見出し画像

令和五年正月廿一日 黒酒落語会『披露目反省会』 於・巣鴨スタジオフォー

40日間の披露目で「時間がなくて稽古不足」を上手くいかなかった言い訳のメインウエポンにしていたくせに、時間があっても稽古をしないのが私だ。

1/19。
この日は一日中稽古する予定でいたが、入場特典の筆が進まず気付いたら夜。
夜通し稽古しないとマズい、と思いサウナで身体中の毒素を全て出し切った後、「ノズルが付いてたら殺虫剤じゃん」みたいな馬鹿でかいサイズのレッドブル473㎖を1ℓのアクエリアスで割って一気に飲み干した。
圧倒的なカフェイン量で睡眠欲を消し去るつもりでいたが、カフェイン虚しくぐっすり。
起きたら朝の9時。

1/20、この日はイイノホールで三三師匠の会。
昼前からカラオケでみっちり稽古。
しかし精神がおかしい。
昨晩のサウナの効果かレッドブルの効果か、二、三回噺をさらうと気分がハイになってきた。
喉を一発で潰せるくらい際限なく大きな声が出せるし、稽古するたびに言葉が溢れ出て台詞が変わる。
これはどういう状態?
悪い気分ではない。

夜の三三師匠の会では【堀の内】をやろうと思ったが、師匠が【堀の内】をネタ出しされていたので急遽【長屋の算術】。
いつもなら緊張してマクラなんかはしどろもどろになるところだが、何にも感じないくらい高揚していて思いつきで喋れた。
声量もいつもなら80、大きい声を出して100のところ、ずっと100。
台詞回しが稽古の時と所々変わる。
これはどういう状態?
なんだか良くない気がして、終演後は真っ直ぐ帰ってすぐに寝た。

1/21。
あまり稽古できないまま本番当日になってしまった。
昼前からカラオケで稽古。
昨日と変わらず気分は最高にハイ。
分からないけど、危ないクスリをやるとこうなるんじゃないかというような、キマッている状態というかなんというか。
そして喉のリミッターが壊れたのかってくらい大きな声が出る。

スタジオフォーの楽屋に入ってたたみと談笑。
普段の自分の会なら口がパッサパサで開演直前まで稽古しているが「どうにでもなれ」「とにかくこの熱を放出したい」という意識が強い。
開演して私服でトーク。
緊張はない。
良いお客さんで嬉しい。

オープニングテーマは『敗北』

◎長屋の算術

最初から声の大きさがとどまるところをしらない。
防音がしっかりしているからか声が吸われる気がして、より大きな声になった。
フルスロットルでバーっとやった。

昨日の【長屋の算術】の良かった部分をそのままなぞったところの反応がよくない。
思いつくままやれば良かったかな? と反省。

◎野ざらし

【野ざらし】の先生は50歳くらいの侍の設定で、黒紋付きを着て落ち着いてやりたかったけれど、持ってくるのを忘れたのでイメージと違う感じ。
抑揚をしっかりと意識するつもりだったが『抑揚』の『抑』の部分が壊れて、脳で何かが焼き切れていくような感覚と共にテンションが上がっていく。
声量を調節するツマミも壊れてどこまでも声が大きくなる。
寄席サイズの【野ざらし】の反省なので途中で切るつもりでいたけど「行け行け!」と何かに後押しされて通しでやった。
先生も八五郎も釣り人も太鼓持ちも2割り増しで陽気になった。

ずっと110くらいの声量でやっていて、自分の会だから許してもらったけど興味本位で来た人はけたたましく感じたんじゃないだろうか。
ピーンと張った喉では上手く歌えず。

◎道灌

仲入りを挟んで【道灌】。
落ち着いてやろうと思ったが知らない台詞が出てくるくらいにはバチバチ。
「後ろに提灯がかかってる」と後ろを振り向いた時に、壁にかかっていた針金アートみたいな物が目に入ってプツンと集中力が切れた。

◎粗忽長屋

開演してから水分を摂っていないなー、なんて思いながら高座へ。
少し落ち着きすぎてしまう。
パチン! と手を叩いて噺に入った。

冷静になって声の大きさは少しおさまったが、なんだか力が抜けて、熊さんをほぼ自分でやってしまった。
主人公が粗忽すぎて普通に笑ってしまう。
後半なんか特に。
落語としては、真顔でやった方がもっとウケたかな、という。

総括

老舗のコックのように毎日変わらぬ味を提供するのが良い噺家なのかもしれないが、この日は「今までの稽古はなんだったんだ」と思うくらいテンションと勢いでやってしまった。
仲入り中に帰った人がいるのを認識できるくらい頭は冴えていたのに、沸る何かを抑えられなかった。
前座の頃からそう。
気分で出来が大きく変わる。


なんてんで反省ばかりが目立つ文章ですが、今回の会はすごく良かった。
未知の領域に踏み込んで芸の幅が広がった感覚もあるし、何より楽しかった。
よく言われる「貫禄がある」とか「落ち着いている」とは違った面を見せられた気がする。
あの声量でよく声が飛ばずにサイサイ節が歌えたなぁ、なんて自分の喉の強さも褒めたい。
今痛めてもないよ。
お客さんも喜んでくれたように思う。
反省もいいが、取りこぼしたものを拾いに戻るより前に進む方が得るものは多い。


少し怖いのは、昨年11/7の『ぷらすわん』の時のようにクタクタで翌日も動けないくらい疲れてしまうかと思いきや、未だに頭が冴えすぎているところ。
まだ昂っている。
このままハイテンションな芸風に変わったらどうしようか。ぶつくさ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?