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緊急事態宣言下における百文字日記(1)

「百文字日記」はイシューが大学5年生以降、定期的にやっていたあそびです。100文字以内という制限つきで日記を書く試み。

もともとはひとりで日記を書いて、ネットプリントにして、親しい友達に読ませて喜んでいました。

4月7日に緊急事態宣言が出されて、なんか色々不安定になってきて、
この「変な状況」だからこそ、書き留めておかなきゃいけないことがあると思いました。僕もあるし、みんなも色々と思うことがあるだろうと思ったので、なかよしのひとたちに「一緒に書きませんか?」とお願いして、これができました。

怒ってるひとも、悲しんでるひとも多いし、(でも声をあげないと、悲しむひとがもっと増えちゃうかもしれないし、)外出自粛しなきゃいけないし、友達にも好きな人にも会えないし、つかれちゃうよね。

そんなみんなのために、他のひとがやっているみたいに、うちで楽しめるものを、みんなの生活の“お慰み”、“おつまみ”になれるようなものをつくれたら、と。


イシュー

Téyutao Issue 主宰
日当たりがよくて、
風通しのいいとこが好き

二〇二〇年 四月七日 火曜日
 緊急事態宣言発令。遅い時間の電車に揺られて帰る。在宅勤務のために色々と資料を持ち帰って、夏休み前の小学生の気持ち。この車両のひとたちも皆、明日は家に籠るのかな。僕だけが不思議な一体感を感じていた。

二〇二〇年 四月九日 木曜日
 20時過ぎから通り雨。雨でコロナウイルスも洗い流されないのかな、と疑問に思うけど、ウイルスは体内に守られているのだから、人々は屋根の下に生活を築くのだから、何も洗われないのか、って気づく。

二〇二〇年 四月十三日 月曜日
 物を貸したからって、借りたからって、人間関係がその分、引き伸ばされるかって、そんなわけないみたいで、ってことに今更気づいて、じゃあこの借りてる本は一体なんだったのかって、もう誰にも分からないんだって。

二〇二〇年 四月十五日 水曜日
 春は大気に、花の匂いが溶けている。夜は湿って、よりふくよかになり、この星すべてを包んでまわる。この目に見えない遠くの山で、何も知らずに咲く花たちが、風にはこばれ、陽であたたまり、ひとりの男の体に宿る。


りと

イシューと同じ学部の後輩
芸術学を学んでいる
よくイシューと夜に電話する

二〇二〇年 四月七日 火曜日
 人生において、もう二度と口にしないだろう言葉を見つけるのがすき。今日は「蟹味噌がピークだよね」。蟹味噌がピークな瞬間なんてそう何度もあってたまるか。でも今日はピークになれたね。よかったね、蟹味噌。

二〇二〇年 四月十一日 土曜日
 近所の花屋に行って、看板猫にちょっかいをかける。つれない彼女はやすやすと肩に飛び乗り、背中をつたい、店の奥へと消えていく。触れさせてくれた黒い毛並みは、覚えていたぬくもりよりも、もう少しだけ熱かった。

二〇二〇年 四月十三日 月曜日
 思いきりあくびをしたら口の端が破れた。それだけのことなのにひどくやるせなくて泣いた。もっと別の悲しみの素があるのはわかってる。うるさいなあ。暗い感情に飲まれぬよう、小さくて確かな痛みに感覚を集中する。

二〇二〇年 四月十七日 金曜日
 朝五時。電話がかかってくる。友人が日の出を見に山に登るらしい。イヤフォンから直接流れ込んでくる声を聴き、歩調とともに揺れる映像を見る。持ち歩かれているぬいぐるみは持ち主にいとおしさを覚えているのかも。


りょう

イシューのマブダチ
映画めっちゃ見る
早く東京に来てほしい

二〇二〇年 四月七日 火曜日
 わたしはつい4日前に生きることを決め、というのもわたしはこれまでどうせ死ねないから(映画を撮ろう etc…)とそれだけを考えてきたが、当たり前の決断に25年かかった、それだけのこと、と隣の彼氏に宣言した

二〇二〇年 四月八日 水曜日
 わたしは愛と芸術、とくにわたしは映画を、信じて生きてきたのが間違いではなかったと、この情勢下で強く思うようになり、毎日祈る、大好きな東京が、日本が在り続けることを(愛と芸術をバカにするんじゃないわよ)

二〇二〇年 四月九日 木曜日
 わたしが死を考えるとき浮かぶのは、レン・ハン、イーディ、雨宮まみ、フー・ボー、決まって彼らで、共通しているのは、若くして死んだこと、才能があり、この世に爪痕を残したこと、つまりわたしは死んではならない 

二〇二〇年 四月十二日 日曜日
 俺、服屋さんしたいねんな、木曜日だけコーヒーの日とかにして、りょうちゃんおすすめの本とかも置いてさ、半地下がいいなあ! 外から半分だけ店ん中見えるとこ降りてったら、ちょうど店の表札?に光あたってんねん


珍道中

イシューと同じ学部の先輩
まじでウケる
オカルトに造詣が深い

二〇二〇年 四月七日 火曜日
 人々の生活のために危険な状況でも仕事をしてくれる人がいて、でもそのような仕事の人が数日前荷物をポストに投函してくれたことを忘れていて、今日見たら盗まれていたことを、終息後もずっと悔やんで生きるべきだ。

二〇二〇年 四月九日 木曜日
 知人があるドラマを見て、これは自分の物語であると確信したことを私に報せてくれた。予言がもたらされたときに、ちゃんと心を開いていることがとにかく大事なことなので、彼がそのようにしたのは、幸運である。

二〇二〇年 四月十二日 日曜日
 怖い話の亡霊が不安を和らげてくれる。昔知人の家に泊まって眠れず、怖い話を読んでいたら、いきなり知人が叫びだしたので、嫌だった。泥棒に襲われる夢を見たらしく、夢占いによると、この夢は性交への恐怖を表す。

二〇二〇年 四月十四日 火曜日
 両親は常から私を心配しており、こうなる前から早めに実家に戻るよう言われていたが、状況がどんどん変わってそれどころではなくなってしまった。わが古里でも緊急事態宣言が発令され、UFOが目撃されている。


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