アフターコロナの博物館・美術館像

先日、初めてnoteで自分の想いを投稿させていただきました。

半分は自分の不安を可視化するため、もう半分はどこかで共感してくださる人がいたらいいなぁ、お互いの気持ちを伝えあうきっかけになってくれればいいなぁ、という気持ちだったので、とても多くの反響に正直驚いています。
また自分以外にも同じような不安を抱えている人がいることも知ることができ、ことの重大性を再認識しました。

また、フリーアナウンサーの堀潤さんのご助力もあり、ラジオ(Jwave jam the world)やTOKYO MXテレビのモーニングCROSSでも取り上げていただき、より多くの方にコロナ禍における博物館・美術館問題について発信することができました。この場を借りて、改めてお礼申し上げます。


さて、5/5の政府の「博物館・美術館再開可能」の発表から10日ほど経ち、昨日5/14、緊急事態宣言が39県で解除となりました。すでにいくつかの県では博物館・美術館を再開し始めています。

そんな中、これからの博物館・美術館はどんな存在になるのだろう、と個人的ではありますが、この10日間の変化の忘備録とともに、今考えていることを書きたいと思います。


1. 5/6~14の博物館動向

ゴールデンウイーク明け、和歌山・徳島・鳥取などの一部施設が再開し始めました。美術手帖のアンケートによると35%の施設が開館済み、または再開予定だそうです。(この数字はあくまでアンケート対象館においてです)

日々、各地で再開のニュースを耳にします。実際に現地へ行って見ることはできないので、報道などで把握する限りですが、

開館する施設の傾向として

・動物園や植物園などの屋外中心施設
・もともと来館者が地域住民中心と考えられる施設
・美術館賞など、直接手で触れる展示が少ない(またはあっても触れられないようにできる)施設

が多いように感じます。そして多くの館が新型コロナ対応策として

・来館は県内在住者のみ (施設によっては住所確認あり)
・消毒用アルコールなどによる従事者・来館者の感染防止
・清掃頻度や清掃箇所を増やす
・チケットカウンターなどでは間仕切りを設置
・ソーシャルディスタンスのための誘導線、印付け
・3密になりやすいイベントや企画展の中止

などが行われているようです。

また14日、日本博物館協会が「感染予防ガイドライン」を公表しました。
内容としてはすでに開館している施設が行っているものとほぼ同等のものと思います。

海外ではICOM(国際博物館会議)が基本対策を示しました。こちらはより具体的な対策を明記していますが、日本の法制度(個人情報保護法なども含み)を考えるとそのまま実施するのは難しいのかな、と感じています。

2. 再開で浮かび上がってきた課題

① 消毒用アルコールの確保は必須

既出の美術手帖のアンケートでは消毒用アルコールの確保は再開館で100%となっています。正直、確保できたということは、そのためにかなり奔走したスタッフが陰ながらいるのだろうな、と思っています。(それとも行政からの支援もあったのでしょうか。とても気になります。)
やはり、スタッフ・来館者の安全を確保するには消毒用アルコールは必須です。少しずつ出回ってきたとはいえ、マスクと違い、消毒用アルコールは手作りできませんから、まだまだ再開が難しい施設も多いと思います。

② 施設の新旧が再開を分ける?

倉敷にある大原美術館の再開が8月中旬になる、というニュースを読み、ぼんやりと不安に思っていたことが形になりました。
大原美術館は1930年開館という築100年近いの西洋美術館です。今回の延長は予定していた空調設備工事のためということで、時期がたまたま重なったようですが、やはり博物館の換気は課題だと思います。

大原美術館のような歴史的建造物を展示室にしている施設もそうですが、バブル期に建てられた施設ですら、すでに30年近く経っているので空調設備に課題を抱えているのではないでしょうか。(当館も抱えています)
博物館・美術館は収益施設になりにくい上、複雑な建物構造の場合、簡単に改修することが難しく、空調設備や建物のリフォーム費用も膨大なものになります。
今回、政府は1施設あたり400万円を上限に補助を出してくれることになりましたが、今年は日本中(世界中?)で空調工事が増えると思うので、なかなか工事自体が進まないのでは、と懸念しています。

③ 来館者数は「価値のある施設」の指標にはできなくなる

これまで博物館・美術館の指標に「来館者数」というものがありました。年間の来館者数の目標値を立て、さまざまなイベントや企画展などを打ち、達成したかしないかで毎年一喜一憂します。行政の管轄にかる施設なら予算が増えたり減ったり、場合によっては存続に関わることもあります。
しかし、新型コロナにより「一人でも多く」ということはできなくなりました。つまり「来館者数」は施設の価値を見る指標にはできなくなったわけです。では一体何が施設の価値となるのでしょうか?

