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令和五年四月十六日『桃月庵黒酒二ツ目昇進披露落語会』於・内幸町ホール

前日から話をすると「うわぁ、明日落語会だぁ」と思いながら夕方まで寝ていて、起きてもダラダラしていました。
そして21時半くらいから1時まで銭湯で稽古をして、その後は家で配布物の作成。
3時くらいから明け方まで布団の中で横になりながら稽古をして、鳥がチュンチュン囀り始めたあたりで強引に寝ました。
会の前日に限らず最近の生活リズムはこんな感じです。
20歳で東京に出てきて31歳まで深夜アルバイトをしていたので、油断するとすぐに昼夜逆転してしまいます。

朝10時半に起きて落語協会へ向かい配布物の印刷(協会員は印刷料が安い)をして、
それからカラオケで稽古しようと向かうも、日曜ということで満室。
1時間半待ちということで、それまで上野公園で稽古しようと思ったら土砂降り。
稽古どころじゃなく、木の下でただただ雨宿り。
雨が弱くなったところでカラオケに入って、雨に濡れた着物を干したり身体を拭いたりという謎の時間を過ごして、やっと2時間稽古。
なんだかついてないなぁと思いながら会場入り。
かつての芸人仲間に色々とお手伝いをしてもらいながら開演ギリギリまでロビーでお仕事。
そして開演。

自分の集客力では師匠を呼んで100人くらいだろうなと思っていて、元々は池袋演芸場でやるつもりでしたが抽選で外れてしまいました。
急遽師匠のスケジュールと相談しながら会場を探して、空いていた場所が内幸町ホールです。
183人キャパなので勿論満席にはできませんでしたが、だからこそ、

「来てくれたお客さんには、今日来たことが後に自慢になるような、
そして今日来なかった、来れなかったお客さんが後悔するような会にします」

とオープニングで言ったんだと思います。

◎兵庫船
前座の頃と違った一面を見せられる噺で、
今後の方向性(上方の人が出てくる噺をやっていきたい)を示せて、
そして今心がけていることが伝えられる噺、
ということで【兵庫船】を選びました。
また、旅の噺は「お客さんの足が向く」ということで縁起が良いそうです。

鮫が喋るところ、やはりインパクトが強いようで、
思いもよらないところで笑っていただける分、間が取りづらいですね。
もう少し勉強したいところです。

◎火焔太鼓
ネタ下ろしです。
師匠がゲストで、昇進の記念の会で、口上があって撮影可能。
これだけ売りがあるので、わざわざネタ下ろししなくてもよかったんですが、私の会によく来てくださるお客さんに楽しんでもらおうとネタ下ろしにしました。

お客さん方にとってネタ下ろしとはどういうものでしょうか?
なんとなく『一生懸命稽古をして、やっと人前でできるようになったもの』という感じではないでしょうか?
私はそうでなくて『全然未完成だけど色々分からないから試させて』という感じです。
これは私が勝手にそうしているのではなく、
雲助師匠が「後はお客さんに稽古してもらいな」と、お客さんに聴いてもらって自分で完成に持っていけという方針だからです。
ウチの師匠も似たようなことを仰います。
なので色々と試させていただきました。
自信のなかった所だけ紹介すると、

おかみさんが痩せているとか太っているとかのくだり。
太っている噺家の「痩せてきちゃったわよ」というセリフに違和感があるので変えてみました。
白酒も変えてますよね。
ただ、師匠とおんなじやり方をしてもアレなので、思っていることをそのまま言いました。
言葉を洗練すればもっと良くなりそうです。

汚い煤まみれの太鼓を「暗闇がそこにあるみたい」と表現してみました。
これは志ん生師匠が大きなナスを、『暗闇にヘタを付けたよう』と表現していて
「大きさや黒さを暗闇で表現するなんてカッコいい!」と思って、
太鼓の汚さを暗闇にしたんですが、変なウケ方をしてました。

そんな暗闇みたいな太鼓なので、定吉が太鼓を叩いたら火事の煙のようなホコリが巻き上がるんじゃないかと思って「あ、火事じゃないんです。煙のようなホコリなんです」と言ってみましたが、これはとんでもなく無反応でした。

そんな定吉の太鼓のはたき方、甚兵衛さんの眼をジーッと見つめながら壊れたおもちゃみたいに叩き続ける、というのをやってみましたがこれもダメでした。
絵を思い浮かべた時は面白かったんですけどね。
「いいかいオジサンほら」とジーーっと見ながらドンドンドンドンドンドン…………。
ツッコミでどうにかするか、もっと長くドンドンやるか、もっと目を血走らせるか、さらっと流すか。

そして黒松が血を吸って赤松になるだとか、大きな声の侍、これは全く伝わらないだろうなと思いましたが伝わって嬉しかったです。
引き出しが増えました。

で、こうしてちょこちょこ変えていると逆に「どうしてそこは変えないの?」という疑問が生まれます。
箪笥のくだりとか、小野小町の腰巻や岩見重太郎の草鞋だとか。
これは、一度にたくさん変えると覚えられないですとか、私が好きだからという理由で変えてません。

後は人物設定で少しだけ意識したことがありますが、これはまた別の機会に。

ネタ下ろしは、慣れた噺ではできないトライアンドエラーを重ねることができて、落語の基礎能力が上がる気します。
ネタ下ろしをすればするほど、持ちネタと後に覚える噺が良くなるような感じですかね。
なので今躍起になって噺を覚えています。

──と、「色々試しているネタ下ろしだから実力じゃない」と言い訳をしたいわけではなくて、
ネタ下ろしで工夫をしすぎる所も、試して失敗する所も、失敗してなんぼだと割と投げやりな性格も、急いで色々と試さないといけない現状も、昼夜が逆転する生活も、稽古をサボる所も、カラオケに入れない事で雨に降られる運の無さも、全部含めてこれが今の実力です。
だけどまだまだ伸びていく予定ですので、どうぞ長くお付き合いください。


さて、Twitterにもつぶやきましたが、終演後にお見送りする時間がございませんでした。
すいません。
また、たくさんの差し入れありがとうございます。
いつもなら「皆さんで分けてください」と言われても全部持ち帰るのですが、流石に持ちきれない量を頂戴しましたので皆で分けました。
そして、お礼の連絡をしようと誰に何をもらったか名前を聞いて控えていたのですが、今回はチケットの販売を委託していたので名前を聞いても連絡先がわからず、また分けている間に誰が誰の差し入れかわからなくなるという事態になってしまいました。
アホですね。ぶつくさ。
この場で恐縮ですが御礼申し上げます。

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