犯人でない人が逮捕されることはそれなりにある

【目次】
1.はじめに
2.逮捕って何のための手続?
3.「逮捕された人」=「犯人」 と思う前に,立ち止まってほしいです
(なお,本文途中で出てくる「※」は脚注です。)

1.はじめに

古畑任三郎,名探偵コナン,金田一少年の事件簿・・・

推理ドラマや推理もののマンガは,私も結構好きです。

推理ドラマや推理もののマンガでは,主人公が犯人を追い詰めて罪を認めさせ,警察が逮捕します。

私達の中には,「逮捕された人」=「犯人」というイメージができ上がっているかもしれません。

しかし,犯人でない人が逮捕されるケースは,決して珍しいものではありません。

例えば平成30年に検察官が起訴不起訴などの判断を下した件数は799,099件。
このうち「嫌疑不十分」,つまり検察官が「有罪を立証できない」と判断して起訴を見送った件数は,40,633件です(2018年検察統計「6 検察庁別 被疑事件の受理,既済及び未済の人員 -道路交通法等違反被疑事件を除く-」参照)。

割合にすると5%。20人に1人は「嫌疑不十分」を理由に不起訴になってるんですよね。

この中には,実際に犯罪はしているものの,証拠がないため嫌疑不十分,というケースもあるかもしれません(※1)。

一方で,犯罪をしていない人が「嫌疑不十分」により不起訴になるケースも,この中には相当数含まれます。

まずは,犯人でない人が逮捕されることはそれなりにある,という事実を知って頂きたいと思います。

2.逮捕って何のための手続?

「犯人ではない人を逮捕するなんて,違法じゃないか!」と思う人もいるかもしれません。

逮捕した後に真犯人が出てきて,警察が謝罪するケースもありますよね(例えば,愛媛の女子大生誤認逮捕事件。※2)。

しかし,法律上は,犯人ではない人を逮捕しても違法ではないんです。

逮捕は,「被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるとき」にできます(刑事訴訟法199条1項。※3)

あくまで,疑い,なんですよね。

そもそも逮捕は,捜査をしていく上で,証拠隠滅や逃亡を防ぐために行う手続なんです(刑事訴訟規則143条の3参照)。

本当に逮捕された人が犯人なのか,仮に犯人だとするとなぜやったのか,こういったものを捜査する,証拠を集める,そのために必要なら逮捕する,ただそれだけなんです。

「逮捕された人が犯人なのか」をこれから確かめる上で必要であれば逮捕するということなのですから,犯人でない人を逮捕することは法律が予定しているのです。

3.「逮捕された人」=「犯人」 と思う前に,立ち止まってほしいです

逮捕された旨の報道を見ると,あたかも逮捕された人が犯人であるかのような印象を抱きます。

新聞もテレビも週刊誌も,逮捕された人が犯人であるという前提に立ち,勝手に動機を推測していきます。

しばしば,事件に関係あるのか疑問なプライベートまでも次から次へとボロボロ報じていきます。

逮捕された旨の報道に対する世間の反応を見ても,逮捕された人があたかも犯人であるかのようです。

このような反応は,残念ながら,逮捕について学んでいるはずの弁護士にも見られることがあります。

かくいう私自身,逮捕された旨の報道を見て「犯罪をしてしまったのかな。」と反射的に思うことがあります。

「火のない所に煙は立たぬ」ということわざもあるように,「逮捕された人」=「犯人」というのは,我々に深く深く刻み込まれているのかもしれません。

だからこそ,逮捕された旨の報道を見たとき,理性をもって立ち止まり,逮捕が何のための手続かを思い出してほしいな,と1人の弁護士として思います。

「火のない所」に煙が立ってしまうことは,それなりにあるのですから。

長文になってしまいましたが,お読み頂きありがとうございました。

※1
正確性を期すために,このように述べました。
しかし,有罪判決が言い渡されていないにもかかわらず人を犯人だと考えることは,「推定無罪の原則」に反します。
嫌疑不十分で不起訴になった人を,あたかも犯人であるかのように扱うことも,やめて頂けたら幸いです。

※2
これは私見ですが,愛媛の女子大生誤認逮捕事件については,「犯人でないにもかかわらず逮捕したこと」自体は,警察が謝罪する筋合いのものではないと考えます。
先に述べた通り,犯人でない人を逮捕すること自体は法律が想定しているからです。
「犯人でないにもかかわらず逮捕したこと」を謝罪するということは,かえって,警察が逮捕手続を理解していないことをも示しています。
(とはいうものの,人の自由を奪っている以上,やはり道義的には謝罪を求めたいところでもあります。)

この事件で警察が問われるべきことは
・「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」を裏付けるような証拠があったのか
・証拠隠滅や逃亡のおそれを裏付けるような資料があったのか
・犯人視する取調べは適切であったといえるのか
だと考えます。
そして,1番目と2番目については,逮捕状を出した裁判所の責任こそが問われるべきだと考えます。

※3
刑事訴訟法199条1項は逮捕状による逮捕の条文です。
逮捕には,他に緊急逮捕や現行犯逮捕があります。
逮捕の要件はそれぞれ異なりますが,逮捕はあくまで捜査のためだということは全ての逮捕手続に共通してますので,文章をなるべく短くするために割愛しています。

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