新しい価値観を考える必要があります。


3. 新しい博物館・美術館像を想像してみる

①これまでの博物館・美術館

今回の政府の「再開可能」発表のなかでずっと心に引っかかってきた言葉があります。

博物館、美術館は「住民の健康的な生活を維持するため、感染リスクを踏まえた上で、人が密集しないことなど感染防止策を講じることを前提に開放することなどが考えられている」

博物館法を学んでいるとここに違和感を感じます。(以下「博物館」は広義の意味で美術館などももちろん含みます)
博物館法は博物館の定義を定めた法律です。博物館が取り組むべきことが書いてあります。ざっくり書き出すと…

・資料の収集、保管
・展示
・調査研究
・教育普及

です。
つまり、そもそもは博物館に「住民の健康的な生活を維持する」業務は含まれていないのです。

でも「住民の健康的な生活を維持する」業務が博物館の業務ではない、とは私は思っていません。

博物館・美術館のとりまく環境は昨今大きく変わってきています。大昔は資料を集め、研究するだけだったのが、次第に展示を重視するようになり、今は教育普及にも重点が置かれています。(社会教育、生涯学習という言葉が一般的になりました)

そして来館者側も、単なる「勉強のため」だけでなく、リクリエーション的な利用や観光など、さまざまな目的でいらっしゃるようになってきていると思います。つまりすでに「精神的な健康を育む施設」として地域に根差しているのが博物館だと思うのです。

ただ、これは目に見えないものだったので、わかりやすいものとして業務の成果指標に「来館者数」が使われてきました。(例えば「企画展に〇人来た」とか「教室に〇人参加した」など)

しかしこれからは異なる指標が必要になります。その1つが「住民の健康的な生活を維持しているか」になるのではないでしょうか?

② 新しい取り組みと価値観の更新

ちょっと極端な言い方になってしまうのですが、これまで、博物館・美術館の価値の中心は「来館」にありました。しかしこれからは「来館」は価値の一部になる必要を感じています。

つまり、実物を見ることは大切ですが、それは博物館・美術館の魅力の一部であり、例えばオンラインで付加価値をつけていこう、というわけです。

・所蔵資料のオンライン公開
・ワークシートのダウンロード
・映像コンテンツの充実
・通信講座の実施

これらはすでにコロナ禍によって取り組みが広がり始めているものの一例です。いくつか実際に私も体験してみましたが、とても興味深い内容もあり、充実したものでした。

これまで上記のような活動は施設の付属的な位置にありました。しかしこれからもっと充実させることでコンテンツの価値は高まると感じています。そして、こういった活動への市民の参加状況反応も今後は指標に組み込んでいくことが大切なのではないでしょうか。

③ 入館料に代わる資金調達

最後は来館者減に伴う現実的なお金の話です。

日本の常設展示室の入館料は安いところがほとんどですが、それでもなくなるとかなり存続が危ぶまれます。すでに航空科学博物館は施設存続のためのクラウドファンディングを始めています。(興味ある方はぜひ)


という訳で資金調達にはこんな方法があるのではないか、と考えてみました。

・運営や調査研究のためのクラウドファンディング
(例:航空科学博物館「航海再現プロジェクト」(国立科学博物館)日本モンキーセンター など)
・教育普及、情報発信のための動画コンテンツの充実
(現在はYoutubeなどで無料動画の配信をしているところが多くありますが、資料映像などは有償にしてもよいと思っています)
・オンライン講座、通信講座
(高知城歴史博物館では古文書通信講座を実施。今後はzoom講座などもできるのでは?と可能性を感じています)
・ミュージアムグッズの通信販売
国立民族博物館大阪市立自然史博物館など)
・動物のごはん寄付
(動物園や水族館などでされています)
・所蔵資料の有償オンライン閲覧
(正直、地方だと気軽に行くことができないこともあり、お金を払ってでもいいので資料や解説パネルを見たい、という個人的な希望でもあります)
・一口博物館
(一口城主的なイメージです。もっと気軽に寄付する習慣が広がるといいのですが)

これまでは「無償で提供すべき」と思われてきたコンテンツを「有償」にするのは抵抗がある人も多いと思います。社会教育施設として有償化を指摘する人もいると思います。しかし、私個人としては「自分が価値あるものだと思うものには対価を支払えるときには支払っていこう」と思っています。
クラウドファンディングが普及し始めてきていることを考えれば、今後広げていけるのではないでしょうか。

4. おわりに

毎日ニュースを見ていると、少しずつ収束に向かっているのかな、という気持ちとともに、これまでと全く同じでは過ごせないだろう、という予感がしています。

今回、私が挙げた博物館・美術館像は私の想像です。実際にこのようになるのかは正直わかりません。ただ、前例がないことに対して、少しでも頭を巡らし、可能性を一つずつ確認していく作業は私が博物館で働くようになって身に付いたことの一つです。

ですので、今後は博物館業界だけでなく、さまざまな分野の人のいろいろな意見や技術、発想で新しい博物館・美術館像を創造していけたらいいな、と思っています。

これからどうなるのか、不安ばかりが先行してしまいがちですが、逆にいうと可能性に満ちている、とこういう時は考えるようにして今回のnoteを終えたいと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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