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【26日目】気付く商売

白酒は放任主義だ。
私の芸に関しても活動に関しても何も言わない。
毎朝お家の掃除をする、なんてこともなかった。
最初に最低限のルールと「噺家とは気付く商売」とだけ言われて今に至る。

どういうこと?

『気付く商売』というのは、楽屋で働く上で
「師匠方が何を欲しているか」
「どう動けばいいのか」
「着物にシワはないか」
そういうことに気付けるかどうかを言っているのかと思っていた。
いや勿論それもあるけれど、たぶん落語において
「こうすればもっと良くなる」とか
「ここはお客さんに伝わってなかった」とか
そういったことに気付くことも大切だよ、と言っているのではないだろうか。
まぁ、真意はわからない。

しかし教える側にとって『気付く商売』って便利な言葉だなぁ、と思う。
全ての物事が『気付く』『気付かない』でカタがつく。
そういえば師匠に何か聞いた時、

「いや、それも気付く商売だから」

とあしらわれたことがあった。
もしかすると師匠のことだから「気付く商売だ」というのは、前述したような意味は何もなくて「面倒だから俺に何か聞くな」ということかもしれない。
これ書いてて気付いた。

仏?

「気付く商売だ」と言われてもやっぱり気付ききれないこと、そもそも分からないことがいっぱいある。
しかしそういうことは小里ん師匠のところに行けば大体解決する。(唐突の小里ん師匠)

一番最初に白酒から教わった噺が【道灌】、その次が【子ほめ】。
この二席を覚えてから出稽古──他の師匠に稽古をお願いすること──が許可された。
「許可されても……一体誰に何を教われば……」とアホみたいな顔をしていたら白酒が

「小里ん師匠に稽古をお願いしなさい」

理由は色々とあるが、とどのつまり「小里ん師匠が良いから」ということらしい。
初の出稽古では小里ん師匠から【二人旅】を教わった。

小里ん師匠は稽古の後にお昼ご飯をご馳走してくれる。
中華屋さんでは、餃子に大量の辛い調味料を付けて

「俺舌がバカになってるからよぅ、お前は真似しなくていいからな」

と仰ってた。
勿論真似しなかった。
そういった食事の席でいろいろな話をしてくれるのだけれど、そこでのお話がいちいち為になる。
何も伝えなくてもその時疑問に思っていることの話をしてくれる。

落語は教わった通りにやるのが大事なのはわかっているけれど、『工夫』や『笑えるかどうか』を基準にしているお客さんにも楽しんでもらう為には、落語を崩す、進化させることも大事なんじゃないか?
と考えていた時に小里ん師匠は、
「落語は一度崩すともう戻れなくなるぞ」と仰ってくれた。
お客さんの求めるものに答えだすと落語じゃなくなって、普通の落語をやった時にお客さんが満足しなくなる。
かといって普通が好きなお客さんからは好かれない──というようなことを実在の人や実例を挙げて分かりやすく話してくれた。
その上で

「お前がそうしたいなら(落語を変えていきたいなら)そうするといい」

とも言ってくれた。
何も聞いていないのに、だ。

おそらくだが、小里ん師匠ぐらいになると『気付き』が進化して『悟り』になっているんじゃないだろうか。

──小里ん師匠は仏なのかな?

見た目も込みでそう思っているのだけど、
この疑問を持ったまま稽古に行けば答えてくれるだろうか?


26/40 浅草演芸ホール 六日目
【親子酒】
朝、お客さんから新嘗祭御神酒の白酒(しろき)が届きました。

貴重なのでは?
貰っていいのか?
よく見るとモロゾフのプリンの容器

一口いただきました。
ドロっとしていて甘みの後に強烈なアルコール。
飲みやすくするにはヨーグルトや牛乳で割るといいそうだ。

──こうなると黒酒も飲みたい。

ということで作ってみることにした。
調べてみると黒酒は白酒に黒胡麻であるとか灰で色付けしただけとのことなので、ごまあんまんを買ってきて餡を白酒に溶かしてみた。

茶酒になってしまった。

ごまあんまんの餡にはそれなりに小豆も入っているらしい。
ちゃんと黒胡麻ペーストみたいなものを買ってきた方がよかったか。

ということで六日目は【親子酒】。

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