緊急事態宣言下における百文字日記(2)
「百文字日記」はイシューが大学5年生以降、定期的にやっていたあそびです。100文字以内という制限つきで日記を書く試み。
もともとはひとりで日記を書いて、ネットプリントにして、親しい友達に読ませて喜んでいました。
4月7日に緊急事態宣言が出されて、なんか色々不安定になってきて、
この「変な状況」だからこそ、書き留めておかなきゃいけないことがあると思いました。僕もあるし、みんなも色々と思うことがあるだろうと思ったので、なかよしのひとたちに「一緒に書きませんか?」とお願いして、これができました。
怒ってるひとも、悲しんでるひとも多いし、(でも声をあげないと、悲しむひとがもっと増えちゃうかもしれないし、)外出自粛しなきゃいけないし、友達にも好きな人にも会えないし、つかれちゃうよね。
そんなみんなのために、他のひとがやっているみたいに、うちで楽しめるものを、みんなの生活の“お慰み”、“おつまみ”になれるようなものをつくれたら、と。
イシュー
Téyutao Issue 主宰
おなかと喉が弱いのは遺伝
今月からサラリーが少しUP
二〇二〇年 四月十七日 金曜日
この部屋のベッドは舟。外に広がる世界は海。目を閉じて、舟を漕いで、溺れるように眠ってしまえば、水に潜るように夢を見て、深くなりすぎないように泳いでいって、記憶がだんだん白くなり、気が付けば朝の舟の上。
二〇二〇年 四月二十日 月曜日
友達とプールに行ったことがない。そもそもプールにあまり行ったことがない。友達と行ってみたいけど、そういう柄じゃないし、きっといまいち楽しめないと思うので、やめておこう。行ってみたいんだけどね、でもね、
二〇二〇年 四月二十二日 水曜日
風と水の彫刻家 新宮晋 を知っているか。3年前の丁度いま頃、人のほとんど居ない兵庫県美で作品を堪能した。神に招待されて宇宙の地面を散歩するような、妖精の夢の中で時間の概念を失くすような、そんな体験だった。
二〇二〇年 四月二十四日 金曜日
ここ一週間くらい、犬みたいな変な動物が夢に出てくる。お風呂に入っていると飛び込んできて泳いだり、ベッドで寝ていると横で丸まって擦り寄ってきたりする。走ったり泳いだりすると黒一色の流線形になるのが怖い。
りと
神戸に住む大学生
陽に当たらずに
白くて細くてコシがない
二〇二〇年 四月十八日 土曜日
夜22時。電話がかかってくる。友人が夜の海を見に行くらしい。思いついた15分後にはもう自転車に乗っていて、その軽やかさに目を細める。風切り音と歌声をイヤフォン越しに聴きながら32キロの旅路を見守る。
二〇二〇年 四月二十二日 水曜日
ウド。漢字だと独活。風がなくても独りでに動いているように見えるからこの字らしい。陽に当たらずに白くて細くてコシがない。自分に似ていてムカついて、噛みついてやった。ガリリ。おいしい。完敗。似てなかった。
二〇二〇年 四月二十三日 木曜日
椋鳥の鳴き声。マンションの共同廊下を歩く誰かの足音。ビニール袋がこすれる音。鍵穴に鍵を差し込む音。鍵が開く音。玄関が開く音。入ってきた風が襖を揺する音。靴を脱ぐ音。安堵の吐息。「ケーキ買ってきたよ」
二〇二〇年 四月二十四日 金曜日
財布。歯ブラシ。パスポート。下着とタオルを何枚か。いつでも遠くに行けるよう、小さな鞄に詰め込んだ。全部終わったらすぐにでも、鞄をつかんで飛び出せるよう、見える所にかけておく。いつ使えるんか知らんけど。
りょう
東京至上主義
映画と恋とシーシャが好き
彼氏は歳下の坊主
二〇二〇年 四月十七日 金曜日
わざわざ角度や余白にこだわってSNSに映える写真をアップしたり、気取ったセルフィーにたくさんのいいねがつくことにうれしくなる気持ちは大切にしたい、なぜならそれはわたしたちの時代の新しい価値感なのだから
二〇二〇年 四月十九日 日曜日
いつものファミマへ向かうと彼氏が、今日だれか当てようぜ、さんだんばたけさんかな! いやチャイニーやな、わたしはデブのひとかな、店内に入ると、さんだんばたけさんや と彼氏が小声(さんだんばたけさんが好き)
二〇二〇年 四月二十二日 水曜日
眠っているときは不安も罪悪感もなにもなく、悪夢ですら安らかで、とにかく眠りが必要、というかそれを求めている(眠った状態が心臓が止まっていないことを除いて死んだものと同じならば、はやく死んでしまいたい)
二〇二〇年 四月二十三日 木曜日
からあげを作ってもらって台所でふたりで食べていると、ビールが飲みたいと珍しく彼氏が言ったけれど、ビールを3口ほど飲んだだけで案の定、顔が真っ赤になり調子が良さそうだったので、わたしが残りを飲んであげた
珍道中
愛犬家
部屋が狭すぎる
引っ越しを検討している
二〇二〇年 四月十八日 土曜日
今すぐきれいになりたいとか、髪の毛を三日で二十センチ伸ばしたいとか、そのような願いというのは、死があまりにも身近な昨今の状況では、いつもより迫力がある。全体的に何もかも納得して、愛していきたい。
二〇二〇年 四月二十日 月曜日
さまざまな悪夢を見るものの、最近はどうにもネタ切れといったふぜいがあり、恐ろしくて不快であるのは間違いないが、ただそれだけのことだ。惰性で怖い雰囲気を醸しているだけで、とにかく大味である。
二〇二〇年 四月二十一日 火曜日
行き過ぎた空腹のため家族に渡すつもりだったお土産をちょっと食べてしまった。未来に託すものが一つ減った気がして心細かった。今は満腹だからそういうことは別に思わない。口実も何もなく生きているのである。
二〇二〇年 四月二十三日 木曜日
できるだけ長く寝て一日が早く過ぎ去るように努力している。夜に散歩する。コンビニに入るのが躊躇われ、自販機の光を浴びて、帰宅すると壊れているはずの共用廊下の明かりがついていて、次の日からまた消えている。
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