちの軍を支持する。」
ドゥヂ「1939年~1945年のドイツ国民も自分たちの軍を支持していたけれど、彼らは正しかっただろうか?
クチェラ「いや。自分は間違っているかもしれないが、それは自分たちの軍の行っていることに対してであって、自分たちの軍、自国の人々をに反対しなかったことについてではない。」
ドゥヂ「もう一度。あなたは間違えるかもしれないと」
クチェラ「そうだ。もしかすると自分たちの軍はやるべきことではないことをしているかもしれない。同時に、軍は指令を遂行しているのだとわかっている。
あなたにとってはわからないが、私にとって軍は一義には生きている人々だ。司令官や将軍ではなく、塹壕で凍えている若い奴らだ。それが私にとっての軍なんだ。そいつらが、自国の男たちが指令を遂行している、その指令は間違っているかもしれないが、それが下されたのなら、支持しないということはできない。自らの職務を、指令を遂行することで全うしている人々を見捨てられない。
私は何があっても絶対にあの醜い奴ら、そうとしか言いようがない、人々を苦しめる奴らは支持しないし、一般人を虐待する汚らわしい奴らも、どちらの側であろうが支持しない。ただ誠実に自らの職務を全うする奴らは、最後まで支持し続ける。
ドゥヂ「質問を繰り返すけれど、1939年~1945年のドイツ国民も同じだったのでは?」
クチェラ「それはわからない。」
ドゥヂ「仮にそうだったとしたら、彼らは正しかったということだろうか?」
クチェラ「もし彼らが私が自軍の奴らに対して思っていることと同じことを思っていたら?正しかったと思う
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根の深い問題であると思う。

独立テレビ局のドーシチがラトビアでの放送免許を取り消されたコロステリョフの「彼らに装備を」という失言も、根底は同じである。
コロステリョフの元には最低限の装備すらままならないまま前線に送られる動員兵の情報が入り続け、彼らに対する居た堪れない思いがその発言につながったのだと思う。

この問題が議論された際、確かウクライナのジャーナリストのゴルドンだったと思うが、「動員兵は逃げることも出来たのだから、彼らに同情するのは間違いだ」という発言を聞いて、それは一理あると思った。
一方で各方面から「送られた先がウクライナだった」という話が出ている初期のロシア兵たちに対しては使えないロジックで、彼らへの何とも言えない感情は避けられないものだろう。

自国民が犠牲になっている状況に関して居た堪れない思いを抱くことは自然だと思う。ウクライナが勝つべきだと考えているロシア国民でも、ではロシア軍が大惨敗して死体の山を築いたり、基地が攻撃されて数百人が犠牲になるような状況では、複雑な思いを抱くのではないだろうか。

だからこそ、クチェラのロシア兵に対する発言の一部に関しては、心情的に理解できる部分もある。(もちろんそこで行った行動の責任は、戦争犯罪も含め各々が取るべきであると思うし、その場で各個人が行った残虐行為を正当化するものではない。)

コロステリョフとクチェラの決定的な違いは、コロステリョフはその命令を下した軍部や政権を非難することを前提とし、クチェラはそこには目を瞑っているということだろう。

ここには「お上が決めたことは、疑いがあろうとも仕方ない」というような考え方があるのではないだろうか。
この考え方が、開戦後も動員開始後も反対運動が限定的になった理由のひとつともいえるだろう。この諦観もまた、根の深い問題である。

運転手の邪魔をするな(1:51:39~1: )

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ドゥヂ「また辻褄が合わない部分について訊きたいが、あなたはプーチンを支持するというが、一方でプーチンはあなたのまだ若い子供たちを軍に召集しかねない戦争をしているし、それはひどいものだとわかっている。この2つがどう両立するのかわからない。」
クチェラ「おお、つまり「オスカル、あなたはプーチンを支持している」としたいわけだ。」
ドゥヂ「30分前に言ったじゃないか。」
クチェラ「もちろん。(沈黙)・・・・私はウクライナに対する戦争に関してプーチンを支持しているのではなく、今、まさに今始めた国内を「掃除」する政策を支持しているんだ。」
(その後「それは独立メディアなど、あなたと同じように発言しても体制を支持しない人々を排除することか」という議論)
クチェラ「それ以外にも。うーん。例えば、あなたの車が山から駆け下っている時に助手席からハンドルを取ろうとするとする。あなたは事故や死を避けられる能力が自分にあるとわかっているのに。」
ドゥヂ「ハンドルを取ろうとするのは政権?」
クチェラ「違う。あなたの乗客だ。何を例えているかは置いておいてくれ。道を外れて、斜面を下り落ちているとする。石や枝をかき分け運転しているが、乗客はハンドルを握ろうとして、そうじゃないと言ってくる。操縦しているのに、ハンドルを横から握ろうとする。そしたらどうする?
ドゥヂ「手をひっぱたいたりして、邪魔しないようにする。
クチェラ「そういうことだ。今まさにそういう状況、斜面を下り落ちている状況で、そこから抜け出さないといけない。だから時として手をひっぱたくんだ。」
ドゥヂ「なるほど。ドライバーがプーチンということか。あなたは崖に送ったのはプーチンでないと、プーチンがどうやって抜け出せるかわかっているという自信があるのか?
クチェラ「自信がある、信じている、いや・・・・、彼が自分が何をしているのかわかっていると、願いたい。
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前の部分とも重なってくるが、これは「自分は専門家ではないからわからない」「わかっている人間の邪魔をするな」という考え方であり、政治の場でこれが出てきて反対派の粛清が肯定されるということは、民主主義の否定ではないかと思う。

このことはロシア社会にある病理のひとつではないかと思い、取り上げた。

全体を通して

ここで取り上げたものの他にも様々な話、クチェラが次々に繰り出す自説の根拠となる実体験、「プーチンは狂っているとでもいうのか?」という発言、フェイクニュースを指摘されての開き直りなどがあるので、勧めるのは気が重いが、興味のある方は観てみると面白いと思う。

全体を通して思ったのは、クチェラや、彼と近い感覚の人々は、自国が起こしていることを現実として受け入れられていないのではないだろうかということだ。
Майкл Накиは冒頭に取り上げた動画の中でクチェラを平均的戦争支持者として、「彼らは自らを守ろうとしている」と評している。私もこの考え方に賛成である。
実際、クチェラは自身や息子たちの徴兵に関しては歯切れが悪かったように思う。自国が起こしたこと、それによって抱えることになったリスク。これに向き合うことは簡単ではない。

また正直戦争支持者との対話となった際に、もっとかみ合わず、聞いてられないものであるのではないかと思っていたが、マトモに聞ける部分も思った以上に多かった印象だ。

彼らのような人々はプロパガンダに毒されきっているわけではなく、何かしらの拍子に政権の方針に異議を唱え始める可能性も残しているのではないかと思う。

そのきっかけが何かは、わからないのだけど。


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