【短編】”生まれない日万歳!”【今日は何の日 : 0628 パフェの日】


「家にこんなコップあるのうちぐらいだよね!」
「パフェグラスか? 今日日(きょうび)100円ショップでも売ってるからな……どこの家庭にもあるんじゃないか?」

 六月二十八日。
 もはや若干妹の方が飽きてきている感はあるものの、『今日は何の日』かを調べたところ、本日は『パフェの日』だそうだ。
 パフェ愛好家とパフェを扱う洋菓子業界が制定したというこの『パフェの日』だが、起源というかキッカケは、まさかの野球のパーフェクトゲーム(完全試合)だというのだから驚いた。
 1950年、読売ジャイアンツの藤本英雄選手が日本でプロ野球史上初の完全試合を達成したことを受けて、『パフェ』=『Paeflait』がフランス語の『完全な』という意味から、とんでもなく無理矢理なこじ付けで記念日に制定したのだそうだ。

 そんなわけで、本日は、夕食後のデザートに、全身全霊のパフェを作って、妹に振舞ってみることにしたのだ。
 そうしたら、真っ先に反応したのはパフェグラスだった。
 いや、そんな珍しい器だろうか?
 野菜スティックとかを盛り付けるのにもちょうどいいので、うちには普通にあるし、言った通り、いまどき100円ショップにも置いてあるのだ。恐らくどこのご家庭にもあるのではないかと思うのだが……。

「どうしたの、お兄ちゃん? 今日のデザート豪華じゃん!」
「いや、今日が『パフェの日』だから、一応作ったんだが……」
「え? そうなの?」

 俺の言葉を受け、スマホを取り出し検索を始める妹。
 ……やはり、コイツはもう『今日は何の日』ネタに飽きているようだった。

「ほんとだ!! 今日は『パフェの日』なんだ!?」
「みたいだな」
「えぇー、じゃあずっと『パフェの日』がいい!! 今日から毎日を『パフェの日』ってことにしようと、お兄ちゃん!!」
「そんなイカレ帽子屋と三月うさぎみたいなの、認める訳無いだろ!?」
「……ん? いかれ帽子屋と三月うさぎ? なにそれ?」

 不思議の国のアリスに登場する、『生まれない日』を祝いお茶会を続ける連中なのだが、妹には全く伝わらなかった。
 幼い頃に一緒に見ていたのだが……

「でも、私、パフェならやっぱり、苺のパフェがいいなぁ……」
「……すまんな、今の時期はモモがうまいからモモにしちゃったよ……」
「モモも美味しいけどさ……パフェはやっぱり、苺でしょ!!」

 うまそうにパフェを頬張りながら、文句を言う妹。
 まぁ、その気持ちがなんとなく分かってしまうので、怒りは覚えなかった。
 パフェと言われて、あの赤い果物を思い浮かべるのは俺も同じだったのだが、いかんせん旬というものがある。
 この季節は、丁度モモが店頭に並び始めるので、思わずそっちのパフェを作ってしまった。

「いや、でも、モモ美味いなぁ!! モモ!!」

 しかし、どうやら大満足のようなので、結果オーライというやつなのだろうか?

「それにしても、『レストランかよ』って完成度のパフェだよね?」

 自分で最初にパシャパシャ撮っていた写真をスマホで見返しながら、感心したようにいう妹の言葉に悪い気はしない。
 言い回しからして、恐らく褒められているのだろうとは思うものの、やはり言葉遣いの悪い妹の将来が心配になるのは、親心ならぬ兄心というやつなのだろうか?

「なんで、お兄ちゃんは、レストランで働いてたとかでもないのに、こんな完璧なパフェが作れるわけ?」

 見よう見まねで作っただけなのだが、どうやら絶賛の嵐なようで何よりだ。

「……やっぱり、私への愛が成せる技? えへへへへ……」

 一人デレデレいている妹を尻目に、食べ終わった食器を洗っていると、

「お兄ちゃん、パフェおかわり!!」
「いやいや、そんなパフェはないだろ!?」
「家なんだからいいじゃん!!」
「おいおい……」
「『パフェの日』なんでしょ!! いいじゃん!! おかわり!!」

 なんて、わがままを言い出す妹に、文句を言いながら、二杯目のパフェを作り始める俺だった。

「わかったから騒ぐなよ……」
「お兄ちゃん大好き!!」

 本当に現金な妹である。

 このあと、妹は、結局6回もおかわりをしたのであった。
 モモもアイスも生クリームも、しっかり底をつくのであった。

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